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第一章
23 ズークの支配
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「お呼びですか? シルク王子。」
「……あぁ。呼んだよ。このクソ狸が!!」
飄々(ひょうひょう)と現れたズーク大臣をシルクは唸り飛ばす。
それも当然だった。
シルクは一連の騒動の原因……いや、黒幕はズークだと考えている。
そう考えるのが自然であり、正直、ズーク大臣はもう城から逃げたとさえ思っていた。
だがそれにも関わらず至って自然に現れたズークを見て、シルクの頭の血管が切れそうになるほど血が上っている。
しかし一方ズークの方はというと、わざとらしい位いつもと同じ感じだった。
その様子を見て、シルクは悩む。
もしもズークが黒幕ならば、いや、ズークが疑われるような状況になれば普通ならいないはず。
しかし、こいつはいる。わからない。
絶対自分の身が守られる算段があるのか……。
それとも本当に関係がないのか……。
「一体どうされましたかな? 何かあったのであれば、是非、このクソ狸にお話しください。」
心配そうな声を出しながらも、さっきシルクが放った悪口を嫌味にして返すズーク。
ズークは余裕の笑みすら浮かべている。
シルクは胸に沸き立つ怒りをグッと抑えつけながらも、手紙をズークに投げつけた。
「読んでみろ。弁明を聞いてやる。」
ズークは床に落ちた手紙を拾うや、その内容を直ぐに読み上げる。
--そして
「これは誰かの悪戯ではないでしょうか? ラギリに限ってこんな事はありえませんぞ。それにラギリは盗賊出身故、貴族に知り合いがいるとも思えませぬ。いたとしても、ここまで大胆な行動をとるほど奴は馬鹿ではござらぬ。」
「……ほう。悪戯とな。その根拠はどこだ? ラギリでないならば一体これを書いて寄越したのは誰であるか? 一番疑わしいのはお前だ、ズーク。これまでの流れを見れば、お前が裏で糸を引いてるのは想像に容易いぞ!! 今すぐローズを解放しろ! でなければ、今この場でお前の首を落とす!!」
シルクは怒り狂いながらも、頭を冷静にさせて質問する。
直接本人に疑いをかければ、ズークが黒なのか白なのかわかると思ったからだ。
正直、現時点ズークは真っ黒。
であれば、命乞いをするか、言い逃れをするだろう。
ーーしかし、結果はシルクの想像と違った。
なんと、ズークは自ら首を差し出したのである。
これにはシルクも動揺した。
「誤解でございます。私の首を落としたいのならば、どうぞ落とし下さい。ですが、もしこれが本当にラギリであれば、ラギリが行きそうな所を知るのは私だけでございます。それでもよろしいので?」
「貴様っ!!! 」
シルクはここにきて大きく迷う。
もしも、こいつが黒ならば早めに殺さなければならない。
言いたくはないが、ズークは頭が良い。
根源は速めに断ち切るべきだ。
しかし、本当に殺していいのか?
もし違えば、ローズの行方への情報が無くなる。
なら拷問をするか? いや、そんな時間はない。
そもそも大臣職の者をいきなり拷問するようでは、国としての体裁が悪すぎだ。
心が怒り一色になろうとも、シルクの頭は冷静だった。
それこそがシルクが特に優秀な王子と言われる所以でもあり、国政を任されていた要員でもあった。
シルクは自然と手にした剣の柄を力強く握り締める。
ズークの言っている事は正論だ。
そもそもこの手紙が本当にラギリが送ったものである保証はない。
そして、仮にこれが本当にラギリからの手紙であれば、ズークを殺すのは最悪手ともいえる。
それがわかるが故に口から血が出る程に歯を食いしばりながらも、頭をフル回転させた。
そしてその状況を見ていたズークは、落ち着いた様子で更にシルクに追い打ちをかける。
「それでいかがないさいますか? 手紙に書いてある事が事実であれば、ローズ姫はまだ生きているようでございます。それでも私が黒幕だと思うなら、迷わずこの首を斬り落とすがいいでしょう。」
シルクはその言葉に握り締めていた剣から手を離した。
正直、ズークは疑わしい。
だが、もし手紙が事実であれば、ズークを殺すと全てが後手に回る。
故に、ここは耐えることに決めた。
耐えた上で、今打てる全ての手を考える。
「クソっ! もしも……もしもこの手紙を書いたのがラギリ本人であれば、お前は処刑だ。そうでなくとも、妹を……この国の姫を危険な目に遭わせたお前は極刑にする……だが、姫が無事であれば減刑を考えよう。さぁ、早く教えろ! ラギリの居場所を! 俺が行く!」
「賢明な判断です、シルク王子。私の減刑はともかくとして、本当に王子本人が向かわれるのですか? ……ふぅ。しかしこうなったら、何を言っても無駄でしょうな。わかりました、ラギリがいるかどうかはわかりませぬが、ラギリが盗賊であった頃に使っていたアジトに行ってみましょう。もしそこにいれば、私からもラギリを説得します故、私も同行することをお許し下さい。」
シルクはズークを疑うのはやめない。
故にローズの救出を自分以外の誰かを任せるわけにはいかなかった。
普段ならズークは猛反対するが、今の状況から無理だと悟ったのだろう。
しかし怪しい奴は近くに置いていた方がいいため、ズークの動向はシルクにとって悪い事ではなかった。
「わかった。では、今すぐ準備をしろ。」
「少しお待ちを。もしもそこに向かうならば、軍は連れて行かぬがよろしいかと具申します。もしもその手紙がラギリ本人が書いた物で間違いなければ、ラギリの性格上、交渉の余地なしと判断し即刻姫を殺すでしょう。ラギリもバカではございません。手紙だけで本当に願いが通るとは思っていないはずでございます。であれば、次の手として直接交渉や再度直接的な脅しを考えるはず。つまり、交渉の余地がある可能性を此方から断ち切るのは下策でしょうな。」
ズークの言葉に、再びシルクは唇を噛みしめる。
普段のシルクなら、当然その可能性にも気づき違う方法を取るだろう。
いつのまにか考えが直情的になっている。
悔しいが……ズークの言う通りにしたほうがいい。
「……くっ。わかった。それでは精鋭30名を……」
「多すぎです、王子。私達を入れて10人以下にするべきかと。30人では小さな軍と変わりませぬぞ。」
シルクは何も言えなくなってしまった。
もはや、この場は完全にズークにコントロールされている。
シルクがそれに気付かない程に……。
「……わかった。では、国で最強の兵8名で編成せよ。三番街にいる隊長達を城に戻せ。そして、他の兵には捜索範囲を広域にすることと情報収集もやらせろ。わかったか!?」
「ははっ!!」
こうしてシルク率いる精鋭部隊は、ラギリがいると思われる隠しアジトに向かうのであった。
「……あぁ。呼んだよ。このクソ狸が!!」
飄々(ひょうひょう)と現れたズーク大臣をシルクは唸り飛ばす。
それも当然だった。
シルクは一連の騒動の原因……いや、黒幕はズークだと考えている。
そう考えるのが自然であり、正直、ズーク大臣はもう城から逃げたとさえ思っていた。
だがそれにも関わらず至って自然に現れたズークを見て、シルクの頭の血管が切れそうになるほど血が上っている。
しかし一方ズークの方はというと、わざとらしい位いつもと同じ感じだった。
その様子を見て、シルクは悩む。
もしもズークが黒幕ならば、いや、ズークが疑われるような状況になれば普通ならいないはず。
しかし、こいつはいる。わからない。
絶対自分の身が守られる算段があるのか……。
それとも本当に関係がないのか……。
「一体どうされましたかな? 何かあったのであれば、是非、このクソ狸にお話しください。」
心配そうな声を出しながらも、さっきシルクが放った悪口を嫌味にして返すズーク。
ズークは余裕の笑みすら浮かべている。
シルクは胸に沸き立つ怒りをグッと抑えつけながらも、手紙をズークに投げつけた。
「読んでみろ。弁明を聞いてやる。」
ズークは床に落ちた手紙を拾うや、その内容を直ぐに読み上げる。
--そして
「これは誰かの悪戯ではないでしょうか? ラギリに限ってこんな事はありえませんぞ。それにラギリは盗賊出身故、貴族に知り合いがいるとも思えませぬ。いたとしても、ここまで大胆な行動をとるほど奴は馬鹿ではござらぬ。」
「……ほう。悪戯とな。その根拠はどこだ? ラギリでないならば一体これを書いて寄越したのは誰であるか? 一番疑わしいのはお前だ、ズーク。これまでの流れを見れば、お前が裏で糸を引いてるのは想像に容易いぞ!! 今すぐローズを解放しろ! でなければ、今この場でお前の首を落とす!!」
シルクは怒り狂いながらも、頭を冷静にさせて質問する。
直接本人に疑いをかければ、ズークが黒なのか白なのかわかると思ったからだ。
正直、現時点ズークは真っ黒。
であれば、命乞いをするか、言い逃れをするだろう。
ーーしかし、結果はシルクの想像と違った。
なんと、ズークは自ら首を差し出したのである。
これにはシルクも動揺した。
「誤解でございます。私の首を落としたいのならば、どうぞ落とし下さい。ですが、もしこれが本当にラギリであれば、ラギリが行きそうな所を知るのは私だけでございます。それでもよろしいので?」
「貴様っ!!! 」
シルクはここにきて大きく迷う。
もしも、こいつが黒ならば早めに殺さなければならない。
言いたくはないが、ズークは頭が良い。
根源は速めに断ち切るべきだ。
しかし、本当に殺していいのか?
もし違えば、ローズの行方への情報が無くなる。
なら拷問をするか? いや、そんな時間はない。
そもそも大臣職の者をいきなり拷問するようでは、国としての体裁が悪すぎだ。
心が怒り一色になろうとも、シルクの頭は冷静だった。
それこそがシルクが特に優秀な王子と言われる所以でもあり、国政を任されていた要員でもあった。
シルクは自然と手にした剣の柄を力強く握り締める。
ズークの言っている事は正論だ。
そもそもこの手紙が本当にラギリが送ったものである保証はない。
そして、仮にこれが本当にラギリからの手紙であれば、ズークを殺すのは最悪手ともいえる。
それがわかるが故に口から血が出る程に歯を食いしばりながらも、頭をフル回転させた。
そしてその状況を見ていたズークは、落ち着いた様子で更にシルクに追い打ちをかける。
「それでいかがないさいますか? 手紙に書いてある事が事実であれば、ローズ姫はまだ生きているようでございます。それでも私が黒幕だと思うなら、迷わずこの首を斬り落とすがいいでしょう。」
シルクはその言葉に握り締めていた剣から手を離した。
正直、ズークは疑わしい。
だが、もし手紙が事実であれば、ズークを殺すと全てが後手に回る。
故に、ここは耐えることに決めた。
耐えた上で、今打てる全ての手を考える。
「クソっ! もしも……もしもこの手紙を書いたのがラギリ本人であれば、お前は処刑だ。そうでなくとも、妹を……この国の姫を危険な目に遭わせたお前は極刑にする……だが、姫が無事であれば減刑を考えよう。さぁ、早く教えろ! ラギリの居場所を! 俺が行く!」
「賢明な判断です、シルク王子。私の減刑はともかくとして、本当に王子本人が向かわれるのですか? ……ふぅ。しかしこうなったら、何を言っても無駄でしょうな。わかりました、ラギリがいるかどうかはわかりませぬが、ラギリが盗賊であった頃に使っていたアジトに行ってみましょう。もしそこにいれば、私からもラギリを説得します故、私も同行することをお許し下さい。」
シルクはズークを疑うのはやめない。
故にローズの救出を自分以外の誰かを任せるわけにはいかなかった。
普段ならズークは猛反対するが、今の状況から無理だと悟ったのだろう。
しかし怪しい奴は近くに置いていた方がいいため、ズークの動向はシルクにとって悪い事ではなかった。
「わかった。では、今すぐ準備をしろ。」
「少しお待ちを。もしもそこに向かうならば、軍は連れて行かぬがよろしいかと具申します。もしもその手紙がラギリ本人が書いた物で間違いなければ、ラギリの性格上、交渉の余地なしと判断し即刻姫を殺すでしょう。ラギリもバカではございません。手紙だけで本当に願いが通るとは思っていないはずでございます。であれば、次の手として直接交渉や再度直接的な脅しを考えるはず。つまり、交渉の余地がある可能性を此方から断ち切るのは下策でしょうな。」
ズークの言葉に、再びシルクは唇を噛みしめる。
普段のシルクなら、当然その可能性にも気づき違う方法を取るだろう。
いつのまにか考えが直情的になっている。
悔しいが……ズークの言う通りにしたほうがいい。
「……くっ。わかった。それでは精鋭30名を……」
「多すぎです、王子。私達を入れて10人以下にするべきかと。30人では小さな軍と変わりませぬぞ。」
シルクは何も言えなくなってしまった。
もはや、この場は完全にズークにコントロールされている。
シルクがそれに気付かない程に……。
「……わかった。では、国で最強の兵8名で編成せよ。三番街にいる隊長達を城に戻せ。そして、他の兵には捜索範囲を広域にすることと情報収集もやらせろ。わかったか!?」
「ははっ!!」
こうしてシルク率いる精鋭部隊は、ラギリがいると思われる隠しアジトに向かうのであった。
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