誰が悪役令嬢ですって? ~ 転身同体

崎田毅駿

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3.怖ろしい想像

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 少なくとも時間帯は真夜中ではないんだから、誰かしらいるでしょう。この誰だか分からない人が着ているドレスはよい代物で、つまりは低い身分てことはまずあり得ないわけで、助けを求めて人を呼んでも多分、大丈夫。不遜な行為には当たらないだろう。
 私は半分無意識の内に、喉元に片手をあてがった。自分のものではない喉の調子を整えたいという心理の表れだったのかな。その仕種のおかげで、あることを発見した。
 喉元に若干のへこみがある。筋になって、首回りをぐるりと一周しているようだ。幅は一センチ前後? ううん、太いところも細いところもある。手触りから判断すると、身体の前面にある筋の方が、後ろに付いた筋よりもだいぶ深いみたい。
 何の痕?
 疑問が解けぬまま、次の新たな発見が。
 首元をどうにか見ようとして視線を下げたとき、胸に意識が行った(本来の私のよりもかなり大きめだったけれども、それを嫉妬したが故に意識が向いたのではない、断じて)。ドレスは比較的胸元の開いタイプで、当然、豊かな乳房の上辺りを見下ろせる。その谷間に一個、丸くて平たい石が挟まっていたのだ。珊瑚、それとも貝殻かしら? 光を自ら放っているかのように磨き込まれている。
 問題は、その石の両端に小さな穴があけられている点。穴の内の一つは形こそ保っているものの、うっすらとひびが入っている。
 これってもしかして、ネックレスもしくはペンダントの一部? ひびが入ったのは引きちぎられたからで、他の石は飛び散って見えにくい場所まで転がったか、あるいは誰かが拾い集めて持ち去ったのか。
 そしてネックレスがちぎれたのは、私の首に残る痕跡と関連があるのなら。
 怖ろしい想像が頭の中で生まれて、徐々に膨らんでいく。
 このネックレスだかペンダントだかが、チェーンにせよ布紐にせよ、ちぎれるなんて相当な力が必要に決まっている。多分に暴力的な行為と言っていい。
 ということは何者かが私を、じゃなくてこの誰かさんを襲った? アクセサリーを奪うため? もしくは、命を狙って……?

 しばし呆然としてしまった。けど、短い時間だったはず。
 私はブルブルとかぶりを振り、とにかく落ち着こうとした。異常事態続きで、まだほとんど何も分かっていないのだ。今さら慌てることはない。
 とにもかくにも、助けを呼ぶために声を上げるのは一旦中止、よね。襲撃者がまだこの屋敷の中にいるかもしれないのだから。
「それにしても」
 つい、呟いた。まだ自分じゃない声に慣れておらず、ビクッとしてしまう。誰かの耳に届くのも避けたいし、続きは心の中で。
 それにしても、こんな場面、私が読んだ中にはなかったような。確かに、あらゆる出来事を描写してくれてはいないんだろうけど、高価なドレスを着た令嬢(多分)が襲われて階段を転げ落ち、動けなくなっているなんて“イベント”、普通は筆を割くでしょうに。
 私がまだ読んでいない、第四巻以降にあるのかな? そうだとして、こんな目に遭いそうなキャラクターって、誰?
 善玉が悪者に狙われたのか、悪役が成敗されたのか……。
 結構胸が大きな女性キャラで令嬢(多分、再び)。年齢は細かいことは不明だけれども、声の調子や肌の色艶などから推して、二十歳を超えていることはない。
 あと、小指の指輪二つがヒントになるかもしれないんだけど、組み合わせについてほとんど記憶していないから困る。深紅のルビーと月長石だったら子供を欲しているとか、子作りできる身体になった、みたいな意味合いだったのだけは、エッチな感じが漂ったせいもあって印象に残ってるんだけど。
 でもまあ、このあと起きる出来事が四巻目以降なら、多少は安心できるかもしれない。物語の幕開けから徹頭徹尾、か弱いヒロインのリーヌ・ロイロットをいびり抜いていた、いわゆる悪役令嬢ポジションのノアル・シェイクフリードというキャラクターがいたのだが、私が転生したのは彼女だというのは絶対にないと言い切れるのだから。何せノアルって、第三巻の最終盤でばちが当たって死んじゃったのだから。ううん、ばちじゃなくて、恨みを買ったのよね。ばらばら死体とか何とか、死んだのがノアル・シェイクフリードじゃなかったら読み飛ばしたくなるくらいのすさまじい死に様の描写だったわ。
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