えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

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第2章 巣喰う者

第283話 えっ!? 角? ぶえっ! 臭えっ!?

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 「何だありゃ……」

 俺たちが見たのは、手提げ灯火ランプあかりに照らされた、莫迦ばかデカイ毛虫の群れだったのさ。群れと言っても、目の前に居るのは3匹だがな。

 体長1パッスス約1.5mで、胴回りは大人2人分くらいあるぞ? 1ペース約15cmくらいの体毛が腹以外を覆ってるが、何より気持ちわりいのは、真っ黒い体の左右にある目みたいな模様だ。1個なら我慢も出来るが、大小合わせて8個もあったら流石に鳥肌が立っちまう。

 『やっぱり暗いと良く見えません』「あぎゃ?」

 いや、スピカさんや。あんたその格好でも神族でしょうが。何で鳥目の影響受けてんの!? 逆にアルは問題なさそうだな。

 「「「ひぃっ」」」「――」「うわぁ……ゾワッとする! あ、ちょっ、プラム大丈夫!?」

 問題なのはこっちだ。ヒルダとプルシャンとマギーは一瞬にして俺の後ろに回り込み、服を引っ張ったまま顔を隠しちまった。おい、何かあったら身動きがとれねえだろうが!?

 「あ、おいっ!? 失神したのか……?」

 「あ、うん。そうみたい」

 後ろでカクンッと膝の力が抜けて倒れ込んだのを、マリアが受け止めてくれてた。プラムは完全にアウト。マリアはこういうのを森で見たことがあるのか、耐えれるレベルみたいだな。

 「おい、お二人さんよ。こいつら何時から居るんだ?」

 案内役の2人に確認するが、リザリンドの方はダメそうだ。何で付いて来た?

 「はっきり分かりませんが、半月は経ったかと思います」

 「マヂか……。こいつの名前は?」

 「それも分かりません。お答えしたいのですが、集落に【鑑定】や【識別】の能力を持つ者は居ませんので……」

 「然様さようか。けど、こう見る限りでは模様に目が合っちまうみたいで気持ちわりいが、根っこを食ってるだけかよ? 近づくとどう――!?」

 近づこうとすると、後ろの3人に引き戻されちまった。

 「では、わたしが。見ててくださいね?」

 苦笑しながら、ヴィクトルが俺の代わりに大毛虫に近づくと――。

 にゅるっと二股の真っ赤な角みたいなものを、額から突き出したじゃねえか!?

 「えっ!? 角? ぶえっ! くせえっ!?」「っひゃあっ! くさいでしゅ?」

 揚羽蝶アゲハの幼虫みたいな角だな、と思ってたら、滅茶苦茶目に染みる臭いが流れて来たんだよ!? 慌てて鼻をまむ。プラムも臭いが気付きつけになったみたいで、悲鳴を上げながら起きたと思ったら、鼻を摘まんでたわ。

 「やはり臭いますよね……」

 というヴィクトルは鼻を摘まんでもいねえ。

 「臭くないのかよ?」

 鼻を摘まんでるせいで間抜けな声になる。

 「多少は臭いますが、我々は兎人とじん族のお二人ほど鼻は良くありませんので」

 まあ、言いたいことはわかる。けどな。こりゃ鼻が良い種族には天敵だぞ!?

 「んで、半年前から見え始めたって話だが、それまではどうなんだ? ここに居を移してどれくらい経ってんのか知らねえが、今まで迷宮以外でも見たこと無かったのかよ?」

 「はい。"世界樹"の古い葉を食べて、"世界樹"を守ってくれるまもと我らが呼んでいる存在は知っているのですが、この様に根に救う毛虫を見るのは初めてです」

 おぉっと。知らねえ言葉が出て来たぞ?

 "守り蛾"? "世界樹"の古い葉を食べる?

 「お前知ってるか?」という思いを込めて、照らし出されてるマリアの顔を見る。

 「わたし見たことあるわよ。その"守り蛾"」

 俺と目が合ったマリアがそう口を開いた。"世界樹"繋がりで知ってるかもと思ったが、幸先いいじゃねえの。

 「マヂで?」

 驚いて見せる。気持ち良く話して貰いてえからな。

 「うん。でも、小さい頃に王城へ行ったとき空を飛んるのを見た程度よ? 確か……綺麗きれい薄緑色うすみどりいろをしてて、父様は宝石の名前を言ってたの。ひ……、ひす……。そう、"翡翠蛾ひすいが"って言ってたわ!」

 「では、我々が見知っている"守り蛾"と同じ存在のようですね」

 マリアの説明にヴィクトルがうなずく。俺の時には紹介もされなかったが、態々わざわざ言う程のものじゃねえって思ったのかもしれんな。それか、綺麗に忘れてたか……。

 そう思って気付いちまった。



 木霊あいつの事だ、きっと忘れてたな。



 「取り敢えず、ちょっと毛虫から離れてくれるか? 近いとあの角みたいなもんが引っ込まねえかもしれんだろ?」

 相変わらず、角を出し続ける毛虫と距離を取ろうとしないエルフ2人を移動させる。背中をつかまれ、鼻もまみ、ほぼほぼ動けねえんだからな。

 なんて声に出さねえ様に愚痴ってたら、思い出したかの様に【鑑定眼】が仕事しやがった。おい、ムラッ気があり過ぎるだろうが!?

 どうやら毛虫に焦点があったようだ。

 《【鑑定眼】の【熟練度】が8になりました。【耐悪臭】を獲得しました》

 「ぶっ」

 思わずいちまった。ついでがあったみたいだな。

  ◆鬼夜蛾おにやがの幼虫◆
 【種族】ヒュージノクチュイダ(亜種)
 【性別】♀
 【レベル】32
 【状態】興奮 / 威嚇
 【生命力】576 / 576
 【魔力】532 / 532
 【力】535
 【体力】540
 【敏捷】107
 【器用】223
 【知性】81

 【ユニークスキル】
  臭角しゅうかくLv1
  蛹化ようかLv―

 【アクティブスキル】
  多足歩行Lv1
  噛付かみつきLv1

 【パッシブスキル】
  硬毛こうもうLv1

 【称号】
  ―

 【備考】夜行性。"世界樹"の地際じぎわにある根から養分を吸うことを好む。
  夜になると地表に現れ、本来"世界樹"へ行き渡るはずだった栄養を奪い、
  樹を弱らせる原因になっている。

 おいおいおいおい。【備考】欄とか今迄なかったよな!?

 こりゃあれか? 【熟練度】が上がった恩恵って事か?

 何にしてもありがたい情報だ。ヴィクトルたちに説明しようと思ったら、左横からヒルダの左手が突き出されてる事に気付く。

 「おい、ヒルダさんや何するつもりだ?」

 「何をする? 決まっておろう。あのおぞましいやからどもを消炭けしずみにする」

 「「ええっ!?」」

 慌てて止めに入ろうとしてくれるヴィクトルとリザリンド。

 うん。そりゃ驚くよな。すまんね、ウチの嫁が。

 「莫迦ばかか? こんな狭いとこでお前さんの【火魔法】をぶっ放されたらこっちまで丸焦げだ! つうか、それすると"世界樹"の根も消炭になっちまうだろうが。ほ、ほら、今日は様子見だからもう帰るぞ! 手を引っ込めろ!」

 「しかし……」

 「しかしも案山子かかしもお菓子もねえ! ダメなもんはダメだ。夜になりゃ・・・・・・好きなだけ始末できる。"世界樹"を燃やさねえで、という条件が付くがな?」

 そう言いながら、ヒルダの左手に体を少しじって右手を重ねる。

 「む……主君はずるいぞ」

 後は躊躇ためらった瞬間に指を絡ませて恋人繋ぎ見たいな感じに手を握ってやると、突き出した腕の力がフッと抜けたのが伝わって来た。

 ふいぃ~やれやれ。

 「はいはい。あきらめろ。ここでこれだけの毛虫が居るんだ。まだまだ大量に居るに決まってる。迷宮の中を探し回るよりか、集まった時に始末する方が手間が省けるってもんだろ? プルシャンとマギーもそれで良いな?」

 「うん」「はい」

 声に元気がねえ。相当ショックだったって事だろう。

 「つう事で、いったん集落に帰ろうぜ?」

 「……」

 「ヴィクトル?」

 「あ、ああ。そうしましょう」

 俺の提案に固まっていたヴィクトルの左肩にリザリンドが手を乗せると、我に返り俺たちの前を歩き始めるヴィクトルとそれに続くリザリンド。

 ん~……何かあったか?

 ヴィクトルの反応に首をかしげるが思い当たるもんはねえ。

 けど、先を歩く2人の背中を見てもスッキリしねえんだよな。何かこう、喉の奥に魚の小骨が引っ掛かったような感じだ。

 「ほら、先を歩けって。後ろ向いたら毛虫と目が合っちまうかもしれんぞ?」

 背中から手を離したヒルダたちを前に押し出し、マリアとプラムも前を歩かせる。青い小鳥スピカは俺の頭の上に座り直し、赤いチビ四翼竜アルはヒルダの右肩で羽休め中だ。

 獲得した【耐悪臭スキル】のお蔭で幾分かましになった臭いに、俺はふんと鼻を鳴らし、毛虫が居る闇を一瞥いちべつして皆の後を追った――。





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