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第4章 杜の都
第262話 えっ!? そんな動きすんのおっ!?
しおりを挟む嫁たちの声に応えて"聖域"から駆け出したまでは良かったんだが……。
突然目の前が真っ暗になり、服や防具で守られてないとこに痛みが走る。
どっか近くで女の悲鳴が聞こえたが、俺の見えるとには居ねえ。いや寧ろ、痛え。
何処に突っ込んだ!?
腕を動かすと、ガサッと枝葉が揺れる音がする。青臭い枝の折れた臭いもするから、こりゃあ嵌り込んだってオチか?
「いててて」
何より、ちょっと動くだけで棘らしいモノが刺さってくるのが煩わしい。
「――!」
「ん?」
どっかで聞いたような声が聞こえるんだが?
「ハクト様、御無事ですか!?」
おお! どうやら、エルフメイドさんが近くにって……。
可怪しくねえか?
城の裏庭から"世界樹"まで一時掛けて行ってんだぞ? 帰りは一瞬!? どう考えても理屈に合わねえだろうがよ。俺は青い猫型ロボットの持ってたなんちゃらドアみてえなもん潜っちゃねえぞ?
なんじゃそりゃ!?
あの野郎、何しやがった?
「ハクトさん! 大丈夫ですか!?」
ちょっと頭に血が上りかけた時、城に居ないはずの声が聞こえて来た。
「その声は、イケメン司教か!? 足運びからして百合エルフも居るな?」
「「何か素直に名前を呼んでもらってない気がする」がしますね」
鋭い突っ込みが来たが、そこは知らぬ存ぜぬだ。
「いや、気のせいだろ!? つうか、ここは何処だ? 俺は何処に居る?」
先ずは、現状を理解しとかねえとどうにもならん。と言うか、無暗に動いてエルフの法がどうとか言われちゃ敵わんからな。マリアが枝折っただけでどうとか言ってたし……。
「いや、それはわたしたちの言葉です。"世界樹"の傍まで行って来たのではないのですか? 何故ハクトさん1人なんですか?」
声が目の前で止まる。枝葉の隙間からパトリックの服が見えた。
「あ~それを答える前に、これ、どうにかならねえか? ちょっと動くたびに、棘がチクチク刺さって敵わん」
「何だって、城の裏庭にある生垣に突っ込みますかね?」
生垣か。このチクチク具合と言うか、生垣で棘棘しいのは薔薇だろう。凪の公国で城の庭に通されたときも。薔薇が咲いてたからな。
何色の薔薇が咲くのかは知らねえが、嘸かし賑やかなんだろう。
「そりゃ俺の台詞だ。好き好んで自分から刺さりに行くかよ。"世界樹"の周辺に張ってある結界みたいなとこから駆け出たらこの様だ」
『Նրբորեն ճեղքեք』
何かパトリックが言ったんだが、公用語じゃなかったみたいで聞き取れなかったわ。エルフ語か? けどよ、何か言った後に何もしてねえ生垣の根本の方から枝葉が動き出したからな。俺をここから出そうとしてくれたのは分かった。
分かったんだが……。
「えっ!? そんな動きすんのおっ!? いてててっ!? いや、引っ掛かってるから! おい、そのまま動かすなっ――痛えっ!?」
そりゃ痛えのなんの!
チクチクと肌に刺さったままの棘が刺さったまま上下左右に動くんだぜ!?
信じられるか!?
格が上がったとは言っても、肌が分厚くなった訳じゃねえからな。痛えもんは痛えし、裂けて血も出らあっ!
こんちくしょうっ!
暫くして俺は生垣の檻から解放されたが、服はあちこち裂けたり解れたりしてる。露出してたとこは血で滲んで毛がピンク色になってるじゃねか。
やれやれだぜ。
「ふい~~。豪い目に遭ったぜ」
「大した怪我もなくて安心しましたよ。傷薬を飲みますか?」
「いや、あんな不味い物は余程のことがねえ限りは飲まん」
滅茶苦茶苦えのなんの。ありゃ怪我人が飲むもんじゃねえよ。
目の前に取り出して見せた、未開封の薬瓶を押し返す。素焼きの徳利に木栓がしてある小さい瓶だ。魔力回復薬は木栓の上部が朱色で塗られてるから、同じ形でも間違う事はねえ。
「そうですか。ならば単刀直入に聞きます。ここに居るという事は、カレヴィ殿下の求める物が手に入ったと理解して良いのですね?」
腰を下ろしたままの俺に上から問い質すパトリックを見て、エルフメイドさんに視線を移すと肯いた。説明済みって事だな。
「ま、そう言うこった。んで? 朝、別れたお前さんらが何でここに居んの?」
「少し胸騒ぎがして離宮に顔を出したら大変な事になってましてね」
「ああ……。ありゃ絨毯の血抜きが大変だろうぜ?」
首を竦めてみせる。
「慌てて侍女に経緯を問い質し、裏から城に来たところで彼女に会った訳です。聞けばハクトさんを待っているというではありませんか」
なる程どね。パトリックの右斜め後ろに立つ護衛騎士にも視線で確認を取ると、黙って肯き返された。概ねそういうことだと思っとくか。
「それなりに時間も過ぎちまった、謁見の間まで案内してもらえるかい?」
「畏まりました」
ミカリアさんに軽く頭を下げると、快諾が返って来た。助かるぜ。
「行っとくが、付いて来るんなら命の保証はしねえぞ? 相手は【転移魔法】の使い手だ。回数制限が有るのか、距離制限が有るのか分からねえが、俺から離れた場所に転移して後ろからズドンと衝かれても守れねえからな? 嫁とマリアを守るので手一杯だからよ」
歩きながら俺を追い掛けるように動き出した2人に釘を刺しておく。
「「【転移魔法】!?」」
「おう」
「カレヴィ殿下は、勇者なのですか?」
どうやら、【転移魔法】は決まった職の奴しか使えないらしい。
俺らを辺境伯の領都にあった農耕神殿で襲って来た勇者共も【転移魔法】が使えてたな。つう事は、勇者だけの【固有魔法】か?
何とも羨ましい話だぜ。
「俺が視た限り、奴さんは転生者だが、今は鬼人種で鬼の勇者だったぜ? 早い話が人を辞めちまってる。ほら、南方正教会の道中で鬼になっちまった異世界人に遭っただろ? あいつが何倍も強くなった感じだと言えば分かるか?」
「莫迦な……。堕ちたのですか? 勇者が?」
「さあてな。案外、自分から進んでそうしたのかも知れねえぜ?」
あの気狂い。戦う事だけしか興味がねえ節があるからな。自分が強くなれる方法があるなら、迷わずに試してそうだ。
しっかし勇者って、律令神殿に所属してる転生者はそうじゃなかったのかよ? オニトウだけの話じゃねえ気もするんだが……。
ま、誰が勇者なのか、んな線引きに拘る気はねえ。
勇者って柄じゃねえしな。そういうのは、アキラと鬼若に任せるさ。
適当にパトリックの問いに答えながら進む足を止めて振り返る。
「ん? なあ、確認だがここの第八王子様は、律令神殿に所属してんのか?」
「まさか。あり得ません。エルフの王族は純血種ですよ? 伎芸の女神様以外を選ぶはずがありません」
「……然様か」
その自信が何処から来るのか知らねえが、エルフの常識と思っとくことにするさ。つう事は、律令神殿がらみの勇者じゃねえって事か……。
でも、律令神殿の勇者が鬼になってた訳で……。
どうなってんだ?
「我々の身は自分たちで守りますので、ハクトさんはお気遣い無く」
そうパトリックは言うが、どうなっても知らねえぞ?
「……本当、自己責任で頼むぜ?」
「この身に代えてもパトリック様はわたしが守る」
それが心配なんだがな?
まあ言わぬが花という事か。今回は悪いが身内を優先させてもらうぜ。
リサの言葉に肩を竦めながらその顔をチラッと見た俺は、先を行く揺れるエルフメイドの尻を追う事にした――。
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