La Vie en Rose【カリー編】

キミちゃん

文字の大きさ
上 下
23 / 113
第一章 

23 ズークの支配

しおりを挟む
「お呼びですか? シルク王子。」

「……あぁ。呼んだよ。このクソ狸が!!」


 飄々(ひょうひょう)と現れたズーク大臣をシルクは唸り飛ばす。

 それも当然だった。

 シルクは一連の騒動の原因……いや、黒幕はズークだと考えている。
 そう考えるのが自然であり、正直、ズーク大臣はもう城から逃げたとさえ思っていた。
 だがそれにも関わらず至って自然に現れたズークを見て、シルクの頭の血管が切れそうになるほど血が上っている。

 しかし一方ズークの方はというと、わざとらしい位いつもと同じ感じだった。
 その様子を見て、シルクは悩む。
 もしもズークが黒幕ならば、いや、ズークが疑われるような状況になれば普通ならいないはず。

 しかし、こいつはいる。わからない。
 
 絶対自分の身が守られる算段があるのか……。
 それとも本当に関係がないのか……。


「一体どうされましたかな? 何かあったのであれば、是非、このクソ狸にお話しください。」


 心配そうな声を出しながらも、さっきシルクが放った悪口を嫌味にして返すズーク。
 ズークは余裕の笑みすら浮かべている。
 シルクは胸に沸き立つ怒りをグッと抑えつけながらも、手紙をズークに投げつけた。


「読んでみろ。弁明を聞いてやる。」


 ズークは床に落ちた手紙を拾うや、その内容を直ぐに読み上げる。


--そして


「これは誰かの悪戯ではないでしょうか? ラギリに限ってこんな事はありえませんぞ。それにラギリは盗賊出身故、貴族に知り合いがいるとも思えませぬ。いたとしても、ここまで大胆な行動をとるほど奴は馬鹿ではござらぬ。」

「……ほう。悪戯とな。その根拠はどこだ? ラギリでないならば一体これを書いて寄越したのは誰であるか? 一番疑わしいのはお前だ、ズーク。これまでの流れを見れば、お前が裏で糸を引いてるのは想像に容易いぞ!! 今すぐローズを解放しろ! でなければ、今この場でお前の首を落とす!!」


 シルクは怒り狂いながらも、頭を冷静にさせて質問する。
 直接本人に疑いをかければ、ズークが黒なのか白なのかわかると思ったからだ。
 正直、現時点ズークは真っ黒。
 であれば、命乞いをするか、言い逃れをするだろう。


ーーしかし、結果はシルクの想像と違った。


 なんと、ズークは自ら首を差し出したのである。
 これにはシルクも動揺した。


「誤解でございます。私の首を落としたいのならば、どうぞ落とし下さい。ですが、もしこれが本当にラギリであれば、ラギリが行きそうな所を知るのは私だけでございます。それでもよろしいので?」

「貴様っ!!! 」


 シルクはここにきて大きく迷う。


 もしも、こいつが黒ならば早めに殺さなければならない。
 言いたくはないが、ズークは頭が良い。
 根源は速めに断ち切るべきだ。

 しかし、本当に殺していいのか? 
 もし違えば、ローズの行方への情報が無くなる。
 なら拷問をするか? いや、そんな時間はない。
 そもそも大臣職の者をいきなり拷問するようでは、国としての体裁が悪すぎだ。

 
 心が怒り一色になろうとも、シルクの頭は冷静だった。
 それこそがシルクが特に優秀な王子と言われる所以でもあり、国政を任されていた要員でもあった。

 シルクは自然と手にした剣の柄を力強く握り締める。

 ズークの言っている事は正論だ。
 そもそもこの手紙が本当にラギリが送ったものである保証はない。
 そして、仮にこれが本当にラギリからの手紙であれば、ズークを殺すのは最悪手ともいえる。

 それがわかるが故に口から血が出る程に歯を食いしばりながらも、頭をフル回転させた。
 そしてその状況を見ていたズークは、落ち着いた様子で更にシルクに追い打ちをかける。


「それでいかがないさいますか? 手紙に書いてある事が事実であれば、ローズ姫はまだ生きているようでございます。それでも私が黒幕だと思うなら、迷わずこの首を斬り落とすがいいでしょう。」


 シルクはその言葉に握り締めていた剣から手を離した。


 正直、ズークは疑わしい。
 だが、もし手紙が事実であれば、ズークを殺すと全てが後手に回る。
 故に、ここは耐えることに決めた。
 耐えた上で、今打てる全ての手を考える。


「クソっ! もしも……もしもこの手紙を書いたのがラギリ本人であれば、お前は処刑だ。そうでなくとも、妹を……この国の姫を危険な目に遭わせたお前は極刑にする……だが、姫が無事であれば減刑を考えよう。さぁ、早く教えろ! ラギリの居場所を! 俺が行く!」

「賢明な判断です、シルク王子。私の減刑はともかくとして、本当に王子本人が向かわれるのですか? ……ふぅ。しかしこうなったら、何を言っても無駄でしょうな。わかりました、ラギリがいるかどうかはわかりませぬが、ラギリが盗賊であった頃に使っていたアジトに行ってみましょう。もしそこにいれば、私からもラギリを説得します故、私も同行することをお許し下さい。」


 シルクはズークを疑うのはやめない。
 故にローズの救出を自分以外の誰かを任せるわけにはいかなかった。
 普段ならズークは猛反対するが、今の状況から無理だと悟ったのだろう。
 しかし怪しい奴は近くに置いていた方がいいため、ズークの動向はシルクにとって悪い事ではなかった。


「わかった。では、今すぐ準備をしろ。」

「少しお待ちを。もしもそこに向かうならば、軍は連れて行かぬがよろしいかと具申します。もしもその手紙がラギリ本人が書いた物で間違いなければ、ラギリの性格上、交渉の余地なしと判断し即刻姫を殺すでしょう。ラギリもバカではございません。手紙だけで本当に願いが通るとは思っていないはずでございます。であれば、次の手として直接交渉や再度直接的な脅しを考えるはず。つまり、交渉の余地がある可能性を此方から断ち切るのは下策でしょうな。」


 ズークの言葉に、再びシルクは唇を噛みしめる。
 普段のシルクなら、当然その可能性にも気づき違う方法を取るだろう。
 いつのまにか考えが直情的になっている。
 

 悔しいが……ズークの言う通りにしたほうがいい。


「……くっ。わかった。それでは精鋭30名を……」

「多すぎです、王子。私達を入れて10人以下にするべきかと。30人では小さな軍と変わりませぬぞ。」


 シルクは何も言えなくなってしまった。
 もはや、この場は完全にズークにコントロールされている。
 シルクがそれに気付かない程に……。


「……わかった。では、国で最強の兵8名で編成せよ。三番街にいる隊長達を城に戻せ。そして、他の兵には捜索範囲を広域にすることと情報収集もやらせろ。わかったか!?」

「ははっ!!」


 こうしてシルク率いる精鋭部隊は、ラギリがいると思われる隠しアジトに向かうのであった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

アマテラスの力を継ぐ者【第一記】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:823pt お気に入り:6

露雫流魂-ルーナーリィウフン-

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:333pt お気に入り:1

悪役令嬢は、友の多幸を望むのか

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,151pt お気に入り:37

カラダラッパー!

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:0

処理中です...