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5章
56・友情ってやつ
しおりを挟むジャスミンは考え過ぎて眠れないかと思っていたが、リラックス効能のハーブ湯と、歩き回って疲れた体が、知らない間に意識を失わせていた。
朝日の眩しさで目覚めれば、朝食の時間を過ぎている。
「寝坊してしまったわ!」
こんなこと有り得ない。普段なら、起床時間が過ぎればミュゲが入室してくるからだ。
ベッドから降り、窓を開けて深呼吸をする。庭の香りが変わった。いつもの爽やかで甘く濃いクチナシが終わり、もうすぐ違う花が咲き始める。
「そっか…あの匂いは…」
ノックの音が響き、部屋のドアが開いた。
「おはようございます、ジャスミン様。よく眠れましたか。」
「おはよう、ミュゲ。寝すぎて寝坊したわ。」
「今日はこれからお客様がいらっしゃいますから、支度なさってください。」
「えっ?聞いてないわよ。」
ミュゲはジャスミンの話を聞かず、どんどん準備をして部屋を出て行ってしまった。
仕方ないので、ジャスミンは顔を洗って着替えをし、最低限の身だしなみを整えて部屋を後にした。
庭に出て花々を見ていると、奥にテーブルとイスが用意されており、可愛らしく飾り付けがされていた。
「サム、これどうしたの?」
少し離れた場所で作業しているサムに呼び掛けると、声だけの返事が聞こえた。
「先程、ミュゲが準備してましまよ。」
成る程、きっとこれが昨日言っていたことだろうと納得し、イスに座った。
これから秋の花々が開き始める。コスモス、リンドウ、パンジー、もちろん秋のバラも咲く。そろそろ、キンモクセイも香りを放ち始めるだろう。
今度は何の花を植えようかと、目を閉じてのんびりしていると、人の気配を感じた。サムが動いているのかと思っていたが、違った。
「ニヤニヤしちゃって、昨日の幸せー!なことでも、思い出してるわけ?」
この高飛車な物言いは、一人しか該当しない。
「プルメリア、何でいるの?」
「過保護な侍女に呼ばれたからに決まってるでしょ。」
空いているイスに座り、背もたれに寄りかかる。
「やっぱり、うちより上等で良いイスね。座り心地が違うわ。」
「これ、外用じゃなくて、お茶会用のをわざわざ出してくれたみたい。仕舞うの大変ね…終わったら手伝いましょ。」
ミュゲの優しさを感じる。
「で、何があったわけ?昨日の今日で呼び出すなんて、私じゃないんだから、まさか惚気じゃないでしょうし。」
ガサガサと音がして、ワゴンに茶器と料理を載せたミュゲがやって来た。
「今、お茶の準備をしますので、どうぞお寛ぎください。」
「あらミュゲ、お呼びいただきどうもありがとう。」
プルメリアの言葉に深々とお辞儀をし、答える。
「この度は急なお呼びたてにも関わらず、主人の為にご足労いただき、プルメリア様のご友情に感謝いたします。屋敷の料理長に腕を振るわせましたので、ごゆっくりとブランチをお楽しみください。」
プルメリアがなんとも言えない顔をする。
「恥ずかしいこと言わないでよね。あんたも座りなさいよ。」
「いえ、私は結構でございます。側にて給仕等お仕えいたしておりますので、何なりとお申し付けください。」
「ちょっとジャスミン!何とか言ってよ。」
プルメリアの抗議にジャスミンは首を振る。
「自室以外の屋敷内だと、何を言っても無駄よ。絶対に座ろうとしないから。」
「あー、プロ根性ってやつね。」
「そうなの。」
ミュゲは微笑み、給仕を始めた。
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