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聞こえてしまった言葉
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「お父様、お願い!」
それは、わたしの魔法の言葉だった。
「リンカのお願いなら、仕方ないな」
わたしにとびきり甘いお父様は、いつもそういって、わたしの願い事を叶えてくれた。
甘いケーキに、かわいいドレス、ふわふわなぬいぐるみ。そして果ては──婚約者まで。
わたしが、欲しいもの全て。その言葉で叶ってきた、そう思っていた。……けれど。
わたしが今一番欲しいもの。それは、どうやらその魔法の言葉でさえも、手に入れることは出来ないらしい。
「あぁ、リンカ? 彼女は確かに私の人生をねじ曲げた。彼女のせいで、私の人生は滅茶苦茶だ。私の生活の全ては、彼女を中心に回ってるよ」
◇◇◇
婚約者である第二王子のノルツ殿下と、わたしの出会いは、ノルツ殿下のお披露目パーティだった。
そこでわたしは、ノルツ殿下に一目惚れをしたのだ。
さらさらで海のように青い髪に、どんな宝石よりも美しい新緑の瞳。
ノルツ殿下のお友だちを作る、という名目のもと行われたお披露目パーティだったけれど。たちまちノルツ殿下の虜になったわたしは、帰るなりお父様にいつもの魔法の言葉で頼み込んだ。
「お父様、お願い! わたしを、ノルツ殿下の婚約者にして」
けれどいつもならすぐに頷くはずのお父様は、渋った。
「だが、ノルツ殿下には──」
「お願い、お父様! わたしが、ノルツ殿下の婚約者になりたいの!」
わたしがそう言ってもお父様は渋っていたけれど、何度も何度も、ノルツ殿下じゃないとダメなのだというと、ついにお父様も折れてくれた。
「わかったよ、リンカ」
──実は、この時既にアーネシア侯爵令嬢が婚約者として内定していた、らしい。
けれど公爵家の膨大な力でそれは取り消され、ノルツ殿下の婚約者の座にわたしが収まった。
ノルツ殿下は力ずくで婚約したわたしに、とても優しかった。
だから、わたしは勘違いしてしまった。
ノルツ殿下は、わたしのことが好きなのだと。
──本当は、ノルツ殿下は、こんなにもわたしのことを恨んでいたというのに。
今日は友人であるお兄様に会いに来ていたノルツ殿下を一目でも見たくて、応接室を訪れた。
応接室の扉は僅かに開いており、そこから声が聞こえたのだ。それが誰の声かと聞き間違えるはずもない。けれど、それは聞いたことがないほど、ほの暗い色を含んでいた。
ノックをしようとした手を止め、踵を返し、自室まで走った。
震える手で扉に鍵をかけてベッドの布団に潜り込み、きつく目を閉じる。
さっきのは、夢だ。夢に違いない。
けれど先程のノルツ殿下の声が頭の中で何度も聞こえてきた。
『彼女のせいで、私の人生は滅茶苦茶だ』
頭を振っても、声は止まらない。
「ちがう、ちがうわ。わたしのせいなんか、じゃ──」
わたしのせいで滅茶苦茶になってなんかいない。
だって、ノルツ殿下はわたしにたくさん笑いかけてくれた。手を握ってくれた。
だから。
『私の生活の全ては、彼女を中心に回ってるよ』
「……!」
たしかに。いつも、わたしは会いたいだの、寂しいだのと何かと理由をつけては、ノルツ殿下の元へおしかけていた。
でも、それが迷惑だなんて気付かなかった。気付きたくなかった。
「ノルツ、殿下……」
どんなに恨まれていたのだとしても、わたしはノルツ殿下が好きだ。
でも、これ以上愛するノルツ殿下に恨まれたくない。
だから。
わたしは、流した涙を指でぬぐうと、布団を出た。
「婚約を──解消しましょう」
それは、わたしの魔法の言葉だった。
「リンカのお願いなら、仕方ないな」
わたしにとびきり甘いお父様は、いつもそういって、わたしの願い事を叶えてくれた。
甘いケーキに、かわいいドレス、ふわふわなぬいぐるみ。そして果ては──婚約者まで。
わたしが、欲しいもの全て。その言葉で叶ってきた、そう思っていた。……けれど。
わたしが今一番欲しいもの。それは、どうやらその魔法の言葉でさえも、手に入れることは出来ないらしい。
「あぁ、リンカ? 彼女は確かに私の人生をねじ曲げた。彼女のせいで、私の人生は滅茶苦茶だ。私の生活の全ては、彼女を中心に回ってるよ」
◇◇◇
婚約者である第二王子のノルツ殿下と、わたしの出会いは、ノルツ殿下のお披露目パーティだった。
そこでわたしは、ノルツ殿下に一目惚れをしたのだ。
さらさらで海のように青い髪に、どんな宝石よりも美しい新緑の瞳。
ノルツ殿下のお友だちを作る、という名目のもと行われたお披露目パーティだったけれど。たちまちノルツ殿下の虜になったわたしは、帰るなりお父様にいつもの魔法の言葉で頼み込んだ。
「お父様、お願い! わたしを、ノルツ殿下の婚約者にして」
けれどいつもならすぐに頷くはずのお父様は、渋った。
「だが、ノルツ殿下には──」
「お願い、お父様! わたしが、ノルツ殿下の婚約者になりたいの!」
わたしがそう言ってもお父様は渋っていたけれど、何度も何度も、ノルツ殿下じゃないとダメなのだというと、ついにお父様も折れてくれた。
「わかったよ、リンカ」
──実は、この時既にアーネシア侯爵令嬢が婚約者として内定していた、らしい。
けれど公爵家の膨大な力でそれは取り消され、ノルツ殿下の婚約者の座にわたしが収まった。
ノルツ殿下は力ずくで婚約したわたしに、とても優しかった。
だから、わたしは勘違いしてしまった。
ノルツ殿下は、わたしのことが好きなのだと。
──本当は、ノルツ殿下は、こんなにもわたしのことを恨んでいたというのに。
今日は友人であるお兄様に会いに来ていたノルツ殿下を一目でも見たくて、応接室を訪れた。
応接室の扉は僅かに開いており、そこから声が聞こえたのだ。それが誰の声かと聞き間違えるはずもない。けれど、それは聞いたことがないほど、ほの暗い色を含んでいた。
ノックをしようとした手を止め、踵を返し、自室まで走った。
震える手で扉に鍵をかけてベッドの布団に潜り込み、きつく目を閉じる。
さっきのは、夢だ。夢に違いない。
けれど先程のノルツ殿下の声が頭の中で何度も聞こえてきた。
『彼女のせいで、私の人生は滅茶苦茶だ』
頭を振っても、声は止まらない。
「ちがう、ちがうわ。わたしのせいなんか、じゃ──」
わたしのせいで滅茶苦茶になってなんかいない。
だって、ノルツ殿下はわたしにたくさん笑いかけてくれた。手を握ってくれた。
だから。
『私の生活の全ては、彼女を中心に回ってるよ』
「……!」
たしかに。いつも、わたしは会いたいだの、寂しいだのと何かと理由をつけては、ノルツ殿下の元へおしかけていた。
でも、それが迷惑だなんて気付かなかった。気付きたくなかった。
「ノルツ、殿下……」
どんなに恨まれていたのだとしても、わたしはノルツ殿下が好きだ。
でも、これ以上愛するノルツ殿下に恨まれたくない。
だから。
わたしは、流した涙を指でぬぐうと、布団を出た。
「婚約を──解消しましょう」
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