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第一章 『秘められた異次元(シークレットディメンション)』への扉!
第17話 狼男ギンロウの住む神秘の山
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翌日の早朝に出発し、オレ達は馬車に乗りってギンロウの住む山のふもとに辿り着いた。
時刻は昼の1時くらいであり、お腹が空き始める時間だ。
シルビアさんのピクニックセットに期待して、オレ達は山を登る。
「ここに狼男のギンロウがいるのか?」
オレがそう訊くと、シルビアさんは頂上を指して言う。
頂上の周辺あたりは、雲が立ち込めていて見渡すことができない。
オレ達を阻んでいるかのように、薄い霧が立ち込めていた。
木の葉もざわめき、恐怖を演出していた。
空気は美味しいが、周囲に緊張が漂っている感じがして息苦しい。
雷鳴が轟く前兆のようだ。
「はい、この山の頂上がギンロウのプライベートルームで、研究所は各地に点在しています。
今の時間、ギンロウはプライベートルームで、日本から取り寄せているゲームを楽しんでいる事と思います。
発電機を使い、オンラインゲームを楽しんでいるかと……。
異次元でも、ネット環境は使えるので……」
「一気に、ギンロウがニートに見えて来たな。
オレの神秘的なイメージを返せよ!」
ギンロウの住んでいる場所は、城以上に設備がしっかりしているようだ。
さすがは、国一番の科学者といったところか。
そう言われてみれば、山の山頂に研究所らしき建物が目に留まる。
かなりの規模を誇る研究をしているようだ。
これなら、オレとシルビアさんを日本に帰す技術も整っているだろう。
日本への帰還が一気に現実味を帯びて来た。
オレ達が話していると、オーガとアビナも騒ぎ出す。
ギャル風の喋り方をしているので、アビナに対してイラついた。
自分達がイチャラブするのは気にならないが、他人にされると殺意を覚える。
突っ込みの振りして全力でオーガを殴るそうな衝動に襲われていた。
オーガの返答次第では、攻撃力がうなぎ上りに上がる。
「ギンロウって、狼男でしょ? いやーん、こわーい。
私を狙ってきたらどうしよう。助けて、ダーリン♡」
「分かっただ! オイラ、身体には自信がある。
必ず、君を守ってみせるだ!」
「あーん、頼もしいわ、ダーリン!」
狼男のギンロウがオタクのようであり、美しいエルフがギャル風では神秘的なイメージなどを湧かない。
オーガも見慣れれば、ただのデブだった。
異次元世界から日本の社会に戻されたようながっかり感を抱いていた。
オレの隣にいるシルビアさんが、オレを異次元世界に留めておいてくれているのだ。
オレは、アビナを見ながらつぶやく。
「そして、エルフがあんな変な奴だったなんて……」
その言葉を聞き、エルフがキレる。
恐るべき顔が出現しようとしていた。
ちょっと挑発しただけで、ギャルからヤクザへと変化するようだ。
「あーん? なんか文句あんのか、コラ!」
アビナのキレ顔を見て、オレは確信する。
ギンロウは襲って来た場合、オーガを避けてアビナを攻撃すると……。
アビナが集中攻撃を浴びる分には良いが、戦闘になるのはできれば避けたい。
オレ達の目的は、異次元世界からの帰還をギンロウに助けてもらう事だ。
誤解やケンカは避けなければいけなかった。
オレ達がギンロウの住処を目指して歩いていると、人影らしきものがちらほら見える。
身体は人間の様だが、頭は犬の顔の様であった。
まさか、ボスへ忠実に働き過ぎて、犬の様になってしまったのだろうか?
恐怖と不安が漂う。いずれはオーガもこんなキモい顔になるのだろうかと想像する。
そこで、オレはシルビアさんに尋ねてみた。
「さっき、そこで人影を見たような気がしたんだけど……。気のせいかな?」
「いえ、ここは元々鉱山の街。
ギンロウが住み付くまでは、コボルト達が鉱物を発掘しているそうです。
それは今も変わらず、人知れず働いているそうですよ。
彼らは働き者ですけど、人と接するのは苦手の様ですから、あまり自分達から近付いては来ません。
鉱山まで行けば、宝石を売ってくれるとは思いますけど」
「そうか、なんか犬の頭をしていたから、狼男かと思ったけど、コボルトだったのか」
しばらく話をしていたが、次第に付かれて来たのか、誰も会話をしなくなる。
しばらく山を登っていると、眺めの良い場所に出たので、オレ達は休憩する事にした。
シルビアさんとアビナのケーキが準備されている。
もちろん、大量の荷物を持っていたのはオーガだ。
本当に、オレの役に立ってくれると涙が出る。
しかし、犬の顔にはなってくれるな。
シルビアさんは、ケーキを並べ終わり、飲み物を用意する。
「はーい、お茶とコーヒー、どっちにしますか?」
「ロイヤルミルクティーで!」
「はーい」
オレの無茶ぶりにも対応してくれる。恐ろしい嫁だ。
オレ達は楽しい一時をしばらく過ごしていた。
すると、オレ達の後ろから来た何者かが、素早く通り抜けて行った。
オレ達は気が付かなかったが、それはお城で出会ったインプだ。
「くっくっく、休憩してくれて助かった。
先回りして、ギンロウを手下に改造しておくんだ!
あのお方から頂いた、この銀の玉で!」
インプは怪しい弾の入った銃を持ち、ギンロウの家へと向かった。
「さてと、ケーキを食べ終わったし、そろそろ出発しますか!」
「そうね。じゃあ、宝石狩りに行きますか!」
アビナなぜか炭鉱の方へと移動していく。
休憩していたここは、どの方向にも行ける中間地点なのだ。
だからといって、ギンロウの家と炭鉱への道は間違わない。
山の道は、矢印が記されており、しっかりと整備されているのだ。
アビナは明らかに、宝石目当てでこの山に来ていたのだ。
「うるさいわね! 何が嬉しくて、ニートの家に行かなきゃならないのよ!
あんたらはギンロウに用事があるかもしれないけど、こっちは宝石目当てだったのよ。
ダーリンがいろいろ買ってくれるっていってさ」
そう言うアビナに、シルビアさんがフォローする。
同じ女性として、理解しているのだ。
「そうですよね。
女の子は、ケーキのような甘い物と宝石のような綺麗な物が大好きですから……。
なら、ここは二手に分かれましょうか?
私とマモルさんでギンロウの家に、オーガとアビナさんで探鉱に宝石を買いに。
それなら問題ないでしょう。帰りの時間さえ決めておけば、馬車も一台で済みますし……」
「良いよ! そうしよう!」
こうして、オレ達のグループは、二手に分かれる事になった。
「じゃあ、オーガさん、私のためにこれを!」
シルビアさんは別れ際に、オーガに宝石を注文していた。
シルビアさんも本当は、宝石を買う予定だったのだ。
しかし、計画が変更になったので、オーガに任せる事にした。
オレはそれを見て、改めてここに宝石を買いに来ようと思っていた。
辺りも暗くなり、だんだん夕暮れ時に近付いて来ていた。
夜真っ暗になれば、知っている山でも危ない。早めにギンロウの家に付かなければ……。
そう思って、急ぎ足で山を登る。
どうやらそのかいあって、夕暮れ前の明るい時間帯に、目的の場所に着いた。
「ふう、夕暮れから一時間前には着いたな。今日はこの家に泊まらせてもらおう」
「そうですね。だいたい山の頂上に来るのに、一日はかかりますので、ちゃんと宿泊施設もあるんですけど。
とりあえず、ギンロウの無事を確認しましょうか?」
シルビアさんはそう言いながら、ギンロウの家の前へと向かう。
この辺は、大きな街のようになっており、商店や宿泊施設が立ち並んでいた。
しかし、人が住んでいる様子は無く、さびれていた。
ギンロウは、この廃墟を買い取り、山に来た人をもてなしたり、この街を使って研究したりするようだ。
周りを見渡すと、確かに人はいないが、電気系統が充実しているようで、次第に明るくなってきていた。
ギンロウは、この街を復興させる気もないが、だからといって無人にする様子でもない。
何をしようとしているかは分からないが、少なくともお客さんは大歓迎のようだった。
シルビアさんは、街の様子を見て言う。
「ギンロウは、まだあの計画をしようとしているようですね……」
オレはそのつぶやくような言葉を聞き、シルビアさんに尋ねる。
「ギンロウは、何をしようとしているんだ?」
シルビアさんは、声に出ていたのかという風なそぶりをして焦っていたが、次第に教えてくれる。
「あー、ギンロウは人間が嫌いだったんですが、本当はいろいろ関係を持ちたいと思っているんです。
実際には、人間がギンロウに不信感をもって、追いやっていたのが原因なんです。
その頃から、ギンロウと仲の良かった私に相談して来て、どうしたら人間と仲良くできるかと訊くんです。
私も困ってしまって、そんな時に異世界の日本人という人達がやって来ました。
日本人も最初は、ギンロウに驚きましたが、次第に慣れていき、ついに酒飲み友達にまでなったのです。その日本人はアドバイスし、私も同意しました。
遊園地を作って、人気者になればいいと……。
そこで、ギンロウは科学の知識や、機械の知識などを猛勉強し始めました。
もう日本人の科学者でさえも眼を見張るほどの進歩ぶりで、一年ほどで異次元空間を行き来するノウハウを開発し、更にこの場所を買い取って遊園地にする計画を立てました。
ギンロウはゲームをしながらも、いろいろと作業をしているようですね。
後足りないのは、人手くらいでしょうか?
さすがにこの山の奥では、そうそう作業は進みませんから……」
「そうなのか。ニートじゃないんだな」
「まあ、仕事はしていませんし、私に収益をもたらしてくれていない。
ニートと言っても差し支えないのでは?」
オレ達は話しながらギンロウの家に着いた。
そこは普通の家くらいの大きさだったが、電気設備が充実しており、可愛いメルヘンチックにライトアップされていた。
「この家のデザインは、私がしたんですよ!
どうしても可愛い感じの家にしたいからと頼まれて……」
「ここから狼男が出て来たら、ちょっと驚くけどな!」
オレはそう言って扉を前に立つと、危ない気配を感じた。
シルビアさんを後ろに下がらせ、扉を開けると、部屋の中は滅茶苦茶になっていった。
その中心に、本来のオオカミと化したギンロウがうなり声をあげていた。
「こいつがギンロウ? まるで、オオカミのようだ!」
シルビアさんは、ギンロウの姿を見て驚愕する。
どうやら、普通の様子ではないようだ。
「ああ、これは、満月の時のギンロウです。注意してください。
本来は、二本脚で生活しているのですが、満月の時はちょっと気が短いんです。
でも、こんなにオオカミのようにはなりません! きっと、何かあったんです」
オレがギンロウを見ると、血を流していた。
「おい、怪我をしているぞ! 手当てを……」
オレが近づこうとすると、ギンロウが叫び出す。
「近づくな! 今の俺は危険だ! すぐにどこかに逃げろ!
銀の銃弾に打たれたら、意識が無くなって暴れ出したようだ。
今、意識を保っているうちに早く逃げろ!」
ギンロウがそう言うと、家の屋根の方から銃声が鳴り、またしてもギンロウに傷を負わせる。
「そこだ!」
オレは、銃声の音から、銃を撃った犯人を発見し、ナイフで攻撃する。
その犯人はオレの攻撃を喰らって、地面に落ちて来た。
その銃を持った犯人は、結婚式の日に現れたインプであり、オレの攻撃を受けてダメージを負っていた。
地面から動けなくなっても、悪態をつく。
「ふひひひひ、ギンロウも二発も喰らえば、オオカミの本性が現れるだろう。
本気になったギンロウは強いぞ! これで貴様らも終わりだ!」
インプがそう言ったかと思うと、ギンロウがオレ目掛けて飛びかかって来た。
ギンロウの牙による攻撃を、オレはナイフで止める。
しかし、威力が強く、オレを吹っ飛ばす。
オレは、ギンロウの次のターゲットがシルビアさんになる事を察知して、ギンロウをシルビアさんと反対の方向に蹴り飛ばした。
ダメージを受けたギンロウはしばらく姿をくらませる。
しかし、早くギンロウを助けなければ、出血が酷くなって死んでしまうだろう。
シルビアさんは、ギンロウの様子を見ていたようで言う。
「どうやら、二発の銃弾が問題ですね。
その弾が、ギンロウの中に留まっているので、ギンロウが意識を保てないのでしょう。
シルバーブレッドは、以前にギンロウを瀕死の状態に追い込んだ銃弾です。
ギンロウの心の中にその恐怖がまだ残っており、パニック状態となったようです。
それさえ取り除けば、ギンロウは元に戻るはずです。
後は、私が傷を手当てすれば……」
オレはシルビアさんの話を聞き、弾を取り出す方法を考え始める。
弾は、ギンロウの腹にある。何とか動きを止めなければ……。
時刻は昼の1時くらいであり、お腹が空き始める時間だ。
シルビアさんのピクニックセットに期待して、オレ達は山を登る。
「ここに狼男のギンロウがいるのか?」
オレがそう訊くと、シルビアさんは頂上を指して言う。
頂上の周辺あたりは、雲が立ち込めていて見渡すことができない。
オレ達を阻んでいるかのように、薄い霧が立ち込めていた。
木の葉もざわめき、恐怖を演出していた。
空気は美味しいが、周囲に緊張が漂っている感じがして息苦しい。
雷鳴が轟く前兆のようだ。
「はい、この山の頂上がギンロウのプライベートルームで、研究所は各地に点在しています。
今の時間、ギンロウはプライベートルームで、日本から取り寄せているゲームを楽しんでいる事と思います。
発電機を使い、オンラインゲームを楽しんでいるかと……。
異次元でも、ネット環境は使えるので……」
「一気に、ギンロウがニートに見えて来たな。
オレの神秘的なイメージを返せよ!」
ギンロウの住んでいる場所は、城以上に設備がしっかりしているようだ。
さすがは、国一番の科学者といったところか。
そう言われてみれば、山の山頂に研究所らしき建物が目に留まる。
かなりの規模を誇る研究をしているようだ。
これなら、オレとシルビアさんを日本に帰す技術も整っているだろう。
日本への帰還が一気に現実味を帯びて来た。
オレ達が話していると、オーガとアビナも騒ぎ出す。
ギャル風の喋り方をしているので、アビナに対してイラついた。
自分達がイチャラブするのは気にならないが、他人にされると殺意を覚える。
突っ込みの振りして全力でオーガを殴るそうな衝動に襲われていた。
オーガの返答次第では、攻撃力がうなぎ上りに上がる。
「ギンロウって、狼男でしょ? いやーん、こわーい。
私を狙ってきたらどうしよう。助けて、ダーリン♡」
「分かっただ! オイラ、身体には自信がある。
必ず、君を守ってみせるだ!」
「あーん、頼もしいわ、ダーリン!」
狼男のギンロウがオタクのようであり、美しいエルフがギャル風では神秘的なイメージなどを湧かない。
オーガも見慣れれば、ただのデブだった。
異次元世界から日本の社会に戻されたようながっかり感を抱いていた。
オレの隣にいるシルビアさんが、オレを異次元世界に留めておいてくれているのだ。
オレは、アビナを見ながらつぶやく。
「そして、エルフがあんな変な奴だったなんて……」
その言葉を聞き、エルフがキレる。
恐るべき顔が出現しようとしていた。
ちょっと挑発しただけで、ギャルからヤクザへと変化するようだ。
「あーん? なんか文句あんのか、コラ!」
アビナのキレ顔を見て、オレは確信する。
ギンロウは襲って来た場合、オーガを避けてアビナを攻撃すると……。
アビナが集中攻撃を浴びる分には良いが、戦闘になるのはできれば避けたい。
オレ達の目的は、異次元世界からの帰還をギンロウに助けてもらう事だ。
誤解やケンカは避けなければいけなかった。
オレ達がギンロウの住処を目指して歩いていると、人影らしきものがちらほら見える。
身体は人間の様だが、頭は犬の顔の様であった。
まさか、ボスへ忠実に働き過ぎて、犬の様になってしまったのだろうか?
恐怖と不安が漂う。いずれはオーガもこんなキモい顔になるのだろうかと想像する。
そこで、オレはシルビアさんに尋ねてみた。
「さっき、そこで人影を見たような気がしたんだけど……。気のせいかな?」
「いえ、ここは元々鉱山の街。
ギンロウが住み付くまでは、コボルト達が鉱物を発掘しているそうです。
それは今も変わらず、人知れず働いているそうですよ。
彼らは働き者ですけど、人と接するのは苦手の様ですから、あまり自分達から近付いては来ません。
鉱山まで行けば、宝石を売ってくれるとは思いますけど」
「そうか、なんか犬の頭をしていたから、狼男かと思ったけど、コボルトだったのか」
しばらく話をしていたが、次第に付かれて来たのか、誰も会話をしなくなる。
しばらく山を登っていると、眺めの良い場所に出たので、オレ達は休憩する事にした。
シルビアさんとアビナのケーキが準備されている。
もちろん、大量の荷物を持っていたのはオーガだ。
本当に、オレの役に立ってくれると涙が出る。
しかし、犬の顔にはなってくれるな。
シルビアさんは、ケーキを並べ終わり、飲み物を用意する。
「はーい、お茶とコーヒー、どっちにしますか?」
「ロイヤルミルクティーで!」
「はーい」
オレの無茶ぶりにも対応してくれる。恐ろしい嫁だ。
オレ達は楽しい一時をしばらく過ごしていた。
すると、オレ達の後ろから来た何者かが、素早く通り抜けて行った。
オレ達は気が付かなかったが、それはお城で出会ったインプだ。
「くっくっく、休憩してくれて助かった。
先回りして、ギンロウを手下に改造しておくんだ!
あのお方から頂いた、この銀の玉で!」
インプは怪しい弾の入った銃を持ち、ギンロウの家へと向かった。
「さてと、ケーキを食べ終わったし、そろそろ出発しますか!」
「そうね。じゃあ、宝石狩りに行きますか!」
アビナなぜか炭鉱の方へと移動していく。
休憩していたここは、どの方向にも行ける中間地点なのだ。
だからといって、ギンロウの家と炭鉱への道は間違わない。
山の道は、矢印が記されており、しっかりと整備されているのだ。
アビナは明らかに、宝石目当てでこの山に来ていたのだ。
「うるさいわね! 何が嬉しくて、ニートの家に行かなきゃならないのよ!
あんたらはギンロウに用事があるかもしれないけど、こっちは宝石目当てだったのよ。
ダーリンがいろいろ買ってくれるっていってさ」
そう言うアビナに、シルビアさんがフォローする。
同じ女性として、理解しているのだ。
「そうですよね。
女の子は、ケーキのような甘い物と宝石のような綺麗な物が大好きですから……。
なら、ここは二手に分かれましょうか?
私とマモルさんでギンロウの家に、オーガとアビナさんで探鉱に宝石を買いに。
それなら問題ないでしょう。帰りの時間さえ決めておけば、馬車も一台で済みますし……」
「良いよ! そうしよう!」
こうして、オレ達のグループは、二手に分かれる事になった。
「じゃあ、オーガさん、私のためにこれを!」
シルビアさんは別れ際に、オーガに宝石を注文していた。
シルビアさんも本当は、宝石を買う予定だったのだ。
しかし、計画が変更になったので、オーガに任せる事にした。
オレはそれを見て、改めてここに宝石を買いに来ようと思っていた。
辺りも暗くなり、だんだん夕暮れ時に近付いて来ていた。
夜真っ暗になれば、知っている山でも危ない。早めにギンロウの家に付かなければ……。
そう思って、急ぎ足で山を登る。
どうやらそのかいあって、夕暮れ前の明るい時間帯に、目的の場所に着いた。
「ふう、夕暮れから一時間前には着いたな。今日はこの家に泊まらせてもらおう」
「そうですね。だいたい山の頂上に来るのに、一日はかかりますので、ちゃんと宿泊施設もあるんですけど。
とりあえず、ギンロウの無事を確認しましょうか?」
シルビアさんはそう言いながら、ギンロウの家の前へと向かう。
この辺は、大きな街のようになっており、商店や宿泊施設が立ち並んでいた。
しかし、人が住んでいる様子は無く、さびれていた。
ギンロウは、この廃墟を買い取り、山に来た人をもてなしたり、この街を使って研究したりするようだ。
周りを見渡すと、確かに人はいないが、電気系統が充実しているようで、次第に明るくなってきていた。
ギンロウは、この街を復興させる気もないが、だからといって無人にする様子でもない。
何をしようとしているかは分からないが、少なくともお客さんは大歓迎のようだった。
シルビアさんは、街の様子を見て言う。
「ギンロウは、まだあの計画をしようとしているようですね……」
オレはそのつぶやくような言葉を聞き、シルビアさんに尋ねる。
「ギンロウは、何をしようとしているんだ?」
シルビアさんは、声に出ていたのかという風なそぶりをして焦っていたが、次第に教えてくれる。
「あー、ギンロウは人間が嫌いだったんですが、本当はいろいろ関係を持ちたいと思っているんです。
実際には、人間がギンロウに不信感をもって、追いやっていたのが原因なんです。
その頃から、ギンロウと仲の良かった私に相談して来て、どうしたら人間と仲良くできるかと訊くんです。
私も困ってしまって、そんな時に異世界の日本人という人達がやって来ました。
日本人も最初は、ギンロウに驚きましたが、次第に慣れていき、ついに酒飲み友達にまでなったのです。その日本人はアドバイスし、私も同意しました。
遊園地を作って、人気者になればいいと……。
そこで、ギンロウは科学の知識や、機械の知識などを猛勉強し始めました。
もう日本人の科学者でさえも眼を見張るほどの進歩ぶりで、一年ほどで異次元空間を行き来するノウハウを開発し、更にこの場所を買い取って遊園地にする計画を立てました。
ギンロウはゲームをしながらも、いろいろと作業をしているようですね。
後足りないのは、人手くらいでしょうか?
さすがにこの山の奥では、そうそう作業は進みませんから……」
「そうなのか。ニートじゃないんだな」
「まあ、仕事はしていませんし、私に収益をもたらしてくれていない。
ニートと言っても差し支えないのでは?」
オレ達は話しながらギンロウの家に着いた。
そこは普通の家くらいの大きさだったが、電気設備が充実しており、可愛いメルヘンチックにライトアップされていた。
「この家のデザインは、私がしたんですよ!
どうしても可愛い感じの家にしたいからと頼まれて……」
「ここから狼男が出て来たら、ちょっと驚くけどな!」
オレはそう言って扉を前に立つと、危ない気配を感じた。
シルビアさんを後ろに下がらせ、扉を開けると、部屋の中は滅茶苦茶になっていった。
その中心に、本来のオオカミと化したギンロウがうなり声をあげていた。
「こいつがギンロウ? まるで、オオカミのようだ!」
シルビアさんは、ギンロウの姿を見て驚愕する。
どうやら、普通の様子ではないようだ。
「ああ、これは、満月の時のギンロウです。注意してください。
本来は、二本脚で生活しているのですが、満月の時はちょっと気が短いんです。
でも、こんなにオオカミのようにはなりません! きっと、何かあったんです」
オレがギンロウを見ると、血を流していた。
「おい、怪我をしているぞ! 手当てを……」
オレが近づこうとすると、ギンロウが叫び出す。
「近づくな! 今の俺は危険だ! すぐにどこかに逃げろ!
銀の銃弾に打たれたら、意識が無くなって暴れ出したようだ。
今、意識を保っているうちに早く逃げろ!」
ギンロウがそう言うと、家の屋根の方から銃声が鳴り、またしてもギンロウに傷を負わせる。
「そこだ!」
オレは、銃声の音から、銃を撃った犯人を発見し、ナイフで攻撃する。
その犯人はオレの攻撃を喰らって、地面に落ちて来た。
その銃を持った犯人は、結婚式の日に現れたインプであり、オレの攻撃を受けてダメージを負っていた。
地面から動けなくなっても、悪態をつく。
「ふひひひひ、ギンロウも二発も喰らえば、オオカミの本性が現れるだろう。
本気になったギンロウは強いぞ! これで貴様らも終わりだ!」
インプがそう言ったかと思うと、ギンロウがオレ目掛けて飛びかかって来た。
ギンロウの牙による攻撃を、オレはナイフで止める。
しかし、威力が強く、オレを吹っ飛ばす。
オレは、ギンロウの次のターゲットがシルビアさんになる事を察知して、ギンロウをシルビアさんと反対の方向に蹴り飛ばした。
ダメージを受けたギンロウはしばらく姿をくらませる。
しかし、早くギンロウを助けなければ、出血が酷くなって死んでしまうだろう。
シルビアさんは、ギンロウの様子を見ていたようで言う。
「どうやら、二発の銃弾が問題ですね。
その弾が、ギンロウの中に留まっているので、ギンロウが意識を保てないのでしょう。
シルバーブレッドは、以前にギンロウを瀕死の状態に追い込んだ銃弾です。
ギンロウの心の中にその恐怖がまだ残っており、パニック状態となったようです。
それさえ取り除けば、ギンロウは元に戻るはずです。
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