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第4章 杜の都
第256話 えっ!? 何て言ったのか解ったの!?
しおりを挟む「クックックックック」
んな中で肩を揺らしながら、オニトウが悪そうな笑みを浮かべやがった――。
『なかなか楽しませてくれるではないか。なあ、父上?』
『き、貴様は、な、何者だ!? カレヴィではないのか!?』
「おい、なって言ってるんだ?」
「親子のつもりがそうじゃなかったのかと、確かめてる、みたい」
玉座の傍で起きてる事に首を突っ込む気はないが、話は気になる。だからマリアに通訳を頼んだんだが、なんかちょっと違う気がするのは俺の気のせいか?
『いえいえ。正真正銘、カレヴィですよ、父上?』
『莫迦を申すでない! カレヴィならば、母が殺せるはずがないであろうっ!? そもそも! そもそも、あれは体が弱く草木や小鳥を愛でていたのだ! こんな、こんな、血腥い――』
『『『『陛下!?』』』』
腰を玉座から拳一つ分くらい上げて激高するエルフの王様が、ガクンと膝を折り、背凭れへ背中を投げ出すように腰を下ろしたのさ。慌てて周りの大臣(?)らしきお偉いさんたちが、オニトウとは反対の側から王様に近寄る。
「おいおい、大丈夫かよ!? 血圧が上がり過ぎたんじゃねえのか!?」
「けつあつ?」
あ~それも通じねえのか。日本の医学とか文化レベルが違うもんな。
「興奮しすぎて頭がくらッとしたってこった」
「……大変そうだね?」
それくらいで済んでりゃいんだがな。そうマリアには答えておく。
そう思ってると、蟀谷を左手で押さえて椅子に体を預ける王様の目の前に、オニトウが青龍戟の三日月型の刃を差し出しやがったのよ。
あ~……そう来るか。
『父上、動けば母上同様、首を刎ねる。大臣どもが動いても父上の首を刎ねる。近衛や侍従どもが動いても父上の首を刎ねる』
『御乱心!?』『王子! お気を確かに!』『ご自分が何をなさっておられるのか、理解しておられるのですか!?』『おやめください!』
『ふん。ならば、貴様らが首を差し出すのと言うのか?』
ザワリ……。
その一言に周りのエルフどもが水を打ったように静かになった。何となく言ってる事は判らんでもねえが。一応確認するか。
「何つったんだ?」
「え、あ、うん。陛下が動けば首を刎ねる。大臣たちが動いても陛下の首を刎ねる。近衛や侍従たちが動いても陛下の首を刎ねるって言ったのよ」
んなとこだろうと思ったぜ。
「ま、人質としちゃ最高だ」
何かの要求を呑ませるにはこれ以上ない手札だぜ。つうか、誰か護衛を王様の後ろとか陰に潜ませるんじゃねえのかよ?
警備が笊過ぎる。
後はどんな要求をして来るか、だな……。
『女。そこの毛虫に俺の言葉を伝えろ』
『え、あ――』
オニトウの視線に射竦められたのか、体を強張らせたマリアの左肩に右手を置く。
「落ち着け、どうせ周りのエルフどもに聞かせるためにお前さんを使うだけだ。気にせず俺に通訳してくれりゃいい」
「えっ!? 何て言ったのか解ったの!?」
「んにゃ。全然。さぁ~っぱり解らん。ただ、俺が同じ立場になったらそうするだろうと思っただけだ」
俺の言葉に、驚いて見上げて来るマリアへ肩を竦めてみせた。
『父上を助けたければ、世界樹の根本にある翡翠の岩を持って来い』
「へ、陛下を助けたければ、世界樹の根本にある翡翠の岩を持って来い、だって」
「翡翠の岩、ねえ」
その言葉に俺はピンときたね。凪の公国で参加した闇競売で競り落としたやつだ。あと、南方正教会の地下墓地で骨を回収してる時に出て来たあれだ。
俺にはまだあれが何なのかはさっぱり判らんが、良くないもんだろうと言うのは、分かる。オニトウに首を刎ねられた雌鬼が競売で狙ってたからな。
「正直、俺はエルフの国に何の思入れもねえんだがな?」「っ!?」
「 」
俺の答えに下唇を噛むマリアへこっそりと小声でフォローを入れておく。全部を真に受けられでもしたら堪ったもんじゃねえ。
取り敢えず主導権をこっちに引っ張っとかねえと、更に無理難題を吹っ掛けられるかもしれんからな。煽ってどうにかなるもんなら、それに越したことはねえだろ?
視線はオニトウに向けたまま、嬉しそうに顔を上げるマリアの肩をぽふぽふと叩いておく。フォローはこれ良い。
『奇遇だな。俺もこの国になんの思入れもない。この老いぼれがどうなろうと知った事ではないが、貴様らは困るのだろう?』
「ちっ」
何を言ってるかは解らんが、あの勝ち誇ったような顔を見るに、煽り切れなかったってことかよ。やれやれだぜ。
「この国になんの思入れもないけど、陛下がどうにかなって困るのはお前たちだろう? って」
そういうことか。国を人質とは考えたな。悪政を敷いてる王ならこれ幸いと見捨てるとこだが、周りを見るにそう言う政をしてはないらしい。まあ、街中をちょろっと通っただけでもそれは感じれた。
こっちが切れる手札はもうねえ。あっても強硬手段か、翡翠の岩を使った交渉ぐらいだろう。都合良く助けが来ることはないし、それをして今より悪い状況にはしたくねえ。
「あんたら、雪毛の俺に今の状況を任せることが出来んのかい?」
『皆さんは、雪毛の私に今の状況を任せる事ができますか?』
「言っておくが、そいつは王子と同化した鬼だ。そこに転がってる首を斬られた元王妃と同じな」
『言っておきますが、その男は王子と同化したオーガです。王妃の皮を被っていたオーガと同じです』
俺の言葉を訳しながら、マリアがビシッとオニトウを指差す。
「だからよ、息子としての情に訴えても無駄だ」
『だから、情に訴えても無駄です』
俺たちがもう一回現実を突き付けると、王座の周りのお偉いさんたちの何人かが数歩後ろへ下がって踏鞴を踏むのが見えた。今更だがな。
「俺としては、お前さんらが断るならそれで良いぜ? 次の王様を勝手に選んでくれりゃ良い。俺はここを出るだけだ」
『私としては、あなた方が断るのも仕方ないと思っています。次の王を選んで下さい。私は仲間と共に都を出ます』
「どの道、俺らか王族じゃねえと世界樹の近くには入れねえんだろ?」
『どちらにしても、世界樹に認められた私たちか王族でなければ聖域には入れません。どうされますか?』
ん~……マリアの奴、余計な事付け足してねえだろうな? 微妙に訳してる文の長さが違う気がするんだよが……。まあ、俺はエルフ語解らねえし。
『許可する』
『『『『『陛下っ!?』』』』』
ボソッと王様の声が聞こえた。取り巻きのお偉いさんたちは、信じられんって顔だが。良いのかよ?
何となくだが、許可したって流れだろ?
「聖域に入っても良いって」
「然様か」
「どうするの?」
「どうするってもなあ。あそにゃプラムも居るだろ? 迎えに行かにゃならん。ダメって言われても行ってたぜ?」
「うむ。結果的にだが、プラムがあそこに居て正解だったな」
「うん。ちょっとプラムには刺激が強いよね~」
ヒルダとプルシャンが左右から体を寄せて来た。いや、嬉しいが場所を気にしろ。
「では、参りましょう」
そう言ってお辞儀するマギーに促されて回れ右しようとしたらよ、予想通りお偉いさん方の怒声が飛んで来たぜ。ちっ、ドタバタしてる内にリスクなしで用事を済ませて来てやろうと思ったんだがな。
『ま、待て! 貴様らがここに返って来ると言う保証があるのか!?』
『そうだ! 毛虫の言う事がこの場を逃れるための口実やもしれぬ』
『陛下! 騙されてはなりませぬ! 所詮は獣――』
あ゛あ゛っ!?
今何っつった!?
自然と殺意が湧く。が、マリアの手前、何とか抑える事ができた。
やれやれ、俺も怒りっぽくなっちまったもんだぜ。あれか? カルシウムが足りてねえ……訳ねえよな。あんだけ骨を取り込んだんだからよ。
『済まぬが、スルバラン家の娘よ。皆の不安も頷ける。このような姿で余が言えたことではないかもしれぬが、助けてくれまいか』
一気に噴き出した声や俺の怒気を遮るように右手を上げ、幾分正気を取り戻したように見える王様がマリアへ話しかけてきた――。
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