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第4章 杜の都

第252話 えっ!? いや、ちょっ、言葉の綾だからな!?

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 「――こりゃぁ、ひでえな……」『――』

 執事たちの後を追って屋敷に入った俺たちが見たのは、首をねられた複数の"雌鬼オグレス"どもの死体だったのさ。

 俺も、嫁さんたちも次の言葉が出ないって言うのが正直なとこだ。

 ああ、一塊に死体が山になってる訳じゃねえぞ?

 点在してる、と言った方が良いな。

 武器の刃先から滴ったんだろう血痕が死体に続いてんだよ。それを辿たどって行けば少々鼻が悪くても死体を見付けるのは簡単だ。

 けどな。気になることがある。

 どっちが先から知らねえが、必ず真ん中から少し右にずれた胸に大きな穴が開いてるのさ。心臓打ち抜くつもりなら、もっと左寄りだと思うんだが……。

 良く分からん。

 まあ、死人に口なしとはよく言ったもんでな。恨めし気な顔と言うよりも驚いたまま固まった死顔が多いもの引っ掛かるっちゃ、引っ掛かる。

 普通は、怒った顔か必死の形相になるもんじゃねえのか?

 そんな暇もなく殺された?

 誰に?

 しかも、出て来る死体はどれも右胸に拳大の穴が開いた首なしだ。

 綺麗な切り口だぜ?

 周りに生きてる奴は俺らだけだ。執事とメイドエルフたちは他の場所の確認に動いてるから、ここに居るメイドは俺たち専属で付けられミカリアだけ。

 説明はしてくれるが、決定権はねえ。ま、それは当たり前のことなんだがな。

 に、してもだ。こんだけだだっ広い屋敷、もとい王族の離宮なのに勤め人が少な過ぎる。いや、俺らの目に留まってないだけなのかもしれん。

 「主君」

 「何だ?」

 「鬼どもは、どうやってこれだけの数を気付かれずに潜ませたのだと思う?」

 右隣りに立ったヒルダが眉をひそめて聞いて来た。

 それは俺も思ってた事だ。一人二人なら「うまく紛れ込んだな」と思うが、ここまでの中で10体以上の"雌鬼オグレス"の死体が転がってやがった。

 そりゃ潜伏ルートがありますって言ってる様なもんだぜ?

 「そうなんだよな……。普通に考えたら有り得ねえだろ? ここ王族の離宮だぜ? 警備がざるわきゃねえよ。なあ、ミカリアさんよ」

 「はい。それは自信を持ってそうだとお答えできます。ですが、今となっては……」

 伏し目がちに答えるエルフメイドは絵になるな。

 「ま、そうなるわな。マギーはどう思う?」

 「はい。立ち振る舞いから、皆さんかなりの修練を積んでいるとお見受けしました。ですから、正面突破で隙を作り、潜伏すると言うのは無理があります。マリアもそうですが、エルフ族の皆様は自然の気配を察知する力が優れていますし、魔法の技術も人族や獣人族とは比べて遥かに優れています。何か手練手管を使ったと考えた方が腑に落ちます」

 エルフメイドよりも丈の長いスカートを穿いている俺専属・・・・・・メイドのマギーに話を振ると、すらすらと返って来た。流石、凪の公国の姫さんに仕えてただけはあるな。

 そつがない。

 「そうしか言えねえんだよな。つうか、内通者が居ても可怪しくねえぞ?」

 「まさか!?」

 「ま、そういう可能性もあるって話さ」

 ミカリアの声に肩をすくめながら答える。そう答えながら、そうだろう・・・・・と俺の勘は告げていた。

 証拠はねえがな。






 ゾクリッ!?






 『――っ!?』

 肌を刺す殺気に俺たちは声を失い、視線を薄暗い離宮の奥へと続く薄暗い廊下へ向ける。

 背筋を駆け上がる悪寒に思わずぶるっと身震いしちまったぜ。俺一人ならどうにでもなりそうだが、嫁さんたちを守りながらこの殺気の主と戦うのはちと分がわりい。



 ――そんな相手だ。



 「おいおいおい、マヂかよ……」

 けどな。その廊下の先から魔道具の照明に照らし出された顔を見て、思わず声を漏らしちまったわ。

 目の前から歩いてくのは、右肩に槍の様な武器を載せ、左手で無造作に"雌鬼オグレス"の生首を持つ戦闘狂王子髪カレヴィ殿下だったのさ。

 生首と言っても、髪をつかんで床の上を引いてるから、厳密に持ってるとは違うんだろうがな。まあ些細なことだ。

 「ふん。遅かったな」

 「ちょ、おまっ!? きたねえもん投げんじゃねえよ!」

 俺に向けて放り投げて来た生首を、右前蹴りで弾く。

 うへっ。足の裏に血が付いたじゃねえかよ。

 「馬車で腕試しをした時から可怪しいにおいがすると思っていたが、どうやら貴様らが元のようだな。何の臭いだ?」

 「あん? 知るか。鳥のしょんべんでも掛けられたんだろうぜ?」

 「ふん」

 『わ、わたしはハクトさんの上でお漏らししてませんから!』

 「えっ!? いや、ちょっ、言葉のあやだからな!?」

 カレヴィ殿下の問いを適当にはぐらかしたら、俺の耳元で青い小鳥スピカがでかい声を出すじゃねえか。耳がキーンってなっちまったぜ。

 「何の話だ?」

 「ああ、わりい。こっちの話だ。ちょっ、マギー説明を頼む」

 「畏まりました。スピカ様どうぞこちらへ」

 『してませんからね!』

 「おう。ちゃんと信じてるって」

 頭からマギーの方へ飛び立つ青い小鳥スピカに答えながら、俺は、ゆっくりと歩み寄って来るカレヴィ殿下から視線を切らせずにいた。

 「誰と話をしてる?」

 やっこさん雰囲気が馬車を襲撃して来た時から変わってるという事と、肩に乗せた槍の様な武器から不気味な気配を感じるのさ。

 「時々幻聴が聞こえてな。兎の耳は色んな声を拾いやすいみたいだぜ?」

 「……」

 苦し紛れに適当な理由を口にするが、間違いなく青い小鳥スピカが怪しいと睨んでる感じがビンビンするぜ。後ろでマギーが小声で説明してるのが聞こえるから、ここで事が起きても対応はできるだろう。

 「へぇ。今度はなまくらな槍じゃなく、青龍戟せいりゅうげきかよ」

 こいつは日本よりも、昔の中国でよく見られた槍の一種で、三国志に詳しい奴なら呂布りょふが使ってた方天戟ほうてんげきって言えばピンと来るかもな。

 方天戟は槍の刃のすぐ下に月牙げつがと言う三日月型の刃を左右に付けてるほこという武器だ。青龍戟はその三日月型の刃が片方にしか付いてねえ奴なんだが……。まあいい。

 「ほう? 元の国の武器も知っているとはな」

 「げん? ああ、中国な。つうか、マヂでもとの人間かよ」

 いや、今はエルフか……。

 俺やあきらと同じ時代から来てるなら元じゃなく、中国って言うはずだからな。切った張ったの時代から来てるんだから、血の気が多いのは致し方ねえ……か。

 「……何を隠してるのかは知らんが、後で良かろう。城に行く。貴様らも来い」

 「は? 城だあ? お前さんが行けば済む事だろうがよ」

 一方的な命令に思わず聞き返しちまったぜ。

 何言ってやがる。俺はエルフでもなければ、手前てめえの使い走りでもねえぞ?

 「粗方あらかた、鬼どもの首はねたが、城に潜んでないとは言い切れん。貴様らが来たのがきっかけで、こ奴らが襤褸ぼろを出したのだ。それも含めて父上にも報告をせねばならん。どうやら、毛虫になると御頭おつむも足らぬようになるようだな」

 「あ゛あっ!?」

 こいつ、人の話を聞いちゃいねえ!? 睨み付けメンチを切ったが何処吹く風だ。

 野郎っ!

 「ふっ、先に行く」

 「あ、おい、待ちやがれっ!?」

 あおるだけ煽って第八王子自己中野郎がふっと消えやがった。馬車の上から消えたように、【転移魔法】で移動したんだろう。

 「消えちゃったね? ハクト、どうするの?」

 俺の後ろに立ったプルシャンが上着の裾を引きながら聞いてきた。

 そりゃまあ、王族から城に上がれと言われれば行かにゃならんだろうが。相手は人の話をこれっぽっちも聞かん戦闘狂の自己中王子だ。

 正直、今の時点でも厄介事なのに、城に行けばもっと面倒な事になりそうな気がすんだよなぁ~……。

 「どうするってもなあ。なあ、ミカリアさんや」

 俺はボリボリと右手で頭をきながら、一番後ろに控えているエルフメイドに話を振る。御貴族様の決まり事なんぞ知らねえからな。

 餅は餅屋に限る。

 「は、はい!」

 「俺らどうすりゃ良いと思う?」

 振り返りながら右手を下げると、人差し指にった陰徳いんとくの指輪がポォッと光ったように見えた――。





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