ハロルド王子の化けの皮

神楽ゆきな

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「なっ……」

ハロルドのあまりの変貌ぶりに、ナディアは口をパクパクとさせたものの、言葉が出なかった。
これが本当に、さっきまで微笑んでいたのと同一人物だとは、にわかに信じられなかった。

「それとも何?
これ以上、まだ言いたいことがあるわけ?
さっき散々、ぺらぺらと演説してたくせに」

ナディアはショックで凍り付いた脳で、ようやく理解した。
これがハロルドの真の姿なのだと。
今まで見てきた、女性たちを虜にする、優しい紳士的な男性は、上っ面だけだったのだと。

その間にもハロルドは、ナディアが答えないでいるのを良いことに、好き勝手に話しを続けていった。

「俺の婚約者でいることが、なんでそんなに嫌なわけ?
人前に出るのが苦手とか言ってたけど、そんなの分かってるから。
地味なあんたに、人前で何かすることなんて求めてないって。
そもそも、そうやって出しゃばらなそうだから、あんたを選んだんだし」

その言葉の一つひとつが、ナディアの胸に突き刺さっていく。
しかしその一方で、悲しいながらも納得していた。
他の美しい娘達を差し置いてまで、どうして自分が選ばれたのか、ようやく理解できたのである。

口を開かないナディアに、安堵したのだろうか。
ハロルドは、ちょっと笑顔を見せた。

「まあ、もう引き受けちゃったんだから、諦めなよ。
大丈夫、俺はあんたに期待なんてしてない。
勉強だってしたくなければしなくたって良いし、人前に出なくても良い。
むしろ家で引きこもってくれてたって構わないさ。
その方が、あることない事言いふらされずに済むしな」
「で、ですが……」

ようやくナディアは声を絞りだした。
しかしハロルドがすぐにそれを遮る。

「そもそも、親が、早く結婚相手を見つけろってうるさいから、とにかく婚約者を決める必要があったんだよ。
それに、いつまでも相手を決めないと、うるさい女どもが群がってくるしな。
もう、うんざりだ」

ナディアはまるで知らない人を見ているような気分で、話を聞いていた。

これが彼の本音だったのか。
しかし彼女は、黙ってハロルドの言うことに従うつもりはなかった。

「でしたら、私以外にもっと適任な方がいらっしゃると思います。
ハロルド様のお相手であれば、皆喜んで引き受けるでしょうし」

と、恐る恐る切り出したのだ。
ところが、彼の返事は思いがけないものだった。

「うん、俺もそう思う」

そうあっさりと言ったのである。

これにはナディアの方が面食らってしまった。
しかし、彼も考えが同じと言うなら、話は早い。
すかさずナディアは言葉を続けた。

「で、では……やはり婚約は、今日限りで破棄させて頂くと言うことで……」

これで、彼が承知してくれさえすれば、全部終わるはずだったのに。

「いや、それは無理だな」

当然のように、ハロルドは首を横に振ったのだった。
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