325 / 333
第2章 巣喰う者
第283話 えっ!? 角? ぶえっ! 臭えっ!?
しおりを挟む「何だありゃ……」
俺たちが見たのは、手提げ灯火の灯りに照らされた、莫迦デカイ毛虫の群れだったのさ。群れと言っても、目の前に居るのは3匹だがな。
体長1パッススで、胴回りは大人2人分くらいあるぞ? 1ペースくらいの体毛が腹以外を覆ってるが、何より気持ち悪いのは、真っ黒い体の左右にある目みたいな模様だ。1個なら我慢も出来るが、大小合わせて8個もあったら流石に鳥肌が立っちまう。
『やっぱり暗いと良く見えません』「あぎゃ?」
いや、スピカさんや。あんたその格好でも神族でしょうが。何で鳥目の影響受けてんの!? 逆にアルは問題なさそうだな。
「「「ひぃっ」」」「――」「うわぁ……ゾワッとする! あ、ちょっ、プラム大丈夫!?」
問題なのはこっちだ。ヒルダとプルシャンとマギーは一瞬にして俺の後ろに回り込み、服を引っ張ったまま顔を隠しちまった。おい、何かあったら身動きがとれねえだろうが!?
「あ、おいっ!? 失神したのか……?」
「あ、うん。そうみたい」
後ろでカクンッと膝の力が抜けて倒れ込んだのを、マリアが受け止めてくれてた。プラムは完全にアウト。マリアはこういうのを森で見たことがあるのか、耐えれるレベルみたいだな。
「おい、お二人さんよ。こいつら何時から居るんだ?」
案内役の2人に確認するが、リザリンドの方はダメそうだ。何で付いて来た?
「はっきり分かりませんが、半月は経ったかと思います」
「マヂか……。こいつの名前は?」
「それも分かりません。お答えしたいのですが、集落に【鑑定】や【識別】の能力を持つ者は居ませんので……」
「然様か。けど、こう見る限りでは模様に目が合っちまうみたいで気持ち悪いが、根っこを食ってるだけかよ? 近づくとどう――!?」
近づこうとすると、後ろの3人に引き戻されちまった。
「では、わたしが。見ててくださいね?」
苦笑しながら、ヴィクトルが俺の代わりに大毛虫に近づくと――。
にゅるっと二股の真っ赤な角みたいなものを、額から突き出したじゃねえか!?
「えっ!? 角? ぶえっ! 臭えっ!?」「っひゃあっ! 臭いでしゅ?」
揚羽蝶の幼虫みたいな角だな、と思ってたら、滅茶苦茶目に染みる臭いが流れて来たんだよ!? 慌てて鼻を摘まむ。プラムも臭いが気付けになったみたいで、悲鳴を上げながら起きたと思ったら、鼻を摘まんでたわ。
「やはり臭いますよね……」
というヴィクトルは鼻を摘まんでもいねえ。
「臭くないのかよ?」
鼻を摘まんでるせいで間抜けな声になる。
「多少は臭いますが、我々は兎人族のお二人ほど鼻は良くありませんので」
まあ、言いたいことは解る。けどな。こりゃ鼻が良い種族には天敵だぞ!?
「んで、半年前から見え始めたって話だが、それまではどうなんだ? ここに居を移してどれくらい経ってんのか知らねえが、今まで迷宮以外でも見たこと無かったのかよ?」
「はい。"世界樹"の古い葉を食べて、"世界樹"を守ってくれる守り蛾と我らが呼んでいる存在は知っているのですが、この様に根に救う毛虫を見るのは初めてです」
おぉっと。知らねえ言葉が出て来たぞ?
"守り蛾"? "世界樹"の古い葉を食べる?
「お前知ってるか?」という思いを込めて、照らし出されてるマリアの顔を見る。
「わたし見たことあるわよ。その"守り蛾"」
俺と目が合ったマリアがそう口を開いた。"世界樹"繋がりで知ってるかもと思ったが、幸先いいじゃねえの。
「マヂで?」
驚いて見せる。気持ち良く話して貰いてえからな。
「うん。でも、小さい頃に王城へ行ったとき空を飛んるのを見た程度よ? 確か……綺麗な薄緑色をしてて、父様は宝石の名前を言ってたの。ひ……、ひす……。そう、"翡翠蛾"って言ってたわ!」
「では、我々が見知っている"守り蛾"と同じ存在のようですね」
マリアの説明にヴィクトルが肯く。俺の時には紹介もされなかったが、態々言う程のものじゃねえって思ったのかもしれんな。それか、綺麗に忘れてたか……。
そう思って気付いちまった。
木霊の事だ、きっと忘れてたな。
「取り敢えず、ちょっと毛虫から離れてくれるか? 近いとあの角みたいな物が引っ込まねえかもしれんだろ?」
相変わらず、角を出し続ける毛虫と距離を取ろうとしないエルフ2人を移動させる。背中を掴まれ、鼻も摘まみ、ほぼほぼ動けねえんだからな。
なんて声に出さねえ様に愚痴ってたら、思い出したかの様に【鑑定眼】が仕事しやがった。おい、ムラッ気があり過ぎるだろうが!?
どうやら毛虫に焦点があったようだ。
《【鑑定眼】の【熟練度】が8になりました。【耐悪臭】を獲得しました》
「ぶっ」
思わず噴いちまった。ついでがあったみたいだな。
◆鬼夜蛾の幼虫◆
【種族】ヒュージノクチュイダ(亜種)
【性別】♀
【レベル】32
【状態】興奮 / 威嚇
【生命力】576 / 576
【魔力】532 / 532
【力】535
【体力】540
【敏捷】107
【器用】223
【知性】81
【ユニークスキル】
臭角Lv1
蛹化Lv―
【アクティブスキル】
多足歩行Lv1
噛付きLv1
【パッシブスキル】
硬毛Lv1
【称号】
―
【備考】夜行性。"世界樹"の地際にある根から養分を吸うことを好む。
夜になると地表に現れ、本来"世界樹"へ行き渡るはずだった栄養を奪い、
樹を弱らせる原因になっている。
おいおいおいおい。【備考】欄とか今迄なかったよな!?
こりゃあれか? 【熟練度】が上がった恩恵って事か?
何にしてもありがたい情報だ。ヴィクトルたちに説明しようと思ったら、左横からヒルダの左手が突き出されてる事に気付く。
「おい、ヒルダさんや何するつもりだ?」
「何をする? 決まっておろう。あの悍ましい輩どもを消炭にする」
「「ええっ!?」」
慌てて止めに入ろうとしてくれるヴィクトルとリザリンド。
うん。そりゃ驚くよな。すまんね、ウチの嫁が。
「莫迦か? こんな狭いとこでお前さんの【火魔法】をぶっ放されたらこっちまで丸焦げだ! つうか、それすると"世界樹"の根も消炭になっちまうだろうが。ほ、ほら、今日は様子見だからもう帰るぞ! 手を引っ込めろ!」
「しかし……」
「しかしも案山子もお菓子もねえ! ダメなもんはダメだ。夜になりゃ好きなだけ始末できる。"世界樹"を燃やさねえで、という条件が付くがな?」
そう言いながら、ヒルダの左手に体を少し捩じって右手を重ねる。
「む……主君は狡いぞ」
後は躊躇った瞬間に指を絡ませて恋人繋ぎ見たいな感じに手を握ってやると、突き出した腕の力がフッと抜けたのが伝わって来た。
ふいぃ~やれやれ。
「はいはい。諦めろ。ここでこれだけの毛虫が居るんだ。まだまだ大量に居るに決まってる。迷宮の中を探し回るよりか、集まった時に始末する方が手間が省けるってもんだろ? プルシャンとマギーもそれで良いな?」
「うん」「はい」
声に元気がねえ。相当ショックだったって事だろう。
「つう事で、いったん集落に帰ろうぜ?」
「……」
「ヴィクトル?」
「あ、ああ。そうしましょう」
俺の提案に固まっていたヴィクトルの左肩にリザリンドが手を乗せると、我に返り俺たちの前を歩き始めるヴィクトルとそれに続くリザリンド。
ん~……何かあったか?
ヴィクトルの反応に首を傾げるが思い当たるもんはねえ。
けど、先を歩く2人の背中を見てもスッキリしねえんだよな。何かこう、喉の奥に魚の小骨が引っ掛かったような感じだ。
「ほら、先を歩けって。後ろ向いたら毛虫と目が合っちまうかもしれんぞ?」
背中から手を離したヒルダたちを前に押し出し、マリアとプラムも前を歩かせる。青い小鳥は俺の頭の上に座り直し、赤いチビ四翼竜はヒルダの右肩で羽休め中だ。
獲得した【耐悪臭】のお蔭で幾分かましになった臭いに、俺はふんと鼻を鳴らし、毛虫が居る闇を一瞥して皆の後を追った――。
1
あなたにおすすめの小説
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる