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第二章 間違いが、正解を教えてくれる。

オナニーは下の名前を呼んじゃうタイプです。

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 俺の仕事始めは、それはそれは散々なものだった。

 まず、当然といえば当然のことなのだが、去年、新人でありながら抜擢ばってきされた仕事のCM案件は、別の同僚へと引き継がれていた。これも、調子に乗って、山田を仕事に巻き込んだ罰だ。俺は新年早々、山田に続いてデカい仕事も無くしてしまった。我ながら、いいザマである。

 それでも、これで仕事でも山田に連絡しなくて済んだことに、俺は内心ホッとしていた。

 そんなわけで、年が明けても、まだ俺は、たろさんからスマホを借りっぱなしの状態だった。

 あけおめメールが、自分の名前で届いたときには、さすがにギョッとしたけれど、それが、たろさんからであると気が付くのに時間が掛かるくらいには、たろさんのスマホが馴染んできてしまっていた。

 そして、新しく俺に与えられた仕事というのが、なんと出版社との仕事だったのだ。

 出版社といえば本、本といえば去年の簿が、まだ記憶に新しい。

 なんとも不思議な人生のめぐり合わせだなぁー。

 最初、俺は自分の人事異動をそんな風に軽く考えていたのだが、実はこれが、なかなかにいけずな辞令であることが、後から分かってきた。

 出版社の仕事とは言っても、当初、俺が予想したような、雑誌やインターネットの広告部門の仕事では無かった。

 俺に任されたのは、本を紙書籍として出版したい作家と、製本部分だけ専門で請け負っている出版社との、橋渡しのような仕事だったのだ。

 どれほど製本された書籍が素晴らしくとも、今や世の中は音楽と同じように、読書も電子やサブスクが、お得に手軽に読める媒体ばいたいとして、圧倒的な比率を占めている。

 要は、紙本が売れない時代になってきているのだ。出版社の仕事も電子書籍が台頭して様変わりし、小会社などバンバンつぶれている。

 そんな経営に行き詰まった出版社に救いの手を差し伸べたのが、広告代理店だった。

 年配者向けの冊子や、逆に薄い本を出しているような作家には、未だに手厚いファンの需要がしっかりしている。

 だが、出版数の減少により、年々、紙の出版は経費が値上がり、もはや金持ちの道楽になりつつあるのだ。

 そこで、出版社の長きに渡って築いた、製本作業という職人技だけを出版社に担わせ、広告代理店が、それ以外の広告宣伝や、場合によってはデザインまで請け負うことで、小さな出版社だからこそ、生き延びる道ができた。

 広告代理店も、時代に大きく左右される業界だから、広告という主軸以外にも、こうして隙間産業のように、あらゆる分野に手を広げているのだ。

 こうして、お互いに、Win-Winの関係が成り立つことになる。

 だが、実際に俺に与えられた仕事は、納期までに作家に小説を脱稿だっこうさせるためのサポートや、文章の校正作業、挿し絵のための絵師探しや、書店に置いてもらうための営業回りなど、ほぼ編集者の仕事だった。

 ゲーノージン相手などの華やかな仕事とは正反対の、ぶっちゃけ俺にしてみれば、もはや雑用の仕事に近かった。

 長時間のデスクワークと、目の酷使で、偏頭痛へんずつうになることも増えてきた。

 かなりハードワークだ。正直しんどい。

 だが、それでも良かったこともあった。

 まず1つ目が、入社して間もない俺が、運良く会社の花形部署で、大きな仕事を任されるようになってきて、色めき立っていた職場の女子達が、俺への興味を無くしてくれたことだ。

 さぞや、出世コースの男として、目をつけられていたんだろうけど、飲み会なんかで言い寄られたときに笑顔であしらうのも、辟易へきえきしていたから、マジで助かった。

 不幸中の幸いである。

 それと……まぁ、なんていうか、俺がどんなに会社と満員電車に揉みくちゃにされようが、家に帰れば温かなご飯が用意されているわけで……。

 まぁ……つまり、俺は、未だに銀田のタワマンで暮らしている。

 あれほど銀田を毛嫌いしておいて、まだ一緒におるんかい! ってツッコミには、本当に手を合わせるしか無いけど、聞いてくれ。

 俺は、銀田から、会社から帰るときに連絡するよう言われてるんだけど、連絡すると、俺が銀田の部屋に帰るときに、ちょうど夕飯が出来上がっていて、それが俺の好物ばかりで、それが毎日続くのだ。これじゃボロアパートに帰るのは……無理だ。

 とはいえ、俺と銀田の間には、やましいことは、何も無い。つまり、あの、破茶滅茶なワンナイトの日以降、俺と銀田は清い関係が続いていた。

 言うなれば、元同級生とルームシェアしてる感覚とでも言おうか。まぁ、1円たりとも出してない人間が、何を言うかって感じだけども……。確かに俺は、銀田に甘えに甘え抜いているんだけど、ここ最近の銀田は、すっかり情緒も安定し、謎のキャラ変などすることもなく、毎日にこやかに過ごしている。

 ならまぁ、いいんじゃないか? あともう少しくらいなら……。

 問題の、俺の性欲処理……つまりオナニーについてだけど、これも全く問題が無かった。

 今や俺は、金玉先生の薄い本で、乳首だけでイケるほどの敏感な身体になってしまったのだ。

 あんまりにも気持ちよすぎて、致しながらどうしても声が抑えられなくなるのが、悩みといえば、悩みか。

「んアッ……んアッ! まぁーくん、まぁーくん、気持ちイィ気持ちイィよぉおおおッッ!! そこぉおおおッ! ソコぉおおおおッ! しゅきぃいイイっっ!!」

 そんなわけで今晩も、スッキリです。

 なので、どんなに仕事で疲れ果てていても、金玉先生の本を開いて、少し胸をいじるだけで、超スッキリ!! な心身ともに健康的な毎日を送れているのである。

 欲を言えば、金玉先生の新作以外……つまり過去作も手に入れたいと思い始めているところだ。


 そんなある日の夜のことだった。

 その夜も、銀田の手作りの夕飯を食べ、自分の部屋のベッドでくつろぎ、風呂に入る前に軽く1発抜いとくかぁー、と、いつものように乳首に濃度高めのローションを、くるくると塗り込み始めたときだった。

 コンコン

 珍しく、銀田が部屋のドアをノックしてきた。

「……ンんッ……なっ、なんだ?」

「みゃーちゃん、ちょっと僕、出かけてくるね」

「ハァッ……んっ? 買い物……か?」

「ああ、いや、女の子から依頼が入ったんだよ」

「…………そっか」

「じゃー、いってくるね」

 そう言って、銀田は玄関を出て行った。

 俺は、正直、動揺していた。

 テカテカした乳首を丸出しにしたまま、思わず部屋を飛び出すくらいには。

 それからしばらく、ウロウロと、長い廊下を行ったり来たりしながら、銀田が、帰るのを待ち続けていたけど、いつまで経っても帰ってこない。

 もう2時間くらい経ってるのに、どうしたんだ、アイツ……。

 女の子からの依頼って……つまりクライアントのことだろ? あの、副業とやらの。なら、部屋に連れて来るはずなんじゃないのか? まさか、俺がいるから来られない……とか?

 アイツ……今どこで、何してるんだ?

 そんな考えがずっと、頭の中をぐるぐると回り続けてとてもじゃないけど、寝られなかった。

 気が付けば俺は、たろさんに電話を掛けていた。

 たろさんと、翌日に会う約束をして、ようやく俺は、明け方に眠りにつくことができた。

 窓の外が、ほの明るくなってきても、銀田は帰ってこなかった。

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