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10.ウチ、亡命を決意する
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決闘の後、ウチは控え室に戻った。
それからベッドに座って頭を抱えている。
ここには決闘の参加者だけが入れる。荷物を置いたり、着替えをしたり、待ち時間にご飯を食べたり、前泊して仮眠を取ったり……この国では下剋上が推奨されているだけあって、至れり尽くせりな場所なのである。
だけど聖女ノエルが侵入した。
彼女はウチの右隣に座ると、当たり前のようにウチの腕を摑み、肩に頭を乗せた。
「……」
彼女は何も言わなかった。
助かる。今ちょっと返事できる余裕が無い。
どうしよう。やばいって。
あんな結果になるとは思わなかった。
──ウチのプランを説明する。
彼の立場からすれば、公衆の面前で婚約者を奪われている。怒って当然。でもそれは悲しい誤解。ある意味でウチも被害者なのだ。
戦えば分かり合えるかもしれない。
ウチの力が及ばないとしても、泥臭く挑み続ければ友情が芽生えるかもしれない。
その可能性に賭けた。
でも決闘は最初の一手で終わってしまった。
弱過ぎるよ。マタシターガ・ムッチッチ。
何が王子だ。股下がムチムチなだけじゃん。
この後、ウチは一体どうなるのだろう。
真の王族が「クックック、あいつは王族にて最弱……」とか言って、王族の顔に泥を塗ったウチをぶっ殺すための刺客を送ってくるかもしれない。国中の下剋上ガチ勢がウチの元に集うかもしれない。
(……母上さま、先立つ不孝をお許しください)
ウチは目を閉じ、天を仰ぐ。
涙は出なかった。心が、乾いていた。
「……イッくん様は、何も仰らないのですね」
何を言えば良いの。
「イッくん様、教えてください。あなたは王子に言いました。わたくしの涙、その訳を知っていると……。あれは、そういうことなのでしょうか?」
それは、まあ、分かるよ。
ウチも前世は女の子だったから。
あの下半身は無いよね。
バランスやばいって。あれと結婚させられそうになったら、そりゃ泣くよ。
彼女「未来が決まってる」みたいなこと言ってたから、きっと生まれながらの許嫁とかそんな感じなのかな。
じゃあ、あれだよ。
ウチの行動は、多分、正しかった。
ん-、よし、決めた。悩むのやめる。
今さら後悔するとか、ちょっと前の自分に失礼だよ。
ウチは彼女の涙に前世の自分を重ねた。
生まれた瞬間に決まってる運命とか、そんなの許せない。
「否定しないのですね。……やはり、あなたは全てを知っている」
やばい、返事してなかった。
でも、なんか良い感じに解釈してくれたっぽい。
「ふふっ、寡黙なのですね。しかし、その鋭い瞳を見れば分かります。遥か遠い未来に向けられているかのような視線。一体、どのような景色が映っているのでしょう」
これは、あれかも。
聖女ノエルを相手にする時は、あんまり喋らない方が良さそう。
だって彼女、どんどん上機嫌になってる。
最初は怖かったけど、この雰囲気なら平気かも。ちょっと良い匂いするし。
さておき……はぁ、未来かぁ。
そろそろ真剣に考えないとだよね。
「……王族が、来る」
股下王子とは違う。本物の王族。
真の最強が、ウチをぶっ殺しに来る。
「そうですね。王都との距離を考えると、決闘の結果が伝わるのは早くても二日後。現国王の為人を考慮すると、即日動きがあるはず。国王自身、あるいは側近の者がチムチム学園に姿を現すことは容易に想像できます」
それな。ほんとそれな。
「……残された時間は、あと僅か」
「ええ、わたくし達に与えられた猶予は、長くとも五日といったところでしょうね」
聖女ノエル賢い。どんどん情報くれる。
タイムリミットは五日か。蝉の寿命もそれくらいじゃなかったっけ。
「……みーん、みんみんみんみん」
「イッくん様、突然何を? ……まさか、何かの暗号!? どこかに仲間が!?」
ただの現実逃避だけど、そういうことにしておこう。
やばい。やばい。聖女ノエルにぶっ殺される未来は回避できた感があるけど、王様にぶっ殺されるフラグが立ったかも。
逃げよう。どこに?
王様を敵に回して、一体どこに逃げれば……。
「……亡命」
ふと、そんな言葉が頭に浮かんだ。
「亡命? ……それは、つまり、駆け落ち?」
ウチは立ち上がった。
そうだよ。これしかない。
他国に亡命する!
こんな野蛮な国は捨てて、平和な世界で長生きするんだ!
「……行こう。安息の地へ」
「はゎぁ、イッくん様ァ! わたくし、どこまでもお供いたします!」
それからベッドに座って頭を抱えている。
ここには決闘の参加者だけが入れる。荷物を置いたり、着替えをしたり、待ち時間にご飯を食べたり、前泊して仮眠を取ったり……この国では下剋上が推奨されているだけあって、至れり尽くせりな場所なのである。
だけど聖女ノエルが侵入した。
彼女はウチの右隣に座ると、当たり前のようにウチの腕を摑み、肩に頭を乗せた。
「……」
彼女は何も言わなかった。
助かる。今ちょっと返事できる余裕が無い。
どうしよう。やばいって。
あんな結果になるとは思わなかった。
──ウチのプランを説明する。
彼の立場からすれば、公衆の面前で婚約者を奪われている。怒って当然。でもそれは悲しい誤解。ある意味でウチも被害者なのだ。
戦えば分かり合えるかもしれない。
ウチの力が及ばないとしても、泥臭く挑み続ければ友情が芽生えるかもしれない。
その可能性に賭けた。
でも決闘は最初の一手で終わってしまった。
弱過ぎるよ。マタシターガ・ムッチッチ。
何が王子だ。股下がムチムチなだけじゃん。
この後、ウチは一体どうなるのだろう。
真の王族が「クックック、あいつは王族にて最弱……」とか言って、王族の顔に泥を塗ったウチをぶっ殺すための刺客を送ってくるかもしれない。国中の下剋上ガチ勢がウチの元に集うかもしれない。
(……母上さま、先立つ不孝をお許しください)
ウチは目を閉じ、天を仰ぐ。
涙は出なかった。心が、乾いていた。
「……イッくん様は、何も仰らないのですね」
何を言えば良いの。
「イッくん様、教えてください。あなたは王子に言いました。わたくしの涙、その訳を知っていると……。あれは、そういうことなのでしょうか?」
それは、まあ、分かるよ。
ウチも前世は女の子だったから。
あの下半身は無いよね。
バランスやばいって。あれと結婚させられそうになったら、そりゃ泣くよ。
彼女「未来が決まってる」みたいなこと言ってたから、きっと生まれながらの許嫁とかそんな感じなのかな。
じゃあ、あれだよ。
ウチの行動は、多分、正しかった。
ん-、よし、決めた。悩むのやめる。
今さら後悔するとか、ちょっと前の自分に失礼だよ。
ウチは彼女の涙に前世の自分を重ねた。
生まれた瞬間に決まってる運命とか、そんなの許せない。
「否定しないのですね。……やはり、あなたは全てを知っている」
やばい、返事してなかった。
でも、なんか良い感じに解釈してくれたっぽい。
「ふふっ、寡黙なのですね。しかし、その鋭い瞳を見れば分かります。遥か遠い未来に向けられているかのような視線。一体、どのような景色が映っているのでしょう」
これは、あれかも。
聖女ノエルを相手にする時は、あんまり喋らない方が良さそう。
だって彼女、どんどん上機嫌になってる。
最初は怖かったけど、この雰囲気なら平気かも。ちょっと良い匂いするし。
さておき……はぁ、未来かぁ。
そろそろ真剣に考えないとだよね。
「……王族が、来る」
股下王子とは違う。本物の王族。
真の最強が、ウチをぶっ殺しに来る。
「そうですね。王都との距離を考えると、決闘の結果が伝わるのは早くても二日後。現国王の為人を考慮すると、即日動きがあるはず。国王自身、あるいは側近の者がチムチム学園に姿を現すことは容易に想像できます」
それな。ほんとそれな。
「……残された時間は、あと僅か」
「ええ、わたくし達に与えられた猶予は、長くとも五日といったところでしょうね」
聖女ノエル賢い。どんどん情報くれる。
タイムリミットは五日か。蝉の寿命もそれくらいじゃなかったっけ。
「……みーん、みんみんみんみん」
「イッくん様、突然何を? ……まさか、何かの暗号!? どこかに仲間が!?」
ただの現実逃避だけど、そういうことにしておこう。
やばい。やばい。聖女ノエルにぶっ殺される未来は回避できた感があるけど、王様にぶっ殺されるフラグが立ったかも。
逃げよう。どこに?
王様を敵に回して、一体どこに逃げれば……。
「……亡命」
ふと、そんな言葉が頭に浮かんだ。
「亡命? ……それは、つまり、駆け落ち?」
ウチは立ち上がった。
そうだよ。これしかない。
他国に亡命する!
こんな野蛮な国は捨てて、平和な世界で長生きするんだ!
「……行こう。安息の地へ」
「はゎぁ、イッくん様ァ! わたくし、どこまでもお供いたします!」
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