誰が悪役令嬢ですって? ~ 転身同体

崎田毅駿

文字の大きさ
8 / 15

8.メタな話

しおりを挟む
「いえ、そこまでのファンという訳ではないです。実は、小説のタイトルもうろ覚えなくらいで」
『作者の名前まで記憶にないと言いたいのかしら』
「いや、さすがにそこまでぼけていません。住所は知りませんが、名前――ペンネームなら。黒神王竜くろかみおうりゅう、男性っぽい名前ですが、女性なんですよ」
 私は右手人差し指を使って、空中に“黒”“神”と文字を書き始めたが、途中でやめた。伝わるとは思えなかったので。
『クロカミリューオーのどこがどう一見すると男性らしいのか、ちっとも分からないのだけれども、異なる文化圏でのことですし、とやかく言いません。それよりも、どのような悪役令嬢ぶりなのかを、適当に摘まんで聞かせてもらおうかしら』
「あの、その前に、今現在差し迫った話を先にしませんか。率直に言って、ノアルさん、あなたは命を狙われています、多分」
 はらはらどきどきが募って、とうとうこちらから切り出した。私って、課題がいくつも重なるとだめなタイプなんだと思う。“私が転身したノアル・シェイクフリードは命を狙われているのか”“元の世界に戻れるのか否か”この二つの内、一つでも早く対処したい。
『命を狙われている、ですって?』
 おうむ返しした彼女は、すぐさま笑い飛ばしてきた。まさかそんなことはあり得ない、という笑いなのかと思いきや、
『これまでに何度かありました。今まさに狙われているとしても、ちっともおかしくありません』
 なんて当たり前のように言う。そりゃまあ、ばちばちにやり合っていた男から持ち掛けられた提案に乗って、この屋敷?に来てみたら階段上から突き飛ばされたという体験をしている訳だから、ノアルの感覚も尤もなのかもしれない、けど。
「でしたら、この場にずっといるのって、危なくありませんか。とどめを刺しに来るかも」
『とどめを刺すつもりがあるなら、気絶している間にやられていたでしょうね』
 ……なるほど。
『それにね、あなた、最初からひそひそ声で話しているけれども、必要ないかもしれなくてよ。言ったように、ここは別荘だから。他に誰もいない可能性が高い』
「そうなんですか」
『元はハムンゼン家の所有だったのを、私の父が買い取り、それをまたハムンゼン家が買い戻したところ。キースが言うには、「この家を隅々まで見てみたところ、シェイクフリード家にとって不都合な代物が見付かった。取り戻したければこのことを誰にも言わず、これからすぐに一人で行って、探すがいい」ですって。罠っぽいとは感じたし、相手の言いなりは癪だったけれども、万が一を思うと応じない訳にもいかなかった。階段から突き落とされて、足の怪我だけで済めば安いものね。
 差し当たって、ここからどうやって街に戻るかの方が重大問題だわ。恐らく、馬車も何も引き払って、ここにはないだろうから』
「そうだったんですか。道理で落ち着かれているなと……」
 ちょっぴり安心できたものの、“不幸中の幸い”に近いレベルとも言える。
「え、でも、この足だと、長い時間歩けないじゃないですか」
『そのようね。ひょっとしたら、あからさまに殺すんじゃなくて、事故で動けなくなって飢え死にしたかのように見せ掛けたいのかもね』
「だ、だとしたらど、どうして落ち着いていられるんですかっ」
 二人で一人の状況だから、エネルギー消費も早いかもしれない。
『私、馬鹿ではありませんから。一人で乗り込んでこいと言われた時点で、何かあったときのために策を講じています。一日経っても戻らなければここに迎えに来るよう、ウェットソンに言づけしておいたのよ』
 ウェットソンて誰だっけ。ああ、確かシェイクフリード家に仕える若い執事か何かで、悪知恵も含めて頭の切れる人だ。隠密行動が多いせいか、比較的印象の薄いキャラだ。
 それにしても、そんな対策を取ってあるなら、さっきの『重大問題だわ』云々の話は言わなくていいでしょうに。私に意地悪したのだろうか?
「キ、キース氏からはすぐに行けと言われていたのに、よく言づけしている時間がありましたね?」
『日に一度、邸内のとある場所を見るようにと、ウェットソンとは決め事をしているの。キースの目を盗んで、そこにメモを置くぐらいの隙を突くのは容易い……あら、小説にはこのこと書かれていなかったのね?』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました

ララ
恋愛
3話完結です。 大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。 それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。 そこで見たのはまさにゲームの世界。 主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。 そしてゲームは終盤へ。 最後のイベントといえば断罪。 悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。 でもおかしいじゃない? このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。 ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。 納得いかない。 それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

本当に現実を生きていないのは?

朝樹 四季
恋愛
ある日、ヒロインと悪役令嬢が言い争っている場面を見た。ヒロインによる攻略はもう随分と進んでいるらしい。 だけど、その言い争いを見ている攻略対象者である王子の顔を見て、俺はヒロインの攻略をぶち壊す暗躍をすることを決意した。 だって、ここは現実だ。 ※番外編はリクエスト頂いたものです。もしかしたらまたひょっこり増えるかもしれません。

悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた

ちくわ食べます
恋愛
転生したのは馴染みのない乙女ゲームの世界だった。  シナリオは分からず、登場人物もうろ覚え、タイトルなんて覚えてすらいない。 そんな世界でモブ男『トリスタン』として暮らす主人公。 恋愛至上主義な学園で大人しく、モブらしく、学園生活を送っていたはずなのに、なぜか悪役令嬢から睨まれていて。 気になったトリスタンは、悪役令嬢のセリスに理由を聞いてみることにした。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

処理中です...