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終章・二人のこれから

89・父子の会話

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式典で見た時より柔和だな、と思った。
いや、国を挙げての式典でニコニコしてるのは違うんだけどさ。
ソーヴィの話から想像したのは、もっと鋭利で冷たい感じだったから、普通に生きている人間なんだな、ってびっくりした。
お酒を嗜んでいる前国王の前に立ったソーヴィがお辞儀をしたので、それにならって式典の時のように腰を下げてゆっくりとお辞儀をする。
「頭を上げなさい。」
ソーヴィの衣擦れの音で、私も顔を上げると、前国王と目が合った。
おっと、心臓に悪い。
義理の父…と言っていいのか…分からんけど。緊張する!
「ご存知かとは思いますが、結婚いたしましたので、ご報告に上がりました。」
特にコメントなし!
めっちゃ見られてるよー!どうする?!自己紹介でもしておく?!
「あ…えと…ソーヴィニヨン殿下と結婚させていただきました、藤井亜百合と申します。藤井が苗字で、亜百合が名前です。」
これと言って紹介できるような自分の情報なかったわー。緊張して、笑顔が引きつりそうよ!
「…そうか。」
ポツリと言ったきり、やはりコメント無し。
これ、どうしたらいいの!居心地の悪さったらないよ!
アワアワとソーヴィを見上げると、冷たい目をしていた。
そんなに?!そんなにお父さん苦手な感じ?!無理に仲良くしろとは思わないけど、せめてこういう時は当たり障りない態度で外面だけ良くしたりしないかい?!しんどいぜ!
「あっ、あのっ、へ、陛下はっ、お仕事を終えられたらゆっくりされるとお聞きしたのですがっ、何かもうご予定があったりされますかっ?」
めっちゃつっかえたー!敬語おかしいしな!!
前と隣でびっくりしてる二人から、視線が突き刺さる。
ややあってから、前国王がグラスを置いた。
「…そうだな、仕事でしか行ったことのなかった地へ赴いて、国中を巡りたいと思っている。」
諸国漫遊!あれだね、水戸光圀公みたいだね!お供もいるのかな?
「わあ、素敵ですね!その土地のご飯とか食べたいですよね!あ、ソーヴィもすごくお料理が上手で、とっても美味しいんですよ!お庭でハーブや野菜も育てたり、湖で魚を釣ったりするんです!」
「あっ、アユリ!」
ソーヴィが慌てているので、やべっ、調子乗った?と不安になったけれど、前国王は顎に手を当てて頷いている。
「ほう、そうなのか…何が美味いのかな?」
あ、良かった大丈夫っぼい。
「全部美味しいんですけど、私はオシャレ朝ごはんプレートが好きです!お店みたいに可愛くてオシャレなんです!」
初めて食べさせてくれたのも、それだったなあ。
今も鮮明に覚えてる。
「…アユリ、それなの?もっと他に手の込んだ料理あるよ。」
少し不服そうなソーヴィに、首を振る。
「初めてご馳走してくれたメニューだもん!いいじゃん!全部美味しいんだから!」
「ふむ、楽しそうだな、ソーヴィ。」
ビクリと体が揺れて、ソーヴィが固まる。
「…はい、まあ。」
「アユリさん。」
「はっはひっ!」
突然名前を呼ばれて焦る。
「…私も食べられるだろうか、その…オシャレなんとかっていうものを。」
「あっ、はい!あ、あの…もし良ければですが、私たちの結婚式にいらっしゃいませんか。」
「アユリ?!」
何言ってんの?!って顔したソーヴィが私を見る。
「旅の途中でフラッと寄る感じで。そしたら、ソーヴィのご飯も食べられますし。」
私が作るより、ソーヴィが作った方が美味しいから、パーティ料理はソーヴィにお願いするつもりだった。
「そうか…呼んでくれるのか。」
しみじみと頷く前国王を見て、ソーヴィが小さく唸った。
「お嫌じゃなければ…どうぞ…」
「招待状、お送りしますね。」
「ありがとう。楽しみにしているよ。」
思ったより、感じいいじゃん。
前国王が、グラスからお酒を含んだ。


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