底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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失態?お小言?ごめんなさい

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何でか分からないけれど、副司令官の秘書と名乗る人が来て、副司令官が私を呼んでいるそうです。
いえ、そうなる気がしていましたが。

「ミラお姉様!どうぞご慈悲を」

だって兄様、絶対に怒っていたもの。

「ごめんなさいエルちゃん。彼は私の上司であり、ここで唯一シュカルフ様に意見出来るほどの人なの」

司令官はそれなりの家の出で、でも金魚の糞みたいな人だそうで、イカルス兄様は身分こそ低いが、若くして実力でその地位まで上り詰めた人、だそうです。
うん、兄様の実力と努力は、妹である私がとてもよく知ってます。
すごく真面目で頭が良くて、曲がった事が嫌いで正義肌。
だからこそ、自分勝手に家出した身には堪えるんです。

「どうして兄様が副司令官してるって、教えておいてくれなかったんですか!?」

隊長は私がエレオノーラ・ガルティア、つまり副司令官の妹と気が付いていたんでしょう?

「いや、それ私が返したいわ。エルちゃんカリオンに来る時点で、お兄さんがここにいる事は分かっていたはずよね?ずいぶん肝が据わっている。もしくはとても兄妹仲がいいか、悪いのか。もしくは全て計画済みなのかまで悩んじゃったわよ」

私、そんな器用ではありません、ただ兄様の職業を知らなかっただけです。
それを伝えると、隊長に爆笑されました。

「な、何故なの?だって、だって家を出ているなら、普通は自分の事は家族に報告するんじゃないの?それとも、それほど家族の仲が良くないの!?」
「家族仲はけっして悪くありませんよ。反って良すぎるぐらいです。兄様は手紙や仕送りを欠かしませんし、私の事はうっとおしいほど可愛がってくれます。ただ、私は兄様があんな職についてるなんて知りませんでしたから…」
「それならなぜ、副司令官は久々に会うあなたを見て、あんなに驚いていたの?」
「何故でしょう?」

兄様はいつも私の事は、でろでろに甘やかしてくれたし、よっぽど私が悪い事をしない限り、怒った事など無かったのに。
あっ……………。

「隊長、あれですよ。私黙って家出してから、ずっと家に連絡入れてませんから、だから怒ってるんですかね、あれは」
「………エルちゃんや、あなた本当に連絡入れていなかったの?」
「はい!」
「家にも?両親にも?兄さんにも?」
「ええそうですけど?」

まずかったですかね?
だって、下手な事してアレクシス様達にばれたら困るでしょう?

「エルちゃん、ここは諦めて、潔く彼に叱られてきなさい」
「えぇーー、隊長は私の見方だって言ってくれましたよね。私の事は絶対に守るって!」
「あれはあれ、これはこれ。あなた、サバストで死んだ事になっているって知ってるの?もしそれを知らなかったなら、庇ってあげてもいいけれど」
「あっ、知ってますよ。ティブで見て、サバストまで引き返しましたから。そこで大体の事が分かりましたから、家出の続きを再開して、それからお金が底を付きかけたから髪を売って…………」
「もういいわ…あまり副司令官をお待たせすると可哀そうだわ。あなたさっさとこの子を彼の前に引っ立てなさい」

隊長~私を見捨てないでくださ~い!



「エレオノーラ……」
「お久しぶりです、兄様」

心なしか、兄様の目が潤んで見えるのは気のせいですよね?
いつも強い兄様が、そんな事するわけありませんもの。
ところがいきなり椅子から立ち上がった兄様が、まるで駆けるようにこちらに来て、強く私を抱きしめた。

「この…バカが………」

兄様が泣いている。
あの強い兄様が………。
私はそれほどの事をしてしまったの?

「ご…ごめんなさい兄様………」

兄様はその言葉にこたえる事も無く、ずっと私を抱きしめている。
その時私は初めて、自分がとても悪い事をしたのだと悟った。
何が悪かったのかは、まだよく分からないけれど。



一頻りそのままだった兄様が、こっちにおいでと私の手を引き、窓辺に私を導いた。
窓は広い庭に面していて、その向こうには夕日に染まった、遠い山並みが連なっている。

「あの山の向こうにトルディアがある。まずは謝りなさい」

えっ?あの、えっと………。

「ごめんなさい」

そう言い、トルディアに向かい頭を下げる。
それに続き兄様の深いため息が聞こえた。

「もういいよ、取り敢えず座りなさい」

兄様に指し示されたそれは、窓際に有った、兄様が好きそうな簡素なつくりの椅子とテーブル。
でもそれは使い心地の良さそうな、温かみのあるものだった。

「さて、最初に私に言っておく事はあるかい?」
「えっと……、兄様、久しぶりです。お元気でした?こちらは皆…元気だと思います」
「あぁ知っている。つい最近、帰ったばかりだから」
「まあ、そうだったんですか?良かった!」

私が家を出てしまって、内職も出来ないから心配していたんです。

「良かった?お前は私が何のために帰ったのか分かっているのか?」
「そう言えば、冬や夏の休暇には時期が違いますし、特別にお休みが取れたんですか?」
「特別な休みが取れたのではなく、取ったんだ。お前の葬儀のためにな!」

あっ、そ、そうだったんですか……。

「じ、実は兄様、その人は私では無いんです。あの人はサバストで会った人で、私とは別人で、でもお友達で……」
「あぁ、見ればわかる」

ですよね、目の前に私がいるんですもの。

「お前はどういうつもりなんだ!なぜあんな事をした。どうして俺を頼ってくれなかったんだ!」

いや、そう言われましても、兄様ってば遠くにいるし、相談するにも時間かかるし。
でもいつも冷静沈着な兄様、人が変わっていますよ。

「あぁ、もう!!!」

そう叫び、自分の拳をテーブルに打ち付ける。
すいません、すいません、ごめんなさい!

「あぁ済まない。怯えさせてしまったな」

ごめんな、そう言いながらテーブル越しに私の髪をなでる。

「こんなに短く切ってしまって………。それに私が買ってやった眼鏡はどうしたんだ?」
「ええ、最近とても健康的な生活をしてまして、視力もかなり回復して、体重も増えたんですよ?ジョンさんも私の胸を触って、だいぶ筋肉が付いたって言ってましたし」
「はあぁぁ!?」

兄様!何でそんなに怖い顔をするんですか!?

「ジョン?確かルドミラが連れてきた奴らの中にいたね。よく覚えておこう」
「はい、とても面白い人なんですよ。私をずっと手元に置きたいなんて、しょっちゅう冗談を言ったりするんです。私もすごくお世話になったんですよ。よろしくお願いしますね」
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