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第2話 ファーストバトル-1
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1 出会い
麗らかな日和、朝のチャイムが鳴る。白菊学園にMの姿があった。
これを己の試練と捉えて仕方なく受け入れたのだ。彼女は女学生らしくセーラー服を身に着け、三年D組への編入生として入学していた。
「皆さん、新しい友人をご紹介いたします」朝の教室で担任がレディを紹介する。「ええ、八咫神桃夏さんです。これからあなたたちといっしょに、勉学にいそしむことになりました。では、八咫神さん、皆さんに御挨拶してください」
「おれ……わ、私の名前は八咫神桃夏です。よろしく」とレディがぎこちなく話し、ゆっくりとクラスメイトの顔を見回す。
特に変わった様子もなく、今後どんな事件が起こるかもしれないと言うのに、全く昼行灯な面をしている連中だった。
……ただ、そんな中にも一人だけ気になる者を見つけた。何故か目に異様な光を放つ生徒がいたのだ! 彼女だからこそ分かるその気配、それを感じながらも気づかぬ振りをして席に着いた。
さてさて、これからどう対処するべきか? 彼女の潜入捜査が、今始まろうとしていた。
単調な午前の授業を終え、漸く昼休みに入る。レディは校庭にいた。だが、何を探ればいいのかまるっきり見当もつかない、取り合えず周辺を歩いてみることにした。
するとその時、突然複数の影が走る! さっきからつけられていると感じてはいた彼女だったが、それが確信に変わった。彼女の正体を知って何者かが放たれたか? すぐに校舎の裏に回避する。
ところがその場にも、既に二人連れの男が立ち塞がっていた。仕舞った! どうやら動きを読まれていたようだ。男たちはニヤケ面で徐々に近づいてくる。彼女は仕方なくうしろに退こうとしたが……駄目だ、遅過ぎた。いつの間にか後方にも三人の男たちが待ち構えていた! とうとう五人の一見生徒らしく見える、学生服を着た男子に囲まれてしまったのだ。いったいこいつらは? 恐れはしないものの、レディは少し用心して身構えた。
そこに、リーダー格らしき男の声が聞こえてきた。
「いやあ、転入生のお姉さん。恐がらなくていいんよ。いやね、俺たちチョッと金欠でね。良かったらお金貸してくんねえ」と。
何? こいつらは、ただの集り? まさか彼女を相手に金をせびろうというのか! 呆れたレディは、何も言わずただ静かに佇んだ。
さらに調子に乗った態度で、「そんなにビビらなくてもいいんだよ。お金さえもらえたら、なあんにもしないからさ」と申し合わせたように二人の男が前後から近づいてきて、彼女を間近で遮った。しかも、うしろにいた一人があろうことか、しゃがんだと思ったらいきなり彼女のスカートを捲り上げ、「うわー、可愛いおパンツ」とハレンチな行為までしたのだ。
レディはピクリともせず、一旦耐える。――握る拳に怒りを見せて――
……とはいえ、どうにかこの場をやり過ごさなければならない。願わくば、派手な行動を取ることなく。
だが、愚かにもリーダーの方は、
「ねえねえ、お姉さん。どうなのよ?」としつこく訊いてくるばかり。やはり退きはしないようだ。こうなるとやむを得ない、彼女の堪忍袋の緒も切れ時か!
――二度の強打撃音を鳴り響かせた!――レディの正拳とうしろ蹴りが強烈に炸裂していた。忽ち前にいた男は転がるように倒れ、後方の男は何メートルも飛ばされ、花壇をなぎ倒し壁に激突する! 二人とも、あっという間に気を失ってしまった様子。
そして当然ながらリーダーの方は、目を丸くした。男たちは本心から相手を間違えたと悟ったに違いない。慌てる仕草で逃げ出そうとした……が、そうは問屋が卸さない。レディの空中回転、男たちの頭上を跳び越え逃げ場を塞いだ。その早業にも焦りの色を見せた三人。男たちが性懲りもなく逃亡しようと図っても、それを彼女は許さなかったのだ。すぐに二人の首根っこを捕らえ、そのまま捻じ伏せた。哀れリーダーたちはその場にしゃがみ込むしかないと見える。
「か、勘弁して、ほんの出来心なんです。本当に御免なさい」と続いて観念したみたいで、ひたすら膝をついて謝りだした。
その悲痛な声は、多少なりともレディの怒気を静めた。
「お前ら、いつもこんなことをやってるのか?」と手加減して訊いた。
「違いますよ。偶々? 偶々です。でもねえさん、強いね、驚いた!」
全く……人騒がせな連中だ。捕えてみると、然程の悪でもなさそうだし、レディの声を素直に聞いている感じで、俗に言う、ただの不良というところか。この手の類はいつも見てきたレディだ。
「これからは二度としないことだな」と諭した。
「分かりました。もうしません」二人は素直に頭を垂れて頷いた。
やっと、正常な会話ができそうだ。
大人しくなった男が、神妙に話し出した。
「ねえさん、今さらですけど、名前を聞かせてくだせえ。俺の名は康夫と言います。で、こいつは雅です」
「俺の名か?……桃夏だ。まあ、適当に呼んでくれ」
「へい、分かりました。桃ねえさん、と呼ばさせていただきます。それで桃ねえさん、俺が言うのも変ですが、何でこんな裏側をうろついていたんですかね?」
「……ちょっとな」
「へえ?」
「それより康夫、少し訊いていいかい? 最近、生徒の中に突然いなくなった者はいないか?」
「えーと、そうですね。なんせこの学校はまともな奴は少ないんで、ふけたりずらかったりが頻繁で、誰がいないのか、よく分からないんですよ」
「そうなのか。しかし、この学園の理事長は元防衛省大臣の北条靖忠だろう。そんなお偉いのが仕切っているんだから優等生だらけじゃないのか?」
「いえ、それが違うんですよ。まあ確かに、一部優秀なのもいるんですがね。どちらかと言えば、全国からどうしようもない奴が来るみたいな……」と言ったところで、何を思ったのか、急に雅が割り込んできた。
「なあ、俺たちみたいにかって?」とふざけて康夫を小突いたのだ。どうやら今の言葉を聞いてツボにはまったよう。
それには康夫も、レディそっちのけで、
「そうだよ、お前みたいによ」と小突き返し、仲良く馬鹿騒ぎに興じだす。不意に始めたじゃれ合いだ。全くゆっくり会話もできない、とんだチャランポランな奴らだった。
レディは、仕方なくその有様を呆れて見ている。取り合えずおふざけが終わるまで待つことにした。
……が、突然そのひょうきん者が、何かに怯えた様子で壁際へと身を隠した。――遠くの方に、数名の生徒の姿が見える――。その人影に康夫が気づいたせいか?
レディは状況が飲めるはずもなく、彼らに合わせて物陰に潜み、「誰だ?」と訊いた。
すると康夫の方は、真剣な顔に変貌して答えた。
「風紀委員です。まあ名前からそんな生易しいもんじゃありませんが、問題を起こす生徒が多いんで見回っているんですよ。あいつら、それはもう腕っ節が強くて、逆らう者には容赦ありませんから。足腰立たなくなるまで叩きのめされます」と。
続いて彼は、先頭の一際大柄な女を指差して、「特にあの女、名前は大門寺皇虎、あいつは本当に恐ろしい奴ですよ。ねえさんのクラスにいる龍子の双子の姉ですわ」と息を呑んで言った。
レディは、皇虎の目を垣間見た。その途端、異様な感覚に襲われた。五感が冴え渡るような、こんなことは未だ経験がない。この女は何かを秘めている。そうレディの直感に、訴えてくるのであった!
麗らかな日和、朝のチャイムが鳴る。白菊学園にMの姿があった。
これを己の試練と捉えて仕方なく受け入れたのだ。彼女は女学生らしくセーラー服を身に着け、三年D組への編入生として入学していた。
「皆さん、新しい友人をご紹介いたします」朝の教室で担任がレディを紹介する。「ええ、八咫神桃夏さんです。これからあなたたちといっしょに、勉学にいそしむことになりました。では、八咫神さん、皆さんに御挨拶してください」
「おれ……わ、私の名前は八咫神桃夏です。よろしく」とレディがぎこちなく話し、ゆっくりとクラスメイトの顔を見回す。
特に変わった様子もなく、今後どんな事件が起こるかもしれないと言うのに、全く昼行灯な面をしている連中だった。
……ただ、そんな中にも一人だけ気になる者を見つけた。何故か目に異様な光を放つ生徒がいたのだ! 彼女だからこそ分かるその気配、それを感じながらも気づかぬ振りをして席に着いた。
さてさて、これからどう対処するべきか? 彼女の潜入捜査が、今始まろうとしていた。
単調な午前の授業を終え、漸く昼休みに入る。レディは校庭にいた。だが、何を探ればいいのかまるっきり見当もつかない、取り合えず周辺を歩いてみることにした。
するとその時、突然複数の影が走る! さっきからつけられていると感じてはいた彼女だったが、それが確信に変わった。彼女の正体を知って何者かが放たれたか? すぐに校舎の裏に回避する。
ところがその場にも、既に二人連れの男が立ち塞がっていた。仕舞った! どうやら動きを読まれていたようだ。男たちはニヤケ面で徐々に近づいてくる。彼女は仕方なくうしろに退こうとしたが……駄目だ、遅過ぎた。いつの間にか後方にも三人の男たちが待ち構えていた! とうとう五人の一見生徒らしく見える、学生服を着た男子に囲まれてしまったのだ。いったいこいつらは? 恐れはしないものの、レディは少し用心して身構えた。
そこに、リーダー格らしき男の声が聞こえてきた。
「いやあ、転入生のお姉さん。恐がらなくていいんよ。いやね、俺たちチョッと金欠でね。良かったらお金貸してくんねえ」と。
何? こいつらは、ただの集り? まさか彼女を相手に金をせびろうというのか! 呆れたレディは、何も言わずただ静かに佇んだ。
さらに調子に乗った態度で、「そんなにビビらなくてもいいんだよ。お金さえもらえたら、なあんにもしないからさ」と申し合わせたように二人の男が前後から近づいてきて、彼女を間近で遮った。しかも、うしろにいた一人があろうことか、しゃがんだと思ったらいきなり彼女のスカートを捲り上げ、「うわー、可愛いおパンツ」とハレンチな行為までしたのだ。
レディはピクリともせず、一旦耐える。――握る拳に怒りを見せて――
……とはいえ、どうにかこの場をやり過ごさなければならない。願わくば、派手な行動を取ることなく。
だが、愚かにもリーダーの方は、
「ねえねえ、お姉さん。どうなのよ?」としつこく訊いてくるばかり。やはり退きはしないようだ。こうなるとやむを得ない、彼女の堪忍袋の緒も切れ時か!
――二度の強打撃音を鳴り響かせた!――レディの正拳とうしろ蹴りが強烈に炸裂していた。忽ち前にいた男は転がるように倒れ、後方の男は何メートルも飛ばされ、花壇をなぎ倒し壁に激突する! 二人とも、あっという間に気を失ってしまった様子。
そして当然ながらリーダーの方は、目を丸くした。男たちは本心から相手を間違えたと悟ったに違いない。慌てる仕草で逃げ出そうとした……が、そうは問屋が卸さない。レディの空中回転、男たちの頭上を跳び越え逃げ場を塞いだ。その早業にも焦りの色を見せた三人。男たちが性懲りもなく逃亡しようと図っても、それを彼女は許さなかったのだ。すぐに二人の首根っこを捕らえ、そのまま捻じ伏せた。哀れリーダーたちはその場にしゃがみ込むしかないと見える。
「か、勘弁して、ほんの出来心なんです。本当に御免なさい」と続いて観念したみたいで、ひたすら膝をついて謝りだした。
その悲痛な声は、多少なりともレディの怒気を静めた。
「お前ら、いつもこんなことをやってるのか?」と手加減して訊いた。
「違いますよ。偶々? 偶々です。でもねえさん、強いね、驚いた!」
全く……人騒がせな連中だ。捕えてみると、然程の悪でもなさそうだし、レディの声を素直に聞いている感じで、俗に言う、ただの不良というところか。この手の類はいつも見てきたレディだ。
「これからは二度としないことだな」と諭した。
「分かりました。もうしません」二人は素直に頭を垂れて頷いた。
やっと、正常な会話ができそうだ。
大人しくなった男が、神妙に話し出した。
「ねえさん、今さらですけど、名前を聞かせてくだせえ。俺の名は康夫と言います。で、こいつは雅です」
「俺の名か?……桃夏だ。まあ、適当に呼んでくれ」
「へい、分かりました。桃ねえさん、と呼ばさせていただきます。それで桃ねえさん、俺が言うのも変ですが、何でこんな裏側をうろついていたんですかね?」
「……ちょっとな」
「へえ?」
「それより康夫、少し訊いていいかい? 最近、生徒の中に突然いなくなった者はいないか?」
「えーと、そうですね。なんせこの学校はまともな奴は少ないんで、ふけたりずらかったりが頻繁で、誰がいないのか、よく分からないんですよ」
「そうなのか。しかし、この学園の理事長は元防衛省大臣の北条靖忠だろう。そんなお偉いのが仕切っているんだから優等生だらけじゃないのか?」
「いえ、それが違うんですよ。まあ確かに、一部優秀なのもいるんですがね。どちらかと言えば、全国からどうしようもない奴が来るみたいな……」と言ったところで、何を思ったのか、急に雅が割り込んできた。
「なあ、俺たちみたいにかって?」とふざけて康夫を小突いたのだ。どうやら今の言葉を聞いてツボにはまったよう。
それには康夫も、レディそっちのけで、
「そうだよ、お前みたいによ」と小突き返し、仲良く馬鹿騒ぎに興じだす。不意に始めたじゃれ合いだ。全くゆっくり会話もできない、とんだチャランポランな奴らだった。
レディは、仕方なくその有様を呆れて見ている。取り合えずおふざけが終わるまで待つことにした。
……が、突然そのひょうきん者が、何かに怯えた様子で壁際へと身を隠した。――遠くの方に、数名の生徒の姿が見える――。その人影に康夫が気づいたせいか?
レディは状況が飲めるはずもなく、彼らに合わせて物陰に潜み、「誰だ?」と訊いた。
すると康夫の方は、真剣な顔に変貌して答えた。
「風紀委員です。まあ名前からそんな生易しいもんじゃありませんが、問題を起こす生徒が多いんで見回っているんですよ。あいつら、それはもう腕っ節が強くて、逆らう者には容赦ありませんから。足腰立たなくなるまで叩きのめされます」と。
続いて彼は、先頭の一際大柄な女を指差して、「特にあの女、名前は大門寺皇虎、あいつは本当に恐ろしい奴ですよ。ねえさんのクラスにいる龍子の双子の姉ですわ」と息を呑んで言った。
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