【R18】次に目を開けた時、イケメンのベッドの中に異世界転移してました。

番外編２

リリーの恋・２０

 バッと引き剥がされて後ろに倒れると、甘くていい香りがした。
「げっ…マジかよ。」
 先輩の引き攣った顔が、さっきより少し離れて見える。
 正常な位置にホッとすると、後ろから抱えられていることに気づく。手や爪の形、触れる温もり、心地よい香りに首を傾げる。
「…あれ？しゃいちゃん？そっくりさん？」
「私よ、リリー。」
 見上げると、たまらなく好きな顔がそこにあった。
「あー、しゃいちゃんだ。んふふ、しゃいちゃん。」
 手を伸ばして頬に触れる。スベスベの肌が気持ちいい。
「大人になりたての女の子を、こんなに酔っ払わせて…何をするつもりだったの？」
「野暮な事聞くよね。セックスに決まってるでしょ、伯父さん。」
 サラリと肩口に垂れている髪を、指ですくって鼻に寄せる。良い匂い、欲しい。
「絶対にダメよ。」
「伯父さんにそんなこと言う権利、ないから。今だって、いい感じだったのに。邪魔したのはそっちだよ。」
「本当かしら、嫌がってたように見えたけど。」
 どうしたら、この髪の毛をもらえるだろうか。嗅ぐ用、観賞用、保存用で欲しい。
「ずっと手を繋いで歩いてたの、見てたでしょ？嫌がってるように見えた？キスできる距離でくっついてたのに。」
 挑むように睨んでいるから、上を見上げるけれど、垂れた髪の毛が邪魔をして彼の顔は分からない。先輩って結構失礼だから、怒らせてないといいんだけどな。
「逃げようとすれば、転移だって何だって使える。でも、リリーはここにいるよね。」
 再び、先輩に手を取られる。お酒が回ってるからか、先輩の手が熱い。
「キスもセックスもしてくれない、気持ちすら返してくれない相手より、俺の方が幸せにできるよ。そう思わない？伯父さん。」
 ぐっと手を引かれて上半身が前に傾く。
「もしそうだとしても、それを決めるのは貴方じゃなくて、リリーよ。」
 後ろから抱きしめられていた腕が、お腹に食い込む。
「んぎゅ、う…しゃいちゃ…中身出る…」
「ごめんね、リリー！私が送り届けるから、貴方は帰りなさい。この子じゃなくても、貴方には相手がたくさんいるでしょう。」
 握られていた手が離されて、ヒンヤリとした。
「その言葉、そっくりそのまま返す。送り狼にもなれないくせに。解放してやれよ、リリーが可哀想だ。」
 プイッと顔を背けて、先輩が歩き出す。
「エルさん、おつかれさまれす。」
「…また来週。」
 後ろを向いたまま、手を挙げた。


 熱くて目が覚めた。
 胃から逆流しそうな不快感に顔をしかめる。
「ううっ…気持ち悪い。」
「お水飲む？」
「のむ…」
 口元に出された小さなコップから、ゆっくりと水が流れ込んできた。ひんやりしていて、美味しい。いくらでも飲めそうだ。
「初めてなのに、飲み過ぎよ。」
「グラスに２杯しか飲んでないもん。」
「そこは、アユリに似たのね。」
 そうか、残念ながら母に似たのか。
 ハッとして上を向くと、優しく微笑む女神がいた。
「大丈夫？」
「うん。」
 額に置かれた手のひらが冷たくて気持ちいい。
 どうやら、膝枕をされているようだ。
 こんなに甘えられるなら、またアルコールを摂取してもいいかもしれない。
「ダメよ、１杯までにしなさい。」
「あれ？声に出してた？」
「私には何でも分かるのよ。」
 そうだろうか。
 私にだって、しゃいちゃんの知らないことの１つや２つあるもん。
「どんなこと？」
 えーっと…近々だとエルさんにめっちゃ誘われるとか。室長とお茶友達になったこと、庭に実家のハーブ種を育ててること、初めて飲んだお酒が美味しかったこと、仕事が楽しいこと…
「全部知ってるわよ。」
 得意そうに笑っているから、腹が立った。
 私だって、しゃいちゃんの秘密知ってるもん。
「例えば？」
 森の中で、奥さん達とみんなでセックスしてたこと。ずるいよね。私のこと好きって言うのに、仲間外れにするんだから。どうせ私は、子どもだもん。セクシーな下着を身につけても、相手にすらされない。
「ごめんね…」
 処女で色気がないからダメなんだろうか。奥さん達みんなキレイでセクシーだもんね。
 いっそ処女を捨てた方が良いのかな。セクシーになったら、好きになってもらえる？
 エルさんに頼もうか…セックス脳だから、喜んでもらってくれそうだし。
「それは絶対にダメよ。」
 しゃいちゃんのばーか。
 なんだか眠くなって来ちゃった。
「寝ちゃいなさい。おやすみ、私の可愛いリリー。」
 柔らかな感触が顔中に降り、最後に唇に触れた後、沈むように眠りに落ちた。