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8.メタな話
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「いえ、そこまでのファンという訳ではないです。実は、小説のタイトルもうろ覚えなくらいで」
『作者の名前まで記憶にないと言いたいのかしら』
「いや、さすがにそこまでぼけていません。住所は知りませんが、名前――ペンネームなら。黒神王竜、男性っぽい名前ですが、女性なんですよ」
私は右手人差し指を使って、空中に“黒”“神”と文字を書き始めたが、途中でやめた。伝わるとは思えなかったので。
『クロカミリューオーのどこがどう一見すると男性らしいのか、ちっとも分からないのだけれども、異なる文化圏でのことですし、とやかく言いません。それよりも、どのような悪役令嬢ぶりなのかを、適当に摘まんで聞かせてもらおうかしら』
「あの、その前に、今現在差し迫った話を先にしませんか。率直に言って、ノアルさん、あなたは命を狙われています、多分」
はらはらどきどきが募って、とうとうこちらから切り出した。私って、課題がいくつも重なるとだめなタイプなんだと思う。“私が転身したノアル・シェイクフリードは命を狙われているのか”“元の世界に戻れるのか否か”この二つの内、一つでも早く対処したい。
『命を狙われている、ですって?』
おうむ返しした彼女は、すぐさま笑い飛ばしてきた。まさかそんなことはあり得ない、という笑いなのかと思いきや、
『これまでに何度かありました。今まさに狙われているとしても、ちっともおかしくありません』
なんて当たり前のように言う。そりゃまあ、ばちばちにやり合っていた男から持ち掛けられた提案に乗って、この屋敷?に来てみたら階段上から突き飛ばされたという体験をしている訳だから、ノアルの感覚も尤もなのかもしれない、けど。
「でしたら、この場にずっといるのって、危なくありませんか。とどめを刺しに来るかも」
『とどめを刺すつもりがあるなら、気絶している間にやられていたでしょうね』
……なるほど。
『それにね、あなた、最初からひそひそ声で話しているけれども、必要ないかもしれなくてよ。言ったように、ここは別荘だから。他に誰もいない可能性が高い』
「そうなんですか」
『元はハムンゼン家の所有だったのを、私の父が買い取り、それをまたハムンゼン家が買い戻したところ。キースが言うには、「この家を隅々まで見てみたところ、シェイクフリード家にとって不都合な代物が見付かった。取り戻したければこのことを誰にも言わず、これからすぐに一人で行って、探すがいい」ですって。罠っぽいとは感じたし、相手の言いなりは癪だったけれども、万が一を思うと応じない訳にもいかなかった。階段から突き落とされて、足の怪我だけで済めば安いものね。
差し当たって、ここからどうやって街に戻るかの方が重大問題だわ。恐らく、馬車も何も引き払って、ここにはないだろうから』
「そうだったんですか。道理で落ち着かれているなと……」
ちょっぴり安心できたものの、“不幸中の幸い”に近いレベルとも言える。
「え、でも、この足だと、長い時間歩けないじゃないですか」
『そのようね。ひょっとしたら、あからさまに殺すんじゃなくて、事故で動けなくなって飢え死にしたかのように見せ掛けたいのかもね』
「だ、だとしたらど、どうして落ち着いていられるんですかっ」
二人で一人の状況だから、エネルギー消費も早いかもしれない。
『私、馬鹿ではありませんから。一人で乗り込んでこいと言われた時点で、何かあったときのために策を講じています。一日経っても戻らなければここに迎えに来るよう、ウェットソンに言づけしておいたのよ』
ウェットソンて誰だっけ。ああ、確かシェイクフリード家に仕える若い執事か何かで、悪知恵も含めて頭の切れる人だ。隠密行動が多いせいか、比較的印象の薄いキャラだ。
それにしても、そんな対策を取ってあるなら、さっきの『重大問題だわ』云々の話は言わなくていいでしょうに。私に意地悪したのだろうか?
「キ、キース氏からはすぐに行けと言われていたのに、よく言づけしている時間がありましたね?」
『日に一度、邸内のとある場所を見るようにと、ウェットソンとは決め事をしているの。キースの目を盗んで、そこにメモを置くぐらいの隙を突くのは容易い……あら、小説にはこのこと書かれていなかったのね?』
『作者の名前まで記憶にないと言いたいのかしら』
「いや、さすがにそこまでぼけていません。住所は知りませんが、名前――ペンネームなら。黒神王竜、男性っぽい名前ですが、女性なんですよ」
私は右手人差し指を使って、空中に“黒”“神”と文字を書き始めたが、途中でやめた。伝わるとは思えなかったので。
『クロカミリューオーのどこがどう一見すると男性らしいのか、ちっとも分からないのだけれども、異なる文化圏でのことですし、とやかく言いません。それよりも、どのような悪役令嬢ぶりなのかを、適当に摘まんで聞かせてもらおうかしら』
「あの、その前に、今現在差し迫った話を先にしませんか。率直に言って、ノアルさん、あなたは命を狙われています、多分」
はらはらどきどきが募って、とうとうこちらから切り出した。私って、課題がいくつも重なるとだめなタイプなんだと思う。“私が転身したノアル・シェイクフリードは命を狙われているのか”“元の世界に戻れるのか否か”この二つの内、一つでも早く対処したい。
『命を狙われている、ですって?』
おうむ返しした彼女は、すぐさま笑い飛ばしてきた。まさかそんなことはあり得ない、という笑いなのかと思いきや、
『これまでに何度かありました。今まさに狙われているとしても、ちっともおかしくありません』
なんて当たり前のように言う。そりゃまあ、ばちばちにやり合っていた男から持ち掛けられた提案に乗って、この屋敷?に来てみたら階段上から突き飛ばされたという体験をしている訳だから、ノアルの感覚も尤もなのかもしれない、けど。
「でしたら、この場にずっといるのって、危なくありませんか。とどめを刺しに来るかも」
『とどめを刺すつもりがあるなら、気絶している間にやられていたでしょうね』
……なるほど。
『それにね、あなた、最初からひそひそ声で話しているけれども、必要ないかもしれなくてよ。言ったように、ここは別荘だから。他に誰もいない可能性が高い』
「そうなんですか」
『元はハムンゼン家の所有だったのを、私の父が買い取り、それをまたハムンゼン家が買い戻したところ。キースが言うには、「この家を隅々まで見てみたところ、シェイクフリード家にとって不都合な代物が見付かった。取り戻したければこのことを誰にも言わず、これからすぐに一人で行って、探すがいい」ですって。罠っぽいとは感じたし、相手の言いなりは癪だったけれども、万が一を思うと応じない訳にもいかなかった。階段から突き落とされて、足の怪我だけで済めば安いものね。
差し当たって、ここからどうやって街に戻るかの方が重大問題だわ。恐らく、馬車も何も引き払って、ここにはないだろうから』
「そうだったんですか。道理で落ち着かれているなと……」
ちょっぴり安心できたものの、“不幸中の幸い”に近いレベルとも言える。
「え、でも、この足だと、長い時間歩けないじゃないですか」
『そのようね。ひょっとしたら、あからさまに殺すんじゃなくて、事故で動けなくなって飢え死にしたかのように見せ掛けたいのかもね』
「だ、だとしたらど、どうして落ち着いていられるんですかっ」
二人で一人の状況だから、エネルギー消費も早いかもしれない。
『私、馬鹿ではありませんから。一人で乗り込んでこいと言われた時点で、何かあったときのために策を講じています。一日経っても戻らなければここに迎えに来るよう、ウェットソンに言づけしておいたのよ』
ウェットソンて誰だっけ。ああ、確かシェイクフリード家に仕える若い執事か何かで、悪知恵も含めて頭の切れる人だ。隠密行動が多いせいか、比較的印象の薄いキャラだ。
それにしても、そんな対策を取ってあるなら、さっきの『重大問題だわ』云々の話は言わなくていいでしょうに。私に意地悪したのだろうか?
「キ、キース氏からはすぐに行けと言われていたのに、よく言づけしている時間がありましたね?」
『日に一度、邸内のとある場所を見るようにと、ウェットソンとは決め事をしているの。キースの目を盗んで、そこにメモを置くぐらいの隙を突くのは容易い……あら、小説にはこのこと書かれていなかったのね?』
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