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5章
60・過去と今
しおりを挟むーこんなこと、前にもあったな。
ベッドでゴロリと横たわって、窓から見える空を見た。青く澄んでいて、白い雲が細く棚引き、太陽が柔らかな日差しを注ぐ。
ジャスミンは、大きくため息を吐いた。
これで何度目かも分からないため息は、きっとこの部屋中に溜まって、体を重くしていくのだ。
頭の中がぐちゃぐちゃしている。
自分らしくあるとは、何なのだろう。
そのままを受け入れて自分として生きてきたつもりだったけれど、友人を傷つけてしまった。
それは、本当に自分らしくあったのだろうか。
そのままを受け入れると言う名の、諦めだったのではないか。
諦めることが悪いことではないし、常に挑戦し続けることも難しい。それは人によって違うと、前世で学んでいた。
だから今の自分が、こうなのだ。
でも、傷ついた顔のプルメリアを思い出すと、とても胸が痛む。
「どうしたら、良かったの。」
プルメリアに言い返した時、自分もプルメリアに否定されたような気がした。前世も今も。
…もしかしたら、プルメリアもそうだったのだろうか。
「何をしてるのかしら、私…」
こんなことをしたかったんじゃなかった。
楽しい会を開いてくれたミュゲに感謝していたし、急にも関わらず来てくれたプルメリアの気持ちが嬉しかった。
ただ、3人で恋話をしていたのが、楽しくて嬉しかったのだ。
こんなこと、前世でしたことはなかった。
「…そうよ、したことなかったんだわ。」
いつも寂しかった。でも、一人でいることに慣れていたし、少しずつ鈍感になっていった。結婚も諦めて、ずっとこのまま一人で生きていくんだと思っていた。
転生したからといって、全てが上手くいく訳じゃない。こんな性格だからきっとこの先も上手くいくはずなんてない。
そうやって、決めつけてた。
だけど、今は違う。
隣には常にミュゲがいて、姉のように支えてくれている。領地にいて会える時間は少ない父や、朗らかな母、心配性の兄、可愛い妹も。
出会いは最悪だったが、気の置けない友達となったプルメリア。
そして…思うだけで胸が苦しくなる、アレク。
「だから、プルメリアは怒ったんだわ…」
前世の自分と、今の自分は違う。
記憶を持っていても、15年間ジャスミンとして生きてきたことは、自分を作っている一部で、過去は茉莉花だったけれど、今はジャスミンなのだ。
もしもアレクが茉莉花を知っていたとして、そのせいで今のジャスミンを好きだったとしても、自分はどうだろうか。
今のジャスミンは、今のアレクしか知らない。
過去のアレクなど、知らないし知る必要もない。
自分の目の前に立つ、あの優しくて和かな、アレクが好きなのだ。
「そうね、私…アレクが好きだわ。」
ベッドから身を起こして、部屋を出る。
走って庭に出ると、サムと一緒に大きなテーブルを運ぶミュゲがいた。
「ミュゲー!」
「あらっ、どうしましたジャスミン様。」
一旦テーブルを地面に置いたミュゲに、ジャスミンが飛びつく。
「ごめんね。」
「いえ、何も。」
優しい手のひらが、背中を撫でる。
「…ねえ、今から行ったら怒られるかしら。」
「どうでしょうねえ、行ってみないと分からないんじゃないでしょうか。向こうも後悔してるかもしれませんよ、ジャスミン様みたいに。」
「…一緒に来てくれる?」
「昔のジャスミン様に戻ったみたいですね。」
ミュゲがクスクスと笑った。
「サム、申し訳ないけど、他のメイドと一緒に片付けておいてもらってもいいかしら。」
「もちろん、任せておけ。」
サムが親指を立てて笑う。
「では、ジャスミン様初、仲直りの旅に出ましょうか。」
「…頑張るわ。」
二人は手を繋いで、庭を横切って行った。
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