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第4章 杜の都

第253話 えっ!? なぜ禁が解けっ!?

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 あれから俺たちは登城した。

 俺ら付きのエルフメイドミカリアさんの意見を聞いたら、直接命じられたことに従わなければ、エルフの国法で罰則があるんだと。

 行くか、逃げるとんずらするくらいしか選択肢がねえだろうが。

 無視してても、どうせどっちかを迫られるのは目に見えてんよ。

 別に悪目立ちしたい訳じゃねえ。面倒事に巻き込まれるのが嫌なだけだ。「そういうことなら、仕方しゃあねえな」って話になるだろ?

 ……普通。



 けどよ、一言いわせてもらえば、俺も嫁さんもエルフじゃねえだが?



 まあ、"郷に入っては郷に従え"って言うしな。

 ――と思ってた時が俺にもあったよ。






 どうしてこうなった!?






 俺らは今、謁見の間で王様と王族やら大臣らしき御貴族様たちが居合わせる中、早くも面倒事に巻き込まれちまってたのさ。毛虫と嫌味を言われる前だったのが、不幸中の幸いだったのかわからんが、今はそれどころじゃねえ。

 これを虫の知らせと言うのかどうかは知らんが、物の見事に厄介事だ。

 俺らの頭からはぽんっと生え出てる"世界樹の双葉"から、においが出てるだろ?

 んでもって、鬼どもはこの匂いを嗅ぐと嘔吐えずいて変化へんげが解けちまう。

 まあそういうこった。謁見の間に居合わせた王族の中に鬼が隠れてやがったのさ。



 誰だと思う?



 気狂きちがい自己中王子の母ちゃん、つまり第4王妃だ。名前は聞いたが忘れた。

 俺が登城する間にミカリアさんやマリアから得た情報だと、エルフは貴いノーブルだろうが、純血種キルだろうが子どもが出来易い体になるのは200歳を超えてからだそうだ。つまり、第4王妃は200歳を超えた婆さんって訳だな。

 気狂い王子カレヴィの姿はぱっと見、アキラと同じくらいだ。エルフの歳は見た目以上だと言うのはマリアでも良く分かる。恐らくだが気狂い王子は200歳前後だろう。

 だとすりゃ、第4王妃の見た目は反則だぜ。遠目にゃ細かいしわが見えねえだからよ。何でも、第4王妃には気狂い王子の他にも子どもが居るらしい。

 カレヴィは生まれながらに病弱で体力がなく、咳が切れなくてよく熱を出してたんだと。1、2ヶ月月前まで良くなっては寝込みの繰り返しだったって言うじゃねえか。今の姿からは想像もできねえくらい線も細く病弱だったらしい。



 本当かよ?



 んで、第4王妃は産後の肥立ちが悪く、カレヴィを生んだ後50年くらいは薬を飲みながら生活してたってたんだと。その後で30年前に娘が生まれ、まだ肥立ちの悪さが続いてるって言うじゃねえか。

 いや、肥立ちの悪さ続き過ぎだろうが!?

 娘の方は知らんが、2人が今や嘘のように回復して、息子の方はオマケに前世の記憶までよみがえった……。

 槍に関して言えば、達人級だぜ?



 ――出来過ぎだろ!?



 と思ってたら、絡繰からくりがあったわ。

 第4王妃が見事に、"雌鬼オグレス"にかれてたよ。どういう仕組みで本人に成り代わるのかは知らねえが、周りのもんが違和感なく過ごせたって事は、本人の記憶もあるって事だろう?

 外見だけ似せてたんだったらそんなに長くだませる訳がねえ。

 とまあ、前振りはこれくらいにしとくか。

 驚くなよ?

 あの・・"雌鬼・・・・"のつらが、第4王妃のめくれた顔の皮の下から出て来やがったんだよ。

 何でかって?

 自分の息子に首をねられかけたのさ。聞いてた通り、ただのエルフならそこで終わってただろうが、中身は"雌鬼オグレス"だ。すんでの所でかわしたんだよ。

 文字通り額の皮一枚でな。

 で、その皮がペロンとけた下に居たのは、俺が腕の骨を抜いてやったあの・・"雌鬼おんな"だったって訳さ。

 驚くなって言う方が無理な話だぜ。

 尻尾巻いて国に帰ったのかと思ってたらよ。エルフの国に潜り込んでやがった。あの女の名前? 知らん。聞いてもねえし、興味もねえ。

 けどよ、俺が手を出さんでも首級しゅきゅうを取ってくれるんなら、気を引くのもやぶさかじゃねえぜ?

 ん~? もう王族だから、あの気狂きちがい王子の位は上がらねえのか? まあいい。



 一拍の隙が作れりゃ#御_おん__#の字だろう。



 「おい、鬼婆おにばばあっ! 良い年こいてまぁだ若作りしてやがんのかあっ!? いい加減に年を考えろや!」

 案の定、そこに触れられてキレるのは変わってねえ。キッと俺をにらん――。

 「毛虫風情がな、えっ!? 何故、禁が解けっ!?」

 ――だ次の瞬間、やっこさんの持つ青龍戟せいりゅうげきの刃がひらめいて、女の首がスポーンと宙を舞ってたわ。



 ご愁傷様。敵とはいえ、随分阿呆アホな死に方だったな。



 計画通りとはいえ、数時間前の槍さばきに比べたら、かなり腕が上がった感じがする。いや、技術と言うよりも、根本的に底上げされたように感じるんだよな。

 流石は鬼だ。首をねられてもあれだけのしゃべれたら感心するぜ。

 "きんがとけた"ねえ。

 "金が溶けた"なら、何処かに黄金があるはずだが……。んなもんはねえ。まあ、一番しっくりくるのは"禁が解けた"だろう。つまり、気狂きちがい王子の戦闘狂たる所以ゆえんがあるってこった。

 周りは生首が宙を舞って、どんっとも、どすっとも聞こえる生々しい音のせいか、それとも、目の前で起きた理解の追い付かない状況で思考が止まってんのか、水を打ったようにしんっと静まり返ってる。



 こりゃどうしたもんかな。



 腕を組んで、んなことを思った瞬間だった――。



 《鑑定眼の熟練度が7に上がりました》



 《魔力感知の熟練度が2に上がりました》



 頭の中に無機質な女の声でアナウンスが流れやがった。それも2回!?

 それも、もう忘れかけてた【鑑定眼】が珍しく仕事しやがったのさ。熟練度が上がる都度、扱い方が難しくなってきてるのは俺の気のせいか!?

 そもそも俺のスキルなのに、俺の任意で使えねえって可笑し過ぎるだろ!?

 んな俺の気持ちを余所に、目の前に気狂い王子のステータス画面が「どんっ!」と出やがったのさ。



 「おいおいおい、マヂかよ――」



 それを見て俺は絶句した――。



 ◆カレヴィ・アサーヴ・グルバルガ・キル・バンガロール / ヨリトウ・トキ◆
 【種族】鬼人種
 【性別】♂
 【職業】オルグの勇者
 【レベル】Lv1000
 【状態】同化中 / 健康
 【生命力】51,080 / 51,080
 【魔力】52,026 / 52,026
 【力】 50,989
 【体力】50,228
 【敏捷】51,589
 【器用】51,592
 【知性】51,345

 【ユニークスキル】
  転移魔法Lv4
  無限収納
  聖魔法Lv2(使用不能)
  変化
  同化

 【アクティブスキル】
  生活魔法Lv1(使用不能)
  剣術Lv1
  槍術Lv2
  偽装Lv5

 【パッシブスキル】
  耐聖Lv5
  耐闇Lv2
  耐呪Lv7
  耐痛Lv5

 【称号】
  異世界人
  同族喰い
  人の皮を被った戦狂い
  堕ちた勇者
  鎖を引き千切りし者

 【装備】
  青龍戟せいりゅうげきなまくら





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