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第21話
しおりを挟む同じベッドに並んで寝転がり、向かい合っているこの体勢は…心臓が爆発する。
どうしてこうなった?
ライブを観に行って幸せな気持ちで帰宅して、ちょっと夜更かしして休日をのんびり過ごすと思っていたのに。
紅子さんは相変わらず私の髪や耳を撫でており、たまに地肌や首筋をくすぐるので、体がビクリと震えてしまう。
「聖ちゃんて、どんなお仕事してるの?」
甘い声が耳朶をくすぐる。
「プログラマーです。」
「あら、かっこいい!夜中に呼び出されたりする?」
「いえ、そういうタイプの仕事ではないので、大体は定時で上がれます。」
ゆるやかなウェーブを描いた紅子さんの長い髪は、シーツの上で広がり、ブランドの香水ポスターのように美しい。
それを指先でそっとなぞる。
「女の子同士のイチャイチャだから、聖ちゃんも私の髪をもっと触ったりしていいのよ。」
「…じゃあ、少しだけ。」
一房手にとって、そっと口づけた。
「待って…ちょっと、そう来るとは思わなかったわ。聖ちゃん、女の子にすごくモテるでしょ?!」
「あー…そうですね。学生の頃は特に。」
「その顔でこんなことしたら、夢みがちの女は落ちるわよー。」
「紅子さんにしか…したことないですよ。」
言った瞬間、強く抱き込まれた。
「もう!もう!聖ちゃんのおバカ!」
紅子さんの肌が熱く、回された腕が体を締め付た。
「可愛すぎるわよー!」
ドキドキし過ぎて苦しい。どこで息をしたらいいのか、忘れてしまいそうだ。
「もう、お金払うからこのまま抱き枕になってくれないかしら。」
そこまで求めていただけて、大変名誉なことですが…
「わ、私の身が保たないです…」
既に限界が近い。
「そうね、今も真っ赤になっちゃって。」
チュッと音を立てて、耳に柔らかな感触があった。
「べべ紅子さんっ?!?!」
「食べちゃいたいわねえ…」
血が沸きそうだ。
「紅子さんの…血肉になれるなら、それでもいいです。」
「うふふ、嬉しいけど違う意味よ。」
ゆっくりと体が離れて、拳二つ分の距離が空いた。
そっとガーゼケットを体に掛けてくれる。
「空調、寒くない?」
首を振って答える。
むしろ、今ので熱いくらいだ。頭の中で鼓動が聞こえる。
「聖ちゃん。大丈夫そうに見えても、気軽に男についってちゃダメよ。」
コクリとうなずく。
今夜の出来事が、もう前のことのように感じる。
「聖ちゃんはね、見た目がカッコよくても女の子なんだから。ちゃんと自覚してね。」
「はい、気をつけます。」
紅子さんは、そっと溜め息を吐いた。
「本当に分かってるのかしら…」
「大丈夫です!」
安心させたくてしっかり頷いたのだが、紅子さんは不満そうに口を尖らせる。
お化粧してなくても紅子さんは紅子さんで、可憐で綺麗でとても素敵だ。
思わずにやけてしまったら、頬を両手で挟まれた。
「私も男よ?」
「紅子さんは、紅子さんです。」
「ゲイだから?」
どうだろうか、そんな風に考えたことはなかった。
紅子さんの瞳を見つめていると、顔が近づき唇が重なった。
「ゲイでもキスできるのよ。」
「…ファーストキスが、紅子さん…」
頭が沸騰して、真っ白になった。
「聖ちゃん、聖ちゃん?!」
紅子さんの声が遠くに聞こえて、私は意識を失った。
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