えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

文字の大きさ
55 / 333
幕間

閑話 女神たちの茶会9

しおりを挟む
 
 ふぅ。

 アウヴァ姉様のおかげで、あの子・・・とも無事に話が出来ました。

 まさか、向こうからお願いされるとは思っても見ませんでしたが……。

 ふふふ。

 ええ、条件は整っています。これで良い従者が揃えられそうですね。

 あとは、ハクトのスキルですが……おや?

 そう思ってふと水盤に視線を落とすと、ハクトとヒルデガルドが何やら雲行きの怪しい雰囲気になっているではありませんか。

 どうやらヒルデガルドの体に施した補完治癒ほかんちゆ効果が現れているようで、両のまなこも無事取り込めたようですね。

 あの亡骸なきがらは……。

 「あれは、優木ゆうき萌奈もなだな。そうか、あの時ヒルデガルドあれかばって命を落としたのだったな」

 ヒルデガルドが膝の上に首の無い、鎧を身に着けた亡骸を膝に抱いているのを見て、わたしより先にアウヴァ姉様が当時を思い出されたようでした。

 そういう名前の勇者も居ましたね。

 そうですか。火竜の腹でも溶けずに残っていたということは、死してなお力を持っていたということ……。少し調べてみましょう。

 と思っていたら、ハクトがスピカを連れてひょいひょいっと洞窟の上に出て、伐採を始めましたではありませんか。

 え? 何ですか、シェルマ?

 自分もってみたい?

 何を言ってるのですかっ! 地に降りれるはずがないでしょう!

 泣かないっ!

 全くもう。

 それにしても……とハクトの動きに目を凝らしてみると、可怪しな事に気付きます。

 骨の谷の周囲は火竜が長く居座ったために濃い魔素溜りになってしまいましたから、周りの木は魔力を大量に含んだ、わば魔硬木まこうぼくとも言うものです。

 良い、杖や魔道具が作れるでしょう。

 深淵の森にある様々な物が、人の欲を掻き立てる理由がここにあるのです。

 普通ではあり得ないほど魔力をふんだんに含んだ良く知る素材や鉱物が、手を伸ばせばそこにあるのですからね。

 それに元兇げんきょうが居なくなったとこも、遅かれ早かれ人の子らの気付くところとなるでしょう。そうなれば、目先の欲に眼がくらんだ者がまたこの森に入ってくる。はあ……愚かなことです。

 人の子のさがを思い嘆息してしまいましたが、思わずこめかみを押さえてしまいました。

 何をやってるのですか、ハクトおまえは。

 違う意味で溜息が出てしまいます。

 ハクトが伐り倒している魔硬木。

 普通の鉄の道具だと弾かれるものを、ハクトはいとも容易たやすく伐り倒しているのです。

 ん? 何ですか、ライエル・アル・アウラ?

 そんなに硬いのか、ですか?

 よろしい。では特別に魔硬木まこうぼくのおしおき棒を作って差し上げましょう。

 え、要らない?

 シェルマもですか? そうですか。残念ですね。

 「ん……ハクト、魔硬木あれで家を作る気」

 何をそんなに沢山伐る必要がと思ったら、そういうことでしたか。

 ポリマの一言に合点がいきました。

 どうやらハクトが作る骨細工の道具には、魔力が宿っているようですね。

 本人が知らない内に魔剣を作ってると知ったらどんな反応をするでしょう?

 いえ、そうではありませんね。

 「ハクトが骨で作った道具を無闇に渡さぬようにせねば、大変なことになるぞ?」

 はい、アウヴァ姉様。わたしもそのことを危惧きぐしておりました。

 無自覚が厄介ですね。何か良い方法を考えましょう。

 姉様たちも、あなたたちも知恵を出してくださいますか?

 ああ、ポリマは【隠蔽】のスキルでしたね。

 でも一度に【隠蔽】は優遇しすぎですから、【偽装】辺りから始めてみるのはどうですか?

 ええ、家も性能や材質を隠せるようにしないと不味いですね。

 建て方? 家の?

 わたしは知りません。興味はありませんから。

 「ん……じゃあ、わたしがこっそり教える」

 過剰な接触にならないようにお願いしますね?

 ポリマに一任して、目の前の案件を片付けることにしました。本来であれば転生者1人にここまで手を掛けることはないのですが、まあ今の内です。

 わたしのミスが帳消しになるくらいは手伝ってあげましょう。

 はい、ヘゼ姉様。

 「魔道具を作るスキルを上げればいいと思うの」

 却下です。甘やかせるつもりはありません。

 はい、ザヴィヤヴァ姉様。

 「ヴィンデミアトリックスが適任じゃないかしら? 何かしら制約を付ければ良いと思うの」

 それは良い案です、姉様。

 「え~わたくし、やることが沢山あり過ぎて手が回りませんわよ? 難しい制約を組むのはゴメンですわ」

 確かにヴィンデミアトリックス姉様の言い分も分ります。

 ヒルデガルドの時も無理を聞いてもらいましたし。正直わたしから無理は言えません。

 「ん……発想の転換」

 というと?

 「ん……作ったものに自動で刻印が付くようにスキルをいじると良い」

 「それは簡単で良いですわね」

 「なる程な。ハクト自身と従者以外には使えないようにしてしまえば良いのか」

 下の2人は興味が無いようで、水盤の水面で何やらこそこそ遊んで笑顔になっています。

 これ、何をしてるのですか?

 何でも無い?

 本当に?

 そう確認を取った矢先やさきでした。

 『霊廟れいびょうで皆さんとスピカの像を飾りたいので、記憶に残るような絵なり、画像を送って下さい。1人1人別々のものと、9人が揃った物を貰えるとありがたいです』

 ーーとハクトから嘆願たんがんが届いたではありませんか。

 あまりに素晴らし願いに、シュルマとライエル・アル・アウラの事など何処かに飛んでいってしまいました。即採用です!

 わたしたち姉妹きょうだいがほぼ同時に答えていました。

 「任せて、ハクトちゃん」

 「本当なら見せることはないのだけど、どうしてもと言うなら今回は特別ですからね」

 「うむ。お前の気持ち伝わったぞ、ハクト」

 「ハクト、ようやくわたくしの美しさに気が付いたのですね」

 「ハクト、とても良い考えです」

 「ん……ハクトにしては偉い」

 「おめかしするのだ!」

 「きれいになるの!」

 それからが大変でした。

 皆が創造主様の前へ出る際身にまとう、一張羅いっちょうらを引っ張りだし、御粧おめかしをします。

 ええ、自分だけでは時間が掛かり過ぎますから、皆、通りかかった下級神を捕まえて手伝わせますとも。下の2人は元々手伝ってもらわなければどうにもなりませんが、幸いいつも頼んでいる下級神を捕まえることが出来たようですね。

 そこ、はい、髪はアップにするように。ええ、それで良いでしょう。

 ふふふ。霊廟とは考えたものです。

 ハクトにしては良い案です。この度の件、少し功徳に色を付けておきましょうか。

 後は……そうですね。

 スピカの姿はわたしの方で加工しておきましょう。9人揃った物も問題ないですし。

 ああ、ヴィンデミアトリックス姉様。姉様はお綺麗でいらっしゃいますから、そんなに時間をお掛けにならずともーー。

 は?

 立像を作ってもらうのなら、こちらも手を抜けない?

 ーー好きにして下さい。

 こうして、わたしたちの揃った姿をハクトのもとに送ることが出来た頃、既に地上で数日が過ぎていたのでしたーー。





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...