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幕間
閑話 女神たちの茶会9
しおりを挟むふぅ。
アウヴァ姉様のお蔭で、あの子とも無事に話が出来ました。
まさか、向こうからお願いされるとは思っても見ませんでしたが……。
ふふふ。
ええ、条件は整っています。これで良い従者が揃えられそうですね。
あとは、ハクトのスキルですが……おや?
そう思ってふと水盤に視線を落とすと、ハクトとヒルデガルドが何やら雲行きの怪しい雰囲気になっているではありませんか。
どうやらヒルデガルドの体に施した補完治癒効果が現れているようで、両の眼も無事取り込めたようですね。
あの亡骸は……。
「あれは、優木萌奈だな。そうか、あの時ヒルデガルドを庇って命を落としたのだったな」
ヒルデガルドが膝の上に首の無い、鎧を身に着けた亡骸を膝に抱いているのを見て、わたしより先にアウヴァ姉様が当時を思い出されたようでした。
そういう名前の勇者も居ましたね。
そうですか。火竜の腹でも溶けずに残っていたということは、死して尚力を持っていたということ……。少し調べてみましょう。
と思っていたら、ハクトがスピカを連れてひょいひょいっと洞窟の上に出て、伐採を始めましたではありませんか。
え? 何ですか、シェルマ?
自分も伐ってみたい?
何を言ってるのですかっ! 地に降りれるはずがないでしょう!
泣かないっ!
全くもう。
それにしても……とハクトの動きに目を凝らしてみると、可怪しな事に気付きます。
骨の谷の周囲は火竜が長く居座ったために濃い魔素溜りになってしまいましたから、周りの木は魔力を大量に含んだ、謂わば魔硬木とも言うものです。
良い、杖や魔道具が作れるでしょう。
深淵の森にある様々な物が、人の欲を掻き立てる理由がここにあるのです。
普通ではあり得ないほど魔力をふんだんに含んだ良く知る素材や鉱物が、手を伸ばせばそこにあるのですからね。
それに元兇が居なくなったとこも、遅かれ早かれ人の子らの気付くところとなるでしょう。そうなれば、目先の欲に眼が眩んだ者がまたこの森に入ってくる。はあ……愚かなことです。
人の子の性を思い嘆息してしまいましたが、思わずこめかみを押さえてしまいました。
何をやってるのですか、ハクトは。
違う意味で溜息が出てしまいます。
ハクトが伐り倒している魔硬木。
普通の鉄の道具だと弾かれるものを、ハクトはいとも容易く伐り倒しているのです。
ん? 何ですか、ライエル・アル・アウラ?
そんなに硬いのか、ですか?
宜しい。では特別に魔硬木のおしおき棒を作って差し上げましょう。
え、要らない?
シェルマもですか? そうですか。残念ですね。
「ん……ハクト、魔硬木で家を作る気」
何をそんなに沢山伐る必要がと思ったら、そういうことでしたか。
ポリマの一言に合点がいきました。
どうやらハクトが作る骨細工の道具には、魔力が宿っているようですね。
本人が知らない内に魔剣を作ってると知ったらどんな反応をするでしょう?
いえ、そうではありませんね。
「ハクトが骨で作った道具を無闇に渡さぬようにせねば、大変なことになるぞ?」
はい、アウヴァ姉様。わたしもそのことを危惧しておりました。
無自覚が厄介ですね。何か良い方法を考えましょう。
姉様たちも、あなたたちも知恵を出してくださいますか?
ああ、ポリマは【隠蔽】のスキルでしたね。
でも一度に【隠蔽】は優遇しすぎですから、【偽装】辺りから始めてみるのはどうですか?
ええ、家も性能や材質を隠せるようにしないと不味いですね。
建て方? 家の?
わたしは知りません。興味はありませんから。
「ん……じゃあ、わたしがこっそり教える」
過剰な接触にならないようにお願いしますね?
ポリマに一任して、目の前の案件を片付けることにしました。本来であれば転生者1人にここまで手を掛けることはないのですが、まあ今の内です。
わたしのミスが帳消しになるくらいは手伝ってあげましょう。
はい、ヘゼ姉様。
「魔道具を作るスキルを上げればいいと思うの」
却下です。甘やかせるつもりはありません。
はい、ザヴィヤヴァ姉様。
「ヴィンデミアトリックスが適任じゃないかしら? 何かしら制約を付ければ良いと思うの」
それは良い案です、姉様。
「え~わたくし、やることが沢山あり過ぎて手が回りませんわよ? 難しい制約を組むのはゴメンですわ」
確かにヴィンデミアトリックス姉様の言い分も分ります。
ヒルデガルドの時も無理を聞いてもらいましたし。正直わたしから無理は言えません。
「ん……発想の転換」
というと?
「ん……作ったものに自動で刻印が付くようにスキルを弄ると良い」
「それは簡単で良いですわね」
「なる程な。ハクト自身と従者以外には使えないようにしてしまえば良いのか」
下の2人は興味が無いようで、水盤の水面で何やらこそこそ遊んで笑顔になっています。
これ、何をしてるのですか?
何でも無い?
本当に?
そう確認を取った矢先でした。
『霊廟で皆さんとスピカの像を飾りたいので、記憶に残るような絵なり、画像を送って下さい。1人1人別々のものと、9人が揃った物を貰えるとありがたいです』
ーーとハクトから嘆願が届いたではありませんか。
あまりに素晴らし願いに、シュルマとライエル・アル・アウラの事など何処かに飛んでいってしまいました。即採用です!
わたしたち姉妹がほぼ同時に答えていました。
「任せて、ハクトちゃん」
「本当なら見せることはないのだけど、どうしてもと言うなら今回は特別ですからね」
「うむ。お前の気持ち伝わったぞ、ハクト」
「ハクト、漸くわたくしの美しさに気が付いたのですね」
「ハクト、とても良い考えです」
「ん……ハクトにしては偉い」
「おめかしするのだ!」
「きれいになるの!」
それからが大変でした。
皆が創造主様の前へ出る際身に纏う、一張羅を引っ張りだし、御粧しをします。
ええ、自分だけでは時間が掛かり過ぎますから、皆、通りかかった下級神を捕まえて手伝わせますとも。下の2人は元々手伝ってもらわなければどうにもなりませんが、幸いいつも頼んでいる下級神を捕まえることが出来たようですね。
そこ、はい、髪はアップにするように。ええ、それで良いでしょう。
ふふふ。霊廟とは考えたものです。
ハクトにしては良い案です。この度の件、少し功徳に色を付けておきましょうか。
後は……そうですね。
スピカの姿はわたしの方で加工しておきましょう。9人揃った物も問題ないですし。
ああ、ヴィンデミアトリックス姉様。姉様はお綺麗でいらっしゃいますから、そんなに時間をお掛けにならずともーー。
は?
立像を作ってもらうのなら、こちらも手を抜けない?
ーー好きにして下さい。
こうして、わたしたちの揃った姿をハクトのもとに送ることが出来た頃、既に地上で数日が過ぎていたのでしたーー。
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