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第二章 間違いが、正解を教えてくれる。

え!? 入れ替わってる!?

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「……え?」

 たろさんとザギンは、そろって同じようなキョトン顔で、俺を見ている。

「…………今……なんて、言いました?」

 俺は無意識に、2人と心の距離を取るため敬語になっていた。

「え? コイツが、ナマモノBL小説書いてるって話?」

 …………ナッ!?

「…………えっと、そのさっき、俺がどうのとか言ってませんでした?」

「うん、銀田とマミリンの成人向け小説書いてるからね」

「…………せっ」

「あれ? でも、マミリン、作品に罪はないって……」

「いや、罪だろ!」

「……えっ……?」

 たろさんとザギンは、互いに顔を見合わせて首をかしげている。

「……………でしょが」

「…………え?」

「……まさか俺が出てる小説だなんて思わないでしょがぁああああッ!!」

「…………あー……」

 俺の叫びに思わずフリーズ状態の銀田をよそに、たろさんは一人なるほどねという表情で頷いている。

「ナマモノBLは、マミリンの地雷だったかぁー」

 いやいやいや!!

「……どこの世界に、一般人をネタにするプロ作家がいると思います……?」

「え? マミリンは、一般人じゃないよ」

「……は?」

「だって、マミリンは『ボク恋』の宮内杏みやうちあんのモデルだからね」

 説明しよう!

「ボク恋」というのは、俺の大好きな「ボクの初恋の人を紹介します。」という、ラノベ作品のタイトルの略称だ。……そう、つまりは、……銀田が書いた作品のことなのである。

 ……確かに俺は、作品には何も罪はないと言った……けれど、そのことと、エロ同人誌を書かれていることとは、全く別の問題だ。

 今たろさん、銀田が、俺と銀田とのせっ、成人向け小説書いてるって言ったよな……。

 でもだからって、俺が「ボク恋」のキャラのモデルだなんてこと、あるわけなくないか?

 だって、第一、

「……でっ、でも宮内杏は、女性キャラじゃん」

 ハイ、俺であるわけが無い。

「あはは、杏ちゃんは女装キャラなんだよ」

 あるわけが…………。

「は?」

「マミリン、『ボク恋』の裏設定の話、知らないの?」

「……裏……設定!?」

「うん、銀田は、最初はBLモノのラノベ書きたかったんだけど、そのジャンルと設定が、出版社の会議で通らなかったんだよねー」

「……」

「で、どうにかして、自分の書きたいキャラを書くために、裏設定で女装男子ってことにしたんだよね、これ、もちろん公式でも未発表ね」

 そう言いながら、たろさんは、口元に人差し指を当てて「シーッ」とウィンクした。


 宮内杏が、本当は男で、ただ女装してるだけで、そのモデルになってるのが……俺?

「…………」

「じゃあ、マミリンさぁ、試しに宮内杏って10回言ってみてよ」

「……?」

「いーからいーから、深く考えないで、言ってみー?」

「……宮内杏宮内杏宮内杏宮内杏宮内杏……」

「ほらほら、続けて! 宮内杏宮内杏みやうちあんみゃーちあん! ほらね」

 いや、ほらね! じゃねーんだわ!

 なんだそりゃ、単なる言葉遊びじゃねーか。なーにが宮内杏が、俺だっつーの。似てんのは名前と、女装してるとこくらいじゃんか。しかも、こっちは好きで女装してたんじゃねー。

 俺は、げんなりしながら、机の上に置いてある金玉先生の新作を手に取ると、気まぐれにパラパラとページをめくってみた。


 ――宮内杏とは、学校で女装をしているときの仮初かりそめの名前だ。本名は、宮内陸人という――

「ってほぼ俺じゃねぇえぇええかぁああああああッッ!!」

「あ、マミリンやっと分かってくれた?」

「こんなん書いたモン勝ちじゃねぇえええかぁぁあああああッッ!!」

「いやー、モテる男はツラいよねぇー」

「…………」

 ケラケラと笑いながら、そう言う、たろさんの後ろで、黙ったままの銀田がみるみる小さくなっていく。

「……みゃーちゃんに嫌われたらもう……生きていけない……」

「おまー! まーた、そういうくだらんこと言ってマミリンを困らせるんじゃーないよ!」

「……ハァ」

 俺は、もうクソデカため息をつくことくらいしかできない。

「なぁ、マミリンさぁ、元々、悪いのは俺なんだよ。銀田にラノベ書くこと勧めたのも、マミリンとのナマモノBL書くこと勧めたのも、俺なんだ」

「たっ、たろさん……俺を裏切ったの?」

「いや、違うよ。こんなこと、マミリンに言うつもりはなかったんだけど……。ほら、銀田って親に進学校に行くよう言われてて、マミリンと同じ高校に行けなかっただろ?」

「……はぁ」

 まぁ、そりゃあ、ご立派なお家柄なんだろうし、それが普通だろうな。

「それで、ちょっとマミリンのストーカーみたいになっちゃってた時期があって……」

「は!?」

「あー、いや、なんていうか、学校にも行かずに、マミリンの登下校を見張ったり、高校の最寄り駅で待ち伏せして後付けたりしてたみたいでさ……」

 たろさん、そういう人をストーカーって言うんですよ。いろいろ言いたい気持ちはあったけど、もはや、ここまで来ると驚くに値しなくなってくる。

「…………それで?」

「それで、ちょっと銀田を落ち着かせるつもりで、小説を書いてみること勧めてみたんだよね」

「なんで、その流れで小説書かせようってなんの?」

「コイツさぁー、こんなんだけど、実は文才だけはあってさ。中学のときも、感想文書いたら軒並み賞取ってたんだよ」

「…………え」

 そんなん、全然知らなかった。

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