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25.この世界の美醜。
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【悪食】だと、そう告げた私に、殿下はポカン、とした表情を返してくる。
なんでそんな表情なのに、間抜け面にならないのかしら……?と不思議に思いながら、私は言葉を重ねる。
「私は【悪食】なので、レオナード殿下のその容姿は、私にとって大変好ましいものなのです!」
「うそ」
「あら、嘘ではありませんわ?その証拠に、私はレオナード殿下を見て嫌な顔をしたり、悲鳴をあげたり、失神したりはしなかったでしょう?」
呆然と言葉を紡ぐ殿下に、私は事実を告げる。
私が転生したこの世界。
それはまぁ醜い容姿の人間に対する差別が酷かった。その差別意識は、国の中央になればなるほど、地位が高くなればなるほど強くなる。
平民街では、あからさまに嫌な顔をされたり、商品を適正価格で売ってもらえないくらいで済むのだが(それでも私は充分酷いと思う)、貴族社会においては、酷いとその命すら脅かされるのだと聞いた時は、あまりの事に言葉を失った。
そんな根深い差別意識の中育つ貴族令嬢は、平民に比べて、圧倒的に醜いものへの耐性がない。美しいものにばかり囲まれて育ってきてるからね。
そんなご令嬢がみせる、醜い者に会った対応としては、良くて悲鳴、悪くて失神なのだという。
余談だが、この世界で美しいとされる条件。
髪も目も色素が濃ければ濃いほど良く、黒が最上位。目は小ぶりで、鼻は低く、大きく膨らんだ頬。凹凸が少なく、卵のようなつるんとした顔。
身体は球体のような丸みをおびた、柔らかなもの。
なんでも、この世界を創成した女神のお姿なのだという。
そしてこの容姿、どこかで見たことがあるとお思いだろう。
そう、前世から持ち越してきた私の容姿は、その全ての美の条件を満たすのだ。自分が絶世の美女だ、と気付いた時には、思わず乾いた笑いをこぼしてしまった。
そしてこの世界の恐ろしいところは、まだある。
食事や運動で、体型が変わることがないのだ。
年々体重を増していく自分の身体が心配になり、『痩せようかな…』と呟いた私に、『どのようにしてですか?』と不思議そうに返したフランチェスカさんに、『食事や運動で』と答えると。
『そんなことで産まれ持った体型が変わる訳ないじゃないですか。』と笑われてしまった。
私の言葉が冗談に受け取られてしまったのも当然で、この世界では食事や運動で体型が変わることは無く、同じ食事や運動量でも、太る人は太るし、痩せている人はずっと痩せているままなのだ。
太っていると病気になりそうなものだが、痩せていても太っていても、病気になる確率は一緒とのこと。
変なところにファンタジーを感じた。
さて、そんな美の条件の正反対にいるのが、私に頬を掴まれて、目を泳がせている殿下。【月の王子】という異名も、この世界では悪口になる。
というのも、この世界の月。
満ちることがないのだ、ずっと三日月の形のまま。そのほっそりとした形と、光り輝く白さも加わって醜さの象徴となる。
そしてその殿下、私が悲鳴もあげず、失神もしなかったことで、私を信じようかどうか迷っているのか、『いや、それは、そんな…』と小さく戸惑いの声をあげている。
私と目線を決して合わせないようになのか、あちこちと動く目が面白い。
「本当に【悪食】なのか?」
「えぇ、誓って嘘は申しておりませんわ」
「分かった、ツェツィーリエ嬢、貴女を信じる」
不安そうに私を見上げながらも、私を信じるとぎこちない笑みを浮かべる殿下。
そして私の胸を襲う感情。…尊いって、こういう事なのね…。
なんでそんな表情なのに、間抜け面にならないのかしら……?と不思議に思いながら、私は言葉を重ねる。
「私は【悪食】なので、レオナード殿下のその容姿は、私にとって大変好ましいものなのです!」
「うそ」
「あら、嘘ではありませんわ?その証拠に、私はレオナード殿下を見て嫌な顔をしたり、悲鳴をあげたり、失神したりはしなかったでしょう?」
呆然と言葉を紡ぐ殿下に、私は事実を告げる。
私が転生したこの世界。
それはまぁ醜い容姿の人間に対する差別が酷かった。その差別意識は、国の中央になればなるほど、地位が高くなればなるほど強くなる。
平民街では、あからさまに嫌な顔をされたり、商品を適正価格で売ってもらえないくらいで済むのだが(それでも私は充分酷いと思う)、貴族社会においては、酷いとその命すら脅かされるのだと聞いた時は、あまりの事に言葉を失った。
そんな根深い差別意識の中育つ貴族令嬢は、平民に比べて、圧倒的に醜いものへの耐性がない。美しいものにばかり囲まれて育ってきてるからね。
そんなご令嬢がみせる、醜い者に会った対応としては、良くて悲鳴、悪くて失神なのだという。
余談だが、この世界で美しいとされる条件。
髪も目も色素が濃ければ濃いほど良く、黒が最上位。目は小ぶりで、鼻は低く、大きく膨らんだ頬。凹凸が少なく、卵のようなつるんとした顔。
身体は球体のような丸みをおびた、柔らかなもの。
なんでも、この世界を創成した女神のお姿なのだという。
そしてこの容姿、どこかで見たことがあるとお思いだろう。
そう、前世から持ち越してきた私の容姿は、その全ての美の条件を満たすのだ。自分が絶世の美女だ、と気付いた時には、思わず乾いた笑いをこぼしてしまった。
そしてこの世界の恐ろしいところは、まだある。
食事や運動で、体型が変わることがないのだ。
年々体重を増していく自分の身体が心配になり、『痩せようかな…』と呟いた私に、『どのようにしてですか?』と不思議そうに返したフランチェスカさんに、『食事や運動で』と答えると。
『そんなことで産まれ持った体型が変わる訳ないじゃないですか。』と笑われてしまった。
私の言葉が冗談に受け取られてしまったのも当然で、この世界では食事や運動で体型が変わることは無く、同じ食事や運動量でも、太る人は太るし、痩せている人はずっと痩せているままなのだ。
太っていると病気になりそうなものだが、痩せていても太っていても、病気になる確率は一緒とのこと。
変なところにファンタジーを感じた。
さて、そんな美の条件の正反対にいるのが、私に頬を掴まれて、目を泳がせている殿下。【月の王子】という異名も、この世界では悪口になる。
というのも、この世界の月。
満ちることがないのだ、ずっと三日月の形のまま。そのほっそりとした形と、光り輝く白さも加わって醜さの象徴となる。
そしてその殿下、私が悲鳴もあげず、失神もしなかったことで、私を信じようかどうか迷っているのか、『いや、それは、そんな…』と小さく戸惑いの声をあげている。
私と目線を決して合わせないようになのか、あちこちと動く目が面白い。
「本当に【悪食】なのか?」
「えぇ、誓って嘘は申しておりませんわ」
「分かった、ツェツィーリエ嬢、貴女を信じる」
不安そうに私を見上げながらも、私を信じるとぎこちない笑みを浮かべる殿下。
そして私の胸を襲う感情。…尊いって、こういう事なのね…。
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