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第一章 別れの後に、出会いがある。
俺、タワマンに現着す。
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たろさんから、電話が掛かってきたのは、それから5分ほどのことだった。
たった数分のことなのに、冬の深夜の気温はことごとく体温を奪っていくようだった。第一、俺はコートを羽織っていないし、ましてやスカートだ。
一応、自分の男物のコート(当たり前だ)なら、持っていたのだが、焦ってたからラブホに置いてきてしまっていた。
まあ、この女装姿で、男物のコート羽織ってみたところで、変態おじさんにしか見えなさそうだが。
あんまりにも寒いから、ついでに全裸でコート着た自分の姿まで想像して、フハハッと自嘲気味に笑ったところで、電話が鳴った。
「マミリン、おまたせ」
「……いや、こちらこそ、なんかスミマセン……」
「例の知り合いだけど、夜の仕事はキャンセルするよう、話つけておいたから、今からそいつんち行ってもらって大丈夫」
「……あ、ありがとう!」
え? 夜の仕事って何のお仕事?
でも、今からお世話になると思うと、ちょっと怖くて聞けなかった。
「あのさ、マミリンって、今手持ちいくらくらいある? 多分、そこからタクシーで2000円くらいのとこなんだけどさ。あっ、でも深夜料金だから、もっと掛かるか……」
そう言って、たろさんは、住所をL◯NEで教えてくれた。電話を切るなり俺は、それをコピペして、すぐさまグー◯ル検索する。
そのスマホに表示された場所を見て、俺は絶句した。
そこは、俺の職場でもよく話題に出るほどの、いわゆる芸能人御用達で有名なタワーマンションだったのだ。
俺は、思わず自分の身なりを確認する。
ああー、たろさんに、女装してるってこと先方に伝えてくれたか、確認すればよかった……。けど、仮に聞いてみて、言ってないってことで、また相手に電話してもらう手間かけさせるのも悪いよな……とりあえず、俺がなんとか説明するか……。
そんなわけで、長年の初恋が玉砕して失意の女装姿の俺は、急きょ、たろさんの知り合いのマンションへと深夜料金で旅立ったのだった。
時間が時間なだけに、タクシーはあっという間に目的地に到着した。3000円でおつりが返ってきたほどだ。でも、問題は、そこからだった。
まず、街灯があるとはいえ、初めて来る場所で、ほぼ暗いので、タワーマンションといえど、その全体像がまるで拝めない。
とりあえず、1階の入口玄関を探すも、それすらまるで見つからない。俺は、結局、そのマンションを長い時間を掛けて、ぐるりと一周する羽目になってしまった。
……あ、あまりにも、デカすぎる! 東京ドームかよ、ってんだ。
そして、そこまでしてなお、玄関は見つからなかった。
これアレじゃねーの?……年収1千万円以上の奴にしか入口現れないシステムにでもなってんじゃねーの?
さすがは、ゲーノー人御用達だぜ……。
なんて、軽く鼻で笑ってやったが、もちろんただの強がりだった。
ようやく諦めのついた俺は、マンションの目の前でうだうだ迷子になってても、先方にも迷惑だろうと、たろさんから「家に着いたらかけてねー」と、住所と一緒に送ってもらっていた番号に、電話をしてみることにした。
呼び出し音が鳴るたびに、緊張感が高まってくる。いくら友人の知り合いだろうと、見知らぬ相手の家に、こんな深夜に、こんな格好で向かうのは、マトモなメンタルじゃ耐えられなかった。
呼び出し音と、自分の心臓の、ドクンドクンという音が、重なったりズレたりするのまで、分かるほどだった。
どうにかして落ちつかせるために思わず、ふぅーっ、と細く長い息を吐いてる途中で、スマホの呼び出し音は止まった。
「……もしもし」
スマホの向こう側から聴こえてきたそれは、こちらに向けて話しかけているのではなく、かといって、独り言のように呟いているわけでもない、なんていうか、まるで、宙ぶらりんな迷子みたいな声だった。
たった数分のことなのに、冬の深夜の気温はことごとく体温を奪っていくようだった。第一、俺はコートを羽織っていないし、ましてやスカートだ。
一応、自分の男物のコート(当たり前だ)なら、持っていたのだが、焦ってたからラブホに置いてきてしまっていた。
まあ、この女装姿で、男物のコート羽織ってみたところで、変態おじさんにしか見えなさそうだが。
あんまりにも寒いから、ついでに全裸でコート着た自分の姿まで想像して、フハハッと自嘲気味に笑ったところで、電話が鳴った。
「マミリン、おまたせ」
「……いや、こちらこそ、なんかスミマセン……」
「例の知り合いだけど、夜の仕事はキャンセルするよう、話つけておいたから、今からそいつんち行ってもらって大丈夫」
「……あ、ありがとう!」
え? 夜の仕事って何のお仕事?
でも、今からお世話になると思うと、ちょっと怖くて聞けなかった。
「あのさ、マミリンって、今手持ちいくらくらいある? 多分、そこからタクシーで2000円くらいのとこなんだけどさ。あっ、でも深夜料金だから、もっと掛かるか……」
そう言って、たろさんは、住所をL◯NEで教えてくれた。電話を切るなり俺は、それをコピペして、すぐさまグー◯ル検索する。
そのスマホに表示された場所を見て、俺は絶句した。
そこは、俺の職場でもよく話題に出るほどの、いわゆる芸能人御用達で有名なタワーマンションだったのだ。
俺は、思わず自分の身なりを確認する。
ああー、たろさんに、女装してるってこと先方に伝えてくれたか、確認すればよかった……。けど、仮に聞いてみて、言ってないってことで、また相手に電話してもらう手間かけさせるのも悪いよな……とりあえず、俺がなんとか説明するか……。
そんなわけで、長年の初恋が玉砕して失意の女装姿の俺は、急きょ、たろさんの知り合いのマンションへと深夜料金で旅立ったのだった。
時間が時間なだけに、タクシーはあっという間に目的地に到着した。3000円でおつりが返ってきたほどだ。でも、問題は、そこからだった。
まず、街灯があるとはいえ、初めて来る場所で、ほぼ暗いので、タワーマンションといえど、その全体像がまるで拝めない。
とりあえず、1階の入口玄関を探すも、それすらまるで見つからない。俺は、結局、そのマンションを長い時間を掛けて、ぐるりと一周する羽目になってしまった。
……あ、あまりにも、デカすぎる! 東京ドームかよ、ってんだ。
そして、そこまでしてなお、玄関は見つからなかった。
これアレじゃねーの?……年収1千万円以上の奴にしか入口現れないシステムにでもなってんじゃねーの?
さすがは、ゲーノー人御用達だぜ……。
なんて、軽く鼻で笑ってやったが、もちろんただの強がりだった。
ようやく諦めのついた俺は、マンションの目の前でうだうだ迷子になってても、先方にも迷惑だろうと、たろさんから「家に着いたらかけてねー」と、住所と一緒に送ってもらっていた番号に、電話をしてみることにした。
呼び出し音が鳴るたびに、緊張感が高まってくる。いくら友人の知り合いだろうと、見知らぬ相手の家に、こんな深夜に、こんな格好で向かうのは、マトモなメンタルじゃ耐えられなかった。
呼び出し音と、自分の心臓の、ドクンドクンという音が、重なったりズレたりするのまで、分かるほどだった。
どうにかして落ちつかせるために思わず、ふぅーっ、と細く長い息を吐いてる途中で、スマホの呼び出し音は止まった。
「……もしもし」
スマホの向こう側から聴こえてきたそれは、こちらに向けて話しかけているのではなく、かといって、独り言のように呟いているわけでもない、なんていうか、まるで、宙ぶらりんな迷子みたいな声だった。
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