ハロルド王子の化けの皮

神楽ゆきな

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その時、豪快な笑い声が響き渡って、ナディアは体を震わせた。
振り返ってみれば、国王のルーカス・グリフィスが、立派な顎ひげを揺らして笑っていた。

「これはこれは!
まさかハロルドが一目惚れをするとは!」

その隣では王妃と、その子供たちも嬉しそうに目を細めて手を叩いている。
それを見てナディアは我に返った。

途端に、さっと血の気が引いてしまった。

プロポーズされて、つい浮かれてしまっていたが、国王夫妻はどう思っているのだろう。
6番目とはいえ、ハロルドは王子なのだから、ナディアより余程良い相手と政略結婚をするのが当然である。
なんなら他国の王女を娶ってもおかしくない。


だとすれば、ハロルドがなんと言おうと、彼の意見など聞き入れられないのでは……。


しかしナディアの心配をよそに、ハロルドは至って冷静だった。
何でもないことのように、品の良い微笑を浮かべたまま、国王に向き直ったのである。

「これで満足でしょう、父上。
それから、母上も。
結婚相手を決めろと、いつもうるさかったですからね」

するとルーカスも、反対の声を上げるどころか、ナディアを見て嬉しそうに頷いた。

「もちろん満足だとも。
お前が選んだ相手なら、私たちは文句を言わないという約束だったしな。
それに、そんな約束などなくても、特に文句はないさ。
ペンドリー男爵はよく気のつく、頭の良い男だ。
彼のところのお嬢さんなら、間違いは無かろう」

王妃もにこやかに笑っているし、何だか良く分からないけど、問題は無いらしい。


……つまり私は、ハロルド様の婚約者として認めてもらえたということ?


頭の中はハテナマークでいっぱいだったが、とにかく周囲は祝福ムード。
当のナディア本人よりも、余程周りの方が浮かれているようだった。


それからは、嘘みたいにトントン拍子に話が進んでいった。

知らせを受けて飛んできたナディアの父、ウィリアム・ペンドリー男爵と国王によって、細かい取り決めが次々となされていく。
それを横目に、ナディアは頭が真っ白なまま、ちょこんと座っていた。

時折、不安になって、チラチラとハロルドに視線を送った。
すると彼は何度でも、ナディアを安心させるように微笑んでくれる。
その度に少しずつ、緊張で凝り固まっていた肩の力が抜けていった。

彼の婚約者になれるなんて、今までは、夢のまた夢だとしか思えなかったけれど。
これからは、それが現実となるのだ。

そう思うと、ナディアは自然と微笑んでしまって。
慌てて、誰にも見られなかったことを祈りながら、真面目な表情を作ったのだった。

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