上 下
327 / 409
十五章

十六話 【犬神の覚醒】

しおりを挟む
惣一郎は瀕死のグラサーナを、切り落とした手足と一緒に檻に入れ、連れ帰る。

舟で飛び戻るみんなの目に、森の向こうに登る朝日が映る。

森の入り口のテントに戻ると檻を置き、クロにただいまを言い、見張りをお願いする。

全く動かないグラサーナだが、時折触覚が動く。

テントに入ると、惣一郎はセシルにグラサーナ確保の連絡を入れる。

ベンゾウは、寝てる所を起こされたからか、すぐにベッドへ潜り込む。

ビルゲンは、

「弁慶さん、あなた…… あの黒鉄だったのね」

「ああ、でも今のアタイは弁慶さ!」

「みんなの到着は夕方になりそうだ、厄災も夜は動かないとなると、明日になりそうだな」

「明日は役に立って見せます!」

「ああ、ビルゲンには風魔法で殺虫剤を撒き散らしてもらう! 頼りにしてるよ…… そうだ忘れてた! ビルゲンには他にも頼みたい事があったんだっけ!」

「僕、子作りなら喜んでするよ!」

「ん? 全然違うけど……」

「相変わらず、つれないな~ 惣一郎様は…… それで、なんだい?」

「この魔導書を見てもらいたいんだ! 鑑定を頼んだが分からなくて、魔族ならって聞いて」

「なるほど、魔力言語を読めるのは確かに魔族だけだね! どれどれ……」

ビルゲンは本を開きもせず、手に取ると目を閉じて集中する。

「コレは! 読めないぞ…… なんて魔法なんだ? だが意味は分かる。直訳すると、喋り…たい?」

「「 ????? 」」

「えっと…… どう言う事?」

「それが、この魔導書に言葉が載ってないのです。通常、魔導書は魔法を形成する言葉が詰まっているのだが、何語なのか言葉ではなく、感情の様な……」

「ダンジョンで手に入れた宝箱は、アタイが倒したゴドルからと、旦那様が倒したボスのトロールだったよな?」

「いや、白いゴドルも……そう言えばまだ開けてないや! 魔導書は二冊、その内の一冊はサーチだったが……」

じゃ、魔導書はもしかして、ベンゾウが倒したゴドルのか?

惣一郎は、アイテムボックス内を探して宝箱を出し、サーチを唱える。

問題ない。

中身は…… お菓子?

何だコレ? お菓子なのか? 

「あ~ 懐かしい! ベンゾウが昔よく作ってもらった焼き菓子だよ、ご主人様!」

ダンジョンで何を願ってるんだコイツ……

「って事は、やっぱ弁慶が出した魔導書って事か?」

「あっ、違う旦那様! 戦ったのは他にもいた!」

「あっ! マジか!」

「「 クロ! 」」

「確かに、俺とベンゾウが戻った時に戦っていたのは、弁慶とクロだった!」

「クロ殿が出した魔導書だったのか! どうりで読めない訳だが……」

「この犬神が…… それなら読めないのも納得出来ますね、喋りたい……どんな魔法なのかしら」

惣一郎達はテントを出て、檻の近くで寝ているクロの元へ。

「何も言わずに売れば、いいお金になりますが……」

「クロも仲間だ! クロが望んだ魔法ならクロに使いたい! 頼む」

「わかりました……」

ビルゲンは、意味も分からずキョトンとするクロの頭に魔導書を乗せ、唱える。

ワクワクx3

……………

あれ、何も起きない?

首を傾げるクロ。

「いったいなんなのだ?」

「「「 喋ったーーーー! 」」」



「クロ! お前…… 喋ったぞ!」

ちょっと感動する惣一郎。

「だったらなんだと言うのだ、くだらん!」

「「「 ………… 」」」


クロは、可愛くなくなった。




テントの中で落ち込む3人。

「売ればよかったな……」

「ですね……」

「いや、喋る犬として売れるんじゃね?」

期待していた謎の魔導書の、意外な結末であった……



夕方、ツナマヨ達の馬車が到着する。

「すまぬ惣一郎殿! 遅くなった…… これが、厄災が追いかける者なのか」

すると隣のクロが起き上がり、あくびをしながら、

「やれやれ、やっと追い付いたか、鈍獣め! さぁ飯だ、メシメシ!」

ツナマヨ達は、グラサーナを見た以上の衝撃を受けていた。

「惣一郎様…… いったい何があったのですか」

「ちょっと魔導書の無駄遣いを……」

惣一郎はみんなのテントを出し、準備していた食事を振る舞う。

外に仕切りに囲まれた風呂も用意して、各自交代で入ってもらう。

明日はいよいよ決戦だ!

「我はもっと、クッチャクッチャ、歯応えのある肉が、クチャ、良かったの~ クッチャクッチャ」

……可愛くない。




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

いっぱいの豚汁

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:1,065pt お気に入り:0

彼女を悪役だと宣うのなら、彼女に何をされたか言ってみろ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14,356pt お気に入り:107

ローズゼラニウムの箱庭で

BL / 完結 24h.ポイント:262pt お気に入り:1,705

雄々しき裸体達は自らの道具で無様に縛められる

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:1

あなた仕掛けの恋時計

恋愛 / 完結 24h.ポイント:326pt お気に入り:13

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:37,281pt お気に入り:2,380

【完結】天使がくれた259日の時間

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:1,874pt お気に入り:10

オメガの復讐

BL / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:312

重婚なんてお断り! 絶対に双子の王子を見分けてみせます!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,590pt お気に入り:44

ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,132pt お気に入り:59

処理中です...