浮気しまくってるのに婚約破棄されないんですが

小鳥遊 沙織

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コンコンとルイスの部屋の扉を叩く。

「エミリアか、入れ」

短く、そして無機質な声。ルイスは体温と感情を感じさせない、そんな声をいつも出す。

重厚な扉を開け、ルイスに促されるままに椅子へ腰掛ける。

「婚約者を呼んでおいてお茶のひとつもないのですか」
その皮肉は無視された。「エミリア」居住まいを正したルイスが口を開く。

「君は昨晩何をしていた?……いや、聞くまでもないな」
私の首元に視線を落とす。やっぱり、この話か。今までずっと何も言わなかったのに、どうして今日に限って言うのだろう。

「君が昨日唆した男で5人目だな。少々火遊びが過ぎるんじゃないか?」
「全部知っていらっしゃるのね。それで?婚約破棄にでもなさるおつもりですか?」
「いや……それよりもシャワーはもう浴びてしまったのか」

心なしか声が沈んだ、ような気がした。それとこれとなんの関係があるのだろう。
すると、目の前の男は不意に私の側へと近寄ってきた。驚いて反射的に立ち上がろうとする肩を押さえられ、首筋に手を這わせられる。

「ああ、昨日の男は随分と痕を残したんだな。匂いはだいぶ薄くなっているようだが」
ひとつひとつ確かめるように丁寧になぞる指はぞくっとするほど艶めかしい。
「何を……」
「ん?いや、俺はずっと君に手を出さなかっただろう?勿論身分の高い令嬢であるからには君は紛れもない処女おとめでその純潔は俺に捧げられるべきわけだが……他の男にやってしまったよな。それを知った瞬間、どういうわけか堪らなく興奮したんだ」

そこで言葉を一区切りさせ、私の首筋にガブリと犬歯を立てる。痛みに思わず顔を顰めると、恍惚とした笑みを浮かべる……ルイスの笑顔なんて初めて見た。

「普通の男なら怒り狂って婚約破棄どころか処刑モノだろうが、俺は違った。俺は愛する君が他の男に抱かれていると思うとどうしようもなく滾るんだ」

そう言いながら私の上半身に散りばめられた赤い華を上書きするように唇を落とし強く吸う。

「他の男にたっぷり可愛がられたエミリア……最高だ……」

だめだ、喰われる。この頭のおかしい男に、跡形もなく喰われてしまう。

もういっそ急所を蹴り上げて逃げてやろうか、とそう思ったとき、私の身体を這いずる手が止まった。

「ああ、やはり匂いが足りないな。なあエミリア、明後日にもパーティーがあるだろう?また適当な男を捕まえるといいが、その時にはシャワーを浴びずに帰って来てくれ。そうしたら俺とたっぷり楽しもう……勿論俺は君との婚約を解消する気はないからな。じゃあ明々後日の午後にまた来てくれ」

そう一人でべらべらと捲し立てると、ルイスは何処かへ消えてしまった。静寂。

「むり……」

口をついて出たとんでもなく情けない声は、あの男のものとは思えない広く品のいい部屋に吸い込まれて消えて行った。
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