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勘違い
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見慣れた公爵邸の天井は、今日も磨き上げられている。
それをぼんやりと眺めていると、お兄様が心配そうな顔で自室のベッドに横たわっているわたしを覗き込んだ。
「リンカ、調子はどう?」
お礼を言って兄様から渡された、お水を飲む。
「はい。少し、良くなりました」
「……全く、もう帰ってしまうなんて殿下は薄情だね」
お兄様は、いつも殿下と仲がいいお兄様らしくない口調でそう言った。
わたしが倒れた後。ノルツ殿下は心配だから、とずっとわたしに付き添って下さっていたらしい。けれど、さすがに日も落ちたため、お父様が半ば強引に帰らせた――ということを、侍女のマイから聞いていた。そのことを、お兄様も知らないはずはない……と思うけれど。
「……ノルツ殿下は、とても優しい方です」
わたしがそう言うとお兄様は、驚いたように片眉をあげた。
「もしかしてあの時の会話、聞こえていなかった?」
呆然と呟かれた言葉に、あの時? と思わず声に出してしまう。そういえば、わたしがノルツ殿下の真意を聞いたのは、お兄様との会話だった。そのことを一瞬尋ねようと思ったけれど、立ち聞きなんてはしたない真似をしたのだと怒られたくないのでやめにした。
「え、あ、いや! 何でもないよ。リンカが優しいと思うなら優しいんだろうね」
そう、優しい。
ノルツ殿下は、いつも。わたしに優しかった。
「一緒に、流行りのお菓子が食べたいです」
とわたしが言えば、ノルツ殿下はわかったよ、と頷き、その翌日には有名店のふわふわな苺ケーキを用意してくれ、
「一緒に、劇がみたいです」
とわたしが言えば、ノルツ殿下は、リンカがそう言うと思って、と一番いい席のチケットを二枚見せた。
お子様なわたしはそれでいつも満足していたけれど。今にして思えば、ノルツ殿下は、わたしに触れてはこなかった。
エスコートすることはあっても、それ以外で、抱き寄せることも、手を繋ぐこともされたことがなかった。ましてや――キス、なんて。……キス?
そうだ、キス。
さっき、わたし、ノルツ殿下にキスをされたのだったわ。頬だけれど。
――でも、どうして?
ノルツ殿下は、わたしを恨んでいるはずなのに。
だって、わたしのせいで、ノルツ殿下の人生はめちゃくちゃになった。わたしではなく、アーネシア侯爵令嬢が婚約者だったなら、いちいちわがままなんて言わない。アーネシア様は、淑女の鑑として有名だから、忙しい中に寂しいから、なんて理由で、押しかけるなんてこともしない。
ノルツ殿下は、いつでもわたしを優先してくれた。
だから、ノルツ殿下の生活の全ては、わたしを中心に回っている。
それなのに、キスなんて、する理由は――?
考えていると、ふと昨夜読んだ恋愛小説が頭をよぎった。
『相手に自分を好きにならせてから、振る』
そういう復讐方法もあるのだと書かれていた。
つまり、ノルツ殿下は、わたしに復讐をするつもりなのだ。
それなら、全て納得できる。
「納得だわ」
わたしが頷いていると、お兄様は、不思議そうな顔をした。
でも、わたしはそれに答える余裕はなかった。
わたしを惚れさせて、振る、それがノルツ殿下の復讐なら。
わたしは、とことんそれに付き合おう。
それをぼんやりと眺めていると、お兄様が心配そうな顔で自室のベッドに横たわっているわたしを覗き込んだ。
「リンカ、調子はどう?」
お礼を言って兄様から渡された、お水を飲む。
「はい。少し、良くなりました」
「……全く、もう帰ってしまうなんて殿下は薄情だね」
お兄様は、いつも殿下と仲がいいお兄様らしくない口調でそう言った。
わたしが倒れた後。ノルツ殿下は心配だから、とずっとわたしに付き添って下さっていたらしい。けれど、さすがに日も落ちたため、お父様が半ば強引に帰らせた――ということを、侍女のマイから聞いていた。そのことを、お兄様も知らないはずはない……と思うけれど。
「……ノルツ殿下は、とても優しい方です」
わたしがそう言うとお兄様は、驚いたように片眉をあげた。
「もしかしてあの時の会話、聞こえていなかった?」
呆然と呟かれた言葉に、あの時? と思わず声に出してしまう。そういえば、わたしがノルツ殿下の真意を聞いたのは、お兄様との会話だった。そのことを一瞬尋ねようと思ったけれど、立ち聞きなんてはしたない真似をしたのだと怒られたくないのでやめにした。
「え、あ、いや! 何でもないよ。リンカが優しいと思うなら優しいんだろうね」
そう、優しい。
ノルツ殿下は、いつも。わたしに優しかった。
「一緒に、流行りのお菓子が食べたいです」
とわたしが言えば、ノルツ殿下はわかったよ、と頷き、その翌日には有名店のふわふわな苺ケーキを用意してくれ、
「一緒に、劇がみたいです」
とわたしが言えば、ノルツ殿下は、リンカがそう言うと思って、と一番いい席のチケットを二枚見せた。
お子様なわたしはそれでいつも満足していたけれど。今にして思えば、ノルツ殿下は、わたしに触れてはこなかった。
エスコートすることはあっても、それ以外で、抱き寄せることも、手を繋ぐこともされたことがなかった。ましてや――キス、なんて。……キス?
そうだ、キス。
さっき、わたし、ノルツ殿下にキスをされたのだったわ。頬だけれど。
――でも、どうして?
ノルツ殿下は、わたしを恨んでいるはずなのに。
だって、わたしのせいで、ノルツ殿下の人生はめちゃくちゃになった。わたしではなく、アーネシア侯爵令嬢が婚約者だったなら、いちいちわがままなんて言わない。アーネシア様は、淑女の鑑として有名だから、忙しい中に寂しいから、なんて理由で、押しかけるなんてこともしない。
ノルツ殿下は、いつでもわたしを優先してくれた。
だから、ノルツ殿下の生活の全ては、わたしを中心に回っている。
それなのに、キスなんて、する理由は――?
考えていると、ふと昨夜読んだ恋愛小説が頭をよぎった。
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つまり、ノルツ殿下は、わたしに復讐をするつもりなのだ。
それなら、全て納得できる。
「納得だわ」
わたしが頷いていると、お兄様は、不思議そうな顔をした。
でも、わたしはそれに答える余裕はなかった。
わたしを惚れさせて、振る、それがノルツ殿下の復讐なら。
わたしは、とことんそれに付き合おう。
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