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9.ヒロインて誰が?
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「は、はい。初耳です」
『ひとまず危機は去ったのだし、いいタイミングだから、話を戻しましょ。小説に書かれていた、私の悪役令嬢ぶりを話しなさい』
「そう、ですね。いつ頃からにします? 簡単な記述でしたが幼い頃から、色々していたとありました」
『幼い頃って、たとえば小学校に通うような年齢ということかしら。それなら、心当たりはなくもありません。悪役の所業と言うより、他愛もないいたずら、仕返しに過ぎませんわ』
「……クラスメートの履き物に画鋲を入れた、筆入れを壊した、試験直前に消しゴムを隠した、学芸会で主役の子が着る服を破いた、運動会で――」
『はい、ストップ。全部列挙する必要はありません。それらはすべて、やられたからやり返したまで』
「そうなんですか? 読んだ限りでは、一方的にノアルさんの側から仕掛けたように書かれていました」
『……本気で訴えることを考えねばならないようね。そもそも、私が小学生の頃、我がシェイクフリード家はまだ今の地位を築いていなかったのよ。階段を登っているところだった。そんな中途半端な立場で、わざわざ自分から揉め事を起こすものですか。愚かしいったらありはしないわ』
そこまで思慮深く行動するのなら、やられたら即やり返すというのもどうかと思いますが。でもまあ、彼女の言い分にも一理ある。小説では、ノアルが何をされたかなんてことには一切筆を割いていなかった。
小説を読んで受けた彼女の印象と、微妙ながらずれを感じ始めていたこともあり、確かめたくなった。
「どんなことをされたんですか」
『そうね、記憶が定かじゃないところもあるけれど……画鋲は、先に靴を汚されるか隠されるかしたんだっけ。筆入れや消しゴムの件は、鉛筆をことごとく折られたことがあったから。学芸会の服は――忘れたわ』
最後の学芸会云々については、どこかしら言い淀んだようにも感じられた。覚えているけれども言いたくないのかも? 気になるところではあるけど、今突っ込んで聞いて機嫌を損ねられるのもよくない。棚上げにしておこう。
『それよりもその小説における私についての話よ。成長してからの私は、どんなことをしたって?』
「枚挙にいとまがないくらいで、全部は覚えてないんですが、だいたいヒロインの邪魔を」
悪役令嬢なんだから当然と言えば当然か。具体的に言わなければ。何を話そうか考えていると、相手から尋ねられた。
『ヒロインとは誰です?』
あ、そこから説明しなくちゃいけないのね。
「リーヌです。リーヌ・ロイロット」
『……あの地味な?』
「え、えっと地味と言えば地味だったかもしれませんが、その後、大人になったはずでは……」
初登場時はまだ子供だったから“かわいい”に重点を置いた描写だったのが、成長するにつれて“美しい”にシフトしていった。ようは愛らしい女の子が美少女になり、今まさに美しい令嬢になろうとしている段階だった(私の読んだところまで、という意味)。
『私を差し置いてあの地味なリーヌがヒロインとはね。ま、いいわ。あの子に私が何をしたっていうの』
「一番大きいのは、婚約者を一時的とは言え奪ったことになるかと」
『おかしいわね。あり得ません』
「え、でも」
ノアルの即答による否定、私は小説の記述を挙げて反論しようと思った。けれどもそれより早く、言葉を重ねられた。
『待ちなさい。先に確認しておきたいわ』
私の頭に響くノアルの声は、冷静で落ち着いている。物語で読んだ彼女はもっとずっと発火点が低かったし、口汚くなることもしばしばだったのに。アンガーマネジメントでも受けたのかしらと思う。
『リーヌの婚約者とは誰?』
「ん? ユウラ・オンドルフさ……ですけれど」
思わず“様”と付けそうになったのを言い直す。別にこのキャラクターの大ファンてわけではないのだけれど、作品愛読者の大半が様付けするし、しまいには作者までそう呼ぶようになって、私みたいなライトな読者層もついつい様付けしてしまう。
そんな私の小さな逡巡など意に介さぬ口調で、ノアルがため息交じりに言った。
『やはりね。誤解があるようだけれど、ユウラはリーヌ・ロイロットと正式な婚約を結んではいないわよ』
『ひとまず危機は去ったのだし、いいタイミングだから、話を戻しましょ。小説に書かれていた、私の悪役令嬢ぶりを話しなさい』
「そう、ですね。いつ頃からにします? 簡単な記述でしたが幼い頃から、色々していたとありました」
『幼い頃って、たとえば小学校に通うような年齢ということかしら。それなら、心当たりはなくもありません。悪役の所業と言うより、他愛もないいたずら、仕返しに過ぎませんわ』
「……クラスメートの履き物に画鋲を入れた、筆入れを壊した、試験直前に消しゴムを隠した、学芸会で主役の子が着る服を破いた、運動会で――」
『はい、ストップ。全部列挙する必要はありません。それらはすべて、やられたからやり返したまで』
「そうなんですか? 読んだ限りでは、一方的にノアルさんの側から仕掛けたように書かれていました」
『……本気で訴えることを考えねばならないようね。そもそも、私が小学生の頃、我がシェイクフリード家はまだ今の地位を築いていなかったのよ。階段を登っているところだった。そんな中途半端な立場で、わざわざ自分から揉め事を起こすものですか。愚かしいったらありはしないわ』
そこまで思慮深く行動するのなら、やられたら即やり返すというのもどうかと思いますが。でもまあ、彼女の言い分にも一理ある。小説では、ノアルが何をされたかなんてことには一切筆を割いていなかった。
小説を読んで受けた彼女の印象と、微妙ながらずれを感じ始めていたこともあり、確かめたくなった。
「どんなことをされたんですか」
『そうね、記憶が定かじゃないところもあるけれど……画鋲は、先に靴を汚されるか隠されるかしたんだっけ。筆入れや消しゴムの件は、鉛筆をことごとく折られたことがあったから。学芸会の服は――忘れたわ』
最後の学芸会云々については、どこかしら言い淀んだようにも感じられた。覚えているけれども言いたくないのかも? 気になるところではあるけど、今突っ込んで聞いて機嫌を損ねられるのもよくない。棚上げにしておこう。
『それよりもその小説における私についての話よ。成長してからの私は、どんなことをしたって?』
「枚挙にいとまがないくらいで、全部は覚えてないんですが、だいたいヒロインの邪魔を」
悪役令嬢なんだから当然と言えば当然か。具体的に言わなければ。何を話そうか考えていると、相手から尋ねられた。
『ヒロインとは誰です?』
あ、そこから説明しなくちゃいけないのね。
「リーヌです。リーヌ・ロイロット」
『……あの地味な?』
「え、えっと地味と言えば地味だったかもしれませんが、その後、大人になったはずでは……」
初登場時はまだ子供だったから“かわいい”に重点を置いた描写だったのが、成長するにつれて“美しい”にシフトしていった。ようは愛らしい女の子が美少女になり、今まさに美しい令嬢になろうとしている段階だった(私の読んだところまで、という意味)。
『私を差し置いてあの地味なリーヌがヒロインとはね。ま、いいわ。あの子に私が何をしたっていうの』
「一番大きいのは、婚約者を一時的とは言え奪ったことになるかと」
『おかしいわね。あり得ません』
「え、でも」
ノアルの即答による否定、私は小説の記述を挙げて反論しようと思った。けれどもそれより早く、言葉を重ねられた。
『待ちなさい。先に確認しておきたいわ』
私の頭に響くノアルの声は、冷静で落ち着いている。物語で読んだ彼女はもっとずっと発火点が低かったし、口汚くなることもしばしばだったのに。アンガーマネジメントでも受けたのかしらと思う。
『リーヌの婚約者とは誰?』
「ん? ユウラ・オンドルフさ……ですけれど」
思わず“様”と付けそうになったのを言い直す。別にこのキャラクターの大ファンてわけではないのだけれど、作品愛読者の大半が様付けするし、しまいには作者までそう呼ぶようになって、私みたいなライトな読者層もついつい様付けしてしまう。
そんな私の小さな逡巡など意に介さぬ口調で、ノアルがため息交じりに言った。
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