5 / 15
5.ふたりでひとり
しおりを挟む
『素直でよろしい。質問についてだけれど、私にもよく分かりません。言えるのは、私の身体の中にあなたが入っているということ」
「ええっ」
ということは、声の主はノアル・シェイクフリード? だったら声が似ていると感じたのは当然かも。完全に一致しているとは感じられなかったのは、録音した自分の声を聞いたら違和感があるっていうあれよね、きっと。ただ、彼女が喋っている間、この身体の口が勝手に動くことはなかったんですけど。
『あなた、先ほどから驚き通しのようだから、先に私の状況を伝えることにします。よく聞いていなさい』
「はい」
命令調に、居住まいを正したい気持ちにさせられた。あいにく、左足首の痛みのせいで、思うようには身体が動かなかったけれども。
『分かっていること・言えることの二つ目。私の身体を私の意思では動かせない。腹立たしいことにね』
「そ、そうなんですか」
『そうよ。ああ、大事なことを聞きます。あなた、女性よね?』
「はい?」
一瞬、問いの意味が分からず、悪役“令嬢”に対して無礼な返しをしてしまった。けど、相手が怒り出すよりも早く、状況を理解できた。私とノアルはお互いの存在を声でのみ感じているのだ。そしてノアルからすれば、彼女の身体に入り込んだのが男か女かは知りようがないんだわ。彼女自身の声が喋っても、それが女によるものなのか男によるものか、判断する材料はほとんどない。せいぜい、言葉遣いがあるくらいで、それとて生物的な意味での男女の判定にはつながらない。
「女です。名前は安生悠子。日本人で年齢は――」
『待ちなさい。女と聞いてほっとしたのもあるけれど、それ以上に耳慣れない固有名詞が飛び出して、聞き損ねたわ。名前はアン? ジョー?』
「アンジョーです、アンジョー、ユーコ」
外国人が話す片言の日本語口調で言ってみた。そういえば私が話しているのはいつも通りの日本語だけれど、通じているんだよね。ノアルの言葉も日本語に聞こえるし。文字はどうなのかな? まだ目にしていないから想像するしかないけど、知らない外国語なのに私でも読めるのか、知らない外国の文字でも日本語に見えるのか……。
『アンジョーとは珍しい名前ですこと。まるで二人いるみたいね』
続けて、ふふふと笑い声が聞こえた。それ以上の説明はなかったけれども、多分、アンとジョーで二人って意味かしら。
『とにかく、女性で何よりだわ。それでアン。大事なことをもう一つ。念のための確認なのだけれど、私が思ったことはあなたに伝わっていないようね?』
「え?」
『今の反応でだいたい分かりました。私が心の中で思ったこと、考えたことがあなたにそのまま伝わっていたらどうしようと思っていましたが、そうでないのならいいです。ああ、ちなみに、あなたの頭の中の考えが私に伝わっていないことは、言うまでもありませんね?』
「あ、はい、分かりました」
抑えた声で話す内に、私はちょっとした違和感を覚えるようになっていた。
小説で読んだときに抱いたイメージと、ちょっとずれがある。ノアル・シェイクフリードはもっと高飛車で高慢ちきで高圧的の“3高”で、ついでに計算高くて人に取り入るのがうまい。ところが今、接しているノアルは、上から目線な部分はあるものの、さほど嫌な感じは受けない。貴族ならこのくらいは当たり前ではと思える範囲に収まっている。彼女からすれば私の身分が分からないから、見定めようとしている時間なのかしら。
『私から今話せるのは、これくらいね。さあ、次はそちらの番』
「といわれても、少し前に意識が戻って、よく分からないことばかりで……」
『ならばよく分かっていることから話せばいいじゃない。たとえば、最前より左足がとても痛いのだけれども、心当たりは?』
「あ、それなら」
私は夜の公園でのいきさつを伝えた。詳しく話すと説明しなくちゃいけないことがかえって増えてややこしくなりそうだったから、かいつまんで簡単に。するとノアルからは「あなたは理由もなく、暗い中、丸みを帯びた細長い金属の棒の上で踊る癖があるの? おかしな人ね」と言われてしまった。続けて、ちゃんと話なさいという無言の圧力を感じたため、今度は詳細を話すことにする。
「――ていう顛末だったのですが……分かりました?」
「ええっ」
ということは、声の主はノアル・シェイクフリード? だったら声が似ていると感じたのは当然かも。完全に一致しているとは感じられなかったのは、録音した自分の声を聞いたら違和感があるっていうあれよね、きっと。ただ、彼女が喋っている間、この身体の口が勝手に動くことはなかったんですけど。
『あなた、先ほどから驚き通しのようだから、先に私の状況を伝えることにします。よく聞いていなさい』
「はい」
命令調に、居住まいを正したい気持ちにさせられた。あいにく、左足首の痛みのせいで、思うようには身体が動かなかったけれども。
『分かっていること・言えることの二つ目。私の身体を私の意思では動かせない。腹立たしいことにね』
「そ、そうなんですか」
『そうよ。ああ、大事なことを聞きます。あなた、女性よね?』
「はい?」
一瞬、問いの意味が分からず、悪役“令嬢”に対して無礼な返しをしてしまった。けど、相手が怒り出すよりも早く、状況を理解できた。私とノアルはお互いの存在を声でのみ感じているのだ。そしてノアルからすれば、彼女の身体に入り込んだのが男か女かは知りようがないんだわ。彼女自身の声が喋っても、それが女によるものなのか男によるものか、判断する材料はほとんどない。せいぜい、言葉遣いがあるくらいで、それとて生物的な意味での男女の判定にはつながらない。
「女です。名前は安生悠子。日本人で年齢は――」
『待ちなさい。女と聞いてほっとしたのもあるけれど、それ以上に耳慣れない固有名詞が飛び出して、聞き損ねたわ。名前はアン? ジョー?』
「アンジョーです、アンジョー、ユーコ」
外国人が話す片言の日本語口調で言ってみた。そういえば私が話しているのはいつも通りの日本語だけれど、通じているんだよね。ノアルの言葉も日本語に聞こえるし。文字はどうなのかな? まだ目にしていないから想像するしかないけど、知らない外国語なのに私でも読めるのか、知らない外国の文字でも日本語に見えるのか……。
『アンジョーとは珍しい名前ですこと。まるで二人いるみたいね』
続けて、ふふふと笑い声が聞こえた。それ以上の説明はなかったけれども、多分、アンとジョーで二人って意味かしら。
『とにかく、女性で何よりだわ。それでアン。大事なことをもう一つ。念のための確認なのだけれど、私が思ったことはあなたに伝わっていないようね?』
「え?」
『今の反応でだいたい分かりました。私が心の中で思ったこと、考えたことがあなたにそのまま伝わっていたらどうしようと思っていましたが、そうでないのならいいです。ああ、ちなみに、あなたの頭の中の考えが私に伝わっていないことは、言うまでもありませんね?』
「あ、はい、分かりました」
抑えた声で話す内に、私はちょっとした違和感を覚えるようになっていた。
小説で読んだときに抱いたイメージと、ちょっとずれがある。ノアル・シェイクフリードはもっと高飛車で高慢ちきで高圧的の“3高”で、ついでに計算高くて人に取り入るのがうまい。ところが今、接しているノアルは、上から目線な部分はあるものの、さほど嫌な感じは受けない。貴族ならこのくらいは当たり前ではと思える範囲に収まっている。彼女からすれば私の身分が分からないから、見定めようとしている時間なのかしら。
『私から今話せるのは、これくらいね。さあ、次はそちらの番』
「といわれても、少し前に意識が戻って、よく分からないことばかりで……」
『ならばよく分かっていることから話せばいいじゃない。たとえば、最前より左足がとても痛いのだけれども、心当たりは?』
「あ、それなら」
私は夜の公園でのいきさつを伝えた。詳しく話すと説明しなくちゃいけないことがかえって増えてややこしくなりそうだったから、かいつまんで簡単に。するとノアルからは「あなたは理由もなく、暗い中、丸みを帯びた細長い金属の棒の上で踊る癖があるの? おかしな人ね」と言われてしまった。続けて、ちゃんと話なさいという無言の圧力を感じたため、今度は詳細を話すことにする。
「――ていう顛末だったのですが……分かりました?」
10
あなたにおすすめの小説
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
もしもゲーム通りになってたら?
クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが
もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら?
全てがゲーム通りに進んだとしたら?
果たしてヒロインは幸せになれるのか
※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。
※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。
※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。
※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。
乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが
侑子
恋愛
十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。
しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。
「どうして!? 一体どうしてなの~!?」
いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる