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72.危険

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 月日は流れ、私はもうすぐ15歳に、レオンは18歳になる。私はデビュタントを迎える歳に、そしてレオンは結婚が出来る歳となる。

 王太后陛下とレオンは、時間をかけて徐々にではあるが、確かな絆を結んでいった。以前のような表情の固さは無くなり、すっかり打ち解けたようだった。2人の仲の良さげな様子を見る度、私はホッコリとなる。


 そして、デビュタントを迎える歳になった私は、目の前の光景に驚きを隠せずにいる。

「え、お義父さま、これ全部私宛に……?」

「あぁ、そうだ。デビュタントを迎えるツェツィへのプレゼントであり、デビュタントのパートナーに選んで欲しい、お近付きになりたいという下心のプレゼントだ」

「それが、こんなに?」

 そこには、大小様々な大きさのプレゼントが部屋の中にみっしりと、所狭しと置かれている光景だった。

「どうしましょう、お義父さま。私こんな数のお礼の手紙なんて書けませんわ」

「心配ない。ほぼ送り返すからな」

「え?」

「当たり前だろう。ツェツィはレオナード殿下の婚約者だ。その相手に下心満載のプレゼントを贈るなんて、不敬と捉えられても仕方ない事だぞ?」

「あ。そうですわね」

「当然、この中のプレゼントには下心のない純粋なものもあるだろう。これから仕分けをしなくてはならないな……」

 そう言うお義父さまの目は何処か遠くを見ていて虚ろだった。私は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「お義父さま、私もお手伝いした方がよろしいでしょうか?」

「ツェツィ、お前を危険に晒さない為の仕分けだ。ツェツィが手伝ったら本末転倒というものだよ。今は養父に任せて、大人しくしていなさい」

「分かりましたわ。お義父さまもお気を付けて」

「ありがとう、ツェツィ」


 私はその部屋を離れて、窓から正門を見つめる。そこには前世で見たことのある、マスコミが囲み取材をするかのように、正門の衛兵に追い払われても追い払われても殺到する人々の姿があった。
 その多くは貴族の使用人であり、使いという雑用を任されている可哀想な人達である。私は彼らが来る日も来る日も、それこそ雨の日も風の日も我が家を訪ねてくるのを見て、何もせずに追い払ってしまうのが心苦しくなり、お義父さまに訊ねた。

『何もせずに返してしまうのは余りに可哀想ではないですか?せめて返事の手紙くらい持たせてあげても……』

『ツェツィ、お前が優しい子だという事は知っている。だが、それは許可することはできない。いいか?彼らは正式な理由の元での面会の申し込みもなく、ただツェツィに会わせろの一点張りだ。そんな無礼な者達に、返事でもしてみろ。アイツらはさらに調子に乗って、どんどん要求はエスカレートするだろう』

『確かにそうですわね、私が浅慮でしたわ。ごめんなさい、お義父さま』

『いいや、ツェツィが優しい子に育ってくれて嬉しい。だが、ツェツィの身に危険が及ぶことは許し難い事だからな、その危険性は少しでも排除しておきたい』

『はい』

 お義父さまは、私の頭をポンポンと撫でて『心配するな、ツェツィの事は全力で守るさ』との言葉を残し立ち去っていった。

 お義父さまは、格好良い人だと思う。男らしくて、それでいて気が利いて、愉快犯な所がたまにキズだけど、それでも魅力を損なうことは無い。見た目は決して好みではない私ですらそう思うのだから、この世界でのモテ具合が恐ろしい。

 そんな心強いお義父さまを筆頭に、私の周りの人は全力で私の事を守ろうとしてくれている。今私に出来る最大の協力は、不用意な行動を慎み大人しくお屋敷にいる事、私を守ろうと動いてくれている人達に感謝する事だ。出来ることが余りにも小さな事で嫌になるが、今私が下手に動いてしまうと、周りの人の迷惑になる事も知っている。
 だから私は、小さな協力しかできない自分を情けなく思いながらも、日々を大人しくお屋敷で過ごしていた。

 私が一向に姿を見せず、また誰に対しても何も反応を示さない事から、次第に門の前の人々はいなくなっていった。そして、門の前から人々が消えたそんなある日。
 王太后陛下から、話がしたいという旨の手紙が届いた。手紙を届けてくれたのは、いつも教会から王太后陛下の住むお屋敷までを案内してくれるシスターだった。
 そのシスターは焦った様子で、前触れのない突然の訪問を謝罪し、どうか助けて欲しいと私に願った。不審に思った私とお義父さまは、何が起こったのか詳しく聞こうとしたが、何かに怯えた様子のシスターの話は要領を得ない。

 仕方が無いので、実際に王太后陛下にお義父さまと2人で会いに行く事にした。それが罠だとも知らずに。

 私も、そしてお義父さまですら、門の前から人々がいなくなったことでほんの少しだけ、警戒を緩めていた。それに加え、日々目の前で大勢の人々が騒ぎ立てる様子に、知らず知らずの内に疲労がたまり、思考力が鈍っていたのか、私達は判断を誤ってしまったのだ。


 それを知った時にはもう、既に手遅れだった。

「ツェツィ!罠だ逃げろ!」

 真っ白い煙が充満する中、お義父さまの声が遠くに響くように感じる。そしてその声を最後に、私の意識は深い闇へと飲み込まれていった。

 そう、私達は決して油断してはならなかった。蛇のように私をしつこく付け狙う、あの男の存在がある限り。蛇の毒牙にかかるのは、きっと……。
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