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22.黒豚令嬢 side レオナード
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衝立を越えてもいいか、という僕の問いかけに。
「えぇ、勿論ですわ、レオナード殿下」
ツェツィーリエ嬢は、いつもの優しい声音で答えてくれた。
僕は大きく息を吐き、細かく震える手にギュッと一度力を込めると、ゆっくりと立ち上がった。
心臓の鼓動がうるさくて仕方ない。足の感覚が無くなるほど緊張して、雲の上を歩いているかのような不安定さを感じる。
やっとの思いで越えた、衝立の向こう。
そこには、美の化身が、いた。
艶々としてゆるく波打つ漆黒の髪、髪と同じ黒色の瞳が少しだけ覗く小ぶりな目、控えめにちょこんとついた鼻、凹凸の少ない、卵のようにつるんとした顔の下には、丸々とした豊満な体。
後悔した。
優しくされた記憶があるから、失神されても大丈夫?そんなことを思った過去の自分をぶん殴りたかった。
中身だけではなく、外見までも光り輝くように美しい人。そんな人に、失神されて拒否されたら、きっと僕はもう生きていけない。
「む、無理だ……」
いつ拒否されるのか、そんな恐怖で全身が震える。血の気が引く、一刻も早くこの場から去らなくては。
そう思い、ツェツィーリエ嬢に背を向けて走り去ろうとしたその時。
「きゃあ……!」
ツェツィーリエ嬢がか細く悲鳴を上げて、倒れ込む気配がした。
「大丈夫か!」
元気そうだったのに、実はどこか悪い所でもあったのか!?逃げ出そうとしたことすら一瞬忘れ、心配で堪らなくてツェツィーリエ嬢に近づく。
手を差し出したあとに、ひょっとしたら僕の見た目に気分が悪くなったのかもしれないという事実に思い至り、手を引っ込めようとした。
「捕まえましたわ!」
しかし、僕が手を引っ込めるその前に、ツェツィーリエ嬢に手を拘束される。
「なっ!ツェツィーリエ嬢、僕を騙したのか!」
「騙すだなんて人聞きの悪い。レオナード殿下が、逃げようとなさるからですわ」
衝撃の余り、ツェツィーリエ嬢を責めるような言葉を吐いてしまうが、ツェツィーリエ嬢の言う通りだ。
だけど、僕にだって言い分はある。
「そ、それは……。でもツェツィーリエ嬢が悪い!こんなに美しいだなんて聞いてない!」
「まぁ……!」
公爵家のご令嬢なのだから、美しいだろうとは思っていた。ただ、ツェツィーリエ嬢は養女として迎え入れられたと聞くし、まさかここまでの美しさだとは思ってもみなかったのだ。
だがおかしい。
僕はツェツィーリエ嬢にみっともなく八つ当たりしたのに、何故か彼女は僕の言葉に嬉しそうな顔をするのだ。
そして気が付く。
あれ?ツェツィーリエ嬢、まだ失神してない?
「えぇ、勿論ですわ、レオナード殿下」
ツェツィーリエ嬢は、いつもの優しい声音で答えてくれた。
僕は大きく息を吐き、細かく震える手にギュッと一度力を込めると、ゆっくりと立ち上がった。
心臓の鼓動がうるさくて仕方ない。足の感覚が無くなるほど緊張して、雲の上を歩いているかのような不安定さを感じる。
やっとの思いで越えた、衝立の向こう。
そこには、美の化身が、いた。
艶々としてゆるく波打つ漆黒の髪、髪と同じ黒色の瞳が少しだけ覗く小ぶりな目、控えめにちょこんとついた鼻、凹凸の少ない、卵のようにつるんとした顔の下には、丸々とした豊満な体。
後悔した。
優しくされた記憶があるから、失神されても大丈夫?そんなことを思った過去の自分をぶん殴りたかった。
中身だけではなく、外見までも光り輝くように美しい人。そんな人に、失神されて拒否されたら、きっと僕はもう生きていけない。
「む、無理だ……」
いつ拒否されるのか、そんな恐怖で全身が震える。血の気が引く、一刻も早くこの場から去らなくては。
そう思い、ツェツィーリエ嬢に背を向けて走り去ろうとしたその時。
「きゃあ……!」
ツェツィーリエ嬢がか細く悲鳴を上げて、倒れ込む気配がした。
「大丈夫か!」
元気そうだったのに、実はどこか悪い所でもあったのか!?逃げ出そうとしたことすら一瞬忘れ、心配で堪らなくてツェツィーリエ嬢に近づく。
手を差し出したあとに、ひょっとしたら僕の見た目に気分が悪くなったのかもしれないという事実に思い至り、手を引っ込めようとした。
「捕まえましたわ!」
しかし、僕が手を引っ込めるその前に、ツェツィーリエ嬢に手を拘束される。
「なっ!ツェツィーリエ嬢、僕を騙したのか!」
「騙すだなんて人聞きの悪い。レオナード殿下が、逃げようとなさるからですわ」
衝撃の余り、ツェツィーリエ嬢を責めるような言葉を吐いてしまうが、ツェツィーリエ嬢の言う通りだ。
だけど、僕にだって言い分はある。
「そ、それは……。でもツェツィーリエ嬢が悪い!こんなに美しいだなんて聞いてない!」
「まぁ……!」
公爵家のご令嬢なのだから、美しいだろうとは思っていた。ただ、ツェツィーリエ嬢は養女として迎え入れられたと聞くし、まさかここまでの美しさだとは思ってもみなかったのだ。
だがおかしい。
僕はツェツィーリエ嬢にみっともなく八つ当たりしたのに、何故か彼女は僕の言葉に嬉しそうな顔をするのだ。
そして気が付く。
あれ?ツェツィーリエ嬢、まだ失神してない?
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