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極端な男
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車は住宅街を離れて、中心部へと向かっていく。
「しーちゃん、行きたいところとかある?」
「んー、そうだなぁ……昔行ったとことか、もう一度行ってみる?」
すると蒼汰は、次々に場所を上げ始めた。
「サンビーチとかいいかもね。あ、でも、商店街もいいかも。それに……また果物食べに行くのも捨てがたいなぁ」
どれも、小さいころ一緒に行ったところだ。詩音は思い切って言った。
「よし、じゃあ、全部行っちゃうか!」
「えっ」
「また帰ってくるのいつかわからないし、そうちゃんは忙しいだろうし……時間あるうちにって思って」
すると蒼汰の顔がくしゃっと笑った。
「しーちゃんのそういうとこ、好き」
すると今度は、言われた詩音の方が赤くなる。
「そうちゃん」
無駄に困惑してしまって、そんな自分が恥ずかしくなる。
「何、いや?」
「そうじゃなくて……そういうの、慣れないなぁ、はは」
詩音が頭をかくと、蒼汰は詩音をちらっと見て微笑んだ。
「これからは、それが当たり前だから慣れて。ね?」
―――慣れそうにないないなぁ。
思えば亮なんかは、そんな風にほめてくれることも少なかった。
そんな風に思うと、くすぐったいような、ありがたいような嬉しさがじんわりと詩音の胸の中に広がっていく。
「ありがと……そうちゃん」
初夏のビーチは、まだ人は少なく、海の家などもなかったが――
「わぁ、懐かしい。昔と変わんないね」
「うん。町や建物は変わっても、海だけはねぇ」
当たり前のように、蒼汰も詩音も靴を脱いで、波打ち際に素足で立った。
「ふふ、僕の気持ちと一緒。ずっと変わらないよ」
振り向くと、蒼汰は詩音を見つめて微笑んでいた。海風が、彼の黒髪と真っ白なTシャツを煽って、揺らしている。
「しーちゃんと来れて嬉しいな」
――まるで映画かドラマのワンシーンのような立ち姿に、詩音は思わず目を奪われた。
「どうしたのしーちゃん、そんな目して」
きょとんとした蒼汰に、詩音は照れくさくなってうつむいた。
君が格好良すぎて、見とれてしまっていたなんて……さすがに、言えないな。
詩音はごまかした。
「ごめんごめん、その、懐かしいなあって。昔よくここに海水浴来たもんね」
「泳ぎに来たねぇ。学校の水着でさ。でも今のしーちゃんとも、また泳ぎたいよ」
無邪気に蒼汰が言うので、詩音は苦笑した。
「私は水着はもうちょっと、な……」
アラサーにもなってくると、水着になるのも結構気合いがいる。
でも、蒼汰は若い男の子なわけだし、海水浴も行きたいかもな。どんな水着だって、似合いそうだし……。
と詩音が逡巡していると、蒼汰も何か考え込んで、うなずいた。
「うん……たしかにそうかも。しーちゃんとここで泳ぎたい気持ちはあるけど……他の人に、しーちゃんの水着姿を見られちゃうかもって思うと僕も気が進まないな」
予想外過ぎる返事に、詩音の苦笑は深まった。
――そうちゃん、やっぱりけっこう……独特というか、重たいなぁ……。
他の女の子だったとしたら、ちょっと引いてしまうレベルかもしれない。
けれど詩音は、小さいころから彼の習性を知っているので、そう動じない。
「うん、同意見だね、そうちゃん。私もあんまり水着になりたくないよ」
軽く受け流すと、彼はうれし気にうなずいた。
「えへ、だよね。海水浴するなら、ホテルのプライベートビーチで、二人きりがいいね。あ、インフィニティプールとかも行ってみたいな! もちろん貸し切りのね」
そ、そう来たか。詩音は困って笑った。
「わ、若いねぇ……」
いちおう水着、買っておくか……露出が少ないのを。
と詩音が思った矢先に、蒼汰が口に出す。
「水着は僕が用意するね、楽しみ」
「えっ……いやいや、自分で用意しておくから」
詩音が断ると、ちょっと恥じらうように蒼汰が笑んだ。
「ふふ……しーちゃん恥ずかしがりなんだから」
そして、さりげなく詩音と手をつなぐ。
「それなら一緒に選びにいこうね。そうだ。帰る前に駅で選ぶのどう?」
――一応、希望を聞いてくれるのか。
ちょっとうれしく思いながら、詩音はうなずいた。
その後、果物農園を回ってラストシーズンのいちごをたっぷりと堪能してから、駅へと向かう。
「えーと、新幹線まで、まだ余裕あるね」
蒼汰はチケットを一枚、詩音に渡した。
「ありがとう。でもそうちゃん、もう戻ってもいいよ?」
仕事の都合で、今日はとりあえず詩音だけが東京に戻る予定だ。
しかし、蒼汰は首を振った。
「ううん。時間までいるよ。水着選びたいし、しーちゃんを見送りたい」
「そう? なんか、ごめんね」
詩音はちょっと申し訳なさを感じたが、蒼汰は相変わらずニコニコ楽しそうだった。
「ね、駅前の百貨店にいってみようよ。けっこう昔とお店変わったんだよ」
子供のように手を引かれて、詩音はあたりを見回した。
「この辺も、昔よくぶらぶらしたよねぇ」
「そうそう。しーちゃんはここのポスター、良く眺めてたよね」
言われて、詩音はなつかしさに目を細めた。
「そうだったねぇ……昔ここに、おせんべいの広告があったよね」
「覚えてる。しーちゃんが一目見て気に入ってた」
それは、おせんべいという日常的なお菓子が、シンプルな線と2つの色で、象徴的に表現されたイラストだった。
その新しさとスタイリッシュさに、詩音は子どもながら見入ってしまって、帰りにどうしても欲しくなって、そのおせんべいを一枚買って帰ったのだった。
手のひらに収まったおせんべいを見て、詩音の心は浮きたった。
この素敵なイラストが手に入って――しかも中には、おせんべいそのものも入っているのだ。
美しい絵画やイラストを眺めるときよりも、ひょっとして、嬉しかった。
絵を描く仕事って、こんな仕事もあるんだ。
その喜びを、詩音は隣にいた蒼汰に熱っぽく語った。
『私――大きくなったら、こんな絵を描くお仕事、したいなぁ!』
すると蒼汰はにこにこ笑って言った。
『楽しみだな。しーちゃん絵、上手だもん。そうだ!』
蒼汰は目をキラキラさせていった。
『いつか、うちのしずく屋のいちご大福の絵も、描いてよ!』
子供らしい思い出に、詩音は微笑んだ。
――まさかあの願いが、一部とはいえかなうなんて。
「懐かしいなぁ、あのおせんべいのイラスト」
「たしか有名イラストレーターさんの手がけた広告だったんだよね」
蒼汰が言うので、詩音はうなずいた。
「そうなんだよ。朝暘社にも飾ってあった」
蒼汰は優しく微笑んだ。
「しーちゃん何度も、僕のことすごいって言ってくれたけど……小さなころの夢をかなえたしーちゃんもすごいよ。僕、しーちゃんの作った広告見て、引き込まれちゃったもん」
「ふふふ、ありがとう。シュガードロップさんのデザインも頑張るからね」
そう言って、二人は百貨店に入っていった。
昔、百貨店に売っているものはどれも敷居が高くて、素通りせざるを得なかったが――最上階の喫茶店にあるクリームソーダを、そうちゃんと飲んだことがあったっけ。
「そうちゃん、あとで上の喫茶店いってみようか」
すると蒼汰はうなずいた。
「いいね! でもその前に、水着と、他にも僕、買い物したいな」
「そっか。付き合うよ。何買うの?」
すると蒼汰は詩音を振り向いて、飛び切りの笑顔で言った。
「しーちゃんの誕生日プレゼント!」
詩音は困惑した。
「えっ、私の誕生日はまだ先だよ」
「今年じゃなくて、今まであげられなかった年の分の誕生日プレゼント」
「え、ええ……いいよ、そんなの」
詩音が断ると、とたんに蒼汰はむくれた。
「なんで?」
「だって、さすがに、悪いというか……私、そんなに欲しいものもないし、大丈夫よ」
あきらかにおかしいだろう。もし、そんな事を要求する彼女がいたら、確実にヤバい女だ。
すると蒼汰は、しょぼんとした顔のまま、説明した。
「そっか……。しーちゃんって昔から確かに、モノに執着、ないよね。いつも絵とか、友達とか、今は仕事に夢中で……」
蒼汰は詩音をじっと見た。
「だからこれは、僕のわがまま。しーちゃんと今まで一緒にいられなかった分の時間は帰ってこないけど……せめて今からでも、祝わせてほしいんだ。ダメ?」
「え、ええと……」
「20歳のしーちゃんにも、25歳のしーちゃんにも、去年のしーちゃんにも……プレゼントしたいの」
蒼汰は周りを見渡した。
「昔ね、しーちゃんとここにくるたびに思ってた。こんなところで、しーちゃんに何か買ってあげたいなって」
そんな事を思っていたのか――。ちょっと詩音は驚いた。
私なんか、おせんべいやクリームソーダの事しか考えていなかったというのに。
子供ながらに、すごいな。
「今の僕なら、どれでも選べるから」
その笑顔に、ちょっと圧を感じながら、詩音は気おされるようにうなずいた。
「わ……わかった……。ありがとう、そーちゃん。でも、一つでいいからね」
「えー? そんなのダメだよ」
蒼汰は詩音の手をつかんで、お店へと入った。
「全身、僕の選んだものを身に着けてお仕事してほしいなって」
笑顔でさらりとつぶやかれた言葉に、詩音の笑顔はちょっとひきつった。
――やっぱりそうちゃん、ちょっと、極端なところがある。
「しーちゃん、行きたいところとかある?」
「んー、そうだなぁ……昔行ったとことか、もう一度行ってみる?」
すると蒼汰は、次々に場所を上げ始めた。
「サンビーチとかいいかもね。あ、でも、商店街もいいかも。それに……また果物食べに行くのも捨てがたいなぁ」
どれも、小さいころ一緒に行ったところだ。詩音は思い切って言った。
「よし、じゃあ、全部行っちゃうか!」
「えっ」
「また帰ってくるのいつかわからないし、そうちゃんは忙しいだろうし……時間あるうちにって思って」
すると蒼汰の顔がくしゃっと笑った。
「しーちゃんのそういうとこ、好き」
すると今度は、言われた詩音の方が赤くなる。
「そうちゃん」
無駄に困惑してしまって、そんな自分が恥ずかしくなる。
「何、いや?」
「そうじゃなくて……そういうの、慣れないなぁ、はは」
詩音が頭をかくと、蒼汰は詩音をちらっと見て微笑んだ。
「これからは、それが当たり前だから慣れて。ね?」
―――慣れそうにないないなぁ。
思えば亮なんかは、そんな風にほめてくれることも少なかった。
そんな風に思うと、くすぐったいような、ありがたいような嬉しさがじんわりと詩音の胸の中に広がっていく。
「ありがと……そうちゃん」
初夏のビーチは、まだ人は少なく、海の家などもなかったが――
「わぁ、懐かしい。昔と変わんないね」
「うん。町や建物は変わっても、海だけはねぇ」
当たり前のように、蒼汰も詩音も靴を脱いで、波打ち際に素足で立った。
「ふふ、僕の気持ちと一緒。ずっと変わらないよ」
振り向くと、蒼汰は詩音を見つめて微笑んでいた。海風が、彼の黒髪と真っ白なTシャツを煽って、揺らしている。
「しーちゃんと来れて嬉しいな」
――まるで映画かドラマのワンシーンのような立ち姿に、詩音は思わず目を奪われた。
「どうしたのしーちゃん、そんな目して」
きょとんとした蒼汰に、詩音は照れくさくなってうつむいた。
君が格好良すぎて、見とれてしまっていたなんて……さすがに、言えないな。
詩音はごまかした。
「ごめんごめん、その、懐かしいなあって。昔よくここに海水浴来たもんね」
「泳ぎに来たねぇ。学校の水着でさ。でも今のしーちゃんとも、また泳ぎたいよ」
無邪気に蒼汰が言うので、詩音は苦笑した。
「私は水着はもうちょっと、な……」
アラサーにもなってくると、水着になるのも結構気合いがいる。
でも、蒼汰は若い男の子なわけだし、海水浴も行きたいかもな。どんな水着だって、似合いそうだし……。
と詩音が逡巡していると、蒼汰も何か考え込んで、うなずいた。
「うん……たしかにそうかも。しーちゃんとここで泳ぎたい気持ちはあるけど……他の人に、しーちゃんの水着姿を見られちゃうかもって思うと僕も気が進まないな」
予想外過ぎる返事に、詩音の苦笑は深まった。
――そうちゃん、やっぱりけっこう……独特というか、重たいなぁ……。
他の女の子だったとしたら、ちょっと引いてしまうレベルかもしれない。
けれど詩音は、小さいころから彼の習性を知っているので、そう動じない。
「うん、同意見だね、そうちゃん。私もあんまり水着になりたくないよ」
軽く受け流すと、彼はうれし気にうなずいた。
「えへ、だよね。海水浴するなら、ホテルのプライベートビーチで、二人きりがいいね。あ、インフィニティプールとかも行ってみたいな! もちろん貸し切りのね」
そ、そう来たか。詩音は困って笑った。
「わ、若いねぇ……」
いちおう水着、買っておくか……露出が少ないのを。
と詩音が思った矢先に、蒼汰が口に出す。
「水着は僕が用意するね、楽しみ」
「えっ……いやいや、自分で用意しておくから」
詩音が断ると、ちょっと恥じらうように蒼汰が笑んだ。
「ふふ……しーちゃん恥ずかしがりなんだから」
そして、さりげなく詩音と手をつなぐ。
「それなら一緒に選びにいこうね。そうだ。帰る前に駅で選ぶのどう?」
――一応、希望を聞いてくれるのか。
ちょっとうれしく思いながら、詩音はうなずいた。
その後、果物農園を回ってラストシーズンのいちごをたっぷりと堪能してから、駅へと向かう。
「えーと、新幹線まで、まだ余裕あるね」
蒼汰はチケットを一枚、詩音に渡した。
「ありがとう。でもそうちゃん、もう戻ってもいいよ?」
仕事の都合で、今日はとりあえず詩音だけが東京に戻る予定だ。
しかし、蒼汰は首を振った。
「ううん。時間までいるよ。水着選びたいし、しーちゃんを見送りたい」
「そう? なんか、ごめんね」
詩音はちょっと申し訳なさを感じたが、蒼汰は相変わらずニコニコ楽しそうだった。
「ね、駅前の百貨店にいってみようよ。けっこう昔とお店変わったんだよ」
子供のように手を引かれて、詩音はあたりを見回した。
「この辺も、昔よくぶらぶらしたよねぇ」
「そうそう。しーちゃんはここのポスター、良く眺めてたよね」
言われて、詩音はなつかしさに目を細めた。
「そうだったねぇ……昔ここに、おせんべいの広告があったよね」
「覚えてる。しーちゃんが一目見て気に入ってた」
それは、おせんべいという日常的なお菓子が、シンプルな線と2つの色で、象徴的に表現されたイラストだった。
その新しさとスタイリッシュさに、詩音は子どもながら見入ってしまって、帰りにどうしても欲しくなって、そのおせんべいを一枚買って帰ったのだった。
手のひらに収まったおせんべいを見て、詩音の心は浮きたった。
この素敵なイラストが手に入って――しかも中には、おせんべいそのものも入っているのだ。
美しい絵画やイラストを眺めるときよりも、ひょっとして、嬉しかった。
絵を描く仕事って、こんな仕事もあるんだ。
その喜びを、詩音は隣にいた蒼汰に熱っぽく語った。
『私――大きくなったら、こんな絵を描くお仕事、したいなぁ!』
すると蒼汰はにこにこ笑って言った。
『楽しみだな。しーちゃん絵、上手だもん。そうだ!』
蒼汰は目をキラキラさせていった。
『いつか、うちのしずく屋のいちご大福の絵も、描いてよ!』
子供らしい思い出に、詩音は微笑んだ。
――まさかあの願いが、一部とはいえかなうなんて。
「懐かしいなぁ、あのおせんべいのイラスト」
「たしか有名イラストレーターさんの手がけた広告だったんだよね」
蒼汰が言うので、詩音はうなずいた。
「そうなんだよ。朝暘社にも飾ってあった」
蒼汰は優しく微笑んだ。
「しーちゃん何度も、僕のことすごいって言ってくれたけど……小さなころの夢をかなえたしーちゃんもすごいよ。僕、しーちゃんの作った広告見て、引き込まれちゃったもん」
「ふふふ、ありがとう。シュガードロップさんのデザインも頑張るからね」
そう言って、二人は百貨店に入っていった。
昔、百貨店に売っているものはどれも敷居が高くて、素通りせざるを得なかったが――最上階の喫茶店にあるクリームソーダを、そうちゃんと飲んだことがあったっけ。
「そうちゃん、あとで上の喫茶店いってみようか」
すると蒼汰はうなずいた。
「いいね! でもその前に、水着と、他にも僕、買い物したいな」
「そっか。付き合うよ。何買うの?」
すると蒼汰は詩音を振り向いて、飛び切りの笑顔で言った。
「しーちゃんの誕生日プレゼント!」
詩音は困惑した。
「えっ、私の誕生日はまだ先だよ」
「今年じゃなくて、今まであげられなかった年の分の誕生日プレゼント」
「え、ええ……いいよ、そんなの」
詩音が断ると、とたんに蒼汰はむくれた。
「なんで?」
「だって、さすがに、悪いというか……私、そんなに欲しいものもないし、大丈夫よ」
あきらかにおかしいだろう。もし、そんな事を要求する彼女がいたら、確実にヤバい女だ。
すると蒼汰は、しょぼんとした顔のまま、説明した。
「そっか……。しーちゃんって昔から確かに、モノに執着、ないよね。いつも絵とか、友達とか、今は仕事に夢中で……」
蒼汰は詩音をじっと見た。
「だからこれは、僕のわがまま。しーちゃんと今まで一緒にいられなかった分の時間は帰ってこないけど……せめて今からでも、祝わせてほしいんだ。ダメ?」
「え、ええと……」
「20歳のしーちゃんにも、25歳のしーちゃんにも、去年のしーちゃんにも……プレゼントしたいの」
蒼汰は周りを見渡した。
「昔ね、しーちゃんとここにくるたびに思ってた。こんなところで、しーちゃんに何か買ってあげたいなって」
そんな事を思っていたのか――。ちょっと詩音は驚いた。
私なんか、おせんべいやクリームソーダの事しか考えていなかったというのに。
子供ながらに、すごいな。
「今の僕なら、どれでも選べるから」
その笑顔に、ちょっと圧を感じながら、詩音は気おされるようにうなずいた。
「わ……わかった……。ありがとう、そーちゃん。でも、一つでいいからね」
「えー? そんなのダメだよ」
蒼汰は詩音の手をつかんで、お店へと入った。
「全身、僕の選んだものを身に着けてお仕事してほしいなって」
笑顔でさらりとつぶやかれた言葉に、詩音の笑顔はちょっとひきつった。
――やっぱりそうちゃん、ちょっと、極端なところがある。
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