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番外編エピソード 魅惑のケーキマジシャン☆
Bー1 山口美香のその後
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ここは、日本一を決めるケーキの大会会場。
ここで今、グランプリになるのは誰かを、会場の誰もが注目していた。
オレ一人を除いて。
大会の選手のレベル、対戦相手、どれをみてもオレには物足りなかった。
オレはだれよりも上だと自覚していた。
「優勝は、水土大輝選手です!」
そしてオレは当然グランプリになった。
次は、世界大会だが、日本のレベルが低くて、オレのレベルが低いと思われるのは癪だった。
オレは、日本の対戦相手のレベルを上げる目的と自信からこう言った。
どうやらそれが、オレの命取りになったようだ……。
「会場のみなさん、オレの応援ありがとうございます。
しかし、ここは通過点でしかありません。
オレはこの大会会場で十年間トップに立ち、世界グランプリを取ることを誓います。
そして、できなかった時は、ケーキ職人をやめます!」
オレにはできるという自信があった。
この時までは……。
オレは確かに日本一になり、すべてのケーキ職人をねじ伏せた。
オレは、この後十年間トップに居座る気満々だった。
オレは、みんなに祝福され、夜遅くに会場を出る。
会場は嘘のように静まり返り、あの賑やかさはどこにもなかった。
オレが会場を出ると、知り合いは誰もおらず、一人の売れない見習い手品師が観客も付けずに、黙々と練習していた。
「ふん、へたくそだな。さっきから失敗ばっかりじゃないか……」と、オレはつぶやいた。
オレは五分ほど遠くから見ていたが、彼女の手品は一つも成功していなかった。
カードを落としたり、コインが音を立てるほどぶちまけたり、素人でも分かる失敗ぶりだ。
オレも優勝で浮かれていたこともあって、その女手品師の帽子を取り、一万円札を防止の中に入れてやった。
「あ、ありがとうございます……」
彼女は小さい声でそう言う。
オレが通り過ぎてしばらくすると、大きな声で彼女の決め台詞らしきものを、オレに行って来た。
「私のマジックで、あなたのハートにバンバンバキューン!」
オレがその声を聞き振り返ると、彼女が恥ずかしそうに、手で銃を作って立っていた。
「バカみたい……」
オレがそう言った瞬間、彼女は固まってしまった。
わずかに震えている。
彼女をまじまじと見ると、黒い衣装に合わせるために金髪に染めたり、コートを脱いだ時にも可愛く見えるように、デザインに凝っていた。
「ふーん、見た目はまあまあ。
あんた、手品師よりもデザイナーやダンサーの方が成功するんじゃないのか?
手品の才能は全くねえ!」
オレがそう言うと、彼女は座り込んで落ち込む。
「まあ、本人が一番分かっているか。
じゃあな、手品なんてせこい技術を身に付けるより、服のことでも勉強して、デザイナーにでもなるんだな!」
オレはそう言って、彼女と別れた。
「あれが、日本ケーキグランプリ、水島瑞希さんか……。す、素敵……」
彼女は別れ際にそうつぶやいたが、その時、オレは気にも留めなかった。
オレは彼女と別れ、ホテルへ帰る道に向かって歩いて帰る。
オレは、一つの交差点を渡ろうとしていた。
これが、オレの運命を左右する交差点とも知らずに……。
交差点の前には、一台の車が止まっていた。
黒い硝子の車は、エンジンを掛けたまま停止している。
オレは、少し違和感があるけど、そのまま無視して通り過ぎようとした。
次の瞬間、車は急発進して、俺に体当たりをして来た。
オレは身構えることはできたが、車を避けることはできなかった。
オレの体は大きく飛ばされ、冷たい地面に落下した。
大きな音がしたのか、あの女手品師が駆けつけて来た。
オレは、数秒してから駆け付けてきた彼女を見て、「何をそんなに慌てているんだ。何でそんなに悲しい顔をしているんだ……」と、思った。
そして、オレは周りの状況を確認し、たった今事故に遭ったことを理解した。
しかし、近くに彼女がいた為に安心する。
「大変!
えっと、救急車って何番だったっけ……。
ああ、こういう時はどうすればいいんだろう。
えっと、人工呼吸?
でも、呼吸はしてるし……。
じゃあ、止血? 頭の方は大丈夫そうだし……。
うーん、一一〇番だったかしらね?
あの、あなた番号分かりますか?」
オレは生命の危機に瀕していることを理解した。
彼女の携帯電話を奪い取り、自分で救急車を呼ぶことにする。
一通り事故の状況や道路の名前を電話越しに救急隊員に伝えると、オレは力尽きたのか、眠りに落ちて行った。
オレはまぶたを閉じる瞬間に思った。
(ああ、ここで死ぬのか……。良かった、最後に見る女がブスじゃなくて……。
これで、ブスだったなら、死んでも死に切れん!
この女、アホ過ぎる……。コントのように死ぬなんて、まっぴらだぜ……)
オレはそう考えたのだが、彼女は真剣だったようだ。
素晴らしいと思える悲鳴を上げてくれた。
オレが聞いた中で、これ以上はないというくらいの叫びだった。
オペラ歌手の才能もあったのだろう。
そして、オレの意識は遠のいていった。
気が付くと、オレは病院のベッドの中だった。
オレは最初は理解できなかったが、次第に自分のおかれた状況を理解していった。
(どうやら生きてるようだな……。
良かった、電話で応対した隊員は優秀だったようだ。
でなければ、オレの命はなかったかもしれない)
オレがそう考えていると、ベッドの横でリンゴを剥く音がする。
普通はシャリシャリと一定のリズムで剥くが、オレの隣でする音は違った。
ガリ、ガリ、と不規則に剥く音が聞こえてきた。
五歳児の子が懸命に剥いているのかと思い顔を上げると、二十歳前後のあの女手品師が一所懸命に剥いていた。
「あ、気が付きましたか? 大丈夫ですか? お医者さんを呼んで来ましょうか?」と言って話しかけて来た。
「ああ、それよりも何か食べたい……」
昨日の事故から何時間か経過しており、オレの腹はぺこぺこだった。
「あ、良ければこの、アップルをどうぞ!
私のアップル(アイパット)は、子供が持って行ってしまったので、手品の練習になるかと思い、あなたのお金で買って、暇を潰していたのです。よろしければ、ぜひ!」
彼女は、切り方の汚いリンゴを差し出した。
見るだけで食欲を奪う呪われたリンゴを目の当たりにし、オレは医者を呼ぶよう、彼女に催促した。
一刻も早く彼女から逃れたいと思った。
彼女は急いでナースコールを押し、医者を呼んで来る。
呪われたリンゴをオレの膝に残して……。
オレは一人になったことで、自分の置かれた状況が夢でない事を再確認した。
自分の腕を見ると、骨折をした時のギブスが生々しく巻かれている。
(本当に骨折したんだな……。車にひかれる瞬間の記憶はある。
相手の車は、窓ガラスが見えないように、曇りガラスになっていた。
相手の顔も、車のナンバーも覚えてはいない。
だが、確かにオレを狙っていた。直感で分かる。
初めて感じた殺意というものだ……。この病院内は安全だろうか?
理由は分からないが、オレは命を狙われているようだ。
オレの病室にいたあの女、殺し屋とも思えないが注意していたほうが良さそうだな)
オレは、彼女の剥いたリンゴを見る。
(いや、演技じゃないな……。本当に、犯人の一味なら、もう少し綺麗なはずだ……)
オレは天井を見上げつぶやいた。
「本当にケーキ職人やめるとは……。
怪我の程度にもよるが、重傷なら最悪もうケーキは作れないだろう。
そうなると、料理教室とかで生計を立てないとな……」
オレ自身に、ケーキ職人へのこだわりはなかった。
会場で言った言葉も、オレがケーキ作りに厭きてきた正直な気持ちだった。
「せめて世界大会で、優勝してから辞めたかったな……。
こんな中途半端では、未練が出てくるぜ……」
オレは窓を見ながら、何で生計を立てようか考えていた。
すると、ドアが開き、あの女と彼女が呼んできた医者が病室に入って来た。
彼女が呼んできた医者は言う。
「うん、とりあえず生命に別状はないよ。両腕の骨折だけ。
ちょっと重傷だから回復に時間がかかるかもしれないけどね」
それを聞き、彼女はオレ以上に取り乱した。
「そんな!先生、お願いです。
手術でもなんでもいいから、とにかく早く治る方法を教えてください!
彼はケーキ職人です。ケーキを作るしか能がないです。
それなのに両腕を骨折なんて……。
食事はおろか、オシッコも、私のために手を握ってくれることすらできないじゃないですか。あんまりだわ!」
「うーん、まあ、骨折は治したから、手を握るくらいはできると思うよ。
それ以外は、あなたがしっかりとサポートしてあげてください。
彼女なら、そのくらいできますよね?」
「そんな……、出会って二日目で彼女なんて……。
でも、無能になり下がった彼を助けるためですものね。
こういうプライドの高い人は、すぐに自殺とか考え出しますから……」
彼女の言葉を聞き、医者はびっくりする。
「え、彼女じゃないの? 出会って二日目? いや、間違えてすいません。
あんなに付きっきりで心配しているので、つい……」
彼女は、不安になる医者の手を握る。
医者が顔を赤くして照れる。
そんな態度じゃあ、絶対勘違いするだろうが!
「大丈夫です。どうせ、彼氏が必要になる時でしたから。
彼を彼氏として看病します! 心配しないでください。
食事からオシッコ、私を愛することまでさせてみせますから……」
医者はそれを聞き、オレを見て笑う。
「そ、どんな関係かは、分かんないけどしっかり……」
「はい! それで、この無能さんが、唯一の取り柄であるケーキ作りができるようになるまでどのくらいかかりますか?」
「え? ああ、まあ、三ヶ月くらいかな。
骨を固定して、動けるようになるまでそのくらい。
日常生活ができるようになるまで半年。
完全回復は、一年以上ってところですかね」
「じゃあ、ケーキが作れるようになるまでは、三ヶ月といったところですね」
「うん。ギブスが取れるのは、そのくらいかな。
それ以後も、重い物を持ったりしなければ、半年ほどで仕事ができるようになると思うよ!」
彼女は喜んで言う。
「良かった! 無能な彼氏じゃ、どうしようかと思ってましたもん。
三ヶ月くらいなら、私が何とかしてみせます!」
「まあ、頑張ってくださいよ!」
医者は、オレの背中を軽く叩いてから、病室を出て行った。
「というわけで、これからよろしくお願いします!」
彼女はオレに、笑顔でそう言って来た。
この女は、ヤバイ!
ストーカーの素質がある!
本編の(光宮守)主人公が若返って一年後くらいの設定です。
ここで今、グランプリになるのは誰かを、会場の誰もが注目していた。
オレ一人を除いて。
大会の選手のレベル、対戦相手、どれをみてもオレには物足りなかった。
オレはだれよりも上だと自覚していた。
「優勝は、水土大輝選手です!」
そしてオレは当然グランプリになった。
次は、世界大会だが、日本のレベルが低くて、オレのレベルが低いと思われるのは癪だった。
オレは、日本の対戦相手のレベルを上げる目的と自信からこう言った。
どうやらそれが、オレの命取りになったようだ……。
「会場のみなさん、オレの応援ありがとうございます。
しかし、ここは通過点でしかありません。
オレはこの大会会場で十年間トップに立ち、世界グランプリを取ることを誓います。
そして、できなかった時は、ケーキ職人をやめます!」
オレにはできるという自信があった。
この時までは……。
オレは確かに日本一になり、すべてのケーキ職人をねじ伏せた。
オレは、この後十年間トップに居座る気満々だった。
オレは、みんなに祝福され、夜遅くに会場を出る。
会場は嘘のように静まり返り、あの賑やかさはどこにもなかった。
オレが会場を出ると、知り合いは誰もおらず、一人の売れない見習い手品師が観客も付けずに、黙々と練習していた。
「ふん、へたくそだな。さっきから失敗ばっかりじゃないか……」と、オレはつぶやいた。
オレは五分ほど遠くから見ていたが、彼女の手品は一つも成功していなかった。
カードを落としたり、コインが音を立てるほどぶちまけたり、素人でも分かる失敗ぶりだ。
オレも優勝で浮かれていたこともあって、その女手品師の帽子を取り、一万円札を防止の中に入れてやった。
「あ、ありがとうございます……」
彼女は小さい声でそう言う。
オレが通り過ぎてしばらくすると、大きな声で彼女の決め台詞らしきものを、オレに行って来た。
「私のマジックで、あなたのハートにバンバンバキューン!」
オレがその声を聞き振り返ると、彼女が恥ずかしそうに、手で銃を作って立っていた。
「バカみたい……」
オレがそう言った瞬間、彼女は固まってしまった。
わずかに震えている。
彼女をまじまじと見ると、黒い衣装に合わせるために金髪に染めたり、コートを脱いだ時にも可愛く見えるように、デザインに凝っていた。
「ふーん、見た目はまあまあ。
あんた、手品師よりもデザイナーやダンサーの方が成功するんじゃないのか?
手品の才能は全くねえ!」
オレがそう言うと、彼女は座り込んで落ち込む。
「まあ、本人が一番分かっているか。
じゃあな、手品なんてせこい技術を身に付けるより、服のことでも勉強して、デザイナーにでもなるんだな!」
オレはそう言って、彼女と別れた。
「あれが、日本ケーキグランプリ、水島瑞希さんか……。す、素敵……」
彼女は別れ際にそうつぶやいたが、その時、オレは気にも留めなかった。
オレは彼女と別れ、ホテルへ帰る道に向かって歩いて帰る。
オレは、一つの交差点を渡ろうとしていた。
これが、オレの運命を左右する交差点とも知らずに……。
交差点の前には、一台の車が止まっていた。
黒い硝子の車は、エンジンを掛けたまま停止している。
オレは、少し違和感があるけど、そのまま無視して通り過ぎようとした。
次の瞬間、車は急発進して、俺に体当たりをして来た。
オレは身構えることはできたが、車を避けることはできなかった。
オレの体は大きく飛ばされ、冷たい地面に落下した。
大きな音がしたのか、あの女手品師が駆けつけて来た。
オレは、数秒してから駆け付けてきた彼女を見て、「何をそんなに慌てているんだ。何でそんなに悲しい顔をしているんだ……」と、思った。
そして、オレは周りの状況を確認し、たった今事故に遭ったことを理解した。
しかし、近くに彼女がいた為に安心する。
「大変!
えっと、救急車って何番だったっけ……。
ああ、こういう時はどうすればいいんだろう。
えっと、人工呼吸?
でも、呼吸はしてるし……。
じゃあ、止血? 頭の方は大丈夫そうだし……。
うーん、一一〇番だったかしらね?
あの、あなた番号分かりますか?」
オレは生命の危機に瀕していることを理解した。
彼女の携帯電話を奪い取り、自分で救急車を呼ぶことにする。
一通り事故の状況や道路の名前を電話越しに救急隊員に伝えると、オレは力尽きたのか、眠りに落ちて行った。
オレはまぶたを閉じる瞬間に思った。
(ああ、ここで死ぬのか……。良かった、最後に見る女がブスじゃなくて……。
これで、ブスだったなら、死んでも死に切れん!
この女、アホ過ぎる……。コントのように死ぬなんて、まっぴらだぜ……)
オレはそう考えたのだが、彼女は真剣だったようだ。
素晴らしいと思える悲鳴を上げてくれた。
オレが聞いた中で、これ以上はないというくらいの叫びだった。
オペラ歌手の才能もあったのだろう。
そして、オレの意識は遠のいていった。
気が付くと、オレは病院のベッドの中だった。
オレは最初は理解できなかったが、次第に自分のおかれた状況を理解していった。
(どうやら生きてるようだな……。
良かった、電話で応対した隊員は優秀だったようだ。
でなければ、オレの命はなかったかもしれない)
オレがそう考えていると、ベッドの横でリンゴを剥く音がする。
普通はシャリシャリと一定のリズムで剥くが、オレの隣でする音は違った。
ガリ、ガリ、と不規則に剥く音が聞こえてきた。
五歳児の子が懸命に剥いているのかと思い顔を上げると、二十歳前後のあの女手品師が一所懸命に剥いていた。
「あ、気が付きましたか? 大丈夫ですか? お医者さんを呼んで来ましょうか?」と言って話しかけて来た。
「ああ、それよりも何か食べたい……」
昨日の事故から何時間か経過しており、オレの腹はぺこぺこだった。
「あ、良ければこの、アップルをどうぞ!
私のアップル(アイパット)は、子供が持って行ってしまったので、手品の練習になるかと思い、あなたのお金で買って、暇を潰していたのです。よろしければ、ぜひ!」
彼女は、切り方の汚いリンゴを差し出した。
見るだけで食欲を奪う呪われたリンゴを目の当たりにし、オレは医者を呼ぶよう、彼女に催促した。
一刻も早く彼女から逃れたいと思った。
彼女は急いでナースコールを押し、医者を呼んで来る。
呪われたリンゴをオレの膝に残して……。
オレは一人になったことで、自分の置かれた状況が夢でない事を再確認した。
自分の腕を見ると、骨折をした時のギブスが生々しく巻かれている。
(本当に骨折したんだな……。車にひかれる瞬間の記憶はある。
相手の車は、窓ガラスが見えないように、曇りガラスになっていた。
相手の顔も、車のナンバーも覚えてはいない。
だが、確かにオレを狙っていた。直感で分かる。
初めて感じた殺意というものだ……。この病院内は安全だろうか?
理由は分からないが、オレは命を狙われているようだ。
オレの病室にいたあの女、殺し屋とも思えないが注意していたほうが良さそうだな)
オレは、彼女の剥いたリンゴを見る。
(いや、演技じゃないな……。本当に、犯人の一味なら、もう少し綺麗なはずだ……)
オレは天井を見上げつぶやいた。
「本当にケーキ職人やめるとは……。
怪我の程度にもよるが、重傷なら最悪もうケーキは作れないだろう。
そうなると、料理教室とかで生計を立てないとな……」
オレ自身に、ケーキ職人へのこだわりはなかった。
会場で言った言葉も、オレがケーキ作りに厭きてきた正直な気持ちだった。
「せめて世界大会で、優勝してから辞めたかったな……。
こんな中途半端では、未練が出てくるぜ……」
オレは窓を見ながら、何で生計を立てようか考えていた。
すると、ドアが開き、あの女と彼女が呼んできた医者が病室に入って来た。
彼女が呼んできた医者は言う。
「うん、とりあえず生命に別状はないよ。両腕の骨折だけ。
ちょっと重傷だから回復に時間がかかるかもしれないけどね」
それを聞き、彼女はオレ以上に取り乱した。
「そんな!先生、お願いです。
手術でもなんでもいいから、とにかく早く治る方法を教えてください!
彼はケーキ職人です。ケーキを作るしか能がないです。
それなのに両腕を骨折なんて……。
食事はおろか、オシッコも、私のために手を握ってくれることすらできないじゃないですか。あんまりだわ!」
「うーん、まあ、骨折は治したから、手を握るくらいはできると思うよ。
それ以外は、あなたがしっかりとサポートしてあげてください。
彼女なら、そのくらいできますよね?」
「そんな……、出会って二日目で彼女なんて……。
でも、無能になり下がった彼を助けるためですものね。
こういうプライドの高い人は、すぐに自殺とか考え出しますから……」
彼女の言葉を聞き、医者はびっくりする。
「え、彼女じゃないの? 出会って二日目? いや、間違えてすいません。
あんなに付きっきりで心配しているので、つい……」
彼女は、不安になる医者の手を握る。
医者が顔を赤くして照れる。
そんな態度じゃあ、絶対勘違いするだろうが!
「大丈夫です。どうせ、彼氏が必要になる時でしたから。
彼を彼氏として看病します! 心配しないでください。
食事からオシッコ、私を愛することまでさせてみせますから……」
医者はそれを聞き、オレを見て笑う。
「そ、どんな関係かは、分かんないけどしっかり……」
「はい! それで、この無能さんが、唯一の取り柄であるケーキ作りができるようになるまでどのくらいかかりますか?」
「え? ああ、まあ、三ヶ月くらいかな。
骨を固定して、動けるようになるまでそのくらい。
日常生活ができるようになるまで半年。
完全回復は、一年以上ってところですかね」
「じゃあ、ケーキが作れるようになるまでは、三ヶ月といったところですね」
「うん。ギブスが取れるのは、そのくらいかな。
それ以後も、重い物を持ったりしなければ、半年ほどで仕事ができるようになると思うよ!」
彼女は喜んで言う。
「良かった! 無能な彼氏じゃ、どうしようかと思ってましたもん。
三ヶ月くらいなら、私が何とかしてみせます!」
「まあ、頑張ってくださいよ!」
医者は、オレの背中を軽く叩いてから、病室を出て行った。
「というわけで、これからよろしくお願いします!」
彼女はオレに、笑顔でそう言って来た。
この女は、ヤバイ!
ストーカーの素質がある!
本編の(光宮守)主人公が若返って一年後くらいの設定です。
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