2 / 4
2
しおりを挟む
コンコンとルイスの部屋の扉を叩く。
「エミリアか、入れ」
短く、そして無機質な声。ルイスは体温と感情を感じさせない、そんな声をいつも出す。
重厚な扉を開け、ルイスに促されるままに椅子へ腰掛ける。
「婚約者を呼んでおいてお茶のひとつもないのですか」
その皮肉は無視された。「エミリア」居住まいを正したルイスが口を開く。
「君は昨晩何をしていた?……いや、聞くまでもないな」
私の首元に視線を落とす。やっぱり、この話か。今までずっと何も言わなかったのに、どうして今日に限って言うのだろう。
「君が昨日唆した男で5人目だな。少々火遊びが過ぎるんじゃないか?」
「全部知っていらっしゃるのね。それで?婚約破棄にでもなさるおつもりですか?」
「いや……それよりもシャワーはもう浴びてしまったのか」
心なしか声が沈んだ、ような気がした。それとこれとなんの関係があるのだろう。
すると、目の前の男は不意に私の側へと近寄ってきた。驚いて反射的に立ち上がろうとする肩を押さえられ、首筋に手を這わせられる。
「ああ、昨日の男は随分と痕を残したんだな。残念ながら匂いはだいぶ薄くなっているようだが」
ひとつひとつ確かめるように丁寧になぞる指はぞくっとするほど艶めかしい。
「何を……」
「ん?いや、俺はずっと君に手を出さなかっただろう?勿論身分の高い令嬢であるからには君は紛れもない処女でその純潔は俺に捧げられるべきだったわけだが……他の男にやってしまったよな。それを知った瞬間、どういうわけか堪らなく興奮したんだ」
そこで言葉を一区切りさせ、私の首筋にガブリと犬歯を立てる。痛みに思わず顔を顰めると、恍惚とした笑みを浮かべる……ルイスの笑顔なんて初めて見た。
「普通の男なら怒り狂って婚約破棄どころか処刑モノだろうが、俺は違った。俺は愛する君が他の男に抱かれていると思うとどうしようもなく滾るんだ」
そう言いながら私の上半身に散りばめられた赤い華を上書きするように唇を落とし強く吸う。
「他の男にたっぷり可愛がられたエミリア……最高だ……」
だめだ、喰われる。この頭のおかしい男に、跡形もなく喰われてしまう。
もういっそ急所を蹴り上げて逃げてやろうか、とそう思ったとき、私の身体を這いずる手が止まった。
「ああ、やはり匂いが足りないな。なあエミリア、明後日にもパーティーがあるだろう?また適当な男を捕まえるといいが、その時にはシャワーを浴びずに帰って来てくれ。そうしたら俺とたっぷり楽しもう……勿論俺は君との婚約を解消する気はないからな。じゃあ明々後日の午後にまた来てくれ」
そう一人でべらべらと捲し立てると、ルイスは何処かへ消えてしまった。静寂。
「むり……」
口をついて出たとんでもなく情けない声は、あの男のものとは思えない広く品のいい部屋に吸い込まれて消えて行った。
「エミリアか、入れ」
短く、そして無機質な声。ルイスは体温と感情を感じさせない、そんな声をいつも出す。
重厚な扉を開け、ルイスに促されるままに椅子へ腰掛ける。
「婚約者を呼んでおいてお茶のひとつもないのですか」
その皮肉は無視された。「エミリア」居住まいを正したルイスが口を開く。
「君は昨晩何をしていた?……いや、聞くまでもないな」
私の首元に視線を落とす。やっぱり、この話か。今までずっと何も言わなかったのに、どうして今日に限って言うのだろう。
「君が昨日唆した男で5人目だな。少々火遊びが過ぎるんじゃないか?」
「全部知っていらっしゃるのね。それで?婚約破棄にでもなさるおつもりですか?」
「いや……それよりもシャワーはもう浴びてしまったのか」
心なしか声が沈んだ、ような気がした。それとこれとなんの関係があるのだろう。
すると、目の前の男は不意に私の側へと近寄ってきた。驚いて反射的に立ち上がろうとする肩を押さえられ、首筋に手を這わせられる。
「ああ、昨日の男は随分と痕を残したんだな。残念ながら匂いはだいぶ薄くなっているようだが」
ひとつひとつ確かめるように丁寧になぞる指はぞくっとするほど艶めかしい。
「何を……」
「ん?いや、俺はずっと君に手を出さなかっただろう?勿論身分の高い令嬢であるからには君は紛れもない処女でその純潔は俺に捧げられるべきだったわけだが……他の男にやってしまったよな。それを知った瞬間、どういうわけか堪らなく興奮したんだ」
そこで言葉を一区切りさせ、私の首筋にガブリと犬歯を立てる。痛みに思わず顔を顰めると、恍惚とした笑みを浮かべる……ルイスの笑顔なんて初めて見た。
「普通の男なら怒り狂って婚約破棄どころか処刑モノだろうが、俺は違った。俺は愛する君が他の男に抱かれていると思うとどうしようもなく滾るんだ」
そう言いながら私の上半身に散りばめられた赤い華を上書きするように唇を落とし強く吸う。
「他の男にたっぷり可愛がられたエミリア……最高だ……」
だめだ、喰われる。この頭のおかしい男に、跡形もなく喰われてしまう。
もういっそ急所を蹴り上げて逃げてやろうか、とそう思ったとき、私の身体を這いずる手が止まった。
「ああ、やはり匂いが足りないな。なあエミリア、明後日にもパーティーがあるだろう?また適当な男を捕まえるといいが、その時にはシャワーを浴びずに帰って来てくれ。そうしたら俺とたっぷり楽しもう……勿論俺は君との婚約を解消する気はないからな。じゃあ明々後日の午後にまた来てくれ」
そう一人でべらべらと捲し立てると、ルイスは何処かへ消えてしまった。静寂。
「むり……」
口をついて出たとんでもなく情けない声は、あの男のものとは思えない広く品のいい部屋に吸い込まれて消えて行った。
0
あなたにおすすめの小説
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た
青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。
それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。
彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。
ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・
ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
私の夫は妹の元婚約者
テンテン
恋愛
私の夫ミラーは、かつて妹マリッサの婚約者だった。
そんなミラーとの日々は穏やかで、幸せなもののはずだった。
けれどマリッサは、どこか意味ありげな態度で私に言葉を投げかけてくる。
「ミラーさんには、もっと活発な女性の方が合うんじゃない?」
挑発ともとれるその言動に、心がざわつく。けれど私も負けていられない。
最近、彼女が婚約者以外の男性と一緒にいたことをそっと伝えると、マリッサは少しだけ表情を揺らした。
それでもお互い、最後には笑顔を見せ合った。
まるで何もなかったかのように。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる