黒豚の優雅な復讐 ~「お前は醜い」と追放された王子、美醜逆転世界で虐げられた美少女達と共に幸せを摑む~

下城米雪

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2-6. スキル

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 初日は著しく疲弊した迷宮探索だったが、二度目は少し余裕があった。
 ツギハギの使う魔法は強力だが、直線的かつ予備動作も分かりやすい。世話役のフィーネから教わった通り、慣れてしまえば子供でも倒せそうな相手だった。もちろん恐怖を克服して動けるか否かは別問題だが。

 さておき、いくつか分かったことがある。ルームA1に現れる魔物の数は必ず一体であり、魔石を砕いた後、およそ四十秒後に次の魔物が現れる。このため戦闘効率を上げることで、昨日と同数の魔石を短時間で集めることができた。

「続けるの?」

「いや、戻ろう」

「そう、慎重なのね」

 私が提案すると、レイアは軽く息を吐きながら言った。
 相変わらず少しトゲのある言葉に聞こえるが、不満そうな様子は無い。

「レイアは、息ひとつ上がっていないのだな」

 私はルームから出た後、移動しながら言った。
 昨日は言葉を発する余裕も無かったことを考えると、かなりの進歩だ。

 レイアは私以上にケロッとした様子で返事をする。

「スキルがあるのよ。最初に話したでしょう」

 レイアの持つスキルはひとつ。
 全能力向上【極小】。その名の通り、全ての能力を僅かに向上させる。

 僅かにというのは一般的な表現だが、それでも女性に男性並みの動きをさせる程度の効果がある。逆に言えば、それだけだ。スキルが一度も発動していない私に言えることではないが、全能力向上【極小】は非常に価値が低い。

「それに私、遠くから石投げて雑な魔法を避けるだけだもの。こんなの楽勝よ」

 彼女のスキルは疲労が少ない理由にはならないと考えた時、本人が言葉を足した。
 実際、その通りなのだろう。私がツギハギの目を恐れているから無駄に疲れているだけで、その恐怖もハードな運動も無いレイアが疲れていないのは、自然なことなのかもしれない。

「普通、逆じゃない?」

「……何がだ?」

「あんたと私、役割が逆ってことよ」

「……そうかもしれないな」

 彼女が言う通り、互いの立場を考えれば役割を逆にするのが自然だ。しかし私は今の役割を変えるつもりは全くない。

 強くなる必要がある。
 少女に戦わせ、安全な場所から石を投げることなど、できない。

「もう少し金が貯まったら、レイアの装備を買おうか」

「そうね。服が一着しかないのも問題だと思うわ」

「……耳が痛い」

 今日の魔石を換金した後、所持金は8000マリ程度になるだろうか?
 宿代と食事代は十分に賄えるが、その他の出費を考えると全く足りない。

 もっと深い層やツギハギが2体以上同時に出るルームへ行けば、魔石の収集効率は格段に上がる。しかし、それ相応の危険を伴う。焦って命を落とすのは最悪だ。

 ……私に、もっと力があれば。

 相頼切磋《リバリエ・フィアンス》。
 スキルの強化及び獲得。強い信頼関係によって発動。信頼が続く限り継続。信頼の丈により効果増大。

 私の持つスキルであり、私の知る限り前例は無い。
 しかし一度も発動していないから、私はスキルを持たない者と変わらない。

 ……強い信頼関係、か。

 レイアと信頼を深めれば……と考えて、途中でやめた。
 長年良くしてくれたエドワード兄さまとの間にも発動しなかったのだ。ほんの数日の付き合いである彼女と仲良くなったところで、発動するわけがない。

 そもそも主人と奴隷の関係だ。
 私は形だけの関係だと思っているが、買った、買われた、という事実は消えない。それは心の奥底に刻まれ、信頼の障壁となるだろう。

 事実、私は虐げられ続けた経験から、エドワード兄さまを信頼できなかった。理由は恐らく、彼の容姿に嫉妬する気持ちがあったからだ。

 容姿という点で見れば、レイアは姉上さま達よりも美しい。
 しかしこの迷宮都市においては、彼女は私以下の扱いを受けてきた。

「何見てるのよ」

「……いや、なんでもない」

 私はとっくに気が付いていた。
 彼女の目だけは、普通に見ることができる。

「レイア、都市に戻ったら食事にしよう」

「分かったわ」

「何か好きな食べ物はあるか?」

「味のある物なら何でも好きよ」

「奇遇だな。私もそうなんだ」

「ちょっとやめてよね。味があるからって理由でゲテモノが出てきそうだわ」

 彼女との会話は、気分が軽くなる。
 だから、もっと時間が経てば、あるいは……という気持ちが芽生えてしまう。


 ──その瞬間は、想像したよりもずっと早く訪れることになる。
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