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9.数当てに数を言ってはいけない
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桐生の指定した答を九度目の質問で言い当てたことにより、十二点が石倉・馳チームに入った。
現状では桐生&片薙のチームが十三点でトップ、一点差で石倉&馳が続き、螢川&高田チームは未だにゼロだ。
最終となる第三戦で、出題に回る石倉&馳チームは正解者なしの八点獲得を目指すしかない。螢川&高田チームは、七番目の質問までに正解すれば逆転勝利。二チームがそれぞれ厳しいのに対し、桐生達は一点でも取れたらこのステージの勝利が自力で決まるし、螢川&高田チームが九番目以降に正解しても逃げ切れる。八番目の質問で正解したときのみ、桐生達と螢川達の同点決戦が行われる。
<もしも二チームが同点となった場合の決戦方法は、いつもの通り、VRシンクロで決めることになってるからそのつもりで>
司会者の言ったVRシンクロとは、互いが見えない状況下であるお題に従って各人がポーズを取り、パートナー同士のシンクロ率を算出、その数値を比較して勝敗を決するというもの。当然、シンクロ率が高いチームの勝利となる。
VRシンクロではお題が独特で、「あ~、だめだあ!」とか「え、ほんとにいいんですか?」というようなフレーズに出だされることがほとんどだ。「あ~、だめだあ!」では頭を抱える者もいれば、その場で頽れて床に両手をつく者もいる。なかなか一致しないものだ。
<では第三戦のカテゴリーテーマを発表するよ。0から100までの整数だ>
このテーマ発表には、誰もがざわついた。今までにない傾向のものだからだ。それに、出題側が不利過ぎるんじゃないかという第一印象があった。
「奇数か偶数かとか、3で割り切れるかとかで簡単に絞り込めそうだ」
桐生が呟き、片薙がうなずく。
「解答の順番で運不運が出そうね」
そこへ司会の言葉が被さった。
<はいざわつくのをやめて。まだ続きがあるんだから。えー、0から100までの整数、ただし条件があるよ。質問する側は解答する場合を除き、具体的な数を表現する言い回しを質問文に含めてはならない>
ざわつきが再び起きる。最初のときよりも大きかった。
<やってはいけない例を示すから、静かに聞くようにね。まず、そのものずばり、数を入れるのは駄目。『七の倍数ですか?』とかね。そうそう、『その数を二倍すると』なんていう表現もNGだから気を付けて。
次に、他の物に置き換えるのも駄目だよ。『人間の手の指の数よりも大きいか?』とか。でも、単に『その数は大きいですか?』はありだ。今回の問題だと、50よりも大きい数が答なら、それは大きい数と言えるだろう。0~100と範囲が決められているのだから。
さあ、ここからちょっとややこしくなるかもしれない。よーく聞いておくように。答につながりかねない計算結果を聞くのは、質問に数が入っていなくても当然、禁止するよん。『その数とその数を足し合わせれば桁が繰り上がりますか』とかね。この質問、足す回数を徐々に増やしていけば答が分かる場合があるからさあ。
色々禁じてきたけれども、数学的なことはばんばん入れてくれていいよ。できるんだったらね>
何か嫌みな言い種だ。それにしても、これまで禁止と言われた表現を入れずに、数学的な表現を用いる質問なんて何があるんだろうか?
(……『素数かどうか』とかかね。『平方根を取ったら整数になるか否か』っていうのもいけそう。数学的とは言えないけど、『その数に何か掛けるとその数になりますか』ってのもありだな。ゼロかどうかの判定ができるだけだけど)
今の内から質問を考えておくことはきっと役に立つ。そう信じてあれこれ思い浮かべる桐生。その思い付いたことを、司会者が今の時点で言ってしまわないかが気になる。
<微妙になってくる質問も出てくるだろうから、今回は審議が多くなるかもしれない。その分、質問を考える時間は一回につき十分間あげよう。長丁場も予想されるので、ペース配分を考えた方がいいかも――って、マラソンじゃあるまいし、これは言い過ぎだったかな、あはははは>
かんに障る笑い声で説明は終了し、続いて石倉と馳のチームが答となる数を、七分の制限時間いっぱいを使って決めた。
解答する順番も改めて決め直され、桐生は四番目になった。
(僕らが取るべき作戦としては)
カプセル席に入る前に、片薙と話し合って大まかな方針は決めておいた。
(序盤で効果的な質問をすると敵解答チームの螢川達のヒントになり、それだけ彼らが早く正解に辿り着く可能性を高めてしまう。なので、最初の方は当たり障りのない質問をして、絞り込みを遅くする。八回を過ぎれば、今度は正解なしで終わることを避けねばならない。一気にギアを上げて、自力での正解を目指しつつ、螢川チームが答えてもいいようにする)
ここで一抹の不安があるとしたら、螢川&高田がどちらの味方に付くかである。桐生&片薙を追い落としたいのなら、わざと正解しない、効果的な質問をしないというケースもあり得るんじゃないか。
(これまでのカード獲得状況は、僕らが“ロバの耳”で、螢川達が“カンニング”。石倉のところはまだ一枚も獲れていない。石倉チームを弱体化させるか、三チームの力の均衡を取るか……うーん、どっちで来るんだか読めない)
桐生が腕組みをし、首を傾げたところで、最初の質問と答が表示された。
1.その数を自乗した数の桁数は、元の数の桁数と元の数の桁数を足した数になりますか?――イエス
つづく
現状では桐生&片薙のチームが十三点でトップ、一点差で石倉&馳が続き、螢川&高田チームは未だにゼロだ。
最終となる第三戦で、出題に回る石倉&馳チームは正解者なしの八点獲得を目指すしかない。螢川&高田チームは、七番目の質問までに正解すれば逆転勝利。二チームがそれぞれ厳しいのに対し、桐生達は一点でも取れたらこのステージの勝利が自力で決まるし、螢川&高田チームが九番目以降に正解しても逃げ切れる。八番目の質問で正解したときのみ、桐生達と螢川達の同点決戦が行われる。
<もしも二チームが同点となった場合の決戦方法は、いつもの通り、VRシンクロで決めることになってるからそのつもりで>
司会者の言ったVRシンクロとは、互いが見えない状況下であるお題に従って各人がポーズを取り、パートナー同士のシンクロ率を算出、その数値を比較して勝敗を決するというもの。当然、シンクロ率が高いチームの勝利となる。
VRシンクロではお題が独特で、「あ~、だめだあ!」とか「え、ほんとにいいんですか?」というようなフレーズに出だされることがほとんどだ。「あ~、だめだあ!」では頭を抱える者もいれば、その場で頽れて床に両手をつく者もいる。なかなか一致しないものだ。
<では第三戦のカテゴリーテーマを発表するよ。0から100までの整数だ>
このテーマ発表には、誰もがざわついた。今までにない傾向のものだからだ。それに、出題側が不利過ぎるんじゃないかという第一印象があった。
「奇数か偶数かとか、3で割り切れるかとかで簡単に絞り込めそうだ」
桐生が呟き、片薙がうなずく。
「解答の順番で運不運が出そうね」
そこへ司会の言葉が被さった。
<はいざわつくのをやめて。まだ続きがあるんだから。えー、0から100までの整数、ただし条件があるよ。質問する側は解答する場合を除き、具体的な数を表現する言い回しを質問文に含めてはならない>
ざわつきが再び起きる。最初のときよりも大きかった。
<やってはいけない例を示すから、静かに聞くようにね。まず、そのものずばり、数を入れるのは駄目。『七の倍数ですか?』とかね。そうそう、『その数を二倍すると』なんていう表現もNGだから気を付けて。
次に、他の物に置き換えるのも駄目だよ。『人間の手の指の数よりも大きいか?』とか。でも、単に『その数は大きいですか?』はありだ。今回の問題だと、50よりも大きい数が答なら、それは大きい数と言えるだろう。0~100と範囲が決められているのだから。
さあ、ここからちょっとややこしくなるかもしれない。よーく聞いておくように。答につながりかねない計算結果を聞くのは、質問に数が入っていなくても当然、禁止するよん。『その数とその数を足し合わせれば桁が繰り上がりますか』とかね。この質問、足す回数を徐々に増やしていけば答が分かる場合があるからさあ。
色々禁じてきたけれども、数学的なことはばんばん入れてくれていいよ。できるんだったらね>
何か嫌みな言い種だ。それにしても、これまで禁止と言われた表現を入れずに、数学的な表現を用いる質問なんて何があるんだろうか?
(……『素数かどうか』とかかね。『平方根を取ったら整数になるか否か』っていうのもいけそう。数学的とは言えないけど、『その数に何か掛けるとその数になりますか』ってのもありだな。ゼロかどうかの判定ができるだけだけど)
今の内から質問を考えておくことはきっと役に立つ。そう信じてあれこれ思い浮かべる桐生。その思い付いたことを、司会者が今の時点で言ってしまわないかが気になる。
<微妙になってくる質問も出てくるだろうから、今回は審議が多くなるかもしれない。その分、質問を考える時間は一回につき十分間あげよう。長丁場も予想されるので、ペース配分を考えた方がいいかも――って、マラソンじゃあるまいし、これは言い過ぎだったかな、あはははは>
かんに障る笑い声で説明は終了し、続いて石倉と馳のチームが答となる数を、七分の制限時間いっぱいを使って決めた。
解答する順番も改めて決め直され、桐生は四番目になった。
(僕らが取るべき作戦としては)
カプセル席に入る前に、片薙と話し合って大まかな方針は決めておいた。
(序盤で効果的な質問をすると敵解答チームの螢川達のヒントになり、それだけ彼らが早く正解に辿り着く可能性を高めてしまう。なので、最初の方は当たり障りのない質問をして、絞り込みを遅くする。八回を過ぎれば、今度は正解なしで終わることを避けねばならない。一気にギアを上げて、自力での正解を目指しつつ、螢川チームが答えてもいいようにする)
ここで一抹の不安があるとしたら、螢川&高田がどちらの味方に付くかである。桐生&片薙を追い落としたいのなら、わざと正解しない、効果的な質問をしないというケースもあり得るんじゃないか。
(これまでのカード獲得状況は、僕らが“ロバの耳”で、螢川達が“カンニング”。石倉のところはまだ一枚も獲れていない。石倉チームを弱体化させるか、三チームの力の均衡を取るか……うーん、どっちで来るんだか読めない)
桐生が腕組みをし、首を傾げたところで、最初の質問と答が表示された。
1.その数を自乗した数の桁数は、元の数の桁数と元の数の桁数を足した数になりますか?――イエス
つづく
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