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転生司祭は逃げだしたい 2
しおりを挟む「もう……限界かも」
部屋に戻った僕は溜息と共に呟いた。
すっごく疲れた。主に精神的に。
よろよろとソファへと辿り着き、荷物から幾つかの小瓶を取り出す。
クリスタルの瓶に入ったそれはお手製の頭痛薬と胃痛薬。
ごっきゅごっきゅと中身を飲み干し、こめかみを押さえたままソファヘッドへ頭を預ける。
窓の外からは賑やかな喧騒が僅かに響く。
街も城も大賑わいだ。当然だよね、だって勇者パーティが魔王を討伐して凱旋したんだから。
そう、魔王討伐に成功したのだ。
「冒険終わってるんかい!」と突っ込みを受けそうだが、実はそうなのだ。
転生チートを大いに生かし、暗躍に暗躍を重ね、仲間の確保や伝説の武器や防具、スペシャルアイテムを集めて万全の体制を持って挑んだ魔王討伐はつい先日終了した。
圧倒的完勝だった。
歓喜に沸く人々に歓待され、王城に招待され、昨日は凱旋パレードだってあった。
僕は出なかったけど……。
王城に招待された僕らは大層なもてなしを受けた。
みんな最初から「一人だけ地味」とは内心思ってただろうけど、僕の扱いだって丁寧だった。
きっと見掛けは地味でも能力が凄いんだと思ってくれてたんだろう。
でも数日滞在して、毎日旅の話をせがまれればやがてみんなは気づいた。
「あれ?能力も大したことなくない?」
一言、言いたい。
ふざけんな、比較対象が悪すぎる!!
何せ奴らは本物のチートだ。
存在自体がチートなのだ。
ビジュアルだけでなく、能力も、なんなら体力だって可笑しい。
勇者や獣人はともかく、9歳のチビッ子僧侶だって険しい崖に息一つ乱さないんだぞ?!
僕なんて勇者に背負われたし!!
そもそも、9歳児に魔王討伐参加させるとか鬼畜もいいとこじゃない?
地味で大した能力もない司祭を勇者も聖女も「司祭様、司祭様」とやたらと慕い、持ち上げる。
聞けば、司祭は二人が居た孤児院を運営していたらしい。
と、くれば……僕が二人の信頼を盾に親代わりの立場を活かしてその栄光にあやかろうとしているのでは?と考えるのもわからないではないんだけどね。
言っとくけど、僕、むちゃくちゃ頑張ったからね?
戦闘面では確かに足手まとい感ハンパなかったけど……
「あの山の向こうの祠に伝説の剣が……」とか、
「あの村で大いなる災いが……」とか、
やりこんだゲーム知識活かしてシナリオさくさく進めたのは僕ですけどー。
それに調整や交渉役兼保護者としても大活躍でしたけどー。
まぁ、実際してることは助言だの炊事だので地味なんだけどね。
そこは否定出来る要素皆無。反論の余地なし。
それに司祭の立場を活かして神の啓示だの神託だの語ってたけど本当は違うし、大いに手柄を主張しにくいことではあるんだ。
詐欺と言われれば詐欺だしね。
でも、誰も傷つかないし、むしろ世界を救うための詐欺だからそこは許してほしい。
しかも面倒なことにうっとうしいのが寄り付いてくるんだよね。
何故って、チョロそうだから。
勇者パーティ懐柔したいお偉いさんたちは大勢いて、直接彼らに接触する人たちも勿論いるけど、それよりチョロそうなアイツ狙おうって奴らに僕ってば大人気。
わー、嬉しくなーい。
ここ連日呼び出し喰らってる王がまさにそれ。
結果、王子だの騎士団長だのまだまともな人達にとってますます僕は疎ましい存在だ。
まぁ、あの二人は上辺だけでも丁寧に接してくれてるし全然マシなんだけど。
ソファの上で胎児みたいに小さく丸まる。
お手製の胃薬はよく効くんだけど、いかんせん胃痛が心因性だから治ったそばから痛むんだよね。
寝床や食料に頭を悩ますことも、グロい光景に胃のヒクつきを押さえることもなくなって、やっと過酷な旅が終わったと思ったのにこれ。
もう無理。
ほんと、無理。
『司祭様っ』
輝くような満面の笑顔を向けて慕ってくれる二人の顔を思い出して、僕はきつく瞼を閉じた。
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