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7.さもなくば……
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「あ、はい。多分……」
物語世界において明言されてはいなくても、まさかノアル・シェイクフリードを始めとするいかにも西洋風な人達が日本人なんてことはあり得ない。帰化していたら別だけど、それは余計な心配というもの。
『あなたが私のことを知った経緯は? 包み隠さずお話しなさい。さもなくば』
さもなくば? 小説中に何度となく出て来たフレーズに、私の身体(私の身体じゃないけど今はそう表現するしかないわよね)は勝手に震え上がった。ノアル・シェイクフリードがこの手の構文を口にしたとき、続く文言はほぼ確実に対象となる者を恐怖させる内容だった。相手がある程度以上の上流クラスならスパイスを利かせた言い回しになることもあったけれど、そうでない場合は直接表現で。どちらが怖いかというと……どちらも怖い。
ところがノアルの声は、続きを発さない。しばらく待ってみたが、静かなままで、こちらも手持ち無沙汰になりそう。
「あ、あのー、ノアルさん?」
『――だめだわ。罰を考えたのだけれど、できることがないじゃないのっ』
きーっ!っていう悔しさいっぱいの呻き声のようなものが続く。頭を掻きむしる様が容易に想像できた。
それにしてもこの頭の中に響く声って、結構堪えるわ。段々と頭痛がきつくなっていくのに似ている。誰の声でもなるのか、悪役令嬢ノアル・シェイクフリードの声と知って聞かされているせいかは、分からないけれども。
「言います言います、罰なんか受けなくても、素直に。ただ、静かに考えをまとめる時間を少しくださいます?」
『……この私に静かにしていろと言うのね』
「そ、そういう命令をしているのではないです。お願い、希望です、その、庶民からの」
ご機嫌取りに言い足してみた。すると多少は効果があったみたい。『なるべく手短にしなさい』と言ってもらえた。
「ありがとう――」
『でもどうしても辛抱ならない疑問が浮かんだときは、口を挟むかもしれなくてよ』
「……はい」
私は急いで考えをまとめに掛かった。どこまで喋るか、ほんとなら熟考したかったのだけれども、そんな猶予はとてももらえそうにない。となると結局、ありのままを伝えるのが次善の策かもしれない。
ただ、ありのままと言っても、できる限りややこしくならないようにしたいのだけれど……うう、無理だ。
「にわかには信じられない話になると思いますが、嘘偽りはありません。どうか最後まで聞き届けてください」
『はいはい、早く』
何となく、椅子に座ったノアルの姿が思い浮かんだ。両腕を胸の前で組み、ついでに足も組んで、ふんぞり返っている。
私はまず、自分が恐らくこことは異なる世界の人間であることを再度、話した。さっきちょっと触れたときにほぼスルーされた気がしたので、念押ししておく。次いで、元いた世界の小説に、あなた(ノアル)や周辺の人々を登場人物とする物語があり、それを読んで私はノアル・シェイクフリードという人を知った。小説には挿絵というかイラストが付いていたため、顔立ちに関してもある程度掴んでいた、と。
『終わり?』
ノアルは最後まで大人しく聞いてくれた。今の『終わり?』にしても、待たされて苛立っている気配は全くなく、むしろ思慮深さすら感じさせる。私の話を咀嚼しようと、脳細胞をフル回転させている、そんな印象を受けた。
『ふう。あなたの話を聞けば聞くほど、聞きたいことが増えるわね。その一方で、一つ、分かったわ。私はその小説の中で、悪役令嬢として描かれているのね?』
「え、えっと、はい、そうなります」
戸惑いを飲み込んで、肯定的な返事をした。戸惑ったのは、まるで実際の私は悪役令嬢なんかじゃないと言わんばかりの口ぶりだったから。
『まったく。失礼な話だわ。ううん、失礼を通り越して侮辱ものよ。できるものなら、名誉毀損で訴えようかしら。ねえ、そいつの指名と住まいを言いなさい』
「そいつ……?」
『鈍い。その小説を書いた者の名前と住所。世界が違っていようが何だろうが、とりあえず把握しておきます。対処はあとで考えればよいのですから』
「それは……教えてもかまいませんが」
どうせ教えたって、実際に裁判沙汰に持ち込めるはずがない。ていうか、そもそも論になるけれども、私、元に戻れるの? 考えるのが怖くて触れないように自分を律してきたけれども、この悪役令嬢さんが私のいた世界に絡めた話をしてくるせいで、どうしても気になってきちゃう。
『が、とは何。あなた、その小説の書き手のファンだから、味方をしたいの?』
物語世界において明言されてはいなくても、まさかノアル・シェイクフリードを始めとするいかにも西洋風な人達が日本人なんてことはあり得ない。帰化していたら別だけど、それは余計な心配というもの。
『あなたが私のことを知った経緯は? 包み隠さずお話しなさい。さもなくば』
さもなくば? 小説中に何度となく出て来たフレーズに、私の身体(私の身体じゃないけど今はそう表現するしかないわよね)は勝手に震え上がった。ノアル・シェイクフリードがこの手の構文を口にしたとき、続く文言はほぼ確実に対象となる者を恐怖させる内容だった。相手がある程度以上の上流クラスならスパイスを利かせた言い回しになることもあったけれど、そうでない場合は直接表現で。どちらが怖いかというと……どちらも怖い。
ところがノアルの声は、続きを発さない。しばらく待ってみたが、静かなままで、こちらも手持ち無沙汰になりそう。
「あ、あのー、ノアルさん?」
『――だめだわ。罰を考えたのだけれど、できることがないじゃないのっ』
きーっ!っていう悔しさいっぱいの呻き声のようなものが続く。頭を掻きむしる様が容易に想像できた。
それにしてもこの頭の中に響く声って、結構堪えるわ。段々と頭痛がきつくなっていくのに似ている。誰の声でもなるのか、悪役令嬢ノアル・シェイクフリードの声と知って聞かされているせいかは、分からないけれども。
「言います言います、罰なんか受けなくても、素直に。ただ、静かに考えをまとめる時間を少しくださいます?」
『……この私に静かにしていろと言うのね』
「そ、そういう命令をしているのではないです。お願い、希望です、その、庶民からの」
ご機嫌取りに言い足してみた。すると多少は効果があったみたい。『なるべく手短にしなさい』と言ってもらえた。
「ありがとう――」
『でもどうしても辛抱ならない疑問が浮かんだときは、口を挟むかもしれなくてよ』
「……はい」
私は急いで考えをまとめに掛かった。どこまで喋るか、ほんとなら熟考したかったのだけれども、そんな猶予はとてももらえそうにない。となると結局、ありのままを伝えるのが次善の策かもしれない。
ただ、ありのままと言っても、できる限りややこしくならないようにしたいのだけれど……うう、無理だ。
「にわかには信じられない話になると思いますが、嘘偽りはありません。どうか最後まで聞き届けてください」
『はいはい、早く』
何となく、椅子に座ったノアルの姿が思い浮かんだ。両腕を胸の前で組み、ついでに足も組んで、ふんぞり返っている。
私はまず、自分が恐らくこことは異なる世界の人間であることを再度、話した。さっきちょっと触れたときにほぼスルーされた気がしたので、念押ししておく。次いで、元いた世界の小説に、あなた(ノアル)や周辺の人々を登場人物とする物語があり、それを読んで私はノアル・シェイクフリードという人を知った。小説には挿絵というかイラストが付いていたため、顔立ちに関してもある程度掴んでいた、と。
『終わり?』
ノアルは最後まで大人しく聞いてくれた。今の『終わり?』にしても、待たされて苛立っている気配は全くなく、むしろ思慮深さすら感じさせる。私の話を咀嚼しようと、脳細胞をフル回転させている、そんな印象を受けた。
『ふう。あなたの話を聞けば聞くほど、聞きたいことが増えるわね。その一方で、一つ、分かったわ。私はその小説の中で、悪役令嬢として描かれているのね?』
「え、えっと、はい、そうなります」
戸惑いを飲み込んで、肯定的な返事をした。戸惑ったのは、まるで実際の私は悪役令嬢なんかじゃないと言わんばかりの口ぶりだったから。
『まったく。失礼な話だわ。ううん、失礼を通り越して侮辱ものよ。できるものなら、名誉毀損で訴えようかしら。ねえ、そいつの指名と住まいを言いなさい』
「そいつ……?」
『鈍い。その小説を書いた者の名前と住所。世界が違っていようが何だろうが、とりあえず把握しておきます。対処はあとで考えればよいのですから』
「それは……教えてもかまいませんが」
どうせ教えたって、実際に裁判沙汰に持ち込めるはずがない。ていうか、そもそも論になるけれども、私、元に戻れるの? 考えるのが怖くて触れないように自分を律してきたけれども、この悪役令嬢さんが私のいた世界に絡めた話をしてくるせいで、どうしても気になってきちゃう。
『が、とは何。あなた、その小説の書き手のファンだから、味方をしたいの?』
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