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12.死んだはずだよ悪役令嬢
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「だけどハンナとは顔見知りだし、うちで働いていたときも悪さや失態をした訳じゃなかった。信頼できるよ」
「……で、二人でどこへ何しに行った」
「それが、我がハムンゼン家の別邸に向かうところだったと言うんだ」
「何だって。確かに以前、ハンナをあそこの掃除に行かせたことはあったが、今さら何の用がある? だいたい、入れやしないだろう。管理人こそ置いていないが、戸締まりは厳重だ」
「用があるのは邸宅の中じゃなくて、外だった。兄さんは覚えているかな、何も植えていない鉢が庭にたくさんあったでしょ? その内の一つに、ご近所さんからもらった花の種を袋ごと仕舞っていたのを思い出したんだって。個人的に頂いた物だから黙って持っていってもいいと思っていたところへ、僕と遭遇したもんだからどぎまぎしちゃったと言っていた。かわいらしかったな」
「……色々と言いたいことはあるが、先に顛末を聞こう。そのあとどうなった」
「二人して敷地に入り、庭に回ったよ。そうして彼女が種を回収するのを見ていたとき、ふと建物の中で物が動く気配がしてさ。野良猫か何かが潜り込んだかなと思って、覗ける窓はないかと少し移動したら、ちょうど日除けの掛かっていない窓があったから」
「どうもおまえの話は間怠っこしくていけない。こういう場合、何が見えたかをすぐに言えばいいんだよ」
「だね。でもまあ話の流れから、言うまでもないかもだけど、霊が見えたんだ。女の霊だ」
「霊だと判断した根拠は。向こうが透けて見えたか。東洋の幽霊は足がないらしいがね」
「兄さんに真っ先に知らせたいと思ったのはそこなんだ。ねえ、キース兄さん。あのノアル・シェイクフリードは本当に死んだのか?」
「……何を言い出すかと思ったら」
明らかに呆れた表情をなすキース。それがディアにもよく伝わった。
「何でそんな顔をするのさ。死んだはずのノアルが幽霊になって出てきたのなら、一大事だよ?」
「ふむ。私の感想を述べてもいいのだが、ディアよ、おまえはその霊とやらを目撃したあと、どういう行動を選択したんだ」
「え?」
「私なら当然、その場で確かめる。中に入って、そいつを捕まえるか、少なくとも正体を見極めるべきだとは思わないか」
「そ、そりゃあ、そうしたいのは山々だったよ」
ディアは少し嘘を吐いた。たった今、兄から言われるまで、霊の正体を自分一人で即座に突き止めようなんて考えはこれっぽっちも浮かんでいなかった。言われてみればその通りなのだと分かるけれども、あのとき真っ先に浮かんだのは、兄さんの判断を仰ごう、だった。
「だけど、ほら、ハンナがいたし。もしも霊が襲ってきたとしたら、僕はともかく、ハンナが無事で済むかどうか分からないだろ」
「だったら、彼女だけ先に逃がして、それから一人で踏み込めばよかったんじゃないか」
「い、いや。そうするにしたって、鍵がないから入れないよ」
「緊急事態だ。窓の一つでも破ればよい。ひょっとすると、不法侵入者がいたのかもしれないんだぞ」
キースはそう言うと、両手の指で肘掛けをいらだたしげに叩いた。三度ほどで収まったが、ディアを緊張させるには充分だった。黙りこくる弟に対し、兄は一瞬、椅子から腰を浮かせ、少し考える様子を見せた。が、じきに元通り、椅子に収まった。
「今から行ってもどうにもなるまいな。侵入者だとしても、逃げたあとだろう。ディア、おまえはまったく霊と接触しなかったんだな?」
「う、うん」
「叫びもしなかった?」
「も、もちろん。みっともないから」
「そういう意味ではなくてだな、中にいるやつに『誰だ?』とか『何をしている!』といったような恫喝をしなかったのかと聞いているのだよ」
「ああ、そういう……しなかったよ。あそこは家と家との間隔が広いとは言え、あまり騒ぎ立てると噂になるかもしれない。我が家の名誉に関わることだから、静かに振る舞ったんだ」
「ということはつまり、おまえはノアル・シェイクフリードの霊のようなものを、別邸内に見たけれども、何もせずに速やかに戻って来たというわけだ」
「ん、まあ、そうなる。ハンナを促して、敷地の外に出すことだけはしたけれどね」
「中にいた輩に、気付かれたと思うか?」
「……で、二人でどこへ何しに行った」
「それが、我がハムンゼン家の別邸に向かうところだったと言うんだ」
「何だって。確かに以前、ハンナをあそこの掃除に行かせたことはあったが、今さら何の用がある? だいたい、入れやしないだろう。管理人こそ置いていないが、戸締まりは厳重だ」
「用があるのは邸宅の中じゃなくて、外だった。兄さんは覚えているかな、何も植えていない鉢が庭にたくさんあったでしょ? その内の一つに、ご近所さんからもらった花の種を袋ごと仕舞っていたのを思い出したんだって。個人的に頂いた物だから黙って持っていってもいいと思っていたところへ、僕と遭遇したもんだからどぎまぎしちゃったと言っていた。かわいらしかったな」
「……色々と言いたいことはあるが、先に顛末を聞こう。そのあとどうなった」
「二人して敷地に入り、庭に回ったよ。そうして彼女が種を回収するのを見ていたとき、ふと建物の中で物が動く気配がしてさ。野良猫か何かが潜り込んだかなと思って、覗ける窓はないかと少し移動したら、ちょうど日除けの掛かっていない窓があったから」
「どうもおまえの話は間怠っこしくていけない。こういう場合、何が見えたかをすぐに言えばいいんだよ」
「だね。でもまあ話の流れから、言うまでもないかもだけど、霊が見えたんだ。女の霊だ」
「霊だと判断した根拠は。向こうが透けて見えたか。東洋の幽霊は足がないらしいがね」
「兄さんに真っ先に知らせたいと思ったのはそこなんだ。ねえ、キース兄さん。あのノアル・シェイクフリードは本当に死んだのか?」
「……何を言い出すかと思ったら」
明らかに呆れた表情をなすキース。それがディアにもよく伝わった。
「何でそんな顔をするのさ。死んだはずのノアルが幽霊になって出てきたのなら、一大事だよ?」
「ふむ。私の感想を述べてもいいのだが、ディアよ、おまえはその霊とやらを目撃したあと、どういう行動を選択したんだ」
「え?」
「私なら当然、その場で確かめる。中に入って、そいつを捕まえるか、少なくとも正体を見極めるべきだとは思わないか」
「そ、そりゃあ、そうしたいのは山々だったよ」
ディアは少し嘘を吐いた。たった今、兄から言われるまで、霊の正体を自分一人で即座に突き止めようなんて考えはこれっぽっちも浮かんでいなかった。言われてみればその通りなのだと分かるけれども、あのとき真っ先に浮かんだのは、兄さんの判断を仰ごう、だった。
「だけど、ほら、ハンナがいたし。もしも霊が襲ってきたとしたら、僕はともかく、ハンナが無事で済むかどうか分からないだろ」
「だったら、彼女だけ先に逃がして、それから一人で踏み込めばよかったんじゃないか」
「い、いや。そうするにしたって、鍵がないから入れないよ」
「緊急事態だ。窓の一つでも破ればよい。ひょっとすると、不法侵入者がいたのかもしれないんだぞ」
キースはそう言うと、両手の指で肘掛けをいらだたしげに叩いた。三度ほどで収まったが、ディアを緊張させるには充分だった。黙りこくる弟に対し、兄は一瞬、椅子から腰を浮かせ、少し考える様子を見せた。が、じきに元通り、椅子に収まった。
「今から行ってもどうにもなるまいな。侵入者だとしても、逃げたあとだろう。ディア、おまえはまったく霊と接触しなかったんだな?」
「う、うん」
「叫びもしなかった?」
「も、もちろん。みっともないから」
「そういう意味ではなくてだな、中にいるやつに『誰だ?』とか『何をしている!』といったような恫喝をしなかったのかと聞いているのだよ」
「ああ、そういう……しなかったよ。あそこは家と家との間隔が広いとは言え、あまり騒ぎ立てると噂になるかもしれない。我が家の名誉に関わることだから、静かに振る舞ったんだ」
「ということはつまり、おまえはノアル・シェイクフリードの霊のようなものを、別邸内に見たけれども、何もせずに速やかに戻って来たというわけだ」
「ん、まあ、そうなる。ハンナを促して、敷地の外に出すことだけはしたけれどね」
「中にいた輩に、気付かれたと思うか?」
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