290 / 333
第4章 杜の都
第252話 えっ!? いや、ちょっ、言葉の綾だからな!?
しおりを挟む「――こりゃぁ、酷えな……」『――』
執事たちの後を追って屋敷に入った俺たちが見たのは、首を刎ねられた複数の"雌鬼"どもの死体だったのさ。
俺も、嫁さんたちも次の言葉が出ないって言うのが正直なとこだ。
ああ、一塊に死体が山になってる訳じゃねえぞ?
点在してる、と言った方が良いな。
武器の刃先から滴ったんだろう血痕が死体に続いてんだよ。それを辿って行けば少々鼻が悪くても死体を見付けるのは簡単だ。
けどな。気になることがある。
どっちが先から知らねえが、必ず真ん中から少し右にずれた胸に大きな穴が開いてるのさ。心臓打ち抜くつもりなら、もっと左寄りだと思うんだが……。
良く分からん。
まあ、死人に口なしとはよく言ったもんでな。恨めし気な顔と言うよりも驚いたまま固まった死顔が多いもの引っ掛かるっちゃ、引っ掛かる。
普通は、怒った顔か必死の形相になるもんじゃねえのか?
そんな暇もなく殺された?
誰に?
しかも、出て来る死体はどれも右胸に拳大の穴が開いた首なしだ。
綺麗な切り口だぜ?
周りに生きてる奴は俺らだけだ。執事とメイドエルフたちは他の場所の確認に動いてるから、ここに居るメイドは俺たち専属で付けられミカリアだけ。
説明はしてくれるが、決定権はねえ。ま、それは当たり前のことなんだがな。
に、してもだ。こんだけだだっ広い屋敷、もとい王族の離宮なのに勤め人が少な過ぎる。いや、俺らの目に留まってないだけなのかもしれん。
「主君」
「何だ?」
「鬼どもは、どうやってこれだけの数を気付かれずに潜ませたのだと思う?」
右隣りに立ったヒルダが眉を顰めて聞いて来た。
それは俺も思ってた事だ。一人二人なら「巧く紛れ込んだな」と思うが、ここまでの中で10体以上の"雌鬼"の死体が転がってやがった。
そりゃ潜伏ルートがありますって言ってる様なもんだぜ?
「そうなんだよな……。普通に考えたら有り得ねえだろ? ここ王族の離宮だぜ? 警備が笊な訳ねえよ。なあ、ミカリアさんよ」
「はい。それは自信を持ってそうだとお答えできます。ですが、今となっては……」
伏し目がちに答えるエルフメイドは絵になるな。
「ま、そうなるわな。マギーはどう思う?」
「はい。立ち振る舞いから、皆さんかなりの修練を積んでいるとお見受けしました。ですから、正面突破で隙を作り、潜伏すると言うのは無理があります。マリアもそうですが、エルフ族の皆様は自然の気配を察知する力が優れていますし、魔法の技術も人族や獣人族とは比べて遥かに優れています。何か手練手管を使ったと考えた方が腑に落ちます」
エルフメイドよりも丈の長いスカートを穿いている俺専属メイドのマギーに話を振ると、すらすらと返って来た。流石、凪の公国の姫さんに仕えてただけはあるな。
卒がない。
「そうしか言えねえんだよな。つうか、内通者が居ても可怪しくねえぞ?」
「まさか!?」
「ま、そういう可能性もあるって話さ」
ミカリアの声に肩を竦めながら答える。そう答えながら、そうだろうと俺の勘は告げていた。
証拠はねえがな。
ゾクリッ!?
『――っ!?』
肌を刺す殺気に俺たちは声を失い、視線を薄暗い離宮の奥へと続く薄暗い廊下へ向ける。
背筋を駆け上がる悪寒に思わずぶるっと身震いしちまったぜ。俺一人ならどうにでもなりそうだが、嫁さんたちを守りながらこの殺気の主と戦うのはちと分が悪い。
――そんな相手だ。
「おいおいおい、マヂかよ……」
けどな。その廊下の先から魔道具の照明に照らし出された顔を見て、思わず声を漏らしちまったわ。
目の前から歩いてくのは、右肩に槍の様な武器を載せ、左手で無造作に"雌鬼"の生首を持つ戦闘狂王子髪だったのさ。
生首と言っても、髪を掴んで床の上を引いてるから、厳密に持ってるとは違うんだろうがな。まあ些細なことだ。
「ふん。遅かったな」
「ちょ、おまっ!? 汚えもん投げんじゃねえよ!」
俺に向けて放り投げて来た生首を、右前蹴りで弾く。
うへっ。足の裏に血が付いたじゃねえかよ。
「馬車で腕試しをした時から可怪しい臭いがすると思っていたが、どうやら貴様らが元のようだな。何の臭いだ?」
「あん? 知るか。鳥のしょんべんでも掛けられたんだろうぜ?」
「ふん」
『わ、わたしはハクトさんの上でお漏らししてませんから!』
「えっ!? いや、ちょっ、言葉の綾だからな!?」
カレヴィ殿下の問いを適当にはぐらかしたら、俺の耳元で青い小鳥がでかい声を出すじゃねえか。耳がキーンってなっちまったぜ。
「何の話だ?」
「ああ、悪い。こっちの話だ。ちょっ、マギー説明を頼む」
「畏まりました。スピカ様どうぞこちらへ」
『してませんからね!』
「おう。ちゃんと信じてるって」
頭からマギーの方へ飛び立つ青い小鳥に答えながら、俺は、ゆっくりと歩み寄って来るカレヴィ殿下から視線を切らせずにいた。
「誰と話をしてる?」
奴さん雰囲気が馬車を襲撃して来た時から変わってるという事と、肩に乗せた槍の様な武器から不気味な気配を感じるのさ。
「時々幻聴が聞こえてな。兎の耳は色んな声を拾いやすいみたいだぜ?」
「……」
苦し紛れに適当な理由を口にするが、間違いなく青い小鳥が怪しいと睨んでる感じがビンビンするぜ。後ろでマギーが小声で説明してるのが聞こえるから、ここで事が起きても対応はできるだろう。
「へぇ。今度は鈍らな槍じゃなく、青龍戟かよ」
こいつは日本よりも、昔の中国でよく見られた槍の一種で、三国志に詳しい奴なら呂布が使ってた方天戟って言えばピンと来るかもな。
方天戟は槍の刃のすぐ下に月牙と言う三日月型の刃を左右に付けてる戟という武器だ。青龍戟はその三日月型の刃が片方にしか付いてねえ奴なんだが……。まあいい。
「ほう? 元の国の武器も知っているとはな」
「げん? ああ、中国な。つうか、マヂで日の本の人間かよ」
いや、今はエルフか……。
俺や彰と同じ時代から来てるなら元じゃなく、中国って言うはずだからな。切った張ったの時代から来てるんだから、血の気が多いのは致し方ねえ……か。
「……何を隠してるのかは知らんが、後で良かろう。城に行く。貴様らも来い」
「は? 城だあ? お前さんが行けば済む事だろうがよ」
一方的な命令に思わず聞き返しちまったぜ。
何言ってやがる。俺はエルフでもなければ、手前の使い走りでもねえぞ?
「粗方、鬼どもの首は刎ねたが、城に潜んでないとは言い切れん。貴様らが来たのがきっかけで、こ奴らが襤褸を出したのだ。それも含めて父上にも報告をせねばならん。どうやら、毛虫になると御頭も足らぬようになるようだな」
「あ゛あっ!?」
こいつ、人の話を聞いちゃいねえ!? 睨み付けたが何処吹く風だ。
野郎っ!
「ふっ、先に行く」
「あ、おい、待ちやがれっ!?」
煽るだけ煽って第八王子がふっと消えやがった。馬車の上から消えたように、【転移魔法】で移動したんだろう。
「消えちゃったね? ハクト、どうするの?」
俺の後ろに立ったプルシャンが上着の裾を引きながら聞いてきた。
そりゃまあ、王族から城に上がれと言われれば行かにゃならんだろうが。相手は人の話をこれっぽっちも聞かん戦闘狂の自己中王子だ。
正直、今の時点でも厄介事なのに、城に行けばもっと面倒な事になりそうな気がすんだよなぁ~……。
「どうするってもなあ。なあ、ミカリアさんや」
俺はボリボリと右手で頭を掻きながら、一番後ろに控えているエルフメイドに話を振る。御貴族様の決まり事なんぞ知らねえからな。
餅は餅屋に限る。
「は、はい!」
「俺らどうすりゃ良いと思う?」
振り返りながら右手を下げると、人差し指に嵌った陰徳の指輪がポォッと光ったように見えた――。
1
あなたにおすすめの小説
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる