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2-09.ギャル皇女vsエロトラップダンジョン 前編
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配信開始予定時刻の数分前。
俺は透明化スキルを使用して、多くの人が集まる飲食店に潜入していた。
この店に集まったのは二百人程度だろうか?
座席は全て埋まり、空いたスペースに座り込むような人の姿もある。
しかし天井は俺の貸し切り状態だ。ドスケベアースでは空間を三次元的に利用するなど当たり前だったが、冥界には幻界と同様にZ軸の概念が存在しないようだ。Hの時にはあるのかもしれないが、日常に応用できないドスケベなど意味が無い。
(……ひとまず、思惑通りか)
うっかりドスケベアースマウンティングをしたが、あの世界にも文明レベルの低い地域は存在していた。
結論だけ述べる。俺は、ひとつの持論を得た。
情報通信技術が未熟な社会は、とにかく情報に弱い。
俺はカリンから帝国の話を聞き、噂が有効だと考えた。
結果は大成功。恐らくは帝国中でこの飲食店のようなことが起きている。
「──配信にお集まりの皆様、お待たせしました」
突如、脳に直接響くような声が聞こえた。
「本日は私、帝国騎士団副団長のアーシュラが実況を務めさせていただきます」
店内はざわついた。
俺は耳を研ぎ澄ませ、有象無象の言葉を拾う。
これはスキルではない。
ドスケベアースでは、嬌声鳴り響く乱交会場から特定の声だけを聴き分ける技能が必要だった。そのため自然と身に付いたものだ。
:この声なんなんだ?
:これがハイシンってことなのか?
:アーシュラ? 本物か?
どうやら混乱しているようだ。
まぁ当然の反応か。例えるならば、戦国時代にタイムスリップして信長にスマホを見せたようなものだ。そのうち慣れるだろう。
「そして解説は、団長のジンが担います」
「……どうも」
:ジッキョウってなんだ?
:カイセツ……解説? ジン団長が何か喋るのか?
「皆様、魔道具に注目してください」
集まった人々は一斉に手元を見た。
彼らが持っているのはガラスのような魔道具だ。
これは魔力の通りが良い素材らしく、カリンが幻界のコンピュータを参考に作った魔法を使うことで、幻界と大差ない配信活動を可能にしている。
ただし情報は一方通行。
しかも送信するにも高度な魔法技術が求められる。
このため、実況と解説に騎士団の上役が選ばれた。
実力はもちろんだが、カリンに友好的であることが人選の決め手となった。
特にアーシュラは優秀で、魔道具から垂れ流すだけだった音声を、ひとりひとりに届けられるようにした。方法は知らん。魔法なんてそんなものだ。
「ところで。実況とは幻界にある文化で、起きた出来事をとりあえず声に出すことが重要みたいです。解説のジンさん。これは、どういう意味がありそうですか?」
「……知らん」
「非常に不機嫌な様子ですが、実はカリン皇女を心配しているからです。ふふ、私も幼い頃から面倒を見ていますからね。気持ちは分かりますよ」
「……不敬だぞ」
ほう、それっぽい感じになっているではないか。
俺は腕を組み深く頷いた。
その直後、店内に眩い光が生まれた。
発信源は魔道具。
カリンによる配信が始まったのだ。
『やっはろー、親愛なる帝国民ズ、聞こえてる?』
:彼女は誰だ?
:カリン皇女なのか?
:見たことの無い衣装だが、あれはなんだ……?
「カリン皇女!」
実況のアーシュラさんが言った。
カリンは手に持っていた魔道具に目を向ける。
『この声、アーシュラかな?』
「はい! アーシュラです! 質問よろしいでしょうか!?」
『もちオッケーだよ』
「……良いと判断します。早速ですが、その服装は?」
『幻界の制服。かわいいっしょ』
カリンはギャルモードである。
俺は慣れているが、冥界の方々からすると「誰こいつ」となる程度に普段のカリンとはキャラが違うようだ。飲食店の人々を見ると、皆一様に困惑した顔をしている。
「……その喋り方も、幻界の?」
『せーかい。ギャルって呼ぶらしいよ』
「ギャル……それは、何か意味があるのですか?」
『超上がる~!』
奇妙な静寂が生まれた。
「なるほど、そういうことか」
それを打ち破ったのは、ジン団長だった。
「解説のジンさん、どういうことでしょうか?」
「カリン皇女には魔法に関して天賦の才がある。上がるとは、つまり魔法を行使する能力が向上するということなのだろう」
カリンは笑顔を浮かべた。
あれは恐らく「全然そんなこと無いけどそっちの方が都合良さそうだから合わせておこう」という顔だ。
何も知らないジン団長は解説を続ける。
「カリン皇女が着ている制服、そして奇妙な着こなし。どちらも意味があると考える方が自然だ。今後、騎士団で細かな検証をする必要があるだろう」
「え、私もあれ着るってことですか?」
「……当然だ」
俺はジン団長と仲良くなれそうな気がした。
かくして、問題なく配信が始まったのだった。
俺は透明化スキルを使用して、多くの人が集まる飲食店に潜入していた。
この店に集まったのは二百人程度だろうか?
座席は全て埋まり、空いたスペースに座り込むような人の姿もある。
しかし天井は俺の貸し切り状態だ。ドスケベアースでは空間を三次元的に利用するなど当たり前だったが、冥界には幻界と同様にZ軸の概念が存在しないようだ。Hの時にはあるのかもしれないが、日常に応用できないドスケベなど意味が無い。
(……ひとまず、思惑通りか)
うっかりドスケベアースマウンティングをしたが、あの世界にも文明レベルの低い地域は存在していた。
結論だけ述べる。俺は、ひとつの持論を得た。
情報通信技術が未熟な社会は、とにかく情報に弱い。
俺はカリンから帝国の話を聞き、噂が有効だと考えた。
結果は大成功。恐らくは帝国中でこの飲食店のようなことが起きている。
「──配信にお集まりの皆様、お待たせしました」
突如、脳に直接響くような声が聞こえた。
「本日は私、帝国騎士団副団長のアーシュラが実況を務めさせていただきます」
店内はざわついた。
俺は耳を研ぎ澄ませ、有象無象の言葉を拾う。
これはスキルではない。
ドスケベアースでは、嬌声鳴り響く乱交会場から特定の声だけを聴き分ける技能が必要だった。そのため自然と身に付いたものだ。
:この声なんなんだ?
:これがハイシンってことなのか?
:アーシュラ? 本物か?
どうやら混乱しているようだ。
まぁ当然の反応か。例えるならば、戦国時代にタイムスリップして信長にスマホを見せたようなものだ。そのうち慣れるだろう。
「そして解説は、団長のジンが担います」
「……どうも」
:ジッキョウってなんだ?
:カイセツ……解説? ジン団長が何か喋るのか?
「皆様、魔道具に注目してください」
集まった人々は一斉に手元を見た。
彼らが持っているのはガラスのような魔道具だ。
これは魔力の通りが良い素材らしく、カリンが幻界のコンピュータを参考に作った魔法を使うことで、幻界と大差ない配信活動を可能にしている。
ただし情報は一方通行。
しかも送信するにも高度な魔法技術が求められる。
このため、実況と解説に騎士団の上役が選ばれた。
実力はもちろんだが、カリンに友好的であることが人選の決め手となった。
特にアーシュラは優秀で、魔道具から垂れ流すだけだった音声を、ひとりひとりに届けられるようにした。方法は知らん。魔法なんてそんなものだ。
「ところで。実況とは幻界にある文化で、起きた出来事をとりあえず声に出すことが重要みたいです。解説のジンさん。これは、どういう意味がありそうですか?」
「……知らん」
「非常に不機嫌な様子ですが、実はカリン皇女を心配しているからです。ふふ、私も幼い頃から面倒を見ていますからね。気持ちは分かりますよ」
「……不敬だぞ」
ほう、それっぽい感じになっているではないか。
俺は腕を組み深く頷いた。
その直後、店内に眩い光が生まれた。
発信源は魔道具。
カリンによる配信が始まったのだ。
『やっはろー、親愛なる帝国民ズ、聞こえてる?』
:彼女は誰だ?
:カリン皇女なのか?
:見たことの無い衣装だが、あれはなんだ……?
「カリン皇女!」
実況のアーシュラさんが言った。
カリンは手に持っていた魔道具に目を向ける。
『この声、アーシュラかな?』
「はい! アーシュラです! 質問よろしいでしょうか!?」
『もちオッケーだよ』
「……良いと判断します。早速ですが、その服装は?」
『幻界の制服。かわいいっしょ』
カリンはギャルモードである。
俺は慣れているが、冥界の方々からすると「誰こいつ」となる程度に普段のカリンとはキャラが違うようだ。飲食店の人々を見ると、皆一様に困惑した顔をしている。
「……その喋り方も、幻界の?」
『せーかい。ギャルって呼ぶらしいよ』
「ギャル……それは、何か意味があるのですか?」
『超上がる~!』
奇妙な静寂が生まれた。
「なるほど、そういうことか」
それを打ち破ったのは、ジン団長だった。
「解説のジンさん、どういうことでしょうか?」
「カリン皇女には魔法に関して天賦の才がある。上がるとは、つまり魔法を行使する能力が向上するということなのだろう」
カリンは笑顔を浮かべた。
あれは恐らく「全然そんなこと無いけどそっちの方が都合良さそうだから合わせておこう」という顔だ。
何も知らないジン団長は解説を続ける。
「カリン皇女が着ている制服、そして奇妙な着こなし。どちらも意味があると考える方が自然だ。今後、騎士団で細かな検証をする必要があるだろう」
「え、私もあれ着るってことですか?」
「……当然だ」
俺はジン団長と仲良くなれそうな気がした。
かくして、問題なく配信が始まったのだった。
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