無理やり婚約したはずの王子さまに、なぜかめちゃくちゃ溺愛されています!

夕立悠理

文字の大きさ
2 / 4

破棄と解消

しおりを挟む
 婚約を解消する。
 言うだけならばとても容易い。

 わたしはすぐさまお父様の書斎を訪れた。
「どうしたんだい、リンカ」
「お父様、……お願い」

 わたしがそういうとお父様は、おや、と首をかしげた。
「なにが欲しいのかな? 新しい靴? ドレス? 宝石? それとも──」
「……ノルツ殿下との、婚約を解消したいと考えています」

 わたしの言葉にひゅっ、とお父様が息を止める。
「……本気です」
「ど、どどどど、どうしたんだい」
 そう言いながら、お父様は背中を擦ってくれた。
「とりあえず、おおお落ち着きなさい?」
「……わたしは、すこぶる冷静です」

 むしろ動揺しているのはお父様の方だわ。
 ……なんてわたしは傲慢だったのか。気づいただけだもの。


 わたしが暗い気持ちで俯いていると、急に、お父様が、ひっ、と声をあげた。

 その声に、俯いていた直をあげる。

「お父──」
「そう。なるほど、君は私との婚約を解消したいんだね」

 え。

 聞き間違えるはずもない──今度はさきほどと違ってほの暗さは感じない──声に、振り向く。

 そこには、ノルツ殿下が立っていた。

「失礼。盗み聞きするつもりはなかったのだけれど……、書斎の扉が開いていて。私の名前が聞こえてきたものだから」
「ノ、ノルツ殿下、娘は少々混乱しておりまして」

 まさか、もう本人に聞かれていたなんて。動揺して固まったわたしを気にせず、ノルツ殿下は一歩また一歩と近づいてくる。

「リンカ」

 ノルツ殿下はわたしの名前を呼んだ。かつてないほどの甘い声で。
「!?」
「リンカ。あのね、婚約解消は無理だよ」

 そしてまるで、幼子を諭すようにそう言う。
「解消というのは双方の合意があってのもの。リンカがしようとしているのは、婚約破棄だ」
「婚約、破棄……」
「そう」

 ノルツ殿下はついにわたしの元までたどり着くと、わたしを引き寄せた。
「!、!?」

 こんな風に、抱き締められたのは初めてのことだった。
「婚約破棄はリスクを伴う。私は王家の人間だ。リンカは、アイザシュバイン公爵家が、取り潰しになってもいいの?」
「よくない……です」

 わたしがそう言うとノルツ殿下はうん、そうだね、と微笑んでわたしの頭を撫でた。

「だったら婚約破棄はできないよ」
「……はい」

 でも。でも。でも。
 ノルツ殿下にこれ以上恨まれたくない。

 わたしは、それがなにより怖い。

 恐怖で震えたわたしの手を握ると、ノルツ殿下は甘く囁いた。
「震えてるの? 可愛い」
「可愛い……」

 ノルツ殿下の口からは聞きなれない言葉に、瞬きをする。そんなわたしを見たノルツ殿下はそうだね、と続けた。
「可愛すぎて、我慢できない」
 そういって、わたしの頬にキスをする。

 頬とはいえ初めてのキス。
 それに、甘い呼び名に、甘い言葉。

 ノルツ殿下の豹変についていけなくなったわたしは──意識を失った。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

最高魔導師の重すぎる愛の結末

甘寧
恋愛
私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。 いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。 呆然とする私に上司であるジンドルフに尋ねると私は昇進し自分の直属の部下になったと言う。 このジンドルフと言う男は、結婚したい男不動のNO.1。 銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。 ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。 でも、皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする…… その感は残念ならが当たることになる。 何十年にも渡りストーカーしていた最高魔導師と捕まってしまった可哀想な部下のお話。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

処理中です...