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3章.激動の予感編

46話.氷狼王

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「実はじゃな……」

 ダンは昨日何が起きたのかを話し始めた。
昨日はサラカの個人依頼であるカロライン王国の王都奪還作戦の先遣隊の出発日であった。
その先遣隊は隊長として先日のクロムの救済にも参加したAランクの冒険者ケインが参加し、総勢50名の中規模な部隊であったらしい。
先遣隊の目的はカロライン王国の聖竜騎士団が潜伏している村までの道のりの確保であった。
先遣隊の行軍は順調であったのだが、先日クロムがスタンピードと対峙した場所を少し超えたあたりで数千単位の狼の群れに襲われた結果、先遣隊はほぼ壊滅してしまったらしい。

「何があったのかはわかったが……
 数千とは言っても所詮は狼の群れだろ?
 Aランク冒険者がいたにも拘わらず、壊滅っておかしくないか?」

「普通の狼やその上位の狼程度ならAランク冒険者ともなれば一人で千は余裕で倒せるじゃろうな。
 しかし……
 報告によればじゃな、その群れには馬の2~3倍ほどの大きさの白銀の狼がおり、群れの長のようであったそうじゃ。
 その狼の相手をしたケインが重症を負ってしまったことにより先遣隊は壊滅に至ったらしい。
 不幸中の幸いではあるのじゃが、狼の群れはその場に居を構えているようでな、こちらに進んでくるということはなさそうじゃ……」

「相当な強さのようだが……
 何者なのかわかっているのか?」

「正直な話わからんのじゃ……
 馬の数倍の大きさであり、口からは氷のブレスを吐く狼……」

すると、意外なことにカルロより情報が得られることになった。

 この世界には<氷狼フロストウルフ>という雪原地帯を好む狼種が存在するのだが、この氷狼は狼なのに群れをつくることを嫌うことで有名な種族であった。
しかし、数百年に一度という間隔で飛びぬけた強さを持つ氷狼が突然生まれることがあり、その氷狼は<氷狼王キングフロストウルフ>と呼ばれ氷狼のみだけではなく全ての狼種の王となり巨大な群れを形成するとのことであった。

 また数百年前に登場した氷狼王は、隠れ里の入り口付近に居を構えてしまったために当時の竜人王であったカルロの祖父が当時の重鎮たちととも討伐したらしい。
意外なタイミングでこの世界の新しい七不思議話を聞くことになったクロムが興味津々でカルロの話に耳を傾けていると、ダンが驚きのあまり硬直するのだった。

「そのような存在を聞いたことはないし、討伐うんぬんの話も初耳ではあるのじゃが……
 お主たちは何者なのじゃ?」

「俺たちは竜人族という神のイタズラで忘れ去られてしまった種族さ。
 そんなことよりさ兄貴、これは俺たちで討伐に行くべきなんじゃないのか?」

「まぁそういう流れと思うべきだよなぁ……
 カルロたち4人に氷狼王以外の数千の狼を全部任せても大丈夫か?」

「兄貴は初任務から扱いが荒いなぁ……
 でも王抜きなら余裕だと思うぜ」

 カルロへの最低限の確認を終えたクロムは、ダンに対して氷狼王の討伐を申し出た。
ダンは当然のように危険すぎると反対したが、クロムはこういう事態に自前のチームのみでも対処できるようにするためにメンバー探しをしたんだと無理やりにダンを説得して、半ば強引に話を終わらせた。
そして、クロムたちは準備をすると告げて冒険者ギルドを後にするのであった。
ギルドを出たクロムたちは、宿の部屋を経由してルーム内のアジトに戻り氷狼王討伐の作戦を考えることになった。

「そういえばさ、今回は私もクロムと一緒に王退治なのよね?
 いつもだったら王はクロムが一人でって言いそうなのに」

「今回からは基本的には俺と一緒に居てもらうさ、それができるようにステータスは随時あげていくしね。
 それに今回は倒すことが目的じゃないから、手伝って欲しいってのもあるかな」

「倒すのが目的じゃないの??」

「俺たちが当面相手にしなきゃいけない相手は前回のスタンピードを意図的に発生できるような奴らだよ。
 数の暴力に対抗するためにも俺たちも兵隊の数は集めなきゃならない。
 だから、今回の群れの大半をそのまま従属させるつもりだ」

「え……!?」

「ただダンたちの目もあるからな、実際に従属するのは群れの半分程度と考えてる。
 だが、それでは死体の中に王がいないとか数が少ないとか言われそうだけど、討伐時に炭にしちまったとか逃げられたとか言えばいいだろうさ」

「クロムって毎回すごいこと考えるね……」

「狼の群れは使いどころは難しいけど、ルーム内に住ませておけば好きな場所に展開できるわけだし、数で攻められた時の保険みたいなもんだな」

「あははは、やっぱり兄貴についてきて正解だったぜ。
 兄貴といたら退屈することはなさそうだな」

「同感ですな」

 愉快そうに笑うカルロとソイソ、どう反応すべきか決めかねているソルトとビネガ、苦笑するアキナ、飽きれて黙ってしまってるナビ、皆がそれぞれの反応をしつつも誰一人クロムの案に反対するものはいなかった。

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