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13.考え方の差が一因?
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確かにそうだった。でも、ほんとに伝わってることもこれで分かったからよしとしよう。
「だろ? ちなみに俺の声は第三者には聞こえないから。もちろん、聞こえるようにすることもできるが、そのときはあんたはしゃべれない。口は一つしかないからな」
なるほど。もし仮に僕が余計なことを言いそうになったら、清原氏が止めることだって容易な訳だ。
「で、話を戻すと――前と同じところに務めるってことは、モガラって先輩がいるってことだろ。また同じようにあんたに嫉妬して、嫌がらせから始めるかもしれないぜ」
あれって、嫌がらせのレベルを遙かに超えていると思うんですが。
「いや、俺が言ったのはあんたの死刑につながった諸々の事柄ではなくてだな。もっと前からあいつはあんたに嫌がらせを仕掛けていたのさ。その様子だと、気付いていなかったみたいだが」
「え、ええ。全然」
心の中ではなく、実際に声に出して答えていた。それだけびっくりしたと言える。いつ、どんな行為をされていたんだろう?
「俺が見付けたのもたまたまだからな。全部は覚えちゃいないがいくつか……飲み食い関係の嫌がらせは聞きたくあるまい?」
それは聞きたくない。でも、そう言うからには、探偵事務所で僕は飲み物や食べ物に何か入れられていたのか。体胃腸不良を起こした覚えは皆無なので、危ない物ではなかったんだろうけど、想像しただけで胸が悪くなった。
「はっきり言える範囲のを一つ話すと、あんたが書き上げた報告書にちょっとした修正を入れていたっけな。証拠品らしきトルコ石の回収方法に不備があったってことになっていて、そのあんたの誤りをモガラが優しく指導して直してやったと。報告書に目を通したカラバン探偵は、失敗から学んだのならそれでよしとして、あんた自身には何も言わなかったようだが」
言われてすぐには思い出せなかったが、徐々に記憶が甦った。報告書を修正されたことはもちろん知らなかったが、トルコ石を犯行現場のすぐ近くの溝で拾ったのは覚えている。ペンダントになった小さなロケットにはめ込まれた物で、犯人がアクシデントで落としたと思われたそれは、大きくてきれいな枯れ葉に乗っかった状態で見付かった。トルコ石は水分に弱いということは知識としてあったから、僕は充分に注意して回収し、カラバン探偵への報告書にも、警察に届ける際の説明でも同じことを正確に伝えた。あれは恐らく真犯人による偽装――持ち主に濡れ衣を着せるためにトルコ石を現場近くに置いたが、濡らして価値を落とすのがもったいなくてつい枯れ葉に乗せたのだろう。そんな風に推理したんだけど、後にカラバン探偵の口から語られた推理には、トルコ石の件はほとんど出て来なかった。
「報告書改竄のせいさ。ハンソンのミスでトルコ石を濡らしてしまった。だから証拠能力は低いと判断したんじゃねえかな」
そういう背景があったのか。納得。今さらながら腹立つけど。
「そういうモガラの振る舞いに一向に気付かないんだから、名探偵もあんま頼りにならねえよな」
悪口を言うな。カラバン探偵は僕の師匠で、大切なことをたくさん教えてくれた。
「そこは否定しねえよ。でもなあ。世間で言われているほどの名探偵って訳ではないよな」
「それは、僕ら部下に全幅の信頼を置いてくださっているからであって!」
「声、声」
清原氏の言葉で我に返る。冷静さを失いかけていたと自覚し、反省した。
「あんたがカラバン探偵を師と仰いで、尊敬してきたのは知っている。でも、ほどほどにしときなよ。恋は盲目ってのよりたちが悪いぜ」
いや、言葉を返す形になるけれども、僕は程度を知っている。
僕はカラバン探偵やその部下、つまり僕にとって同僚の人達と一緒にいるときは、タイタス・カラバンという存在に対して、尊敬しすぎないように意識していた。尊敬の念を抱いていても、それを面に出すのはほどほどにしなければ、探偵活動の弊害になると思っているから。事件について思い付いたことを遠慮なく述べたり、名探偵の危機や誤りを指摘したりするのに尊敬という感情は邪魔になりかねない。
「つまり、今は死んだあとだから、募っていた思いを爆発させたってか」
うん、まあそうかも。それに清原氏は同僚じゃないしね。
「今の考え方、仕事仲間に話したことはあるのか?」
いや――僕は気持ち、首を横に振った。
さっき述べた考えを僕は口外したことはなく、胸の内に仕舞っていた。
「そのおかげで、モガラやその他年上の同僚から、若いくせに何様のつもりだと反感を買った覚えはねえの?」
「……」
カール・ハンソンとして生きている間は、微塵も考えなかったが、今になって改めて思い返すときっとあっただろうな。もしかして、モガラが僕に嫌がらせを始めたのも?
「恐らくな。無論、あんたが年齢の割に優秀だったというのが大きいんだろうけど」
フォローをありがとう。救われる。
「だが、だからといって、同僚を死刑に追いやっていいなんて理屈は成り立たない。だろ?」
それは言うまでもなくその通り。これくらいのことで、僕の方にも至らぬ点がございましたとはなりはしない。
「だろ? ちなみに俺の声は第三者には聞こえないから。もちろん、聞こえるようにすることもできるが、そのときはあんたはしゃべれない。口は一つしかないからな」
なるほど。もし仮に僕が余計なことを言いそうになったら、清原氏が止めることだって容易な訳だ。
「で、話を戻すと――前と同じところに務めるってことは、モガラって先輩がいるってことだろ。また同じようにあんたに嫉妬して、嫌がらせから始めるかもしれないぜ」
あれって、嫌がらせのレベルを遙かに超えていると思うんですが。
「いや、俺が言ったのはあんたの死刑につながった諸々の事柄ではなくてだな。もっと前からあいつはあんたに嫌がらせを仕掛けていたのさ。その様子だと、気付いていなかったみたいだが」
「え、ええ。全然」
心の中ではなく、実際に声に出して答えていた。それだけびっくりしたと言える。いつ、どんな行為をされていたんだろう?
「俺が見付けたのもたまたまだからな。全部は覚えちゃいないがいくつか……飲み食い関係の嫌がらせは聞きたくあるまい?」
それは聞きたくない。でも、そう言うからには、探偵事務所で僕は飲み物や食べ物に何か入れられていたのか。体胃腸不良を起こした覚えは皆無なので、危ない物ではなかったんだろうけど、想像しただけで胸が悪くなった。
「はっきり言える範囲のを一つ話すと、あんたが書き上げた報告書にちょっとした修正を入れていたっけな。証拠品らしきトルコ石の回収方法に不備があったってことになっていて、そのあんたの誤りをモガラが優しく指導して直してやったと。報告書に目を通したカラバン探偵は、失敗から学んだのならそれでよしとして、あんた自身には何も言わなかったようだが」
言われてすぐには思い出せなかったが、徐々に記憶が甦った。報告書を修正されたことはもちろん知らなかったが、トルコ石を犯行現場のすぐ近くの溝で拾ったのは覚えている。ペンダントになった小さなロケットにはめ込まれた物で、犯人がアクシデントで落としたと思われたそれは、大きくてきれいな枯れ葉に乗っかった状態で見付かった。トルコ石は水分に弱いということは知識としてあったから、僕は充分に注意して回収し、カラバン探偵への報告書にも、警察に届ける際の説明でも同じことを正確に伝えた。あれは恐らく真犯人による偽装――持ち主に濡れ衣を着せるためにトルコ石を現場近くに置いたが、濡らして価値を落とすのがもったいなくてつい枯れ葉に乗せたのだろう。そんな風に推理したんだけど、後にカラバン探偵の口から語られた推理には、トルコ石の件はほとんど出て来なかった。
「報告書改竄のせいさ。ハンソンのミスでトルコ石を濡らしてしまった。だから証拠能力は低いと判断したんじゃねえかな」
そういう背景があったのか。納得。今さらながら腹立つけど。
「そういうモガラの振る舞いに一向に気付かないんだから、名探偵もあんま頼りにならねえよな」
悪口を言うな。カラバン探偵は僕の師匠で、大切なことをたくさん教えてくれた。
「そこは否定しねえよ。でもなあ。世間で言われているほどの名探偵って訳ではないよな」
「それは、僕ら部下に全幅の信頼を置いてくださっているからであって!」
「声、声」
清原氏の言葉で我に返る。冷静さを失いかけていたと自覚し、反省した。
「あんたがカラバン探偵を師と仰いで、尊敬してきたのは知っている。でも、ほどほどにしときなよ。恋は盲目ってのよりたちが悪いぜ」
いや、言葉を返す形になるけれども、僕は程度を知っている。
僕はカラバン探偵やその部下、つまり僕にとって同僚の人達と一緒にいるときは、タイタス・カラバンという存在に対して、尊敬しすぎないように意識していた。尊敬の念を抱いていても、それを面に出すのはほどほどにしなければ、探偵活動の弊害になると思っているから。事件について思い付いたことを遠慮なく述べたり、名探偵の危機や誤りを指摘したりするのに尊敬という感情は邪魔になりかねない。
「つまり、今は死んだあとだから、募っていた思いを爆発させたってか」
うん、まあそうかも。それに清原氏は同僚じゃないしね。
「今の考え方、仕事仲間に話したことはあるのか?」
いや――僕は気持ち、首を横に振った。
さっき述べた考えを僕は口外したことはなく、胸の内に仕舞っていた。
「そのおかげで、モガラやその他年上の同僚から、若いくせに何様のつもりだと反感を買った覚えはねえの?」
「……」
カール・ハンソンとして生きている間は、微塵も考えなかったが、今になって改めて思い返すときっとあっただろうな。もしかして、モガラが僕に嫌がらせを始めたのも?
「恐らくな。無論、あんたが年齢の割に優秀だったというのが大きいんだろうけど」
フォローをありがとう。救われる。
「だが、だからといって、同僚を死刑に追いやっていいなんて理屈は成り立たない。だろ?」
それは言うまでもなくその通り。これくらいのことで、僕の方にも至らぬ点がございましたとはなりはしない。
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