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第4章 杜の都
第261話 えっ!? そこ丸投げなのかよ!?
しおりを挟む「はあ。スピカに頼まれたんじゃ断れねえわな……」
ボリボリと後頭部を掻きながら息を吐き出す。
けどな。幾らスピカに頼まれたからって、なんもかんも丸呑みって訳にはいかねえぞ? 良く分からねえこともあるしな。
"世界樹"が世界の調律者とか。
大陸に3本あったとか。
枯れることがある、とか。
他にも聞いとかねえといけねえこともあるだろうからな。そう思って、俺たちは腰を下ろしてじっくり話を聞くことにした――。
◆◇◆
朝、ハクトさんたちを神殿へ迎えに来た馬車に乗せて送り出したものの、ハクトさんたちの動向が気になったので、わたしたちも離宮を覘くことにした。
その決定をした自分を褒めてあげたいですね。
わたしと神殿騎士兼わたしの護衛であるリサが離宮を訪れた時、愕然としました。
「パトリック様、これは――」
離宮の玄関前で、首から上が熟れたトマトが爆ぜたような死に方をしてる"雌鬼"を見付けたのです。リサも事の重大さを理解したのでしょう。顔が蒼白です。
ここまで一方的に手が下せるとしたらハクトさんでしょう。
「急いで、中に入りましょう」
中がどれ程の惨事に見舞われているのか気になります。
「先導します。少し間を取ってください」
「分かりました。急ぎましょう。悪い予感しかしません」
「はい」
リサが肯き、開け放たれたままの玄関を潜ります。その後に続き思いました。
城も離宮も結界が張ってあるはず。それなのに、何故オーガが入り込めた?
「うっ!」
「どうし――、これは――」
わたしもリサも言葉を失ってしまいました。
有り得ない。
離宮に、"雌鬼"の死体が山積みになっているのです。オーガが1体は入っただけでも緊急事態であるのに、この状況はそれどころの話でない。
異常だ。
それもどの死体も首を斬られ、胸に拳大の穴を開けられているではありませんか。つまり、同じ人物に討ち取られたという事です。
次に何を行うべきかも浮かばないほど頭の中が真っ白になった時、侍女の一人が声を掛けてくれたのです。
「これは、エリクソン司教様」
「あ、ああ。丁度良いところに来てくれました。何があったのです!?」
慌てて侍女の左腕を取り、玄関広間の隅へ移動します。侍女の顔色も良くありません。リサが周囲を確認しているので、ここで訊いても問題ないでしょう。
「カレヴィ殿下が御乱心で、今陛下や大臣の皆様を人質に謁見の間に立て籠もっておられるのです」
「「なっ!?」」
その答えは予想だにしていない事でした。
確かに、最近では以前の病弱さが影を潜め、傍若無人振りが過ぎてると口々に教えてくれましたね。その変化に裏があると考えた方が良い、ということですか。
「これは、未確認なのですが、第4王妃殿下とカレヴィ殿下はオーガに憑かれ――ん゛――っ!?」
そこまで呆然とした状態で侍女の言葉を聞いていたわたしは、慌てて侍女の口を抑えます。何てことをここで口にするんですか!?
「それ以上の発言を禁じます。事が起きたとはいえ、危険が完全に取り除かれたと確認できた訳ではないのです。貴女と貴女の家族の命ために気を付けなさい」
そう言い聞かせてから手を外します。
「は、はい。申し訳ありませんでした」
「行きなさい。貴女の組の者にも注意を促してくださいね? リサ。わたしたちも城に向かいます」
「承知しました」
どうやら鬼どもはわたしが居ない内に随分と好き勝手にやってくれたようですね。
沸々と湧いて来る怒りを胸に、侍女の背中を見送ってわたしたちは乗って来た馬車に戻るのでした――。
◆◇◆
「――と言う訳なのさ」
「なる程なあ~。そりゃあお前さんも大変だわ」
「解ってくれる!? 嬉しいなあ~♪」
説明が終わった"木霊"を労うと嬉しそうに俺へ飛び付いて来た。当然ながら、擦り抜けてくがな。
まあ、聞いた話を簡単に纏めるとこういう事だ。
"世界樹"は世界の調律者としての役割を九柱神から委ねられている。
調律とは、世界を覆う空に満ちている不協和音を中和する事である。
不協和音は"世界樹"や精霊たちにしか聞こえない。
不協和音が強い地域では、"世界樹"は枯れ、狂った精霊たちが生まれる。
"世界樹"や精霊は、人からの崇敬を失うと力を得られずやがて存在力を失う。
清らかな大地と水も成長には欠かせない。
不協和音は、穢れた魔力を持つ者からも発生する。
穢れた魔力を持つ者と長い時間を共に過ごせば、侵され、自然に精神を病む。
この大陸には"世界樹"が3本あるが、1本は枯れ、1本は力が衰え始めてる。
その2本の様子を見てきて欲しいのと、苗木を枯れた木の傍に植えて欲しい。
「えっ!? そこ丸投げなのかよ!?」って思わず突っ込んじまったわ。
そりゃあ"世界樹"は根を張るからな。動けねえのは百も承知だが、んな大事なことを今の今まで放っておいて、俺が来たら頼みますって可怪しいだろうがよ!?
「俺みてえな奴より、勇者って言う奴らは結構な人数この世界に来てるだろうが?」って聞いたら、どいつもこいつも金と女と力に酔って使い物にならなかったんだと。
唯一、300年前に頼めそうな女勇者がこの国に来たらしいが、炎帝って言う赤竜を倒したら来ると言ったっきりだったらしい。
Oh……。
「そいつは残念だったな」としか言えんかったわ。
まあ、思い当たる奴が居るから、もしそいつに会えれば紹介するとだけ言って、結局"世界樹の木霊"の依頼を受けることになっちまったよ。
苗木は根元に生え出てるのを預かった。
嫁に頼まれたって言うのが大きいが、"世界樹"もここ数年で枯れちまう事はないって言ってたから、物見遊山で大陸を巡るってのも乙だなと思っちまったのさ。
元々その流れでエルフの国まで来ちまったんだからな。今更だ。
ああ、そうそう。俺たちの額に生えてる双葉な、手首に"世界樹"の細い若枝を使って枝の飾り巻き腕輪にしてもらったわ。
流石に、ウケを狙う気はねえからな。マリアとヒルダのもこっそり入れ替えてくれるらしいし、それで妥協した。一応、ここには居ねえが俺の従者扱いになってる者の分まで強請ってみたらよ、すんなり渡してくれたのには驚いたね。
良いとこあるじゃねえか、って思っちまったわ。
「その代わり、解ってるよね?」って言われちまったが、端から受けるつもりでのお強請りだからな。こっちとしちゃあ、儲けたって話だ。
これがその性能ってことだが、結構偏ったアイテムだろ?
【世界樹の枝の飾り巻き腕輪】
神級
世界樹の若枝製
穢れた魔力を持つ者からの精神侵蝕を防ぐ
世界樹と精霊への親和性・好感度(大上昇)
穢れた魔力を持つ者の嫌悪感・不快感(大上昇)
鑑定されなければ、一般級の単なるリースブレスレットに見える
「おしっ、貰うもん貰ったし、帰るか!」
「旦那様、まだです」「おおうっ!?」
胡坐を組んだ状態でぱしっと右の内膝を叩き、腰を上げようとしたら、マギーに上着の裾を引っ張られてな腰を戻したわ。
「まだ? 他に何かあったか?」
「翡翠の岩を持って帰るように言われたのではありませんでしたか?」
「おぅおぅっ! 忘れてたぜ!?」
「翡翠の岩? それってあそこに埋まってる奴?」
「ん?どこだ?」
「ほら、あそこ、僕の根っこが顔を出してるとこの右だよ」
「お――っ」
"木霊"の指差す方を見ると、1ペースほど地面から顔を出した翡翠の岩があったよ。普通に風景に溶け込んでるから、全然違和感がなかったな。
「こー様、あの岩からはお話しくださった不協和音は出ているのでしょうか?」
腰を上げて翡翠の岩へ近づく俺を余所に、マギーがこーの奴に確認を取ってるのが聞こえた。まあ、この岩も鬼どもが集めてるという時点で厄介事なのは確定だ。
今日取り出すまでずっと俺が保管してただろ? 影響がどうなのか気になるっちゃ気になる。そりゃ、精神侵蝕とか言われて気にせん方がどうかしてるぜ。
「ん~大丈夫じゃない? ハクトくんて耐精神汚染持ってたよね?」
「いや、それって、不協和音出てるって事だろうが!?」
「ん? あははは! 本当だね!」「おいっ!?」「でも、僕の膝元だよ?」
乗せられて、つい突っ込んじまった。
丁度岩に手を掛けて力を込めて動かそうとしたのもあって、突っ込んだ拍子にグラなのかゴロなのか、鈍い音を足元で響かせた。強引にいけそうじゃね?
格が上がったお蔭で身体能力も随分上がってるからな。
グラグラと岩を揺らしながら思う。
確かに多少岩から不協和音が漏れてるとはいえ、中和する力が一番強い場所にあるんだ。気にもならんか。
岩の下に隙間が出来て、抜ける前の乳歯みたいな動きをし始めたからよ、強引に【無限収納】引っ張り込ませたら上手くいったわ。大きな穴は開いたままだがな。
「おし、これで仕事は完了だ。あ~プルシャンとマギー。それにプラム」
「何?」「はい」「はい!」
「お前さんたちとスピカはここで留守番な?」
「え~~っ!?」「畏まりました」「はい!」
『3人は分かりますが、わたしもですか?』
プルシャンだけ不満顔だが、ま、宥めるのはマギーに任せるか。
「スピカはプラムもいれた3人のお目付け役な? 流石に、5人を庇いながら気狂い王子を相手をするには骨が折れる」
『そう言う事でしたら仕方ありませんね! 正妻として腕の見せ所です!』
ま、やる気になってくれるのは願ったり叶ったりだ。
「頼む。あとは、こーよ」
「何かな?」
「帰り道、迷わねえ様に呪いみたいなもん掛けてくれるか?」
「いいとも! ハクトくんに臍曲げられても困るからね。城の裏庭に出れるようにしておいてあげるよ」
俺の周りをふわふわと回りながら、"木霊"が二ヒヒと笑うのが見えた。
「そりゃありがたい。んじゃ、行ってくらあ!」
「「「『いってらっしゃい!』」ませ!!」」「気を付けてね~~」
気にしたら負けだ。んな事を思いながら俺は嫁たちに手を振り、5人の声に背中を押され城を目指して"聖域"から駆け出した――。
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