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第四章 白と黒の遭遇
第77話 ヴォルデのフィールド
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バルベロはオレと共に、黒沢弘毅と戦うと言う。
異次元空間を自らに取り込んだ黒沢弘毅は、凶悪なほどの能力を身に付けていた。
本人に自覚させなければ、被害は拡大していく事だろう。
シルビアさんはそれを聞き、思い付いたように理解した。
「そうか。弘毅さんがイメージしているから、そういう風に成るのであって、彼がそういうのを嫌いになったり、エレンさんが嫌がっているのを理解すれば良いだけなんだ。
話し合いで解決しそうだけど……」
「無理よ。自分が好きな物は他人も好きって思いこんでいるもの。
私が嫌って言っても、趣味を変える気配は微塵もないわ。
この苦悩は、最短でも『魔術王ヴォルデ』のドラマが終わるまで続くの。
続編が出る様だけどね……。
ああ、こんな生活、もう耐えられない!」
黒沢エレンは大粒の涙を流す。
言われてみれば、どことなく、死体の腐った臭いが漂っている。
再現とはいえリアルだ。
「黒沢弘毅、医学の知識をかじった後、様々な研究を重ねて医学界に落ち着いた科学者。
そのため、死体を見る事に慣れ過ぎて、死体の腐敗具合や発生する虫なども研究した恐るべき科学者なのです。
その技術を美容目的で推し進めていたようですね。
まさか、こんな所で暴走し始めるとは、エレンも思わなかったでしょうね。
特に、臭いは本人では全く気が尽きませんからね」
バルベロはそう分析して語り出した。そして、エレンをこう言って励ます。
「大丈夫です。
私の能力の一つに、電気刺激を与えて相手を洗脳させるという物がありますから。
その能力を使えば、テレビで見る程度にまで抑え込む事ができます。
さすがに、全く嫌いになるという事は難しいですけど」
エレンは顔を上げ、お願いをするポーズで喜んでいた。
絶望から光射したわずかな希望は、黒沢エレンにとってどれだけ嬉しかった事であろうか。
「本当に、弘毅さんと一緒に生活できるようになるのね? もう一度昔の様に……」
「保障はしませんが、できる限り努力します。
あなた達は、美味しい祝勝のケーキでも焼いていてください。
私、これでもあなたの事を母親と見ていますから。
何かできる事はしてあげたかったんです!」
「ふふふ、その気持ち分かるわ。私は何もできなかったけどね」
「そんな事は無いと思います。少なくとも、間接的に彼女の子供を助けたんですから……」
「ふふふ、ありがとう。私の子供は、私に似ずにみんな良い子ね」
黒沢エレンは立ち上がり、キッチンへ向かった。
シルビアさんも後に付いて行く。
残されたオレとバルベロは、最強最悪の怪物となった魔術王ヴォルデと対峙する事になった。
オレは話し合いで解決しないかなと、淡い期待を抱いて会いに行く。
さっき通ったミニシアタールームの扉を開け、黒沢弘毅の有無を確認する。
そこに黒沢弘毅はいた。丁度モニターに魔術王ヴォルデの姿が映されていた。
愛する恋人に会い、全く普通の男性となっているシーンだった。
オレは『魔術王ヴォルデ』をあまり見た事がない。
果たして、ここからどのように変わってしまうのだろうか?
黒沢弘毅の身体を張ったリアルな劇が始まろうとしていた。
バルベロは、ソファーに座り背中を向ける弘毅に話しかける。
黒いシルエットだけしか見えないが、何かのコスプレをしているのが見てとれた。
「黒沢弘毅さんですね。それ、録画した奴でしょう?
あなたと話したい事があるんですけど、時間を割いていただいてもよろしいでしょうか?」
「貴様が呼んでいるのは、俺様の事か?
もはや俺様は黒沢弘毅などという人間ではない。
魔術王ヴォルデ本人なのだ!」
コスプレし、役に成り切ったオタクは厄介だ。
ただでさえ話の内容が分かり辛いのに、あえて作品中のセリフを使い回して来るから質が悪い。
中二病の症状が出てクスッと笑えるくらいが、他人が優しく接してくれる境界線なのだ。
それを超えると、誰からも見向きされない悲しい人生を送る事になる。
そう、中二病(重度)は、学生の内までにしておいた方が良い。
中二病(中度)程度なら、イケメンと美女に限り、コスプレや公共の場での露出も許される。
中二病(軽度)は、時と場合により全ての人に許されるが、状況を謝った場合は爆死する。
みんなもガンガン中二病を患い爆死しよう!
一人だと痛いけど、みんなでやれば怖くないだよ!
ちなみにオレは、シルビアさんとコスプレがしたいと感じていた。
男なら誰もが持っている願望だろう。
夜は二人切りで熱い夜を楽しむモノだ!
おっと、話が脱線してしまったな。
黒沢弘毅の発言に、バルベロはどう答えるのだろうか?
バルベロの熱い視線が、オレに向いている気もするが気のせいだろう。
オレは、ニヤけてなんていない。
シルビアさんのコスプレ姿を想像して笑ってなんかいないはずなんだ。
それでも、自分の感情に嘘はつけず、筋肉が緩む。
バルベロはオレから視線を外し、弘毅に尋ねる。
「魔術王ヴォルデの格好をするだけなら構わないわ!
だけど、あなたは実在性(リアリティ)を追求するあまり、本当に死体と化してしまっているの。
近所からの苦情(クレーム)も酷いわ。
それだけじゃない、あなたの愛する妻も苦しんでいるのよ。
魔術王ヴォルデなら、愛する妻の為に元の姿に戻りなさい。
私が暗示をかけるから、コスプレはまだ続けられるのよ!」
「何を言っている? それができないからこそ苦しんでいるのだろう?
これは呼吸と同じ。意識してできる物ではないのだ。
俺様が魔術王ヴォルデであるのと同じように、この能力も変える事ができない!
エレンの為に努力しているが、俺様の意志では変える事は出来ないのだ!」
「はあ、まだ成り切っている。そう言って全く変える気が無いって事よね。
本当のダークヒーローになって、悲劇の主人公のつもり?
やっぱりこいつは、ボコボコにしておかないと気が済まない!」
「ふん、俺様を倒すつもりか? ただの子娘と凡人が!」
ヴォルデが激しい攻撃をし始めて来た。
役になりきっている以上、黒沢弘毅は本物のヴォルデと同じ強さなのだ。
脅威的な魔王の力がオレに襲いかかって来た。
異次元空間を自らに取り込んだ黒沢弘毅は、凶悪なほどの能力を身に付けていた。
本人に自覚させなければ、被害は拡大していく事だろう。
シルビアさんはそれを聞き、思い付いたように理解した。
「そうか。弘毅さんがイメージしているから、そういう風に成るのであって、彼がそういうのを嫌いになったり、エレンさんが嫌がっているのを理解すれば良いだけなんだ。
話し合いで解決しそうだけど……」
「無理よ。自分が好きな物は他人も好きって思いこんでいるもの。
私が嫌って言っても、趣味を変える気配は微塵もないわ。
この苦悩は、最短でも『魔術王ヴォルデ』のドラマが終わるまで続くの。
続編が出る様だけどね……。
ああ、こんな生活、もう耐えられない!」
黒沢エレンは大粒の涙を流す。
言われてみれば、どことなく、死体の腐った臭いが漂っている。
再現とはいえリアルだ。
「黒沢弘毅、医学の知識をかじった後、様々な研究を重ねて医学界に落ち着いた科学者。
そのため、死体を見る事に慣れ過ぎて、死体の腐敗具合や発生する虫なども研究した恐るべき科学者なのです。
その技術を美容目的で推し進めていたようですね。
まさか、こんな所で暴走し始めるとは、エレンも思わなかったでしょうね。
特に、臭いは本人では全く気が尽きませんからね」
バルベロはそう分析して語り出した。そして、エレンをこう言って励ます。
「大丈夫です。
私の能力の一つに、電気刺激を与えて相手を洗脳させるという物がありますから。
その能力を使えば、テレビで見る程度にまで抑え込む事ができます。
さすがに、全く嫌いになるという事は難しいですけど」
エレンは顔を上げ、お願いをするポーズで喜んでいた。
絶望から光射したわずかな希望は、黒沢エレンにとってどれだけ嬉しかった事であろうか。
「本当に、弘毅さんと一緒に生活できるようになるのね? もう一度昔の様に……」
「保障はしませんが、できる限り努力します。
あなた達は、美味しい祝勝のケーキでも焼いていてください。
私、これでもあなたの事を母親と見ていますから。
何かできる事はしてあげたかったんです!」
「ふふふ、その気持ち分かるわ。私は何もできなかったけどね」
「そんな事は無いと思います。少なくとも、間接的に彼女の子供を助けたんですから……」
「ふふふ、ありがとう。私の子供は、私に似ずにみんな良い子ね」
黒沢エレンは立ち上がり、キッチンへ向かった。
シルビアさんも後に付いて行く。
残されたオレとバルベロは、最強最悪の怪物となった魔術王ヴォルデと対峙する事になった。
オレは話し合いで解決しないかなと、淡い期待を抱いて会いに行く。
さっき通ったミニシアタールームの扉を開け、黒沢弘毅の有無を確認する。
そこに黒沢弘毅はいた。丁度モニターに魔術王ヴォルデの姿が映されていた。
愛する恋人に会い、全く普通の男性となっているシーンだった。
オレは『魔術王ヴォルデ』をあまり見た事がない。
果たして、ここからどのように変わってしまうのだろうか?
黒沢弘毅の身体を張ったリアルな劇が始まろうとしていた。
バルベロは、ソファーに座り背中を向ける弘毅に話しかける。
黒いシルエットだけしか見えないが、何かのコスプレをしているのが見てとれた。
「黒沢弘毅さんですね。それ、録画した奴でしょう?
あなたと話したい事があるんですけど、時間を割いていただいてもよろしいでしょうか?」
「貴様が呼んでいるのは、俺様の事か?
もはや俺様は黒沢弘毅などという人間ではない。
魔術王ヴォルデ本人なのだ!」
コスプレし、役に成り切ったオタクは厄介だ。
ただでさえ話の内容が分かり辛いのに、あえて作品中のセリフを使い回して来るから質が悪い。
中二病の症状が出てクスッと笑えるくらいが、他人が優しく接してくれる境界線なのだ。
それを超えると、誰からも見向きされない悲しい人生を送る事になる。
そう、中二病(重度)は、学生の内までにしておいた方が良い。
中二病(中度)程度なら、イケメンと美女に限り、コスプレや公共の場での露出も許される。
中二病(軽度)は、時と場合により全ての人に許されるが、状況を謝った場合は爆死する。
みんなもガンガン中二病を患い爆死しよう!
一人だと痛いけど、みんなでやれば怖くないだよ!
ちなみにオレは、シルビアさんとコスプレがしたいと感じていた。
男なら誰もが持っている願望だろう。
夜は二人切りで熱い夜を楽しむモノだ!
おっと、話が脱線してしまったな。
黒沢弘毅の発言に、バルベロはどう答えるのだろうか?
バルベロの熱い視線が、オレに向いている気もするが気のせいだろう。
オレは、ニヤけてなんていない。
シルビアさんのコスプレ姿を想像して笑ってなんかいないはずなんだ。
それでも、自分の感情に嘘はつけず、筋肉が緩む。
バルベロはオレから視線を外し、弘毅に尋ねる。
「魔術王ヴォルデの格好をするだけなら構わないわ!
だけど、あなたは実在性(リアリティ)を追求するあまり、本当に死体と化してしまっているの。
近所からの苦情(クレーム)も酷いわ。
それだけじゃない、あなたの愛する妻も苦しんでいるのよ。
魔術王ヴォルデなら、愛する妻の為に元の姿に戻りなさい。
私が暗示をかけるから、コスプレはまだ続けられるのよ!」
「何を言っている? それができないからこそ苦しんでいるのだろう?
これは呼吸と同じ。意識してできる物ではないのだ。
俺様が魔術王ヴォルデであるのと同じように、この能力も変える事ができない!
エレンの為に努力しているが、俺様の意志では変える事は出来ないのだ!」
「はあ、まだ成り切っている。そう言って全く変える気が無いって事よね。
本当のダークヒーローになって、悲劇の主人公のつもり?
やっぱりこいつは、ボコボコにしておかないと気が済まない!」
「ふん、俺様を倒すつもりか? ただの子娘と凡人が!」
ヴォルデが激しい攻撃をし始めて来た。
役になりきっている以上、黒沢弘毅は本物のヴォルデと同じ強さなのだ。
脅威的な魔王の力がオレに襲いかかって来た。
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