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番外編エピソード 蟻と象の戦い!
Aー3 幸福な一時
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私は黒沢弘毅の事ばかり考えるようになっていた。
弘毅はしばらく図書室に来ていない。それが気になって仕方ないのだ。
これが事実上の初恋かもしれない。私は冷静な頭でそう考えた。
「うーん、村の風習にこだわり過ぎて、私の事をイヤラシイ子と誤解したかもしれないわね。
ちょっと誘惑したのは裏目に出たのかも。
弘毅、図書室に来難くなっちゃったかもしれないわ。
それなら、女の子らしいアピールでもしてみようかしらね。
得意のケーキでも振る舞えば、少しは近付いてくれるかも……」
私は家庭課室に材料を持ち込み、授業中に調理する。
なかなかの出来栄えのショートケーキができた。
「ふう、これを昼ごはんの時にでも持って行けば、弘毅も喜んでくれるはずだよね♡」
私は出来あがったばかりのケーキを持って、弘毅の教室に向かう。
弘毅を見付けて浮かれていた私は、濡れている床の存在に気が付かなかった。
床で滑ってこけ、弘毅の顔にホールケーキを叩き込んだ。
「あっちゃー、まるでコントの様にこけてしまったわ。
でも、まだ弘毅の顔の上で止まっている。弘毅、動いちゃ駄目よ!」
幸いバランスが良くて落ちなかったので、ケーキを回収して再び弘毅に差し出す。
「ちょっと形が崩れちゃったけど、はい!
私のお手製のショートケーキです。
召し上がれ!」
「これは、何の嫌がらせだ?」
「え? 嫌がらせ?」
「そうだろ!
自分が医者や科学者になれないからって、成績優秀な俺を羨んでいるんだろ!
都会ではそういう扱いをされて、田舎に来てまでこんなバカ女に嫌がらせを受けるなんて最悪だ!」
「酷い! こけたのだって態とじゃないのに。
弘毅の事を思って作ったのに……」
私は泣きながら逃げ出す。
泣く演技だったので、弘毅が見えなくなってから追って来ないかを確認する。
扉越しに弘毅の姿を確認するが、追って来る様子はない。
「ちっぇ、追って来ないか……。
やっぱり嫌われちゃったのかもしれないわね。
待っているからねとか言われれば、私も救われるんだけどな……」
私はしばらくしても弘毅が来ないので、図書室に戻る。
弘毅の教室では、話し合いが沸き起こっていた。
「どうやらエレンも本気でお前を狙い始めたようだな。
まあ、あいつとまともに会話しているのは弘毅君だけだから仕方ないけど……。
それに、このケーキはかなり本気の物だぜ!」
「ああ、この柔らかさと間に入ったフルーツ、本気でなければできないほどの仕上がりになっている。
遊びで作ったレベルじゃないな」
「マジでやばいな。これはケーキ職人以上かも……。
黒沢エレンは、村の風習がなければ何でも出来る天才だからな。
全国模試も推定一位だろう。テストとかもオール満点らしいからな。
まあ、全国模試一位とかになったら他の学校が黙っていないから、黒沢エレンの答案用紙だけは先生達によって抜かされるんだけど……」
「本当に残念だよな。
エレンが男子か、村長になれる制度でもあれば問題ないんだろうけど、女子じゃあ『色欲』にされて、強制的に優秀な子孫を産ませられるだけになるからな。
まあ、この風習自体がそれの狙いだから仕方ないけど……」
「でも、黒沢弘毅と会ってから、エレンもまた可愛くなったよな。
前は全てを諦めた眼をしていたけど、今は恋する乙女の眼になりつつあるような気がする。
ちょっとずつだけどな……」
「どうする弘毅? 今、エレンを追い駆ければ、エレンはお前に惚れるだろうな。
そうすれば、エレンも壊れずに長生きできるだろう。
二十年後に迎えに来るかどうかは、お前次第だけどな」
「でも、変な考えは起こすなよ。
エレンと駆け落ちとか、村の外に逃がそうとすれば、弘毅が抹殺されちゃうかもだぜ!
これは警告でもなく、事実なんだ!」
「最初にこの風習を作った村長は、村で一番の美少女に恋をした。
でも、村長は結婚していたし、世間体もある。
合法的に美少女を手に入れる方法を考えていた。
そこで思い付いたのが、村の過疎化を防ぐために、優秀な家系を作り出す事だった。
美少女は、無理矢理村長に嫁がされ、恋人とも別れさせられた。
村長は優秀な子孫を作るという名目で、優秀な村人を選別し、美少女と子供作りを開始する。
要は、村の権力者達と結託して、美少女を遊女に仕立てたわけだ。
村長の思惑は成功し、彼女は優秀な人材を生み出した。
だが、数年後に計画を阻む奴が現れた。
美少女の恋人が、村長の計画を知り、彼女を救出に来た。
結局、その青年は村人の手で無残に殺され、それ以来誰もこの風習を邪魔する事は無くなった。これが集団犯罪の怖い所だよね。
本来なら道徳的に止める所を、集団団結する事で当たり前の事に変える。
そして、数人を犠牲にする事で、村自体を繁栄させるんだ。
経済の繁栄を妨害されたくない村人達は、集団でこの犯罪に積極的に参加するというわけさ。
まあ、経済も潤す事ができるし、集団による圧力で風習を変える事も出来ない。
弘毅も美味しい想いがしたいなら、この風習に従った方が良いよ。
殺されたくはないだろ?
村の権力者は、この問題が世間にばれる事を恐れて先手を取っている。
仮に、風習を免れても、村長の孫と強制的に結婚させられるだけだからな。
さすがのエレンも泣き寝入りするしかないほどにな!」
「そういう事。
天才エレンでさえ、抵抗する事無く従っているって事は、弘毅ちゃんがどんなに努力しても無駄な事なんだよ。
弘毅ちゃんは、エレンちゃんが望む事をしてあげなよ。
それが一番、エレンちゃんの為になるんだから。
無理に彼女を奪おうとすれば、マジで殺されちゃうよ!」
結局、黒沢弘毅はこの話を聞き、私を追いかけて来る事は無く、昼休みは終了した。
私は一人図書室で紅茶とケーキを食べながら考えていた。
「やっぱり重いよね……。嘘でも、二十年後に私を迎えに来るなんて……。
男達といっぱい交わった後だし、子供も産んだ後だからね。
中学生や高校生じゃあ、逃げてくのが本当か。
このまま恋もせず、無理矢理子供を産ませられるのかもね……」
そんな風に考えていると悲しくなるが、しばらくすると昼のポカポカ陽気に当たって、眠りこけていた。
どのくらい経ったか知らないが、鼻に突然の違和感を覚える。
「何……。鼻が何かに当たっている?」
「成績優秀だけど居眠りって、キミは典型的な不良少女かな?
もしかしたら将来は有望なのかもしれないよ?」
黒沢弘毅が私の鼻の頭を触っていた。
私は寝ボケていたが、次第に頭がはっきりして来る。
「どうかしらね? もう一つの典型的なパターンかもしれないわよ?
全ての教師に見放され、幼馴染から逆に熱烈な心配を受け、就職も出来ないバカのくせに……」
「「突然世界をかけた戦いに巻き込まれる典型的な不良!」」
王道的な漫画のパターンだからか、私と弘毅は同じタイミングで同じセリフを言う。
すると、二人して大爆笑する。
二人が呼んでいる漫画とか、ドラマとかもほとんど一緒だった。
それがちょっとおかしかったのだ。
一通り笑いあった後で、私は紅茶を飲みながら尋ねる。
「で、何しに来たの? お勉強の分からない事でもあった?
保健体育とかも、今ならサービスで教えちゃうかもね……」
「いや、ケーキのお礼を言いたくて……。本当に美味しかった!」
「そう、それは良かったわね。床に落ちたら食べられないからね。
運とバランス感覚が良いわ、あなた」
私は図書室の窓を見て、雨が降り出しそうなのを感じていた。
山の方の学校だから天気は崩れやすい。
私は雨合羽とか、日傘と雨傘の両方の機能が付いている傘とか持っているから対策はバッチリだけど……。
弘毅の様な真面目タイプは、意外と傘を持って来ることが無く、ずぶ濡れで帰るうっかりさんが多い。
そのため心配になりこう訊く。
「傘持っている? なんだったら一本貸してあげようか?
私、たくさん用意してあるから……」
私が傘を選んでいると、弘毅がこう告げる。
「キミが好きだ。結婚したい!」
私は一瞬、何の事か分からず固まる。
理解して嬉しかったが、感情に任せた発言は危険があった。
何とか冷静に対応しなくては……。
「はは、嬉しいよ。私も好きだよ、弘毅! 二十年後に私を迎えに来て!
そうしたら、私は世界一幸せだから!」
「駄目だ! 他の男達なんかに渡さない! 村の奴らも、この世界のどんな奴にもだ!」
私は弘毅の顔を見るが、眼が真剣だった。
嬉しいが、この状況は危険だ。私は訊き返す。
「本気なの? 答えて!」
私も真剣な表情をし、眼で遊びではない事を知らせる。
「本気だとも! 俺と一緒にこの村を逃げるんだ!
ここはキミのいるべき場所じゃないよ!」
私は聞いていて嬉しかったが、同時に弘毅の身に危険が迫っている事を悟る。
この村の風習を誰よりも調べて悟った私だ。
当然、『色欲』を連れて逃げようとした男達の末路も知っていた。
多くの場合は、告白の直後に殺される。これが今までのパターンだ。
このまま図書室を出れば、明日には弘毅は死んでいるかもしれない。
とにかく計画を練る時間が欲しい。
私は突然大声で笑い、弘毅に紅茶を拭きかける。
「ぶっはははは、おかしいわ。ひっひっひ、ごめんなさい。
直接的で嫌いな告白じゃないけど、私の心には響かなかったわ!
女の子はね、手紙で描いたラブレターが欲しい物よ。
そうすれば、思い出として取って置けるでしょう?
それを読み返して、幸せをかみしめるの。
でも、あなたの告白は駄―目!」
私は弘毅にハンカチを渡し、顔を拭かせる。
その間に、手紙を書き、弘毅に渡す。
「せめて、このくらいの愛の告白をしてくれないとね!」
弘毅は私の書いた手紙を読み、無言で驚いていた。内容はこうだ。
[弘毅、告白は嬉しかった。でも、監視されているわ。
とりあえずデートをするふりして、どこか人の多い所へ向かいましょう。
人が多ければ聞き取りにくいし、尾行も分かり易いわ。
この手紙は後で細かく千切って捨てなさい。
私はどうなっても良いけど、あなたが死ぬのは耐えられない!]
私は弘毅が手紙を読んだタイミングを見測り、再び尋ねる。
「どう? 女の子を口説く勉強になった?」
「ああ、感動的な文だよ。もっと詳しく教えて欲しいな」
「そう? じゃあ、傘は貸してあげない!
私と一緒に相合傘しましょう。今日は二人でデートだよ!」
私達は、村はずれのレストランへ向かった。
ここなら人も多いし、村の人以外も来る。計画を練るのに良い場所だ。
弘毅はしばらく図書室に来ていない。それが気になって仕方ないのだ。
これが事実上の初恋かもしれない。私は冷静な頭でそう考えた。
「うーん、村の風習にこだわり過ぎて、私の事をイヤラシイ子と誤解したかもしれないわね。
ちょっと誘惑したのは裏目に出たのかも。
弘毅、図書室に来難くなっちゃったかもしれないわ。
それなら、女の子らしいアピールでもしてみようかしらね。
得意のケーキでも振る舞えば、少しは近付いてくれるかも……」
私は家庭課室に材料を持ち込み、授業中に調理する。
なかなかの出来栄えのショートケーキができた。
「ふう、これを昼ごはんの時にでも持って行けば、弘毅も喜んでくれるはずだよね♡」
私は出来あがったばかりのケーキを持って、弘毅の教室に向かう。
弘毅を見付けて浮かれていた私は、濡れている床の存在に気が付かなかった。
床で滑ってこけ、弘毅の顔にホールケーキを叩き込んだ。
「あっちゃー、まるでコントの様にこけてしまったわ。
でも、まだ弘毅の顔の上で止まっている。弘毅、動いちゃ駄目よ!」
幸いバランスが良くて落ちなかったので、ケーキを回収して再び弘毅に差し出す。
「ちょっと形が崩れちゃったけど、はい!
私のお手製のショートケーキです。
召し上がれ!」
「これは、何の嫌がらせだ?」
「え? 嫌がらせ?」
「そうだろ!
自分が医者や科学者になれないからって、成績優秀な俺を羨んでいるんだろ!
都会ではそういう扱いをされて、田舎に来てまでこんなバカ女に嫌がらせを受けるなんて最悪だ!」
「酷い! こけたのだって態とじゃないのに。
弘毅の事を思って作ったのに……」
私は泣きながら逃げ出す。
泣く演技だったので、弘毅が見えなくなってから追って来ないかを確認する。
扉越しに弘毅の姿を確認するが、追って来る様子はない。
「ちっぇ、追って来ないか……。
やっぱり嫌われちゃったのかもしれないわね。
待っているからねとか言われれば、私も救われるんだけどな……」
私はしばらくしても弘毅が来ないので、図書室に戻る。
弘毅の教室では、話し合いが沸き起こっていた。
「どうやらエレンも本気でお前を狙い始めたようだな。
まあ、あいつとまともに会話しているのは弘毅君だけだから仕方ないけど……。
それに、このケーキはかなり本気の物だぜ!」
「ああ、この柔らかさと間に入ったフルーツ、本気でなければできないほどの仕上がりになっている。
遊びで作ったレベルじゃないな」
「マジでやばいな。これはケーキ職人以上かも……。
黒沢エレンは、村の風習がなければ何でも出来る天才だからな。
全国模試も推定一位だろう。テストとかもオール満点らしいからな。
まあ、全国模試一位とかになったら他の学校が黙っていないから、黒沢エレンの答案用紙だけは先生達によって抜かされるんだけど……」
「本当に残念だよな。
エレンが男子か、村長になれる制度でもあれば問題ないんだろうけど、女子じゃあ『色欲』にされて、強制的に優秀な子孫を産ませられるだけになるからな。
まあ、この風習自体がそれの狙いだから仕方ないけど……」
「でも、黒沢弘毅と会ってから、エレンもまた可愛くなったよな。
前は全てを諦めた眼をしていたけど、今は恋する乙女の眼になりつつあるような気がする。
ちょっとずつだけどな……」
「どうする弘毅? 今、エレンを追い駆ければ、エレンはお前に惚れるだろうな。
そうすれば、エレンも壊れずに長生きできるだろう。
二十年後に迎えに来るかどうかは、お前次第だけどな」
「でも、変な考えは起こすなよ。
エレンと駆け落ちとか、村の外に逃がそうとすれば、弘毅が抹殺されちゃうかもだぜ!
これは警告でもなく、事実なんだ!」
「最初にこの風習を作った村長は、村で一番の美少女に恋をした。
でも、村長は結婚していたし、世間体もある。
合法的に美少女を手に入れる方法を考えていた。
そこで思い付いたのが、村の過疎化を防ぐために、優秀な家系を作り出す事だった。
美少女は、無理矢理村長に嫁がされ、恋人とも別れさせられた。
村長は優秀な子孫を作るという名目で、優秀な村人を選別し、美少女と子供作りを開始する。
要は、村の権力者達と結託して、美少女を遊女に仕立てたわけだ。
村長の思惑は成功し、彼女は優秀な人材を生み出した。
だが、数年後に計画を阻む奴が現れた。
美少女の恋人が、村長の計画を知り、彼女を救出に来た。
結局、その青年は村人の手で無残に殺され、それ以来誰もこの風習を邪魔する事は無くなった。これが集団犯罪の怖い所だよね。
本来なら道徳的に止める所を、集団団結する事で当たり前の事に変える。
そして、数人を犠牲にする事で、村自体を繁栄させるんだ。
経済の繁栄を妨害されたくない村人達は、集団でこの犯罪に積極的に参加するというわけさ。
まあ、経済も潤す事ができるし、集団による圧力で風習を変える事も出来ない。
弘毅も美味しい想いがしたいなら、この風習に従った方が良いよ。
殺されたくはないだろ?
村の権力者は、この問題が世間にばれる事を恐れて先手を取っている。
仮に、風習を免れても、村長の孫と強制的に結婚させられるだけだからな。
さすがのエレンも泣き寝入りするしかないほどにな!」
「そういう事。
天才エレンでさえ、抵抗する事無く従っているって事は、弘毅ちゃんがどんなに努力しても無駄な事なんだよ。
弘毅ちゃんは、エレンちゃんが望む事をしてあげなよ。
それが一番、エレンちゃんの為になるんだから。
無理に彼女を奪おうとすれば、マジで殺されちゃうよ!」
結局、黒沢弘毅はこの話を聞き、私を追いかけて来る事は無く、昼休みは終了した。
私は一人図書室で紅茶とケーキを食べながら考えていた。
「やっぱり重いよね……。嘘でも、二十年後に私を迎えに来るなんて……。
男達といっぱい交わった後だし、子供も産んだ後だからね。
中学生や高校生じゃあ、逃げてくのが本当か。
このまま恋もせず、無理矢理子供を産ませられるのかもね……」
そんな風に考えていると悲しくなるが、しばらくすると昼のポカポカ陽気に当たって、眠りこけていた。
どのくらい経ったか知らないが、鼻に突然の違和感を覚える。
「何……。鼻が何かに当たっている?」
「成績優秀だけど居眠りって、キミは典型的な不良少女かな?
もしかしたら将来は有望なのかもしれないよ?」
黒沢弘毅が私の鼻の頭を触っていた。
私は寝ボケていたが、次第に頭がはっきりして来る。
「どうかしらね? もう一つの典型的なパターンかもしれないわよ?
全ての教師に見放され、幼馴染から逆に熱烈な心配を受け、就職も出来ないバカのくせに……」
「「突然世界をかけた戦いに巻き込まれる典型的な不良!」」
王道的な漫画のパターンだからか、私と弘毅は同じタイミングで同じセリフを言う。
すると、二人して大爆笑する。
二人が呼んでいる漫画とか、ドラマとかもほとんど一緒だった。
それがちょっとおかしかったのだ。
一通り笑いあった後で、私は紅茶を飲みながら尋ねる。
「で、何しに来たの? お勉強の分からない事でもあった?
保健体育とかも、今ならサービスで教えちゃうかもね……」
「いや、ケーキのお礼を言いたくて……。本当に美味しかった!」
「そう、それは良かったわね。床に落ちたら食べられないからね。
運とバランス感覚が良いわ、あなた」
私は図書室の窓を見て、雨が降り出しそうなのを感じていた。
山の方の学校だから天気は崩れやすい。
私は雨合羽とか、日傘と雨傘の両方の機能が付いている傘とか持っているから対策はバッチリだけど……。
弘毅の様な真面目タイプは、意外と傘を持って来ることが無く、ずぶ濡れで帰るうっかりさんが多い。
そのため心配になりこう訊く。
「傘持っている? なんだったら一本貸してあげようか?
私、たくさん用意してあるから……」
私が傘を選んでいると、弘毅がこう告げる。
「キミが好きだ。結婚したい!」
私は一瞬、何の事か分からず固まる。
理解して嬉しかったが、感情に任せた発言は危険があった。
何とか冷静に対応しなくては……。
「はは、嬉しいよ。私も好きだよ、弘毅! 二十年後に私を迎えに来て!
そうしたら、私は世界一幸せだから!」
「駄目だ! 他の男達なんかに渡さない! 村の奴らも、この世界のどんな奴にもだ!」
私は弘毅の顔を見るが、眼が真剣だった。
嬉しいが、この状況は危険だ。私は訊き返す。
「本気なの? 答えて!」
私も真剣な表情をし、眼で遊びではない事を知らせる。
「本気だとも! 俺と一緒にこの村を逃げるんだ!
ここはキミのいるべき場所じゃないよ!」
私は聞いていて嬉しかったが、同時に弘毅の身に危険が迫っている事を悟る。
この村の風習を誰よりも調べて悟った私だ。
当然、『色欲』を連れて逃げようとした男達の末路も知っていた。
多くの場合は、告白の直後に殺される。これが今までのパターンだ。
このまま図書室を出れば、明日には弘毅は死んでいるかもしれない。
とにかく計画を練る時間が欲しい。
私は突然大声で笑い、弘毅に紅茶を拭きかける。
「ぶっはははは、おかしいわ。ひっひっひ、ごめんなさい。
直接的で嫌いな告白じゃないけど、私の心には響かなかったわ!
女の子はね、手紙で描いたラブレターが欲しい物よ。
そうすれば、思い出として取って置けるでしょう?
それを読み返して、幸せをかみしめるの。
でも、あなたの告白は駄―目!」
私は弘毅にハンカチを渡し、顔を拭かせる。
その間に、手紙を書き、弘毅に渡す。
「せめて、このくらいの愛の告白をしてくれないとね!」
弘毅は私の書いた手紙を読み、無言で驚いていた。内容はこうだ。
[弘毅、告白は嬉しかった。でも、監視されているわ。
とりあえずデートをするふりして、どこか人の多い所へ向かいましょう。
人が多ければ聞き取りにくいし、尾行も分かり易いわ。
この手紙は後で細かく千切って捨てなさい。
私はどうなっても良いけど、あなたが死ぬのは耐えられない!]
私は弘毅が手紙を読んだタイミングを見測り、再び尋ねる。
「どう? 女の子を口説く勉強になった?」
「ああ、感動的な文だよ。もっと詳しく教えて欲しいな」
「そう? じゃあ、傘は貸してあげない!
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