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しおりを挟むあれから貴意は本当に片時も佐和を離さなかった
ずっと一緒で、穏やかで貴意との大事な時間が流れていく
たまに貴意の宮殿に貴志が来て空気がピリつくが、概ねは平和に過ごせていた
「……困った事になった」
珍しい気弱な貴意の言葉に佐和も珍しい事があるものだと意見陳述の書簡から顔を上げた
他の文官達も何事かと目を見合わせる
「如何いたしました?我々で解決出来ますか?」
遠慮がちに佐和が聞くと、貴意は目頭を押さえながら緩く首を振る
「……隣国の来賓の接待に国境の省に出向かわなくてはならなくなった。同時に佐和を私の代理に朝廷への出廷を行いたいそうだ」
貴意は苦悶な表情を浮かべていて、これが断れない命令であると佐和にも解った
代理の出廷など、貴志が命令している事は明らかだ
貴意に着いていけば良いと楽観的に考えていたが、代理を申し付けられているのならば貴意と同行はできない
「や、病に罹った事にしましょう。貴意様が帰られるまで伏せって会えないことにして、皇太后様の殿で療養という事にすれば、貴志様とて面談も容易ではないかと」
佐和が焦りながら言うと、貴意は難しい顔のまま考え込んでいる
また貴志に捕らわれるなど、考えたくもない
「母上は、貴志に甘いのだ…しかし、殿にみだりに入れないのも、此処1年訪れてもいないのだから臍を曲げている母上のご機嫌とりに時間もかかるのも事実…」
ぶつぶつ呟く貴意に、文官でも老齢の無流が立ち上がった
すでに齢90も過ぎており、髭も髪も真っ白な無流は2代前の王からの腹心でもあり、誰も無碍に出来ない
「佐和様では荷が重かろう、儂が行きます。いいな?整?」
後ろに控えていた無流の孫の整も糸目を細めながら頷く
「老師、ありがとうございます!貴意様、皇太后様にとりなして、離れに引きこもりましょう!」
「……無流、すまない、私に力が無いばかりに…」
力なく呟く貴意に、無流が貴意の手を握る
「皇太后様に息子と孫は頼んでおきます。何、老臣の最後の頭比べ、貴意様は気兼ねなく隣国の接待の準備をしてくだされ」
無流と抱き合う貴意に、佐和と整は顔を伏せた
これほどまでに、貴意の立場は追い詰められていっているのだ
それでも
佐和は貴意から離れては生きられない
側にいれないくらいなら死ぬし、周りを犠牲にしてでも貴志の下にいくのは無理なのだ
「さっさと接待の予算案を出しましょう。きっと全て上手くいきます…!」
明るい整の声が殿に木霊する
いつの間に、こんなに人気もなく寂しい宮殿になったのか
しかし、残っている文官達もいる
嫌な予感を飲み込みながら、貴意を心配させぬよう佐和も明るく振る舞ったのだった
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