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第2章 森の関所
第226話 えっ!? 知らんのかい!?
しおりを挟む「はあ~……だから、知らんって言ってるだろ」
何度目か忘れたが、溜息に合わせて同じセリフを、俺は机を挟んで向かいに座るイケメンエルフの国境警備隊隊長にぶつけていた。
どいつもこいつも美男過ぎて嫌気がさしてくる。
あ~これはあれだ、取り敢えず、腕が捥げそうになってた隊員の事で頭が一杯でよ。骨法をなるだけ人前で使わねえようにしてたのを忘れてたのさ。
俺もお人好しだぜ。
後、あの王族の男エルフのやり方が気に食わんかったのもある。あるんだが、失敗したぜ。こいつの目の前で使うんじゃなかった。
バン!
「だから、知らぬはずがないだろう! 貴様がわたしの目の前で使った見せたではないか。何のスキルだ? そんな得体の分からぬ輩をカレヴィ殿下の下に行かせる訳には――」
「いかねえってか? けどよ。お前さん。殿下直々に命令されたの忘れてるんじゃねえの?」
平手で机を叩き、勢いで聞き出そうとする頭の悪い使い方に辟易しながら、言葉尻を捕らえてやった。
「うぐっ」
ったく、所轄の三流刑事じゃあるまいし。怒鳴っときゃあ圧されて話すとでも思ってんのかね?
「傷口にヒールポーションぶっ掛けて、骨を接いだら上手い具合にくっついた、で良いじゃねえか。腕がくっついたことが気に入らねえのかよ?」
「くっ、毛虫のくせに弁の立つ」
「止せやい、照れるだろうが」
「褒めてなどおらん!」
「そうか? まあ、カリカリすんな。どうせこの顔を見ながら、王都まで一緒に旅するんだ。仲良くしようぜ、ネフトリ」
「ネ、ス、ト、リだ!」
「おう、すまんな。物覚えが悪くてよ。ついでに教えてくれるか?」
「何をだ?」
「違ってたら違うと言ってくれ。俺はまだ見分けが付かん。察するに、ヴェニラとお前さんの二人は貴いエルフだろ? 普通の森エルフと違う貴族種ってやつだ。それなのに、王族にへこへこすんのは何でだ? 王族もノーブルエルフだろうがよ?」
「いや、違う。王族は"Մաքուր"だ」
即座に否定された。
「は? "まーくーる"? 何だそりゃ? 袖でも捲るのか?」
「殺されたいのか?」
本気で殺気を叩きつけて来やがる。
「だから、俺に分かる言葉で話せってんだ。何かにつけ直ぐ突っかかられてたら面倒で敵わん」
相手にしてると疲れるだけだ。組んでいた腕を片腕だけ外して、しっしっと手首を振ってやった。冗談が通じねえのが困るぜ。
「ちっ。貴様らの使う共通語で言えば、"純血種"と言えば良いのか? 我らは、王族を妖精語でԿիրու Էլֆと呼ぶ。他種族には知られてないだろうがな」
「きるえるふ? そりゃノーブルよりも上って事か?」
また覚えなきゃならん言葉が出て来たじゃねえか。
英語なら"殺す"何だろうが、共通語がヒンディー語なら、妖精語も他の言語と考えた方が良さそうだな。ま、全部の言語が俺の居た世界のものを使ってるという保証もないんだが……。
「そうだ。共通語に直せば"君たるエルフ"とでも言えるか」
「ったく、ノーブルだのキルだの面倒臭えなあ、おい。貴族も王族も、ノ―ブルで良いじゃねえか」
「だから、これはエルフの中だけの話だと言っているだろう!? ノーブルエルフと言い出したのは我らではない。言い伝えによると、エルフに生まれた稀人だったらしいからな」
なる程な。そう言う経緯があるなら納得できる。
「そうか? 現に外から来た俺らは、判ってなかったせいで危うく犯罪者だぜ?」
不敬罪があるんなら、周知徹底しやがれってんだ。
「王族は、王都から御出になる事など滅多にないのだ。最近になってカレヴィ殿下が巡啓されるようになったくらいだからな」
ほう? 最近になって?
「普通は王都に籠ってるのかよ?」
「王族は、基本国外に興味を示されない。国の安寧秩序を重んじられる。国境の巡視は、我らのような国境警備隊や騎士団がその任を負い、外敵や国内の脅威に対処するのだ」
おう、騎士団はあるのかよ。もっと頭が固そうだな。会いたくねえ。
「その割に、王子様は随分尊大だったじゃねえか?」
ずっと引っ掛かってた疑問をぶつけてみてやった。さあ、どう答える?
「……」
「意外な反応だな」
俺の質問に、逆切れする訳でも弁明する訳でもねえ。苦虫を噛み潰したようかのような表情で、俺から視線を逸らせやがったのさ。
「――っ」
その一言に、ハッとした表情で顔を上げる隊長エルフ。
「いやな。王子に部下が刺されて、下手やすりゃ死んでたかもしれねえのを当たり前だと受け入れてるんだったら――」
「莫迦にするな! わたしは隊長だ。警備隊全員の命を負ってると言っても良い。あのような理不尽を当然だと思えるはずがあるまい!」
最後まで言い終える前に遮られた。
真面な部分は残ってるって事かよ。
「それを聞いて安心したぜ。エルフの国は、絶対王政みたいになってんのかと思っちまっうとこだったわ」
「……確かに、我らエルフが他種族に対して尊大であることは認めよう。だが、エルフ同士で殿下のように振る舞われたのは、未だ嘗て見たことも聞いたこともない」
「エルフ王国って言うくれえだ。王様が居りゃ、貴族様も居るんだろ? 可怪しいな趣味を持った貴族の一人や二人は居るんじゃねえのか?」
「知らん。与り知らぬことだ」
即答かい。
「気に入らん、即手打ちって言うのは、あの王子だけって事か?」
「そうだ」
「最近になって、って言ったな? 前から王子はあんな性格だったのかよ?」
「敬称を付けろ。わたしの前では我慢してやるが、道中聞き逃してくれる者ばかりだとは限らんぞ?」
「それもそうだな。気を付けるぜ。で?」
「知らん」
「えっ!? 知らんのかい!?」
ここまで話を引っ張っておいてそれかい!? 思わず突っ込んじまったわ。
「カレヴィ殿下は、第八王子であられる。最近まで病で臥せっておられ、屋敷から出られた事がない御方なのだ。それが、原因不明の熱病に罹って回復されると、人が変わられたように動かれるようになった。後は見ての通りだ」
原因不明の熱病? 人が変わる? 中身は日本人だぞ? 最近それを認知できるようになったって事か?
病弱な王子様が一変、槍の達人って。疑えって言ってるようなもんだろうがよ。
「ふ~やれやれ。俺たちはどうも面倒臭え奴に目を付けられちまったみてえだな」
「おい、口の利き方に気を付けろ。何処で誰が聞いてるのか分からんのだぞ?」
「お~心配してくれるのかよ。悪いが俺にはその気はねえぞ?」
「何を言ってる!?」
「薔薇の趣味はねえってこった」
「貴様っ!? 言うに事欠いて、わたしを薔薇族だと!? 我慢ならんっ! 殿下には、途中で獣に襲われて命を落としたと報告しておいてやる。大人しくここで死ねっ!」
「おわ――っ! じょ、冗談だって! マヂになるなって! 危っ! こんな狭い部屋で剣を振り回すんじゃねえよ!」
やべえ。こりゃ地雷踏んじまったか!?
あの百合趣味の女エルフが居るから、そう言う冗談も通じるかと思ったが、とんだ堅物だぜ!
いきなり抜剣して、斬りかかって来るネストリの攻撃を躱しながら、弁解するが取り付く島もねえ。
「喧しい! 毛虫風情が、殿下に、気に入られたと、良い気になりおって! 殿下には、その証拠だと、貴様の、毛皮を、届けてやるわっ!」
「何事ですか!? うわっ!?」
「ナイスタイミング!」
俺たちの騒ぎに気付いて、扉を開けた隊員の横をすり抜けて廊下に出る。
このままだとマヂで殺されかねん。
「あっ!? マルフォス、その毛虫を捕まえろ! 剣の錆にしてやる!」
「捕まるかよ、呆け! 頭に上った血が冷めるまで連れのとこに行っとくぜ!」
「どけっ!」
「す、すみません!」
後ろで二人が入り口でもたつく声がする。へっ、"君子危うきに近寄らず"だな。
「また後でな――っ!」
「待たんかあ――――っ!!」
静かな廊下を、怒声が俺の脚より早く追い越していった。
へっ。こりゃ旅の道中退屈せんで済みそうだぜ。
後ろで罵詈雑言を喚き散らすイケメンエルフをチラッと振り返りながら、俺は自然と笑みが浮いて来るのを感じていた――。
第2章 了
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