10 / 73
受賞
しおりを挟む
その後の契約や商会設立手続きは、レイとオスカーが進めてくれることになった。孤児院との交渉や、人材スカウトはオスカーに任せ、私は劇の脚本に専念している。
なかなか休みがないため別宅にいけないものの、今までの暗い生活が一変。毎日、心は充実していた。
信頼できる仲間がいる。
助けてくれる仲間がいる。
それだけで充分だった。
と、今日は久々のお休みの日。
もちろん、朝から別宅に向かう。
「マリア、ダニエル、レイ~。ただいま!」
扉を開けると、誰の応答もない。
(また急用でみんないないの?そうだとしたら、鍵は開いてないはず……?)
とりあえず、ダイニングをのぞいてみる?
私は静まりかえった廊下を進んだ。
自分の家なのに、不安が押し寄せてくる。
ダイニングの扉に手をかけ、一呼吸置く。
(……ふう。よし!)
――カチャ。
ゆっくりと扉を開く。
「お嬢様、おめでとうございます!」
「リリアーヌ、おめでとう!」
うう?
マリアとダニエル、そして今日もキラキラな眼福さんことレイが拍手で迎えてくれた。
「……えっと、今日は何の日だった?」
――誕生日じゃないし?
レイが怪訝そうにしている私に近づくと、急に両手を広げて抱きしめてくる。
…………そ、そんな情熱的な人だったっけ?
な、何?この眼福さんのサービスは?
とっても暖かくて、気持ちのよい抱擁に、私はぼーっとしてしまう。
「君が書いた作品、受賞したんだっ!すごいよ、君は!」
ーー受賞?
ーー作品?
一瞬言われて何のことだが分からなかったのだが、ようやく理解が追いついた。
「あ、あの伯爵令嬢の?」
「らしい。もちろん、作品は出版もされるし」
されるし?
「君に話をしてないのにあれだったんだけど、商会として劇にしたいと出版社に交渉したら、何と王都で出版社と一緒に協賛という形でやってみることになった」
「……う、嘘?」
「本当だ。リリアーヌの実力だ!」
私はまさか受賞するとも思っておらず、まさかこんな展開になるなんて……!
私は嬉しくて、嬉しくて。
「えーん、嬉しいよぉ…」
急に力が抜けてしまって、そのままレイの胸の中で泣かせてもらった。
◇◇◇
受賞の知らせがきたのは数日前だそう。その間に、レイはいろいろと私のために動いていてくれていて、感謝しかなかった。
「ありがとう、レイ……」
ひとしきり泣いた後、ようやく落ち着いた私は受賞を知らせる書類に目を通した。
「劇の契約書は、いまうちの商会名義でとりあえず交渉してるから。それでよかったかな?取り分はそこから分けるということで」
もちろん、異論なんてない。
レイは、私のためだけに動いてくれているのではないことは分かっている。
けど。ここ数年誰からも相手にしてもらえなかった私はレイの行動が本当に嬉しかった。
「劇は役者の手配や稽古もあるし、会場手配などもあるしな。オスカーとも相談して、孤児院でやる劇とも合わせてやっていこうかと思っている。これで注目されるのは間違いないだろう」
――注目される。
それはとてもありがたいこと。
でもこの時ふとなぜだろう不安がよぎった。
なかなか休みがないため別宅にいけないものの、今までの暗い生活が一変。毎日、心は充実していた。
信頼できる仲間がいる。
助けてくれる仲間がいる。
それだけで充分だった。
と、今日は久々のお休みの日。
もちろん、朝から別宅に向かう。
「マリア、ダニエル、レイ~。ただいま!」
扉を開けると、誰の応答もない。
(また急用でみんないないの?そうだとしたら、鍵は開いてないはず……?)
とりあえず、ダイニングをのぞいてみる?
私は静まりかえった廊下を進んだ。
自分の家なのに、不安が押し寄せてくる。
ダイニングの扉に手をかけ、一呼吸置く。
(……ふう。よし!)
――カチャ。
ゆっくりと扉を開く。
「お嬢様、おめでとうございます!」
「リリアーヌ、おめでとう!」
うう?
マリアとダニエル、そして今日もキラキラな眼福さんことレイが拍手で迎えてくれた。
「……えっと、今日は何の日だった?」
――誕生日じゃないし?
レイが怪訝そうにしている私に近づくと、急に両手を広げて抱きしめてくる。
…………そ、そんな情熱的な人だったっけ?
な、何?この眼福さんのサービスは?
とっても暖かくて、気持ちのよい抱擁に、私はぼーっとしてしまう。
「君が書いた作品、受賞したんだっ!すごいよ、君は!」
ーー受賞?
ーー作品?
一瞬言われて何のことだが分からなかったのだが、ようやく理解が追いついた。
「あ、あの伯爵令嬢の?」
「らしい。もちろん、作品は出版もされるし」
されるし?
「君に話をしてないのにあれだったんだけど、商会として劇にしたいと出版社に交渉したら、何と王都で出版社と一緒に協賛という形でやってみることになった」
「……う、嘘?」
「本当だ。リリアーヌの実力だ!」
私はまさか受賞するとも思っておらず、まさかこんな展開になるなんて……!
私は嬉しくて、嬉しくて。
「えーん、嬉しいよぉ…」
急に力が抜けてしまって、そのままレイの胸の中で泣かせてもらった。
◇◇◇
受賞の知らせがきたのは数日前だそう。その間に、レイはいろいろと私のために動いていてくれていて、感謝しかなかった。
「ありがとう、レイ……」
ひとしきり泣いた後、ようやく落ち着いた私は受賞を知らせる書類に目を通した。
「劇の契約書は、いまうちの商会名義でとりあえず交渉してるから。それでよかったかな?取り分はそこから分けるということで」
もちろん、異論なんてない。
レイは、私のためだけに動いてくれているのではないことは分かっている。
けど。ここ数年誰からも相手にしてもらえなかった私はレイの行動が本当に嬉しかった。
「劇は役者の手配や稽古もあるし、会場手配などもあるしな。オスカーとも相談して、孤児院でやる劇とも合わせてやっていこうかと思っている。これで注目されるのは間違いないだろう」
――注目される。
それはとてもありがたいこと。
でもこの時ふとなぜだろう不安がよぎった。
51
あなたにおすすめの小説
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
数多の令嬢を弄んだ公爵令息が夫となりましたが、溺愛することにいたしました
鈴元 香奈
恋愛
伯爵家の一人娘エルナは第三王子の婚約者だったが、王子の病気療養を理由に婚約解消となった。そして、次の婚約者に選ばれたのは公爵家長男のリクハルド。何人もの女性を誑かせ弄び、ぼろ布のように捨てた女性の一人に背中を刺され殺されそうになった。そんな醜聞にまみれた男だった。
エルナが最も軽蔑する男。それでも、夫となったリクハルドを妻として支えていく決意をしたエルナだったが。
小説家になろうさんにも投稿しています。
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。
大森 樹
恋愛
【短編】
公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。
「アメリア様、ご無事ですか!」
真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。
助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。
穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで……
あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。
★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる