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番外編エピソード 魅惑のケーキマジシャン☆
Bー9 ケーキマジック完成!
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オレと美香は、ついにプリンケーキを使ったケーキマジックを、美香の父親に披露することになった。
美香の希望で、美香がプリンケーキを作り、父親と母親を驚かせた。
「バカな! あの美香が、あの美香が、一人でプリンケーキを作っているなんて……」
「しかも、とってもおいしそうですよ、お父さん……」
「うう、生きてて良かった! 美香のプリンケーキが食べられる日が来るなんて……」
「本当ですね、お父さん……」
二人して涙を流す。それにつられ、男達も泣き出した。
(大げさ過ぎるだろ……。美香は別に、料理が下手なわけじゃない。
ただ、アホなだけなはず……)
オレは焦って、冷や汗を流す。
「まあ、父親と母親なんてあんなもんだろ。
娘が作って美味しそうな料理なら、何でもうれしいんだ」
「なんで反応が、小学生が初めて料理を作ったような反応なんだよ。おかしいだろ?」
「ふっ、それだけ美香の失敗は頻繁なんだ。成功する可能性は、かなり低い!」
「なんて悲しい理由なんだ……」
聡美ちゃんの話を聞き、オレも思わず涙が、頬を濡らした。
美香のプリンケーキが完成し、次は、オレが練習した手品を披露することになった。
「このプリンケーキは、まだ切られておりません。
しかし、オレの魔法の指により、ケーキは人数分切られていきます!」
オレは練習した通り、スムーズに手品を見せていく。
「さあ、人数分切れました。どうぞ、ケーキをお取りください」
美香はトングを使い、ケーキを皿に乗せていく。八人分のケーキが行き渡った。
「ん? なるほど、なかなかやるな!」
「まあ、ケーキが自然に八人分にカットされたわ!」
美香の時の反応とは違い、二人のオレの手品に対する反応は微妙だった。
美香の父親は、オレの手品を分析し始めていた。
「ふーむ、なるほど。手にワイヤーを持っているな?
気付かれないようにしているが、私には分かっているよ!
指と指の間にワイヤーを張り、それでケーキを八人分に切ったというわけだ」
「あら、そうなの? 全然、気が付かなかったわ……。すごいわ!」
「ああ、確かにすごい技術だった。
ワイヤーの影を、自らの影に隠すことで、気付かれないようにしていた。
手の怪我が完全に治っていなくても、これほどの手品ができるとは……。
これは期待できそうだ」
「まあ、手を怪我していたの? それさえも分からなかったわ!」
「しかし、詰めが甘かったな。私達と君達、全員合わせても七人分しかいない!
人数分までをしっかりと把握しておかなければ、客は驚きはせんぞ!」
父親のその言葉を聞き、聡美ちゃんが助け船を出した。
「ちょっと待った! 実は、もう一人いるんだよ。
紹介するよ、アタシの友達の八房玉子ちゃんだよ。今日は、一緒に遊んでたんだ」
「どうも、八房玉子です。聡美ちゃんとは、仲良くしてもらってます!」
その子の登場により、必要なケーキの数は八つになった。
美香の父親と母親は、かなり驚いている。
「バ、バ、バカな……。あの聡美ちゃんに友達だと……。
同い年のクソガキとは、話題が合わないと言っていたあの子に友達だと……」
「しかも、すごい礼儀正しい子ですよ。え、本当に?
いつも遊んでる、なんて驚きなのかしら……。あ、涙が……」
なぜか、美香の父親と母親は、今日一番の感動をしていた。
「ふーむ、手品の技術、手品の見せ方、ともに合格だ!
私は大輝君を、美香のパートナーと認めよう。
ケーキマジックも自由にできるように出来る限りの協力をしよう!」
美香の父親は、オレにそう言って褒めてくれた。美香も大喜びする。
「やりました! 新しいジャンルのマジックを開発できますよ。もちろん、二人で……」
しかし、美香の父親の話は、まだ終わっていなかった。
「ただし、ケーキ大会に参加するのは、反対だ!
今のままでは、予選を通ることすらできまい。
結果が分かっている勝負を、君達にさせるわけにはいかんよ……」
「そんな……」
美香の父親は、厳しい表情でオレに語る。
「もしも、ケーキの大会に参加するとなると、中途半端なマジックは、あだとなるだろうな。それこそ、大輝君の両腕が邪魔となる。
両腕がない状態でケーキを作るなら、グランプリも可能かもしれないがね……」
「え? どういうことです?」
「大輝君は両腕もあるし、怪我もそのうち完治するだろう。
そうなったら、マジックという手段でケーキを演出したとしても、誰も感動しないだろうな……。
それどころか、大会自体をバカにしたと見られるだろう。
なら、どうすればいいか分かるかな?」
美香の父親は、オレを挑発するように尋ねる。
「ケーキマジックで、ケーキ大会に参加して勝ち抜くには、技術もケーキ作りも全く知らない美香を参加させて、美香にできる範囲内でケーキを作り出すこと。
これがケーキ大会を勝ち抜く方法ですね!」
「ふむ、正解だ!
君も分かっていると思うが、美香は小さい時に怪我をして、手がうまく使えないのだ。
細かい作業は、全く期待できない。
その限られた状況下で、美香がケーキマジックでうまいケーキを作り出すなら、多くの人が感動することだろう。
君は、ケーキを作り出す知識がある。
それで、美香に作れるケーキをマジックのように生みだすこと、これが私の思い描くケーキマジックだ!」
美香の父親は、オレの様子を窺うように見る。
「別に、無理強いはしないよ。
君なら、普通にケーキを作っても、ケーキ大会に勝てるだろうからな……」
オレは、美香をちらりと見てから言う。
「オレは、美香とケーキマジックで、最高の舞台に連れて行くと約束しました。
それに、あなたなら分かると思いますが、こんな面白い挑戦を、オレ以外の奴ができるわけありませんよ!」
「そうか、私の娘は、君に頼んだよ!」
美香の父親はそう言って、オレの背中を軽く叩いた。
「テレビに出ることを、心待ちにしていますよ」
美香の母親もオレ達にそう語る。
そして、プリンケーキを食べて満足し、二人はお供を連れて帰って行った。
「玉ちゃんももう帰れ。だいぶ遅くなってきたからな」
「うん! お兄ちゃん、また今度、ケーキの作り方を教えてね!」
聡美ちゃんは、玉子ちゃんを送って行った。
オレと美香だけが、家に残されていた。
美香は心配そうに、オレに話しかけて来た。
「いいんですか? 私なんかのために、あんな無謀な挑戦をしてしまって……。
両腕が完治して、普通にケーキ大会に参加すれば、大輝さんなら優勝できます。
私のために、そんな危険を冒さなくても結構です!」
「はあー、危険? 美香、実はオレ、来年のケーキ世界大会に無条件で参加できるんだ。シード枠で参加することになった。
もう、来年の日本ケーキ大会に出る必要もないぜ!
怪我が理由で参加できないなんて、かわいそうってことで、多くの人が支持してくれたんだ。今年はもう間に合わないけど、来年の世界大会なら余裕!
まあ、暇潰しに、お前のケーキマジックの指導をしてやるぜ!」
美香はくやしい表情をして、オレを睨む。
「そうですか。それは良かったですね……。
私なんて、ケーキの知識も、手品もろくに出来ないのに……。
すぐに負けてしまうのが、落ちですよね……」
「バーカ、最高の舞台に連れて行ってやるって言っただろ!
世界大会の決勝は、俺とお前の対決だ!
最高の舞台で、お前を、ボロクソに蹴り落としてやるよ!」
「ふんだ、ケーキ作りと手品を覚えて、私のケーキマジックで、世界一のピエロにしてあげますよ!」
「楽しみにしてるぜ!」
オレと美香は、しっかりと握手をした。
「あっ、忘れてました。あの、これ……」
美香は、オレに手紙らしきものを渡して来た。
「ん? 何だ? お前の父さんと母さんの感感謝の手紙か? それとも果たし状?」
オレは中身を確認する。
「いえ、今月分の家賃です。
丁度一ヶ月住んでたんで、一ヶ月分の家賃を丸々払ってください。
もー、家賃を毎月払うの大変だったんですよ。
ずっと居てくれてもいいですよ。てか、居てください!」
「アホか! 今月だけで十分だ、こんな家!」
「え? 大輝、この家を出て行っちゃうの?
やだ! 大輝が出て行ったら、アタシ死んじゃう!」
玉子ちゃんを送って帰って来た聡美ちゃんが、オレに泣き付いて来る。
「そうですよ。大輝さんがいなかったら、私達、来月食べる物が無いんです。
自生しているキノコや山菜で身を繋ぐしかないんです」
「うわ―ん、リアルにニュースで、毒キノコを食べて死亡なんて、嫌だよ!」
「お父さんとお母さん、本当にやばくならないと助けてくれないんです。
今、大輝さんが出て行ったら、飢え死にか、毒キノコで死んでます!」
オレは、美香と聡美ちゃんに言う。
「なら、両親に頼むんだな。今が、本当にやばい時だろ?」
美香と聡美ちゃんは、恐ろしい事実を述べた。
「バカ! 本当にやばい時は、美香とアタシが毒キノコを食って倒れたときとかだ!」
「人間、そう簡単には、死なないもんだとか言って、真剣に取り合ってくれないんです。部屋に侵入しても、あの男達に取り押さえられます。
もう、大輝さんに頼るしか方法がないんです!」
(そうか、あの男達は美香対策だったのか。
しっかりした子に育って欲しかったが、こんな変態になってしまったんだな……)
オレは妙に納得した。
「分かった、分かったよ! オレの怪我が、完治するまでだぞ」
「大輝さん、う・れ・し・い!」
美香は、オレに抱きついてくる。
美香の胸が、オレの腕に当たる。
オレは思わず、美香を抱きしめてしまった。
聡美ちゃんは美香に尋ねた。
「おお、美香、それも恋愛マジックなのか?」
「はい! 人間には、パーソナル・スペースと呼ばれる空間があり、相手との人間関係に応じて、近づいても良い距離が決まっています。
親しい友人なら約四十五センチ、恋人なら十五センチです。
これ以上の距離に近づく状況を作り出すことにより、アズ・イフの法則が……」
「この、お前らがこの家から出て行け!」
オレは、淡々と語る美香に怒りを感じた。
「ああ、分かりました。このマンションは、今月いっぱいにします。
来月は、大輝さんのお家で生活します。意外と近い場所でしたから……。
そう言うことですね?」
「全然違う!」
「でも、ケーキの修業をするなら、大輝さんの工房から近いほうがいいかと……」
この後、彼女達は、オレの家に強制的に住みついて来た。
オレの波乱は、幕を開けたばかりだ。変態女手品師、山口美香。
彼女が魅惑なケーキマジシャンになるのは、まだまだ先が長く遠いようだ。
その後、なんやかんや遭ってオレ達は結婚した。
美香の希望で、美香がプリンケーキを作り、父親と母親を驚かせた。
「バカな! あの美香が、あの美香が、一人でプリンケーキを作っているなんて……」
「しかも、とってもおいしそうですよ、お父さん……」
「うう、生きてて良かった! 美香のプリンケーキが食べられる日が来るなんて……」
「本当ですね、お父さん……」
二人して涙を流す。それにつられ、男達も泣き出した。
(大げさ過ぎるだろ……。美香は別に、料理が下手なわけじゃない。
ただ、アホなだけなはず……)
オレは焦って、冷や汗を流す。
「まあ、父親と母親なんてあんなもんだろ。
娘が作って美味しそうな料理なら、何でもうれしいんだ」
「なんで反応が、小学生が初めて料理を作ったような反応なんだよ。おかしいだろ?」
「ふっ、それだけ美香の失敗は頻繁なんだ。成功する可能性は、かなり低い!」
「なんて悲しい理由なんだ……」
聡美ちゃんの話を聞き、オレも思わず涙が、頬を濡らした。
美香のプリンケーキが完成し、次は、オレが練習した手品を披露することになった。
「このプリンケーキは、まだ切られておりません。
しかし、オレの魔法の指により、ケーキは人数分切られていきます!」
オレは練習した通り、スムーズに手品を見せていく。
「さあ、人数分切れました。どうぞ、ケーキをお取りください」
美香はトングを使い、ケーキを皿に乗せていく。八人分のケーキが行き渡った。
「ん? なるほど、なかなかやるな!」
「まあ、ケーキが自然に八人分にカットされたわ!」
美香の時の反応とは違い、二人のオレの手品に対する反応は微妙だった。
美香の父親は、オレの手品を分析し始めていた。
「ふーむ、なるほど。手にワイヤーを持っているな?
気付かれないようにしているが、私には分かっているよ!
指と指の間にワイヤーを張り、それでケーキを八人分に切ったというわけだ」
「あら、そうなの? 全然、気が付かなかったわ……。すごいわ!」
「ああ、確かにすごい技術だった。
ワイヤーの影を、自らの影に隠すことで、気付かれないようにしていた。
手の怪我が完全に治っていなくても、これほどの手品ができるとは……。
これは期待できそうだ」
「まあ、手を怪我していたの? それさえも分からなかったわ!」
「しかし、詰めが甘かったな。私達と君達、全員合わせても七人分しかいない!
人数分までをしっかりと把握しておかなければ、客は驚きはせんぞ!」
父親のその言葉を聞き、聡美ちゃんが助け船を出した。
「ちょっと待った! 実は、もう一人いるんだよ。
紹介するよ、アタシの友達の八房玉子ちゃんだよ。今日は、一緒に遊んでたんだ」
「どうも、八房玉子です。聡美ちゃんとは、仲良くしてもらってます!」
その子の登場により、必要なケーキの数は八つになった。
美香の父親と母親は、かなり驚いている。
「バ、バ、バカな……。あの聡美ちゃんに友達だと……。
同い年のクソガキとは、話題が合わないと言っていたあの子に友達だと……」
「しかも、すごい礼儀正しい子ですよ。え、本当に?
いつも遊んでる、なんて驚きなのかしら……。あ、涙が……」
なぜか、美香の父親と母親は、今日一番の感動をしていた。
「ふーむ、手品の技術、手品の見せ方、ともに合格だ!
私は大輝君を、美香のパートナーと認めよう。
ケーキマジックも自由にできるように出来る限りの協力をしよう!」
美香の父親は、オレにそう言って褒めてくれた。美香も大喜びする。
「やりました! 新しいジャンルのマジックを開発できますよ。もちろん、二人で……」
しかし、美香の父親の話は、まだ終わっていなかった。
「ただし、ケーキ大会に参加するのは、反対だ!
今のままでは、予選を通ることすらできまい。
結果が分かっている勝負を、君達にさせるわけにはいかんよ……」
「そんな……」
美香の父親は、厳しい表情でオレに語る。
「もしも、ケーキの大会に参加するとなると、中途半端なマジックは、あだとなるだろうな。それこそ、大輝君の両腕が邪魔となる。
両腕がない状態でケーキを作るなら、グランプリも可能かもしれないがね……」
「え? どういうことです?」
「大輝君は両腕もあるし、怪我もそのうち完治するだろう。
そうなったら、マジックという手段でケーキを演出したとしても、誰も感動しないだろうな……。
それどころか、大会自体をバカにしたと見られるだろう。
なら、どうすればいいか分かるかな?」
美香の父親は、オレを挑発するように尋ねる。
「ケーキマジックで、ケーキ大会に参加して勝ち抜くには、技術もケーキ作りも全く知らない美香を参加させて、美香にできる範囲内でケーキを作り出すこと。
これがケーキ大会を勝ち抜く方法ですね!」
「ふむ、正解だ!
君も分かっていると思うが、美香は小さい時に怪我をして、手がうまく使えないのだ。
細かい作業は、全く期待できない。
その限られた状況下で、美香がケーキマジックでうまいケーキを作り出すなら、多くの人が感動することだろう。
君は、ケーキを作り出す知識がある。
それで、美香に作れるケーキをマジックのように生みだすこと、これが私の思い描くケーキマジックだ!」
美香の父親は、オレの様子を窺うように見る。
「別に、無理強いはしないよ。
君なら、普通にケーキを作っても、ケーキ大会に勝てるだろうからな……」
オレは、美香をちらりと見てから言う。
「オレは、美香とケーキマジックで、最高の舞台に連れて行くと約束しました。
それに、あなたなら分かると思いますが、こんな面白い挑戦を、オレ以外の奴ができるわけありませんよ!」
「そうか、私の娘は、君に頼んだよ!」
美香の父親はそう言って、オレの背中を軽く叩いた。
「テレビに出ることを、心待ちにしていますよ」
美香の母親もオレ達にそう語る。
そして、プリンケーキを食べて満足し、二人はお供を連れて帰って行った。
「玉ちゃんももう帰れ。だいぶ遅くなってきたからな」
「うん! お兄ちゃん、また今度、ケーキの作り方を教えてね!」
聡美ちゃんは、玉子ちゃんを送って行った。
オレと美香だけが、家に残されていた。
美香は心配そうに、オレに話しかけて来た。
「いいんですか? 私なんかのために、あんな無謀な挑戦をしてしまって……。
両腕が完治して、普通にケーキ大会に参加すれば、大輝さんなら優勝できます。
私のために、そんな危険を冒さなくても結構です!」
「はあー、危険? 美香、実はオレ、来年のケーキ世界大会に無条件で参加できるんだ。シード枠で参加することになった。
もう、来年の日本ケーキ大会に出る必要もないぜ!
怪我が理由で参加できないなんて、かわいそうってことで、多くの人が支持してくれたんだ。今年はもう間に合わないけど、来年の世界大会なら余裕!
まあ、暇潰しに、お前のケーキマジックの指導をしてやるぜ!」
美香はくやしい表情をして、オレを睨む。
「そうですか。それは良かったですね……。
私なんて、ケーキの知識も、手品もろくに出来ないのに……。
すぐに負けてしまうのが、落ちですよね……」
「バーカ、最高の舞台に連れて行ってやるって言っただろ!
世界大会の決勝は、俺とお前の対決だ!
最高の舞台で、お前を、ボロクソに蹴り落としてやるよ!」
「ふんだ、ケーキ作りと手品を覚えて、私のケーキマジックで、世界一のピエロにしてあげますよ!」
「楽しみにしてるぜ!」
オレと美香は、しっかりと握手をした。
「あっ、忘れてました。あの、これ……」
美香は、オレに手紙らしきものを渡して来た。
「ん? 何だ? お前の父さんと母さんの感感謝の手紙か? それとも果たし状?」
オレは中身を確認する。
「いえ、今月分の家賃です。
丁度一ヶ月住んでたんで、一ヶ月分の家賃を丸々払ってください。
もー、家賃を毎月払うの大変だったんですよ。
ずっと居てくれてもいいですよ。てか、居てください!」
「アホか! 今月だけで十分だ、こんな家!」
「え? 大輝、この家を出て行っちゃうの?
やだ! 大輝が出て行ったら、アタシ死んじゃう!」
玉子ちゃんを送って帰って来た聡美ちゃんが、オレに泣き付いて来る。
「そうですよ。大輝さんがいなかったら、私達、来月食べる物が無いんです。
自生しているキノコや山菜で身を繋ぐしかないんです」
「うわ―ん、リアルにニュースで、毒キノコを食べて死亡なんて、嫌だよ!」
「お父さんとお母さん、本当にやばくならないと助けてくれないんです。
今、大輝さんが出て行ったら、飢え死にか、毒キノコで死んでます!」
オレは、美香と聡美ちゃんに言う。
「なら、両親に頼むんだな。今が、本当にやばい時だろ?」
美香と聡美ちゃんは、恐ろしい事実を述べた。
「バカ! 本当にやばい時は、美香とアタシが毒キノコを食って倒れたときとかだ!」
「人間、そう簡単には、死なないもんだとか言って、真剣に取り合ってくれないんです。部屋に侵入しても、あの男達に取り押さえられます。
もう、大輝さんに頼るしか方法がないんです!」
(そうか、あの男達は美香対策だったのか。
しっかりした子に育って欲しかったが、こんな変態になってしまったんだな……)
オレは妙に納得した。
「分かった、分かったよ! オレの怪我が、完治するまでだぞ」
「大輝さん、う・れ・し・い!」
美香は、オレに抱きついてくる。
美香の胸が、オレの腕に当たる。
オレは思わず、美香を抱きしめてしまった。
聡美ちゃんは美香に尋ねた。
「おお、美香、それも恋愛マジックなのか?」
「はい! 人間には、パーソナル・スペースと呼ばれる空間があり、相手との人間関係に応じて、近づいても良い距離が決まっています。
親しい友人なら約四十五センチ、恋人なら十五センチです。
これ以上の距離に近づく状況を作り出すことにより、アズ・イフの法則が……」
「この、お前らがこの家から出て行け!」
オレは、淡々と語る美香に怒りを感じた。
「ああ、分かりました。このマンションは、今月いっぱいにします。
来月は、大輝さんのお家で生活します。意外と近い場所でしたから……。
そう言うことですね?」
「全然違う!」
「でも、ケーキの修業をするなら、大輝さんの工房から近いほうがいいかと……」
この後、彼女達は、オレの家に強制的に住みついて来た。
オレの波乱は、幕を開けたばかりだ。変態女手品師、山口美香。
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